アルベド二人旅   作:神谷涼

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 前回長かったので、短く感じるかもですが。
 区切りがいいため投下。

 すみません。
 2020年2月17日、19時45分を以て、一部かなり書き換えました。
 ご意見いただきましたが、とてもわかりづらい展開になっていましたし……よく考えたら別の方法を使った方がわかりやすくなったので……。


42:言い忘れていたな、私は非常に我儘なんだ

 破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)を村の遥か南方へと移動させた後。

 モモンガは黒い城塞に戻って、考える。

 

 思えば。

 

 鈴木悟は、ユグドラシル終了からずっと、この異世界に来たことを真面目には考えなかった。

 

 誰も来ないまま全てが終わる喪失感に。

 思ってもみなかった、ありえない変事。

 自然に満ちた見知らぬ異世界へ転移し。

 体が女性――それもサキュバスになり。

 混乱の中で童貞(処女?)を喪失して。

 そのまま美しい恋人に溺れ続けていた。

 全てが思い通りになって。

 誰もが己を愛してくれる。

 受け入れ、讃えてくれる。

 目障りな者がいれば、簡単に排除できる。

 

「……ずっと、夢の中にいるようだった。何もかも、都合がよすぎて。神様になった気分だったんだ」

 

 モモンガは呟き。

 アルベドの髪を撫でる。

 

「…………」

 

 アルベドは、口を挟まない。

 最愛の人が思いに耽るのを、邪魔したりしない。

 

「私は、アルベドを……ずっと都合よく考えて、都合よく求めて、都合よく溺れていた。お前を書き換えた時から、私は神になったと錯覚していたのだろうな」

 

 あるいは、彼女が動き、意志を伝え始めた時から。

 モモンガは彼女を都合よく変えて。

 彼女の言葉と態度に接して。

 自らを上位者と信じ込み、全てを見下してしまっていたのだ。

 

「モモンガ様は私にとって、ずっと神……いえ、神以上の存在です。それは、モモンガ様が私に愛を刻まれる前から、決して変わりません」

「……そうか」

 

 沈黙が続いた。

 

 本来、臆病で慎重なモモンガを、奔放な女神に変えたのはアルベドだ。

 この全てが不明の世界。

 だが、草原ですらモンスターの気配のない世界で。

 数日を経ても、何者も襲ってもこない世界で。

 己たちが上位者である可能性は高いと判断した。

 モモンガから臆病さをなくさせるよう……アルベドは性経験のない主を誘惑し。挑発し。溺れさせ。そして、己の騎獣を使って間接的に犯しすらした。

 そう、クロマルが二人を犯したのは習性ゆえではない。

 主たるアルベドが、そう命令したのだ。

 万一にも孕まないよう、騎士スキルでモモンガの卵子をカバーリングもしている。

 アルベドの方は仮に孕んでしまっても、複製体(クローン)を作り変えてもらえばよかろうと考えたのだ。

 幸い、孕んだ気配もない。

 

 目論み通り、モモンガは様々な抑圧から解放された。

 本来の彼ならありえないほど、気ままに振る舞った。

 神として振る舞い、讃えられ、崇められ。

 アルベドと愛と色に溺れ続けた。

 それが、傾国の美女として設定されたアルベドなりの……主を思いやった、最大限の奉仕であり。

 主に与えられる“救い”だったのだ。

 

(あの判断に後悔はないわ……モモンガ様に様々な情報や感情を隠してもきた。それも必要だったと信じてる。けれど――)

 

 今日、あの忌々しい連中によって、主の夢は覚めた。

 覚めてしまった。

 

 かつての在り方を、取り戻しつつあるだろう。

 二人の間に今もつながる、精神のつながり。

 モモンガの感情が、アルベドには感じられる。

 敵対心はないが。

 何か強く迷い、困惑している。

 疑念、不安、恐怖。

 アルベドを疑っているのか。

 彼女には、いくつも……身に覚えがあるのだ。

 

 主が沈黙を破った。

 

「…………アルベド」

「はい」

 

 短くとも、互いに強い覚悟を込めた一言。

 モモンガは悲痛な顔で、見つめてくる。

 アルベドは拒絶への怯えが、顔に浮かぶ。

 だが、主の言葉は……想定と違った。

 

「まず、体を返そう。解除するぞ」

「え――」

 

 アルベドの宿っていた肉体――魔法で造られた複製体(クローン)が解除される。

 着けていた装備が床に落ち。

 アルベドの精神が本来の体へ……モモンガと共有される。

 モモンガの感情、意識がアルベドにも流れ込んでくる。

 だがそれは酷く暗く冷たく。

 どこかアルベド自身に似て。

 己に近似するがゆえ、容易には読み解けない。

 

(モモンガ様!? モモンガ様!?)

 

 意識の中で呼びかけるが。

 返答はなく。

 

「〈複製体作成(クローン)〉」

「モモンガ様!?」

 

 モモンガの精神が、アルベドの肉体から去った。

 意識の中の叫びがそのまま、声となる。

 肉体の共有が絶たれ……先ほどまでのように、複製体の中にモモンガの意識が宿ったのだ。

 

「ふむ……元よりそういった魔法だが。アルベドの体にいた時と変わらんな」

 

 生み出された肉体に宿り。

 裸体のまま首を傾げる。

 

「これで、私は……体を奪い続ける。横暴な主ではなくなったな」

「モモンガ様……あのままでも、私は――」

「いや。それはお前の肉体だ。私の肉体は……人としても、死の支配者(オーバーロード)としても、既に失われた。私自身が亡霊……夢のようなものだったのだ」

「そのような言葉、どうかおやめください!」

「……そんな私が、お前の主として振舞い。神を名乗って調子に乗っていたのだ……傍目に見れば、さぞや滑稽だったろうな」

「モモンガ様は多くの人間を幸せにしております! どうして笑われるはずがありましょうか!」

「だが、私が私を認められんのだ」

「わ、わかりました! そのつらさ、私が必ずや慰め申し上げます!」

 

 なぜか、アルベドは焦っていた。

 酷く、嫌な予感がする。

 

「今夜はやめておこう……少し頭を冷まさねばならない」

「で、ではせめて、その御体でも、これをお持ちになってください!」

 

 世界級(ワールド)アイテム、真なる無(ギンヌンガガプ)を差し出す。

 

「いや、それはお前が持っておけ。本来はお前に与えられた品だ」

「え……? あ、ああ、確かに。今回二つも世界級(ワールド)アイテムを手に入れたのでした」

 

 熱くなり過ぎたか。

 らしくない、ミスだと思ったが……嫌な予感は強まるばかりだ。

 裸体のモモンガが、先刻手に入れた聖者殺しの槍(ロンギヌス)を、手に取る。

 漆黒聖典の隊長が装備していた品。自らの存在と引き換えに、相手を絶対消滅させる世界級(ワールド)アイテム。

 世界級(ワールド)アイテムを装備していれば、世界級(ワールド)アイテムの効果を防げるのだから、ただ装備しておくだけでも価値はある。

 

「よし、この肉体でもアイテムボックスは使えるな。収容可能量は……アルベドのままか」

 

 確認するように言いつつ。

 

「これは使用禁止とするぞ。アイテムボックスに入れておく。お前にも装備はさせん」

 

 無造作に聖者殺しの槍(ロンギヌス)を、アイテムボックスに仕舞い込んだ。

 

「えっ? も、モモンガ様?」

「ダメだ。お前が消滅する可能性は絶対残さん。それに、法国から回収した品を神が使うなど、格好悪いだろう」

 

 さらに、傾城傾国――あらゆるものの精神を支配できる世界級(ワールド)アイテムも、アイテムボックスに入れる。

 ンフィーレアから装備を外しても破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)が暴走しないことが立証された以上、無理に装備し続ける意味はない……が。

 

「同じくこれも、あれを操る時以外は不要だ。仕舞っておくぞ」

「お待ちください!」

 

 アルベドが悲鳴混じりに叫ぶ。

 

「……どうした」

 

 ゆっくりとアルベドを見やる目は、どこか空ろで。

 転移以来、ずっと宿していた輝きを失ったよう。

 

「御身を! 御身を守る世界級(ワールド)アイテムが必要です! 御身に何かあれば――」

「いらん」

「なぜですか! 私は――」

「お前が私を守るのだ。この体が破壊されても、お前の中に戻るだけだろう。これも100レベル戦士職の肉体に変わりはない」

「それでも、万一が――」

「不要だ。私は……本来は人でありながら、人の視点を失っていた。許せぬ敵が現れればともかく……しばらくは、私自身を人の身とする。それに、装備は死ねば落とすが……アイテムボックスは蘇生しても戻る。死んだままなら消滅するだろう。あれらが消えるのは、悪いことでない」

 

 すがりつくような言葉を、決して続かせない。

 モモンガは、アルベドを抱きしめた。

 欲望はない。

 ただ、愛情を込めて抱きしめる。

 その気持ちは、アルベドにも伝わる。

 伝わるが。

 

「モモンガ様、どうか――」

「ダメだ」

 

 言葉は変わらない。

 抱きしめながら、モモンガは呟く。

 互いの顔は見えない。

 

 アルベドの耳元に呟かれる、その声は震えていて。

 肩に、雫が落ちてくる。

 

(泣いているの……? モモンガ様を……私が、泣かせたの?)

 

 泣きたい気持ちで懇願していたのは、己のはずなのに。

 主から伝わるのは後悔、悲嘆。

 アルベドの頭の中が、真っ白になった。

 優秀なはずの知性が、働かない。

 

 震える声で、嗚咽をこらえながら、主は続ける。 

 

「ここが“現実(リアル)”だというなら。私はお前を都合よく貪っていてはならなかった」

「私はモモンガ様にとって都合のいい存在でかまいません」

 

 反射的に答えてしまうが。

 

「ダメだ、私が許さん。私はお前を信じていなかった」

「…………」

 

 嘘だ。

 疑念の欠片も抱いていなかったと、アルベドは知っている。

 全てをさらけ出し、感情も共有しているというのに。

 

「私はお前を利用するばかりで……ただの道具のように考えていた」

「…………」

 

 嘘だ。

 あれだけ愛していると言って。

 過去を忘れようと、アルベドにすがりついていたのに。

 

「お前が大事なのに、お前を守ろうと……ろくにしなかった」

「…………」

 

 嘘だ。

 ニグンと戦った後、法国の情報を得た後。

 アルベドに単独行動はさせず、ずっとくっついていたのに。

 

「私の命は、お前に預ける。お前を信じる。何より……私は……」

「…………」

(この人は……)

 

 ずっと、自分自身こそ最も信じられないのだと。

 アルベドはようやく悟った。

 だから、いなくなったギルドメンバーを信じ続けて。

 今も、アルベドを信じようとしている。

 モモンガが疑っているのは、アルベドではない。

 モモンガ自身を、疑っている。

 アルベドを守れず、失ってしまう未来に不安を感じ、恐怖している。

 

「私は、目の前でアルベドを失いたくない……」

 

 だから。

 万一の時があれば、アルベドは生き残っても。

 己が先に死ぬようにしようというのだ。

 シモベとして、主にさせてはならない考えだ。

 許されない。

 己自身が許せない。

 なのに、アルベドは嬉しく感じてしまう。

 それが、おぞましい。

 

「モモンガ様……それは、我儘というものです」

 

 絞りだすように。

 主と己、両方への……せめてもの抵抗として。

 言うが。

 

「知らなかったのか? 私はとても我儘なんだ」

「…………」

 

 それも嘘だ。

 嗚咽をこらえながら、言うことではない。

 全てはアルベドのために――

 

 アルベドの体から力が抜けた。

 

(私が、追い詰めてしまった……このやさしい人を……泣かせて。私を優先させて……。私が独占なんかせず、他の愛する人を見つけておけばそれで、少しは違ったはずなのに。私だけを愛してくれる、この方を……ただただ傷つけて。こんなにして……なんて、無様な……しかも、それが“嬉しい”? ありえない……ありえない。本当に我儘で度し難く、醜悪なのは、私なのに……)

 

 モモンガの――かつての己の肉体にしがみつくようにして。

 

 アルベドは泣いた。

 

 子供のように泣くアルベドを、モモンガが撫でる。

 撫でるモモンガも嗚咽を漏らし、力なくすがりつくように

 

(こんな汚い私を……モモンガ様は……どうして……モモンガ様がどうして、こんな汚い私のために……泣いて)  

(こんな私を、勝手に愛させて……挙句、今もアルベドを泣かせている……私は本当に……どうしようもないな)

 

 己自身が醜くて、悔しくて。

 二人は同じ気持ちで、互いを崇め、己を貶め。

 そんな気持ちが互いに伝わり、ぐちゃぐちゃに混ざり合い。

 

 二人で、泣いた。

 

 お互いの顔を見ぬままに。

 

 

 

 その夜、おそらくは転移以来初めて。

 二人は密着すれど交わらず。

 一夜を過ごした。

 

 

 

 城塞の外で日も昇る頃。

 

「……今までの私は、一人で夢を見ていただけだ」

「……私も、同じかもしれません」

「そうか。なら今日から。今日からは、二人で見よう」

「はい……!」

 

 そして、一人きりの神遊びが、二人の旅路に変わる。

 




 別に旅に出るわけじゃないんですけどね。

 二人の関係性的には、ほとんど最終回です。
 とはいえ、事件性と世界への対応としてはまだ続きます。
 前作と違い、本作では着地点をぜんぜん考えてないので、いい着地点が見つからなかった場合、本話を最終回って書き換える可能性もあります……。(この後を後日談扱いにして)

 ユグドラシル最終日、絶望的な時を迎えていた鈴木悟氏。
 その直後の、異世界転移+TS+脱童貞&処女。
 土着は明らかに弱っちくて、俺TUEEEE状態。
 (すべてアルベドの誘導でしたけど)
 神様気取りになっちゃって恥ずかしー!って、ようやく自覚しました。
 そんな現実を自覚した途端、アルベドさんにメンヘラ化し始めてます。

 なお、卵子カバーリングは、捏造設定です。
 ひょっとしたら、原作でもできるかもしれませんが(たぶんできない)。


◆◆修正により、モモンガさんがアルベドに肉体を返し、クローン体になりました
◆◆後半、モモンガさんはずっと全裸でアルベドを抱きしめてます
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