アルベド二人旅   作:神谷涼

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 いつもタイトル決定にいいセリフ探して困るんですが、今回は多数候補があがり、どれにするか迷いました。
 没案は「心という器はひとたび――」「その言葉が聞きたかった」「わが生涯に一片の悔いなし!」です。
 それぞれ、一部の場面から連想したアレですね。
 「その言葉が」は正しくは「それを」なんだけど。どうも「言葉」で覚えがち。
 今後のタイトルでまた使うかもしれませんが。



40:プランBでいこう

「彼らは犯罪組織、八本指に属していた者たちです」

「ええっ、八本指!?」

 

 帝国でも悪名高い八本指の名に、レイナースは驚愕した。

 彼女はまだ己がいかに規格外か、よく自覚していないのだ。

 かまわず、ニグンが紹介を始める。

 

「その中でも最強と呼ばれた六腕を連れてきましたよ」

「六腕!?」

 

「近隣諸国最高級の修行僧(モンク)ゼロ」

「うっす、よろしく」

 

「対人戦特化のマルムヴィストとサキュロント」

「「がんばります。よろしく」」

 

「見た目が騎士っぽいペシュリアン」

「よっす、どうも」

 

 四人が親しみを意識して挨拶する。

 

「彼らの保護者エドストレーム」

「よろ……ちょっ、保護者って何!?」

 

 五人目が、より軽い空気を作った。

 かつてなら、やたらニヤリと笑ったりして、只者ではない風に演出し、セルフプロデュースしていた五人だが。

 ここは遥か雲の上の存在が多数。さらにもっと恐ろしいトラウマ対象(ニニャさん)もいるカルネ村。

 目の前のレイナースも女神のお気に入りであり、認識すらされてない彼らとは別格だ。

 そんな中で、反骨精神を発揮するには……彼らは少々、折られすぎていた。

 親しみやすい人間として振舞うことこそ、最も大事な処世術。

 ニニャさんも見てるし。

 

「肩書を聞いて、もっと張りつめた面々かと思いましたけれど。これなら、うまくやっていけそうですわ。砕けた接し方をした方が、陛下も喜ぶでしょう」 

 

 レイナースの言葉に、五人がぐっと拳を握る。

 つかみは上々だ。

 

「彼らは元々、都市で暗躍していた存在。戦争や怪物退治よりも、対人戦で真価を発揮します。また、裏社会での情報収集にも役立つでしょう」

「なるほど……今回の件ではうってつけですのね。陛下に働きを見せる機会としても十分かと」

「うまくやっていけそうだな」

 

 ニグンとレイナースのやりとりに、モモンガが頷いた。

 交渉成立である。

 三人としては単なる人材派遣だが。

 六腕にとっては、逃してはならぬ蜘蛛の糸。

 

「よし、エドストレームよ。リーダーとして仲間を率い、レイナースに代わる働きをしてくるがいい。我々の害や恥とならぬなら、詳細はお前たちに任せる」

「え、あ、はい! 承知いたしました!」

 

 リーダー扱いに一瞬、戸惑うエドストレームだが。

 女神に口答えなど、許されない。

 というか派遣決定ほどありがたいことはない。

 これで、ニニャの目が届かない場所にいけるのだ。

 ひとまずは愛想よく、六腕リーダーを任されるエドストレームであった。

 

 そして。

 

「さて、残るはアルシェだな。レイナースは決断したぞ。答えは出たか? 先送りは勧められん。月日が経てば、叶えられぬ望みとなるやもしれんからな」

 

 ずっと傍で俯いていた少女に。

 モモンガは顔を向ける。

 

「私は――」

 

 間を置いて。

 アルシェが、振り絞るように口を開いた。

 

 

 

「〈生物発見(ロケート・クリーチャー)〉〈次元の目(プレイナー・アイ)〉〈水晶の画面(クリスタル・モニター)〉」

 

 聞いたことのない呪文のオンパレードである。

 アルシェは眩暈を感じていた。

 

「……どうだ? この子らが妹で、間違っていないか?」

「すごい……ま、間違ってない」

 

 モモンガは一瞬で、遠く離れた帝都にいるアルシェの妹たち――クーデリカとウレイリカを、目の前に映し出したのだ。二人は窓から外を覗いて何か言っている。

 魔法で造られた画面は、窓の外までしっかりと映る。

 それは……上機嫌で戻ってくる父と母、何かを抱えながら絶望的な顔をした執事のジャイムス。

 

(ああ……また何か買った。ぜんぜん、変わらない……私がいくら、稼いでも)

 

 その二人の姿を見て。

 アルシェの中でぷつりと何かが切れた。

 それは両親への最後の絆の糸だったろうか。

 ただ、窓の外を見て笑う二人を――あんな風にしてはいけないという、義務感だけ。

 両親に書置きを残そうとか。

 使用人たちが路頭に迷わないようカルネ村を教えようと思っていたが。

 瞬時にどうでもよくなったのだ。

 懐の中で用意した書置きを握りつぶす。

 使用人に教えれば、借金取りに情報が洩れるかもしれない。両親がここに来るかもしれない。それは女神、エンリ、クレマンティーヌ……何より、妹たちに対する害悪だ。

 だから。

 

「ありがとう……モモンガ様。妹たちを迎えに行っても……いい?」

「ああ。行って来るがいい。お前の決断に敬意を払おう。ただし長時間は待たんぞ――〈転移門(ゲート)〉」

 

 あの暗黒の門が造られる。

 画面の向こうの二人は気づかず窓を見ている。

 もう迷いはない。

 アルシェは、黒い空間の中に足を踏み入れた。 

 

 

 

 本当にあっさりと。

 妹たちの着替えと、気に入りの品を手早く掴み。

 〈転移門(ゲート)〉の効果時間が切れる前に、アルシェはさっさとカルネ村に帰って来た。

 半ば閉じ込められるような生活をしていたクーデリカとウレイリカも、喜びはしゃいでいる。

 黒い空間に入ったと思うと一瞬で異なる場所……帝都とまるで違う農村に出たのだ。

 さらには、帝都でも見たことがないほど美しい女神。

 しかも、二人と同じ双子らしい。

 すっかり夢中になって、女神に駆け寄る。

 

「わー! 女神様、クーデリカみたい!」

「本当! 女神様、ウレイリカみたい!」

「ふ、二人ともモモンガ様とアルベド様に失礼――」

 

 幼い双子の姉妹が、寄り添う女神の真似をして見せる。

 アルシェが慌てて止めるが。

 

「ふふ、いや。よい。純粋な子らで安心したぞ」

「おかしな価値観に染まっていなくてよかったですね」

 

 モモンガとアルベドは微笑み。

 立ち上がって双子に歩み寄ると、抱き上げた。

 なんといっても100レベル戦士職の筋力である。

 腰をほとんど曲げず、手の力だけで軽々と持ち上げてしまう。

 

「女神様つよーい!」

「女神様きれーい!」

 

 使用人やアルシェより背の高い女神らに抱き上げられ、二人が嬉しそうな声をあげる。

 同じ顔の女神の手の中で戯れる、同じ顔の双子幼女。

 太陽の下で見えるそれは、まさに神話的光景。

 無垢な子らから褒め称えられて、アルベドの顔にも慈愛の笑みが浮かんだ。

 

「モモンガ様、アルベド様、妹たちがすみません!」

 

 アルシェが何度も、頭を下げる。

 その声は震えていた。

 彼女の目には、女神(主にモモンガ)の魔力で妹が炙られているように見えるのだ。

 ものすごく危険そうだし、正直こわい。

 

「何、気にするな。お前が守ろうとしただけあって、いい子たちではないか」

「ええ、私もこの子たちを助けてよかったと思っています」

 

 二柱はそのまま座り。

 二人を膝の上に乗せる。

 ちょこんと座り、抱きかかえられる双子。

 そろいの人形を抱きかかえたような姿は実に微笑ましい。

 

「女神様おっぱいすごーい!」

「やわらかーい!」

 

 頭の上に乗る乳房について、幼女が無邪気にコメントする。

 村の男たちは、幼女に嫉妬せざるをえない。

 いや女だって、女神の乳房に興味がある。

 まだ比較的幼い子供たちに至っては、自分も甘えればいけるかなと打算的な考えを抱き始めるほどだ。

 

 とはいえ。

 アルシェは気が気でない。

 すばやく駆け寄り、妹たちの靴を脱がせる。

 ドレスを汚して機嫌を損ねれば、妹たちの命が危ないと感じたのだ。

 

「お姉さま、靴くらい脱げるよー」

「お姉さま、かほごー」

 

 姉の心、妹知らず。

 愛する姉に靴を脱がされながら、二人は女神の膝の上で、足をばたつかせる。

 

「め、女神様のドレス、汚しちゃダメだから。じっとしてて」

 

 アルシェは必死だ。

 脇とか背中とか、すごい汗をかいている。

 

「ははは、仲が良くて何よりだ。やはり姉妹ならいっしょにいないとな――っ」

 

 びくっとモモンガが震える。

 

「ひっ!」

 

 アルシェが小さく悲鳴を漏らし、下半身も少しだけ漏らした。

 

「「?」」

「あ……」

 

 ウレイリカとクーデリカがきょとんと首をかしげ。

 アルベドが痛ましげにモモンガを見た。

 モモンガはそっと、気遣わしげにアルベドを向く。

 

「無神経なことを言ってすまない……私のせいで、アルベドは……」

 

 天涯孤独だった己と違い、アルベドには姉と妹がいたはずだ。

 名前は忘れたが、タブラ氏のこと。

 きっと詳細な人間関係などを設定していただろうに。

 己はアルベドの気持ちを考えず、はしゃいでいたのではと思い至ったのだ。

 

「モモンガ様、どうかお顔を上げてください」

(モモンガ様、どうかお顔を上げてください)

(真面目! 真面目な思考を前面に! 気張りどころよアルベド!)

(おっしゃあああああああああああああああああ!)

(押し倒したぁいいいいいいいいいいいいいいい!)

(モモンガ様だけいればいいですぅぅううううう!)

(姉も妹もいらねええええええええええええええ!)

(うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!)

 

 分割思考法をフルに使い、七分割で理性を保つ。

 本来は同じ体を共有するアルベドとモモンガ。

 魔法で造った複製体に精神を分けても、強い感情は伝わってしまう。

 今は隠さねばならないのだ。

 

「…………」

 

 モモンガが、上目遣いで恐る恐ると言った風に顔を上げる。

 真剣な様子のアルベドが、何を言うかと怯えているのだ。

 

「モモンガ様……」

「アルベド……」

 

 拒まれるのでは、嫌われるのではと。

 シモベに過ぎないアルベドに、モモンガが怯えている。

 

(……っ、…………く)

(無理無理無理無理! 抑えきれないわ!!)

(モモンガ様あああああああああああああああ♡)

(愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛ぃい♡)

(愉悦うううううううううううううううううう♡)

(らめええええええええええええええええええ♡)

(くふーっ! くふーっ! くっほぉおおおお♡)

 

 知的にモモンガをしっかり依存させようとしたアルベドだが、愛の前に全ては無力であった。

 プランBに変更するしかない。

 つまり、何も考えず衝動に身を任せるのだ。

 

「っ! ……んんっ♡♡♡」

 

 鼻から溢れそうになる忠誠心、かろうじて抑えながら。

 アルベドはモモンガを強引に引き寄せ……そのまま唇を貪った。

 村人やレイナースに囲まれた中で。

 

「んむっ!? んんん?」

 

 真面目な話をしていたつもりのモモンガが困惑するが。

 アルベドが止まるわけもない。

 思考を制御した以上、モモンガにとってもこれは完全な不意打ち。

 そして。

 

(((モモンガ様好き♡ 好き♡ 好き♡ 好き♡ 好き♡ 好き♡)))

 

 分割によって隠されていたアルベドの愛情が、好意が、慕情が、欲情が。

 モモンガの精神に、一気に一気に叩きつけられる。

 舌もねじ込まれる。

 

(あ、え? あっ♡ アルベド……ぉ♡♡)

 

 蕩けていく主の思考が、アルベドの劣情をさらに高める。

 おずおずと、モモンガの舌が受け入れ、絡み合ってくる。

 

 しつこいようだが、村人らもみんな見ている前である。

 だが、女神は完全に二人の世界に入り、淫らな粘液音を唇の間で響かせている。

 

 クーデリカとウレイリカも、頭上の音を不審に思ったが。

 きょとんとした顔で上を見ても、女神の豊満な乳房が遮蔽となって見えない。

 

(((はーっ♡ はーっ♡ モモンガ様っ♡ モモンガ様っ♡)))

 

 分割思考が一極化された時、爆発的な意志の奔流が生まれた。

 圧倒的感情が、モモンガの意志を押し流す。

 アルベドの手が主の乳房に伸びて、無遠慮に揉みしだき始めても。

 拒めない。

 

(アルベド♡ 許してくれるのだなっ♡ アルベドっ♡ 私も好きだぞっ♡)

(はい♡ 私も好きです! 大好きです! モモンガ様好きっ♡♡♡)

 

 アルベドにとっては、人間など未だ下等生物。

 嫌う理由はなくなっても、好む理由もない。

 愛する人の趣味に口出ししないだけである。

 だから。

 人間の前で何をしようと。

 

(知ったこっちゃねえええええ! 愛の女神にジョブチェンジしましょうモモンガ様ぁ!!)

 

 そのまま、長椅子に押し倒していく。

 モモンガに抵抗のそぶりはない。

 まさしく据え膳。

 

 村人やアルシェ、レイナースらにとってみれば真剣な顔になった女神が突然キスをし、そのままことに及ぼうとしているのだ。

 何がなんだかわからない。

 口出ししていいものかどうか、わからない。

 このままなら村人の目の前で、女神の情交が始まっただろうが……。

 

 ここで智将アルベド痛恨のミス!

 胸を掴みながら押し倒したせいで、体勢がずれてしまっていたのだ!

 二人の幼女が、女神の行為をじっと見つめる。

 

「あー、女神様ちゅーしてるー」

「ウレイリカもしよー」

 

 ちゅっちゅっ、と双子が女神を真似てキスし合う。

 ご丁寧に胸までさわりあっている。

 意味も分からず真似をしているのだ。

 そして。

 幼い子供の発する、無邪気な言葉、無邪気な行動というものは。

 いつだって穢れた大人の心に刺さる。

 

「……!」

 

 モモンガが慌てて、アルベドから唇を離す。

 二つの唇の間に、きらめく架け橋が渡された。

 

「ぁ……」

 

 アルベドが残念そうに眉を寄せる。

 彼女は魂を持って動き始めて実質1か月あまり。

 子供の言葉など気にしない。

 いつだって己の設定(しょうどう)こそ第一。

 

「そ、そんな風に真似をしちゃダメだぞ。もうちょっと大人になってから、な」

 

 モモンガが顔を真っ赤にして、あたふたと幼女たちに言い。

 ウレイリカをそっと膝から下ろす。

 

「そうですね。確かに大人になってからの方がいいかと」

 

 憮然とした顔を何とか隠しつつ。

 アルベドもクーデリカを下ろした。

 

「ま、まあ、とにかくよかったなアルシェ。レイナース、帝国は任せたぞ。そいつらを連れて、ジルクニフにしっかり引き継いだら、戻って来るがいい。では私は少し用があるので城に戻る――〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉」

 

 ものすごい早口で言って、アルベドの手を握りながら。

 その場から消えてしまった。

 

「え……」

「えぇ……」

 

 残された一同が唖然としている中。

 

「女神様きえちゃったね、クーデリカ」

「ウレイリカ、くつはいてないよー」

「「お姉さまー、くつかえしてー」」

 

 二人の幼女の無邪気な声だけが、カルネ村に響いた。

 




 女神はまたしばらく発情期に入って出てきません。
 今回はモモンガさんが羞恥心いっぱいなので、そのあたりのほとぼりを冷ます意味でも。

 六腕の四人に、黒いランニングシャツとズボンをはかせたものか、かなりギリギリまで迷いました。
 ただ、ペシュリアンがどんな顔してるかさっぱりだし、甲冑ナシだと騎士っぽいって理由もわからないので避けてます。彼がどうにも似合わない挨拶になりましたが、ネタ的に仕方ないのです!

 クーデとウレイは、まだ五歳くらいなので特にそういう関係ではありません。
 このまま五年くらい距離感変わらず、異性に関わらずいたらそうなる可能性あります。
 そして、カルネ村で暮らしてると女神に認められた扱いで、二人がそういう関係になるのは当然みたいに教え込まれていくかもしれません。トップが双子レズカプ(に見える)ところで暮らす以上、しょうがないですね!

 レイナースと六腕(5人)はこの後、ニグンさんの〈転移門(ゲート)〉で帝国に帰りました。
 ニグンさんが70レベル前後でゲート使えるのどうなの?という意見あると思いますが、なんか一時的に限界突破して使えるスキル持ってるとか、アンデッドで精神耐性あるから叡者の額冠使ってるとか考えてください(汗)。
 本作のモモンガさん、発情したら即おこもりモードなんで、ニグンさんが使えないと不便すぎるんですよ……。
 デバフ系使いのレイナースは、ゲート使えません。
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