アルベドは全身甲冑で、兜で顔を隠してます。
仲間に
ほどなく効果時間が切れて姿を消した
(しまった……さっきの死体から一体はこれを作っておくべきだったな)
景気よく魔法強化スキルを使い過ぎたと、〈上級アンデッド作成〉スキルを温存したゆえのミスであった。
この世界では、死体から作れば永続化できるのだ。
死体を補充できないかな、とチラッと周りを見るが。
村人たちはまだ、モモンガたちを拝んでいる。
名前を名乗れば女神モモンガと呼ばれ……皆がぶつぶつと「モモンガ様」と呟いている。
(さすがに彼らを死体にするのはまずいな……)
女神と呼ばれるに至った状況について、考える。
モモンガとしては、原始人にライターを見せて崇められ始めた気分だ。
「女神か……やはり美人は違うな」
「そんな、美人だなんて……」
「骸骨の私では魔王がせいぜいだ。お前のおかげだぞ」
「くふーっ♡ ありがとうございます!」
兜で顔を隠したアルベドが、身をよじる。
モモンガは己が得たアルベドの肉体をとことん褒めるし、時には欲情がじわりとアルベドにも伝わってくる。
(ぐへへ、たまんねぇなぁ、おい)
思わず、アルベドが下卑た欲望を濁流の如く垂れ流す。
この欲望の相共鳴による高まりが、二人を三日以上も草原に留めたのだ。
アルベドとしては
のだが!
(くっ、意識するとまたアルベドに欲情してしまう……!)
あいにくと、モモンガは人目を気にしていた。
理性で抑え。
冷静に情報収集に努める。
「……村の代表は無事か?」
「は、女神モモンガ様、私めが村長でございます」
一人の老人が進みでる。
「私は下界について、詳しくない。このような襲撃は多いのか?」
「いえ、村が始まって以来初めてでございます」
「村を守る兵はいないのか?」
「このような開拓村を守る兵など……」
そうして、この世界――いや、彼らの知識の範囲で世界について聞く。
過酷な労働、法外な税金、皆無な教育、非道な兵役、論外の搾取。
ろくに保護義務を果たさない貴族の存在に、モモンガは呆れた。
リアルより酷い。
底辺社畜のモモンガとて、ゲームをする程度の余裕はあったし。
最低限でも、セキュリティと福祉の恩恵を受けていた。
しかも、貴族は先の兵士程度のザコしか、暴力手段を持たず。
当人は戦闘力を持たないというではないか。
見せられた貨幣も、汚く質が悪い。
ついでに、捕虜に〈
「アルベドよ。この国の統治と状況をどう考える」
「実に稚拙で愚昧な、私の知る中でも、この上なく無価値なシステムかと。手に入れる価値すら感じられません」
深々と、モモンガが頷いた。
「労働には対価を与えねばならん。保護すらなく、この様では彼らは奪われるのみだ。労働意欲も高まるまい。ただ生きるためだけに働いておるに過ぎん。当人らの言葉のみを鵜呑みにはできんが……さしたるモンスターも見かけんこの世界。貴族とやらには、あまり好感が持てんな」
「私としてはこの、矮小な者たちもあまり好意は持てませんが……」
苛立ちを込めたアルベドの言葉に、ぴくりとモモンガの眉が上がる。
「おい、アルベド。彼らは私たちを感謝し、崇めているのだ。そのように……ん? ああ……そういえば、お前はそんな風に作られていたのだな」
たしなめるように言いかけるが。
流し読みした際、チラリと見えたタブラ・スマラグディナ作の設定の一部を思い出す。
そして彼女が、人である以前にNPCだったのだとも。
モモンガは、アルベドの兜をいたわるように撫でた。
「は? タブラのクソが? じゃあ、モモンガ様のおっしゃる方が正しいですね」
「え、えええー」
態度がガラリと変わり、モモンガはずっこけかけた。
NPCとは何だったのか。
己が作ったパンドラズ・アクターも、ダサい設定を内心すごく嫌がっていたのかも……と、少しナイーブになるモモンガ。
「あまり私に盲従して欲しくないぞ……私だってミスはする。ミスで、アルベドを失ったりしたら……私は、一人になってしまうではないか。思う所があらば、きちんと進言してくれ」
潤んだ目で、愛する人にそう言われ、NPCが身を火照らせずいられようか。
しかも、結合した精神から、主の不安と孤独が、すがりつくように流れ込んでくる。至高の御方が不安にさいなまれ、アルベドを心から頼ってくれているのだ。
また、ナザリック最高の美女を自認するアルベドは、相応にナルシストでもあった。己の体と絡み合う嫌悪感など皆無……いや、むしろモモンガが己の体を褒め、欲情してくれるごと、好感度は上限突破で上昇しっぱなしである。
(くっふおぉぉおほーーーーッ! こ、これはアレっしょ!? 今すぐヤりたいですって言ったら、恥ずかしそうにこくんって頷いてくれるシチュっしょ!? やっべ! マジやっべ! 下等生物が周りに何匹いよーと関係ねーし! はぁはぁ、モモンガ様はヤリすぎとか言ってましたけど、まだまだ私は消化不良なんですぅー! 物足りないんですぅー! 良妻として、元が私の体でも、モモンガ様にありとあらゆる快楽を味わっていただくため、一切の労苦をいといませんし! というか、進んで開発させていただきますし! ぐへへ、うへへ、いぃぃひぃぃひ♡ それじゃあ、いただきま――)
アルベドは業火と呼ぶも生やさしい、欲情を超えた情炎をモモンガの精神に伝え。
飛び掛からんとした、まさにその時。
「んんん? ――なッ!」
その熱量に、モモンガがうろたえ――そして同時に。
真剣な顔で目を見開いた。
「いいいいいかがいたしました、モモンガ様っ!」
息も荒く、欲情しすぎて捕食顔になっているアルベドだが。
兜のおかげで、モモンガにも村人にも見られていない。
「さすがだな、アルベド!
「――は? はぁ」
思わぬ言葉に、アルベドは虚を突かれ、とりあえず頷く。
村人らは、神々の言葉にうろたえた。
新たな襲撃者が現れたというのだ。
まさか本隊がいたのでは……とも疑う。
「同じ肉体を得ても戦闘感覚は大きく違うか……私も鍛錬せねばな。思えばさっきの連中は、私の魔法で全て倒してしまった。戦士として力を振るえなんだお前が、不満を抱くのはもっともだ」
「アッハイ」
主が何を言っているかわからないが、シモベとして反論は許されない。
「それにしても、敵らしき気配を感じただけで、そんな火傷しそうな戦意を燃え上がらせるとは。戦士として血がたぎるのだな。相手の出方次第だが、敵ならば……お前の刃を存分に振るうがよい」
「ハイ……アリガタキシアワセ」
コキュートスのような口調になったアルベドに、モモンガは満足そうに頷いた。
これがアルベドの戦闘モードか、と感慨を込めて。
(違う! 違うんですモモンガ様! 振るいたいのは指と舌と腰なんです! 私に振るってくれるのも歓迎です! わかってください!)
思いよ伝われ、とばかりに念じるが。
「ははは、そう昂ぶるな。私まで戦いたくなってしまうではないか。お前の見せ場を奪わせないでくれ」
「ふしゅるるるるる」
(私のご褒美を奪わないでください!)
いろいろ熱くなりすぎて、変な鼻息を出すアルベド。
噛み合わない二人だが。
村人たちは、頼もしい言葉に安堵し。
なお一層強く、この神々へと祈りを捧げる。
「さて、接近してくる戦士職集団に、森近くに潜む魔法職集団――どちらが敵か、どちらも敵か」
気に入ったのか、女神ロールプレイのまま。
モモンガは呟き。
四体の
「お前たちは
「承知いたしました、偉大なる主よ!」
「御身より授かった力、怨敵を討つべく……!」
アンデッドたちが瞬時に部隊となり、村の四方を守る。
「村長よ、この
「おお……再び我らを守ってくださるのですか、偉大なる女神モモンガ様!」
感動と共に村長が……そして、残る村人も頭を地にすりつける。
「よい。お前たちは我が加護を受けた。私はお前たちを全力で守ろう」
「ああ! なんと……!」
傾き始めた太陽。
夕陽の中で微笑むモモンガに、村人たちは失神せんばかりである。
そして、一方で。
「………………」
(クソが、クソがッ! クソがああああああああああああああああああッ!! こともっ! こともあろうに、モモンガ様をいただくベストタイミングをッ……不安と孤独を、このアルベドで癒していただく最高の時をォォ……はかった喃……はかってくれた喃……ぜったいにゆるさんぞ虫ケラども!!!! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!!!)
ギリギリ、めきめき、バキバキとと異様な音を立て、目から赤い光を放つアルベド。
世界を滅ぼさんばかりの殺意の波動が噴き出し。
紫色のおぞましいオーラを残しつつ、神獣クロマルの背に跨る。
神獣の体がみしみしと軋み、クロマルが苦痛の呻きと共に、屈服するように頭を下げた。
アルベドの太腿が、その屈強な胴を挟み潰さんとしていたのだ。
並みの馬なら一瞬で挟み潰され、両断されていただろう。
そんな破壊神とも呼ぶべきアルベドの姿に、村人たちは恐怖と――絶対の敬服を感じていた。
(なんて強そうでかっこいいんだ……俺もできるようにならなきゃ)
そしてモモンガも、厨二的な意味で畏敬を感じていた。
粉塵を巻き上げ、騎馬集団が駆けて来る。
不揃いな装備だが、油断はできまい。
油断はできまいが……アルベドがいれば、どうとでもなる。
モモンガはそんな、確かな信頼を感じるのだった。
(殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺……!)
アルベドの怒りは、半ば風ともなり渦巻いている!
(ううむ、ブラックガードか
もはや接近する連中に見る価値はなしと。
頼もし気にアルベドを見つめるモモンガであった。
果たしてガゼフの運命やいかに!
村人には(主のペット扱いで)やさしく接せられるアルベドさんですが、性衝動を邪魔する者には容赦しません。
あと、自身にビッチ設定つけられたこと怒ってますってアピールしたおかげで、タブラさんについて、モモンガさんと素で会話できます。