区切りがいいため投下。
すみません。
2020年2月17日、19時45分を以て、一部かなり書き換えました。
ご意見いただきましたが、とてもわかりづらい展開になっていましたし……よく考えたら別の方法を使った方がわかりやすくなったので……。
モモンガは黒い城塞に戻って、考える。
思えば。
鈴木悟は、ユグドラシル終了からずっと、この異世界に来たことを真面目には考えなかった。
誰も来ないまま全てが終わる喪失感に。
思ってもみなかった、ありえない変事。
自然に満ちた見知らぬ異世界へ転移し。
体が女性――それもサキュバスになり。
混乱の中で童貞(処女?)を喪失して。
そのまま美しい恋人に溺れ続けていた。
全てが思い通りになって。
誰もが己を愛してくれる。
受け入れ、讃えてくれる。
目障りな者がいれば、簡単に排除できる。
「……ずっと、夢の中にいるようだった。何もかも、都合がよすぎて。神様になった気分だったんだ」
モモンガは呟き。
アルベドの髪を撫でる。
「…………」
アルベドは、口を挟まない。
最愛の人が思いに耽るのを、邪魔したりしない。
「私は、アルベドを……ずっと都合よく考えて、都合よく求めて、都合よく溺れていた。お前を書き換えた時から、私は神になったと錯覚していたのだろうな」
あるいは、彼女が動き、意志を伝え始めた時から。
モモンガは彼女を都合よく変えて。
彼女の言葉と態度に接して。
自らを上位者と信じ込み、全てを見下してしまっていたのだ。
「モモンガ様は私にとって、ずっと神……いえ、神以上の存在です。それは、モモンガ様が私に愛を刻まれる前から、決して変わりません」
「……そうか」
沈黙が続いた。
本来、臆病で慎重なモモンガを、奔放な女神に変えたのはアルベドだ。
この全てが不明の世界。
だが、草原ですらモンスターの気配のない世界で。
数日を経ても、何者も襲ってもこない世界で。
己たちが上位者である可能性は高いと判断した。
モモンガから臆病さをなくさせるよう……アルベドは性経験のない主を誘惑し。挑発し。溺れさせ。そして、己の騎獣を使って間接的に犯しすらした。
そう、クロマルが二人を犯したのは習性ゆえではない。
主たるアルベドが、そう命令したのだ。
万一にも孕まないよう、騎士スキルでモモンガの卵子をカバーリングもしている。
アルベドの方は仮に孕んでしまっても、
幸い、孕んだ気配もない。
目論み通り、モモンガは様々な抑圧から解放された。
本来の彼ならありえないほど、気ままに振る舞った。
神として振る舞い、讃えられ、崇められ。
アルベドと愛と色に溺れ続けた。
それが、傾国の美女として設定されたアルベドなりの……主を思いやった、最大限の奉仕であり。
主に与えられる“救い”だったのだ。
(あの判断に後悔はないわ……モモンガ様に様々な情報や感情を隠してもきた。それも必要だったと信じてる。けれど――)
今日、あの忌々しい連中によって、主の夢は覚めた。
覚めてしまった。
かつての在り方を、取り戻しつつあるだろう。
二人の間に今もつながる、精神のつながり。
モモンガの感情が、アルベドには感じられる。
敵対心はないが。
何か強く迷い、困惑している。
疑念、不安、恐怖。
アルベドを疑っているのか。
彼女には、いくつも……身に覚えがあるのだ。
主が沈黙を破った。
「…………アルベド」
「はい」
短くとも、互いに強い覚悟を込めた一言。
モモンガは悲痛な顔で、見つめてくる。
アルベドは拒絶への怯えが、顔に浮かぶ。
だが、主の言葉は……想定と違った。
「まず、体を返そう。解除するぞ」
「え――」
アルベドの宿っていた肉体――魔法で造られた
着けていた装備が床に落ち。
アルベドの精神が本来の体へ……モモンガと共有される。
モモンガの感情、意識がアルベドにも流れ込んでくる。
だがそれは酷く暗く冷たく。
どこかアルベド自身に似て。
己に近似するがゆえ、容易には読み解けない。
(モモンガ様!? モモンガ様!?)
意識の中で呼びかけるが。
返答はなく。
「〈
「モモンガ様!?」
モモンガの精神が、アルベドの肉体から去った。
意識の中の叫びがそのまま、声となる。
肉体の共有が絶たれ……先ほどまでのように、複製体の中にモモンガの意識が宿ったのだ。
「ふむ……元よりそういった魔法だが。アルベドの体にいた時と変わらんな」
生み出された肉体に宿り。
裸体のまま首を傾げる。
「これで、私は……体を奪い続ける。横暴な主ではなくなったな」
「モモンガ様……あのままでも、私は――」
「いや。それはお前の肉体だ。私の肉体は……人としても、
「そのような言葉、どうかおやめください!」
「……そんな私が、お前の主として振舞い。神を名乗って調子に乗っていたのだ……傍目に見れば、さぞや滑稽だったろうな」
「モモンガ様は多くの人間を幸せにしております! どうして笑われるはずがありましょうか!」
「だが、私が私を認められんのだ」
「わ、わかりました! そのつらさ、私が必ずや慰め申し上げます!」
なぜか、アルベドは焦っていた。
酷く、嫌な予感がする。
「今夜はやめておこう……少し頭を冷まさねばならない」
「で、ではせめて、その御体でも、これをお持ちになってください!」
「いや、それはお前が持っておけ。本来はお前に与えられた品だ」
「え……? あ、ああ、確かに。今回二つも
熱くなり過ぎたか。
らしくない、ミスだと思ったが……嫌な予感は強まるばかりだ。
裸体のモモンガが、先刻手に入れた
漆黒聖典の隊長が装備していた品。自らの存在と引き換えに、相手を絶対消滅させる
「よし、この肉体でもアイテムボックスは使えるな。収容可能量は……アルベドのままか」
確認するように言いつつ。
「これは使用禁止とするぞ。アイテムボックスに入れておく。お前にも装備はさせん」
無造作に
「えっ? も、モモンガ様?」
「ダメだ。お前が消滅する可能性は絶対残さん。それに、法国から回収した品を神が使うなど、格好悪いだろう」
さらに、傾城傾国――あらゆるものの精神を支配できる
ンフィーレアから装備を外しても
「同じくこれも、あれを操る時以外は不要だ。仕舞っておくぞ」
「お待ちください!」
アルベドが悲鳴混じりに叫ぶ。
「……どうした」
ゆっくりとアルベドを見やる目は、どこか空ろで。
転移以来、ずっと宿していた輝きを失ったよう。
「御身を! 御身を守る
「いらん」
「なぜですか! 私は――」
「お前が私を守るのだ。この体が破壊されても、お前の中に戻るだけだろう。これも100レベル戦士職の肉体に変わりはない」
「それでも、万一が――」
「不要だ。私は……本来は人でありながら、人の視点を失っていた。許せぬ敵が現れればともかく……しばらくは、私自身を人の身とする。それに、装備は死ねば落とすが……アイテムボックスは蘇生しても戻る。死んだままなら消滅するだろう。あれらが消えるのは、悪いことでない」
すがりつくような言葉を、決して続かせない。
モモンガは、アルベドを抱きしめた。
欲望はない。
ただ、愛情を込めて抱きしめる。
その気持ちは、アルベドにも伝わる。
伝わるが。
「モモンガ様、どうか――」
「ダメだ」
言葉は変わらない。
抱きしめながら、モモンガは呟く。
互いの顔は見えない。
アルベドの耳元に呟かれる、その声は震えていて。
肩に、雫が落ちてくる。
(泣いているの……? モモンガ様を……私が、泣かせたの?)
泣きたい気持ちで懇願していたのは、己のはずなのに。
主から伝わるのは後悔、悲嘆。
アルベドの頭の中が、真っ白になった。
優秀なはずの知性が、働かない。
震える声で、嗚咽をこらえながら、主は続ける。
「ここが“
「私はモモンガ様にとって都合のいい存在でかまいません」
反射的に答えてしまうが。
「ダメだ、私が許さん。私はお前を信じていなかった」
「…………」
嘘だ。
疑念の欠片も抱いていなかったと、アルベドは知っている。
全てをさらけ出し、感情も共有しているというのに。
「私はお前を利用するばかりで……ただの道具のように考えていた」
「…………」
嘘だ。
あれだけ愛していると言って。
過去を忘れようと、アルベドにすがりついていたのに。
「お前が大事なのに、お前を守ろうと……ろくにしなかった」
「…………」
嘘だ。
ニグンと戦った後、法国の情報を得た後。
アルベドに単独行動はさせず、ずっとくっついていたのに。
「私の命は、お前に預ける。お前を信じる。何より……私は……」
「…………」
(この人は……)
ずっと、自分自身こそ最も信じられないのだと。
アルベドはようやく悟った。
だから、いなくなったギルドメンバーを信じ続けて。
今も、アルベドを信じようとしている。
モモンガが疑っているのは、アルベドではない。
モモンガ自身を、疑っている。
アルベドを守れず、失ってしまう未来に不安を感じ、恐怖している。
「私は、目の前でアルベドを失いたくない……」
だから。
万一の時があれば、アルベドは生き残っても。
己が先に死ぬようにしようというのだ。
シモベとして、主にさせてはならない考えだ。
許されない。
己自身が許せない。
なのに、アルベドは嬉しく感じてしまう。
それが、おぞましい。
「モモンガ様……それは、我儘というものです」
絞りだすように。
主と己、両方への……せめてもの抵抗として。
言うが。
「知らなかったのか? 私はとても我儘なんだ」
「…………」
それも嘘だ。
嗚咽をこらえながら、言うことではない。
全てはアルベドのために――
アルベドの体から力が抜けた。
(私が、追い詰めてしまった……このやさしい人を……泣かせて。私を優先させて……。私が独占なんかせず、他の愛する人を見つけておけばそれで、少しは違ったはずなのに。私だけを愛してくれる、この方を……ただただ傷つけて。こんなにして……なんて、無様な……しかも、それが“嬉しい”? ありえない……ありえない。本当に我儘で度し難く、醜悪なのは、私なのに……)
モモンガの――かつての己の肉体にしがみつくようにして。
アルベドは泣いた。
子供のように泣くアルベドを、モモンガが撫でる。
撫でるモモンガも嗚咽を漏らし、力なくすがりつくように
(こんな汚い私を……モモンガ様は……どうして……モモンガ様がどうして、こんな汚い私のために……泣いて)
(こんな私を、勝手に愛させて……挙句、今もアルベドを泣かせている……私は本当に……どうしようもないな)
己自身が醜くて、悔しくて。
二人は同じ気持ちで、互いを崇め、己を貶め。
そんな気持ちが互いに伝わり、ぐちゃぐちゃに混ざり合い。
二人で、泣いた。
お互いの顔を見ぬままに。
その夜、おそらくは転移以来初めて。
二人は密着すれど交わらず。
一夜を過ごした。
城塞の外で日も昇る頃。
「……今までの私は、一人で夢を見ていただけだ」
「……私も、同じかもしれません」
「そうか。なら今日から。今日からは、二人で見よう」
「はい……!」
そして、一人きりの神遊びが、二人の旅路に変わる。
別に旅に出るわけじゃないんですけどね。
二人の関係性的には、ほとんど最終回です。
とはいえ、事件性と世界への対応としてはまだ続きます。
前作と違い、本作では着地点をぜんぜん考えてないので、いい着地点が見つからなかった場合、本話を最終回って書き換える可能性もあります……。(この後を後日談扱いにして)
ユグドラシル最終日、絶望的な時を迎えていた鈴木悟氏。
その直後の、異世界転移+TS+脱童貞&処女。
土着は明らかに弱っちくて、俺TUEEEE状態。
(すべてアルベドの誘導でしたけど)
神様気取りになっちゃって恥ずかしー!って、ようやく自覚しました。
そんな現実を自覚した途端、アルベドさんにメンヘラ化し始めてます。
なお、卵子カバーリングは、捏造設定です。
ひょっとしたら、原作でもできるかもしれませんが(たぶんできない)。
◆◆修正により、モモンガさんがアルベドに肉体を返し、クローン体になりました
◆◆後半、モモンガさんはずっと全裸でアルベドを抱きしめてます