ちょっと、展開思案のためペース落ちてきてます。
それにしても、俗世と関わるとアルベドさんがほとんどしゃべらなくなるので困った……。彼女は原作タイプなんで引きこもってモモンガさんといちゃついてる時はよくしゃべってますが。外じゃ、人間にはあまりコンタクトしないんですよね……。
性的関心や恋愛感情のない、ペット感覚と判明したクレマンさんとは、アルベドけっこう仲いいです。
歌う林檎亭。
女神の訪れる酒場と知られ、賑わうそこに。
再び女神が降臨したことで、帝都市民は沸き立った。
誰もがその美しい姿に溜息をつき。
また慈愛あふれる振る舞いに感動し。
祝福を得た帝都について、誇りを新たにした。
そして、帝国四騎士の一人が、女神の客として訪れた時。
皇帝もまた、女神に非礼を働けぬのだと、噂した。
もっとも、彼の四騎士――“重爆”レイナースは、あくまで個人的に訪れたのだが。
彼女らは重要な話があるからと、二階の一室を借りて移る。
「借金は膨らむ一方の様子ですわ。使用人の維持はもうすぐ不可能となるでしょう。娘二人は、何度か姿を確認しておりますが……」
「……」
ちら、とレイナースがアルシェを見る。
俯き、黙ったまま答えはない。
「よい、続けよ」
アルベドの肩を抱き寄せつつ、モモンガが先を促す。
周囲に聞かれぬよう、防音の結界は既に施していた。
「おそらく、売られるのは時間の問題かと」
「使用人らを解雇してもいないのにか?」
「そ、そう! 使用人を先に解雇するはず!」
モモンガの言葉に、アルシェが乗じる。
彼女は両親を信じている……いや、信じたい。
「近年、同様の手口で破産した元貴族が複数いましたわ。また、今まさに破産しつつある者も。いずれも最初は我が子を“他の貴族へ行儀習い”に出しております」
「行儀習い? ウーデとクレイはまだ5歳なのに……メイドにすると?」
「いえ。奴隷として売るのですが、両親への方便としてそう言われます」
「奴隷!?」
「債務奴隷ですわ。一般市民ではさほど珍しくありません。借金を返し終えれば解放される法です」
「借金は借金だからな。借りた以上、返す責任はある」
モモンガの声は冷淡だった。
襲われるカルネ村、搾取される王国民、虐待されるエルフ奴隷を見た時のような、怒りはない。
「そうして我が子を奴隷に売り、続いて妻を同様に。そして最後に己自身も他の貴族の家令や従者に身を落とすのだと信じ込んだまま……奴隷になるのですわ」
レイナースの口調も冷たく、淡々としている。
彼らは騙された被害者とも言えるだろうが、同情する気にはなれない。同情するとすれば最初に売られる子供たちだろう。
「そんなに没落貴族がいるのか?」
「陛下の粛清の名残ですわね。どうしようもない連中は処刑しましたが、無能なだけの貴族は領地没収に留めましたもの」
「なるほど……その連中を食い物にする奴らが現れ始めたわけか」
「深刻化していないだけで、一般市民にも被害はあるのかもしれません。目下調査中ですわ。ただ、我々の無能を晒すようですが……奴隷市場や該当貴族を調査したところ、奇妙な点が――」
「市場に出回ってなくて、貴族の家にもいなーい。破産した貴族なんて誰も調べなかったけど、よく見たら行方不明なんだよねー?」
それまで横で退屈そうにしていた、クレマンティーヌが突如、話に割り込んできた。
「知ってらっしゃいますの!?」
レイナースにとってみれば、クレマンティーヌは距離感のつかめぬ人物である。あれから王国貴族を次々と惨殺し、アンデッドに変えたという情報が帝国にも入っている。
女神の代理人として汚れ仕事をこなす存在。
先日、フールーダを単騎で倒したエンリより、危険な人物だろう。
「んー、知ってるのはー、帝都で人間を生贄にする邪教団があるってだーけー♪ 確かメンバーは、ほぼ貴族と没落貴族だっけー? 商人もいたかなー?」
「待って。奴隷に売られた後は、生贄として殺されてる!?」
最悪でも娼婦と思っていたアルシェが、愕然とした顔で問いただす。
「たぶんねー? 前もちょこっと聞いたんだけどさー。アルシェちゃんのお父さん、お友達の貴族と出かけると、お金つかってくるんだよねー? 金貸しもいっしょにいてさー」
こくこくと、アルシェが頷く。
かつては世間知らずで学院の勉強ばかりだった彼女も。ワーカーとしての日々で、社会の暗い面を学んでいた。だから、クレマンティーヌの言葉から察してしまう。
「その貴族は……金貸しと組んでいる?」
「ざーんねん。ちょっと足りないなー。たぶん、その貴族もー、金貸しもー、最終的には教団に生贄を提供するシステムだよー?」
貴族としての策謀にも長けたレイナースが、その情報をまとめる。
「つまり――」
教団の貴族らが、金銭感覚に欠ける没落貴族、裕福な家の子供などを見定め、散財させる。
金貸しが、持ち合わせの無い彼らに、高い利子で金を貸す。
この過程を繰り返し、最終的に“貴族の家でメイドとして雇う”という名分で債務奴隷として売らせる。
法的には、教団貴族が買い取った扱いで……生贄にするのだ。
おそらく、散財先となる店も、薄々システムに気づきつつ、大きな利ザヤを稼ぎ。邪教団へのリベートを渡しているのだろう。あるいは過去にその手口で破産させた者の財産を買わせ、債務を負わせ……破産時には回収しているかもしれない。だとすれば、帝都の質屋関係もシステムの端末として組み込まれている。
「しかし、そんな大規模な陰謀論めいた組織、あるはずが……」
帝都の治安は、近隣諸国でも法国に次ぐ。
生贄を捧げる邪教団など、あまりに荒唐無稽。
「軸はズーラーノーンだねー。帝国はズーラーノーンじゃ資金集めの場所だよー。不満だけ、たーっぷり溜め込んでる貴族から、なけなしのお金を搾り取っちゃうの。それに、王国の犯罪組織も、帝国にちょっかい出してたんだよねー? 手を結まないほーが、不自然……じゃないかなー?」
その名前に、エンリと女神以外の面々が目を見開いた。
世界的に悪名高い死霊系魔法の秘密結社。
帝国では、活動が確認されずいた存在。
そして王国の裏を支配する犯罪組織、八本指。
「た、確かに麻薬を持ち込まれていましたけれど、帝都には……それに、貴族らがどうして邪教団などに」
「んー、アルシェちゃんなら、わっかるんじゃなーい?」
絶望的な顔になっていたアルシェが、ぽつりと呟いた。
「皇帝陛下が、怖いから……」
「ぴんぽーん♪ いつ自分も粛清されるかわかんない。昔みたいな乱痴気騒ぎも、平民いじめもできなーい。だから隠れて、こそこそするんだよー」
「そ、そんな理由で同じ貴族を生贄に?」
「きっかけはそーんな感じだと思うよー」
にんまりと笑いながら、クレマンティーヌは断言する。人の悪意について、己ほど熟知する者は少ないと自認しているのだ。
モモンガは、不快げに整った眉をしかめた。
アルベドが、気遣うように身を寄せ、髪や翼を撫でる。
「モモンガちゃんみたいな女神。私みたいな人外のバケモノなら、王国でしたみたく脅しつけられるんだけどー。皇帝ちゃんはあくまで、人間でしょー? バレなきゃ大丈夫って、みんな考えちゃうんだよー」
「…………確かに、そうですわね」
レイナース自身も、呪われた己を見捨てた婚約者や家族に“復讐”を果たした。
人の善意や良心など、信じられるはずもない。
「それに、“逸脱者”フールーダ・パラダインの存在もあるかなー。高位の
「確かに、魔法学院で、そう考えてる者はいた」
「…………否定はできませんわ」
レイナースが、モモンガの“祝福”を拒みきれないのは、己が呪われたまま老いていくのではないかという恐怖ゆえ。たとえアンデッドと化しても、圧倒的強者かつ不老不死となれるならと。考えてしまうのだ。
そして、アンデッドへの忌避感も、目の前のクレマンティーヌの自由さを見ていると薄れる。
「なるほどな。とはいえ、我らが手出しする必要はなかろう。レイナースよ、今の情報はジルに伝えるがいい」
「承知いたしましたわ」
「あれれー。私の出番かと思ったんだけどなー」
スティレットを手の中でくるくると弄びつつ、クレマンティーヌは肩をすくめた。
多人数を手加減なく誅殺できるなら、いい気晴らしと思ったのだ。
「確かに不快な話だが。王国のように弱者を食い物にしてはおらん。愚か者が騙されているだけだ」
「っ……!」
アルシェが、モモンガの言葉に一瞬だけ怒りを見せるが。
「「は……?」」
それは、アルベドとエンリの殺気を引き出すに十分なものである。
話に参加せずいたンフィーレアが、早くも結婚を後悔するほどの殺気。
「あ……う……」
周囲の光景がぐにゃぁっと歪む。
嘔吐こそせずとも、膀胱が決壊し、尿道が弛緩する寸前。
「気を鎮めよ。身内、それも親を悪く言われては、仕方あるまい」
モモンガの言葉に、殺気が霧散する。
もっとも、続く言葉は厳しい。
「だが、アルシェよ。お前の妹たちはともかく、両親を救う気はない。ワーカーとして働いたお前は金の価値もわかっているはずだ。金貨2枚のため、私はジルに頭を下げた。そして金貨2枚に感謝をした。金貨2枚に私は、その価値があると思っている」
「……そう、モモンガ様は……感謝を、していた」
アルシェの目に、涙がにじんだ。
己の親を思い出し、情けなくて。
尽きそうな愛想を、必死にかき集める。
けれど、この点だけは……モモンガは慈悲を見せない。
「お前の親は、お前からどれだけ金を受け取り、どれほどの感謝を見せた?」
「しかし、そろそろお金の価値もわかってくれるはず」
「無理だな。人間は変わるものだが、都合よくは変わらん。皇帝が悪い、己は悪くないと言い続けているなら……なおさら良くは変わるまい」
「それでも……」
「お前が何を信じようとかまわんが。妹らが、親の価値観に染まったなら、私はもう彼女らを助けんぞ」
「そんな!」
妹らはろくに外に出ていない。
なら、親と接していく中、染まってしまう可能性は……高い。
「ともあれ、邪教にせよ金貸しにせよフルト家にせよ……我々が手出ししては、ジルにいらん仕事を増やすだろう。できれば適当な人材を……ん? ああ、そうか」
じっと、レイナースを見つめて、女神が頷いた。
「レイナース。今回の調査、よくやってくれた。お前は相応に社会や政治にも詳しいようだな」
「は、はい。とはいえ、そちらのクレマンティーヌ殿ほどでは」
「謙遜するな。こいつは戦闘と裏社会はともかく、表舞台の政治はできん」
「ぶー、ひどい言い方ー……あはっ♪」
不平を言いつつも、モモンガが手を伸ばしてくると嬉しそうに身を寄せ、膝に乗ろうとしてアルベドに小突かれている。その仕草は猫っぽく、アンデッドには見えない。
レイナースは考える。
愚かなフルト家。
歪んだ貴族たち。
呪われた己自身。
果たして、クレマンティーヌを蔑んだり忌避したりする価値があるのかと。
そんな、レイナースの内心を見透かしたように。
「さて、以上を踏まえて……レイナース。それにアルシェも。私への願いは、まだ決まらないか?」
アルベドを抱き寄せ、クレマンティーヌを撫でながら。
モモンガが問いかけた。
新婚旅行中のエンリとンフィーレアを帝都に残し、モモンガたちはカルネ村に戻っていた。
そして今、ニグンや村人ら総出の前で、大いなる儀式が行われたのだ。
その奇跡に、全員がまばたきさえ忘れ、どよめいた。
「こ、これがアンデッドの体……な、なんだか鎧に違和感があるのですけれど……」
一瞬の死を迎えた後、〈高位アンデッド作成〉によりレイナースは文字通り生まれ変わった。
身を起こそうとするが、妙に体が動かしづらい。
ほぼ常に装備していたはずの甲冑に、酷く違和感を感じるのだ。
「ああ、すまん。その体では甲冑への適性がない。鎧を脱ぐがいい」
「そ、その前に鏡を……」
「はいはーい」
軽い口調でクレマンティーヌが手鏡を差し出す。
受け取って覗き込めば、そこには。
「……!」
女神とは異なる方向性の、怜悧で蠱惑的で“魔性”と呼ぶにふさわしい美貌があった。
呪いは完全に消え、肌の血色こそ悪いが。絶世と言って不足の無い美貌。
レイナース自身が、見惚れてしまう美貌。
己の顔と信じられず、まばたき、口の開閉、鎧で重い手の所作などを繰り返し、確かめる。
面影はある……だが、細かな欠点が全てなくなっていた。
「よろしかったのですか? 私たちに比肩する美貌を与えて……」
「外見的には、私もこっちがよかったなー」
アルベドとクレマンティーヌがそれぞれに、軽い不満を漏らす。
「私が与えられる中、最高の美貌を与えたつもりだ。レイナース、今のお前は
モモンガが宣言する。
ぺロロンチーノすら認めたゾンビ系唯一の美女モンスターだ。
魅了系スキルも所有するためだろう。レイナースには実際に“絶世の美貌”が与えられていた。
「も、モモンガ様……ありがとうございます!!」
「あ、ああ」
凄まじい勢いで頭を下げ、美貌を土に擦り付ける勢いでひれ伏す。
不満を言われるかなーと思っていたモモンガは、ちょっと引いた。
モモンガとしては、レイナース自身に合わせて僧侶や騎士系のクラスを持つアンデッドにしたかったのだが。
物理戦闘が得意な高位アンデッドはほぼ間違いなく、カースドナイトのクラスを取得している。レイナースが拒む呪いは、このクラスを介して彼女と一体化しているのだ。同クラスを持つアンデッドでは、呪いを受け継ぐ可能性が高い。ゆえに今回の選択は、当人のかつてのクラス構成を完全無視だ。正直、レイナースから文句を言われる覚悟もしていた。
「と、ところでその……なんとなく、第8位階の呪文が使える気がするのですけれど」
「その通りだ。今のお前は、第8位階までの呪文を用い、多数のスキルを駆使できる。強力なものはみだりに使わず、少しずつ使い方を覚えるがいい」
第8位階である。
フールーダが、第7位階が使えないと唸っているのを何度も見てきただけに、レイナースは眩暈がした。
ちらと鏡を見れば、悩まし気な超絶美人。
(これが……私……あああ……これが!)
正直、この美貌だけで、どれだけ感謝しても足りない。
どんな苦悩もゆるんだ笑顔になってしまう。
「こ、このレイナース・ロックブルズ。帝国四騎士を辞し、モモンガ様を守護すべく――」
「やめよ。お前はそのまま帝国に戻り、少なくとも後の者への引継ぎを行え」
「あ、あのさー、モモンガちゃん。たぶんこのレイナースちゃんを帝都に戻す方が大騒ぎになっちゃうんじゃないかなー」
クレマンティーヌが助け舟を出した。
ある意味、かつて己が通った混乱である。
「人に危害を加えるアンデッドではないと、皇帝らに言うつもりだが……」
「いやいやいや、私もそーだけど、レイナースちゃんも見た目アンデッドじゃないから、それは問題ないんだよー。ただ、すごい美人になったし、呪い消えたし、魔法使うようになったでしょー?」
「いいことだと思うが……」
怪訝そうにモモンガが首をかしげた。
女神は人の心がわからないのだ。
「まず、第8位階使えるからフールーダに襲われるよー」
「あっ」
それはかわいそうだ。
「呪いなし、鎧なし、超美人化で、本人認定されないかもー」
「それはさすがに……ない……だろ?」
確かに変え過ぎたかもしれない。
女神が戸惑い、悩む。
アルベドがそんなモモンガを撫で、リラックスさせようとする。
「むぅ……レイナース、〈
「は、はい」
頭の中を探ると、使えるとわかる。
「派遣するつもりだった人材を一気に、帝国に渡そう。彼らにお前の引継ぎを行い、帝都で働かせるがいい」
「は?」
レイナースは呆気に取られた顔で口を開けたままになった。
しかし超美人なので、そんな表情でも絵になる。
チラと、鏡に目を向け、内心でにやけてしまう。
その一方で。
モモンガは、控えていたニグンに合図をする。
「では、顔合わせだ」
「はっ。来たまえ、エドストレーム、ゼロ、サキュロント、ペシュリアン、マルムヴィスト」
モモンガが、デイバーノックに聞くまで存在を知らなかった5人が前に進み出た。
貴族友達(=邪神教団)と金貸し(=犯罪組織)の相互リンクは、原作明記こそなかったものの、後のウーデ&クレイが死亡確実ということは……として自作内では確立させました。
没落貴族、ドラ息子、賭博好き等への蟻地獄としてシステム化されてます。
モモンガとしては、弱者搾取ではないし、ジルに悪いなーという理由で手出ししません。“無理矢理に貸す”“貸してないのに貸したことにする”みたいな手を使って、一般市民を陥れてるのが判明したら、話は別でしょうが。
デイバーノックは魔法探求者なので、初見でモモンガさんにコンタクト取りました。きっと感情制御のおかげで、ニニャさんやクレマンさんへの恐怖も他の六腕ほどなかったのでしょう。
そして、六腕の他メンバーについて、モモンガは今回の帝都出発間際に、デイバーノックさんから教えられて初めて存在を知りました(六腕自体が女神引きこもり中に、ニグンが回収してきた存在のため)。
ブレインも帝国行かせるか迷いましたが、まだガゼフへの執着が消えてないので、彼はまだカルネ村でくすぶってます。たぶんデスナイトとか相手に修行してるんでしょう。
レイナースは、クレマンさんが支配されてるわけじゃなさげだし、楽しそうにしてるの見て心動かされました。
アンデッドになる=エンリさんより酷いアレになると考えてましたからね。
まあ、クレマンさんは、モモンガにとってマフィアのボスが膝の上に乗せてる猫みたいな扱いなんですが。
アルシェがどうするかは次回。
六腕(デイバーノック除く)についても次回。