アルベド二人旅   作:神谷涼

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 久しぶりなのであらすじ。

 ユグドラシル終了寸前、アルベドに18禁行為を決行したモモンガはなぜかアルベドの肉体に同一化して転移。
 魔法でなんとか別の肉体を作り、カルネ村に女神として降臨。
 王国や帝国で好き勝手して過ごしていたが……村近くの森で漆黒聖典にハック&スラッシュ。殲滅して世界級アイテムをゲット。
 手に入れた後で、その凶悪な能力を知り、調子乗り過ぎてたと反省するモモンガ。
 すっかり自虐モードに陥ってしまったのだった。



43:考えろ、考えろ、マクガイバー

 モモンガとアルベドに大きな変化があった翌日。

 カルネ村を覆う、黒い城塞。

 その玄関ロビーには堂々たる円卓が配置され、今回の話し合いに呼ばれた者たちが座していた。

 

 女神モモンガ。

 女神アルベド。

 バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。

 アーグランド評議国永久評議員ツァインドルクス=ヴァイシオン(甲冑)。

 神官長エンリ・エモット。

 元スレイン法国陽光聖典隊長ニグン・グリッド・ルーイン。

 元スレイン法国漆黒聖典クレマンティーヌ。

 元バハルス帝国四騎士レイナース・ロックブルズ。

 元ズーラーノーン十二高弟カジット・デイル・バダンテール。

 

 ほとんどがカルネ村関係者とはいえ、そうそうたる顔ぶれ。

 

「…………」

 

 外様の両者に、エンリは剣呑な目を向けていた。

 地位など関係ない。女神の聖域たる城塞内に、外部の者が踏み入ったことに義憤……いや、嫉妬を覚えていたのだ。

 とはいえ、彼らは女神の客人。エンリとて表立った無礼は見せはしない。見せはしないが……人心掌握に長けた皇帝は無論、いろいろ浮世離れした竜王の目にすら狂犬具合は明らかであった。

 もっとも、アルベドもまた同様の気持ちを隠していたのだが。

 

 それぞれの内心をよそに、モモンガが口を開く。

 

「ジル、ツアー、急に呼び出して申し訳ない。それにカジットも、仕事中にすまないな」

 

 外部から来た三人に、モモンガは深々と頭を下げた。

 いつもと違い、頼んで来てもらったのだ。

 偉そうな態度をとるわけにはいかない。

 

「いや、カルネ村は一度来なければと思っていたところ。転移魔法で送り迎えしてもらえるなら、業務にも支障はない」

「モモンガ様から呼ばれた以上、それ以上の仕事などございませぬ」

 

 バハルス帝国皇帝たるジルクニフが鷹揚に頷き。 

 カジットは今も、モモンガを最優先すると断言した。

 

「外にあった樹の件も聞きたかったからね。こうして集めてくれて助かるよ」

 

 ツアーは興味深げに見回しながら言う。

 皇帝と竜王は、モモンガとニグンの〈転移門(ゲート)〉によってカルネ村を訪れたのだ。

 ジルクニフは護衛として四騎士の他三人も来ていたが、城塞内への同伴は拒まれて村で滞在中である。

 とりあえず超高位アンデッドになって凄まじい美貌を得たレイナースに、帝国勢は全員仰天した。

 

「まさにその点……そして、スレイン法国についても話すべく、今回は集まってもらった。我々だけで進めるには、大きな話でもある。ジルとツアーの意見や要求も聞いておきたい」

 

 女神は互いの翼をかすかに触れ合わすのみで、いつものようにべったりと触れ合っていない。

 それだけでも、今回の会談が真面目なものだと女神を知る者(特にツアー)は気づくだろう。

 全員が居住まいを正す。

 

「とはいえ、戦略や知性においては、私よりもアルベドが優れているのでな。アルベドよ、よろしく頼む」

「では、ここからは私が――」

 

 アルベドが言葉を継ぐ。

 エンリたちを含め、カルネ村関係者には衝撃だった。

 今まで、モモンガは常に物事を主導していた。アルベドは、モモンガ以外とほぼ会話しない。常にモモンガに付き従ってきた。彼女はモモンガにしか関心を持たず。モモンガへの無礼がない限り、他者には無関心と見えたのだ。

 

 

 

「――以上が、法国が称するところの“破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)”に関する経緯です」

 

 包み隠さず、アルベドは漆黒聖典を殲滅したこと、彼らの所持する世界級(ワールド)アイテムにてこれを支配下に置いたこと、漆黒聖典隊長の所持していた世界級アイテムも手に入れたこと、わかりやすく説明した。

 世界級アイテムを知らぬジルクニフやカジットらのため、その詳細もここで説明している。

 手に入れた“傾城傾国”と“聖者殺しの槍(ロンギヌス)”の、おおよその能力についても説明した。

 

「君たちがプレイヤーということは、元から持っていた世界級アイテムもあるんだろう? その二つを合わせて君たちは、合計三つの世界級アイテムを持っているということかな?」

 

 おおよその説明が終わると同時に、ツアーが問いただす。

 彼にとって、放置できる問題ではない。

 

「……はい。もう一つはこの“真なる無(ギンヌンガガプ)”。任意の武器に形態変化可能な、対物体に特化した破壊不可能の武器です。この城塞も含め、城の一つくらいは粉砕できるでしょう」

 

 アルベドが短い杖を取り出し、手の中でハルバードに変えて見せる。

 

「はぁ!?」

 

 ジルクニフが目を剥く。いつも帝国内に持ち込んでいる彼女の武器が、そんな危険物とは知らなかったのだ。

 帝城の中で持ち歩いていたのも見ている。

 というか、同じハルバードを威圧目的で構える様子を見たこともあった。

 

「なるほど。さっきのに比べたら危険性はなさそうだね。それよりも法国から手に入れた二つを――」

 

 能力を聞くと、ツアーは頷き。より危険な二つについて話を続けようとするが。

 

「待て! 待て! ものすごく危険だろう!」

 

 ジルクニフが遮る。

 ツアー以外の者らも、こくこくと頷く。

 先の二つはジルクニフらにとってまさに神の世界の品であり、正直よく把握できない。

 “傾城傾国”は“一人だけ絶対精神支配できる品”。

 “聖者殺しの槍”は“ハイリスクなすごい即死武器”である。

 命の価値が低い人類にとって、それほど規格外とは思えない。

 だが“真なる無”は、都市や城を破壊して幾百幾千の命を奪いうる最悪の戦略兵器である。身一つで来ていると思っていた外交官が、ミサイルを持ち込んでいたと知ったようなものだ。

 価値観の差を察したアルベドが困った顔になるが。

 

「そうかなぁ。たぶん、その気になればこの二人も私も、似たような破壊はできると思うし。人に貸すような品でもないから、安全だと思うよ」

 

 ツアーが淡々とフォローとも言えないフォローをした。

 

「それはそうかもしれんが……」

 

 そうなの?と思わずモモンガを見るジルクニフ。

 女神はきまり悪そうな顔で、苦笑して見せた。

 

(あ……できるんだ)

 

 ジルクニフは足元がいろいろ崩れていくように錯覚した。

 

「そういう存在を洗脳して操ったり、一兵卒に消滅させられる方が怖いんだよ」

 

 ツアーが当たり前のように言う。

 確かに、そんな存在が誰かに操られたり、あっさり殺される方が問題だろうが。

 しかし、ジルクニフとしてはどこまでも納得いかない話である。

 

「はい。言いたくはありませんが、どちらも私たちにとってすら致命的な品です。この点を知ってもらいたくて、外部の身であるお二人も呼びました」

「弱点なら教えず、全能な存在と思わせておくべきではないか?」

 

 ジルクニフが限りなく本心で言う。

 その方が何かにつけ、やりやすいはずだ。

 

「この二つで終わりなら、それもよかったでしょう」

「…………」

 

 法国がまだ同等の品を秘蔵しているかもしれない、ということだ。

 

「その二つ、私としては評議国で保管させてほしいんだけど」

「それはできません。既に言った通り、私たちにも致命的な品ですので」

 

 予想できた回答ゆえ、ツアーは甲冑のままわずかに肩をすくめた。

 会談はアルベドとツアーを中心に進み始める。

 

「この二つについては我々も今後は使用しない方針です。可能なら破壊しておきたくもありますが、世界級アイテムの破壊は基本的に不可能ですので……」

「いや、使わないならいいよ。もし使うなら、連絡して用途を教えてほしいかな」

 

 あっさりと認めたツアーに、モモンガはアルベドの背後で小さく頭を下げた。

 同じく“破滅の竜王”を自衛以外に用いることについて、“傾城傾国”の使用の内とあっさり認められた。ただ“竜王”と呼ぶのはやめてほしいとのことで他の名を考えることになったが……。

 

「では、これが本題ですが……プレイヤーがそれぞれ世界級アイテムをもって訪れるということは、これまで現れたプレイヤーの数だけ世界級アイテムが現存するということですか?」

 

(きたか……)

 

 黙ったまま、ジルクニフは二人の言葉を吟味し始める。

 

「いや、消費されて消えたのもあるね。この世界を“穢した”のは、主にそれらの消費アイテムだよ」

「それでも相当数の品が遺されているでしょう。スレイン法国はそれらを確保しているのですか?」

「彼らは六大神の遺志を継ぐ国……だったからね。最大で六つは持っているかな? 今回二つ奪われたから最大四つだね」

 

(過去形? 今は違うのか。法国の方針と、六大神の思想が異なる?)

 

 言葉の端々から、隠れた情報を探る。

 

「我々の持つ数は明かしました。評議国ではどの程度をお持ちですか?」

 

 隠すかと思われたが……ツアーはあっさりと数を明かす。

 

「ただ、私の知らない品もあるかもしれない。他の国や組織が持っている場合もあると思うよ」

「……ズーラーノーンの盟主が世界そのものに匹敵する品を持つという話は聞いております。また、より恐るべきアンデッドの魔術結社があるという噂も。おそらくそ奴らも持っている可能性がありますな」

 

 カジットが口を挟んだ。

 

「帝国に、そんな品はない。王国も、少なくとも国庫にはないだろうな」

 

 ジルクニフもここで宣言する。

 あったら、王国をとっくに併呑している。というか歴代皇帝の誰かがさっさと貴族を粛清していただろう。王国側とてそれは同じだ。

 

「プレイヤーがいたあちこちに、世界級アイテムは点在してるはずだよ。私も、気長に探してはいるんだけど……法国がそれ以上を回収している可能性は高いね」

 

 ツアーの言葉に元法国のニグンとクレマンティーヌへと、全員の視線が向く。

 

「私はアイテムの回収を命じられたことはありません。亜人が稀に持つ品は回収しましたが。そんな規格外な品があれば、とうに噂になっていたはず……」

「アイテム回収の任務は、裏じゃけっこうあったよー。私が昔ドジ踏んで捕まったのも、そーゆー任務だったしー。でも、そんな規格外の品を回収したって話は、私が知ってる範囲じゃなかったと思うなー」

 

 殲滅任務に特化していたニグンより、クレマンティーヌの方が情報は深い。

 だが。

 

「あくまで最近はなかった、程度ですか」

「強ーいアイテムがあるなら、人類を守る我々が使うべきーって動き方だからねー。でも、隊長とカイレの婆さんくらいしか、規格外の装備は許されてないしね~。あの番外ちゃんだって、そういうのは持ってないと思うよー?」

「見せ札は奪いましたが、隠し札がどれだけあるか……ですね」

 

 アルベドが、眉を寄せる。

 チラ、と彼女の目がジルクニフを見た。

 

「両女神殿はスレイン法国に攻め込みたいのか?」

 

 ふとした疑問を、皇帝は問う。

 

「えっ、そうなのかい?」

 

 ツアーが首をかしげた。

 

「いえ。しかし、危険な品を持つなら、情報を判明させておきたいのです。おそらく漆黒聖典とアイテムの返還を求めて、近日中には使者が来るでしょうから」

「完全に安全な交渉を求めるとは、贅沢な話だな」

 

 今まで帝国や王国相手はそうだったのかと、口には出さずジルクニフがぼやくように言う。

 

「危険度が大きいなら、私はモモンガ様とここを逃れ、誰も来ない場所にこもりたいくらいですが……」

「そ、そんな!」

 

 エンリが絶望的な顔になる。

 なお、ツアーとしては正直そうしてくれた方がありがたい。

 

「……私としても、中途半端な救いは与えたくない。神を名乗った以上、それなりに面倒は見るつもりだ」

 

 黙っていたモモンガが、宣言する。

 

「「モモンガ様……!」」

 

 エンリやニグン、レイナース、カジットが感涙にむせぶ中。

 ツアーは呆れたように溜息をついた。

 そんな中、ジルクニフだけは冷静に状況を分析し、考える。

 

(結局、私はなぜ呼ばれたのだ? 確かにこの情報を知っておけるのはありがたいが……正直、災害レベルで我々ではどうにもならん。世界級アイテムなど、我々が手にしても、持て余すだけだ。見つけた場合に献上しろと? 確かに隠し持って、女神や法国に睨まれるよりはいい。釘を刺されずとも、贈り物として身の丈にあった人材や品を引き換えにもらった方が、国益となるだろうな。法国も同じように、秘蔵の品を手離せば……ん?)

 

 何か引っかかった。

 今回の発案者は、おそらくモモンガではない。

 冷たく理性的かつ情の深いアルベドだ。

 過去に見た経験から、彼女はいわばモモンガの愛人兼秘書官。

 ジルクニフやツアーが呼ばれたことに、大きな理由があるはず。

 考えなければならない。

 モモンガの慈愛は、今は与えられていない。

 溺れるのではなく、考えるべく、呼ばれたはずだ。

 

(腐った王国貴族を粛清し、皇城にも転移して訪れる女神がなぜ、法国との交渉をそこまで警戒する? 決まっている。彼女は今までの形に則れば“直接”使節に会わねばならない。使者を行き来させるにも、アンデッドや狂信者ではこじれるだけだろう。ゆえに、女神は法国使節を攻撃するか、直接会うかしかない。未知の戦力相手に、攻撃は避けたいだろうな。そして、直接に会った時に世界級アイテムとやらを使われれば……なるほど。国家間の外交問題と考えればいいわけか。つまり私に期待されているのは……)

 

 思考は一瞬。

 まだ誰も発言していない。

 ジルクニフは背筋を伸ばし、発言した。

 

「ならモモンガ殿。ここは今までの恩返しとして、私に任せてもらえまいか」

「ジルが? どうするつもりだ?」

 

 きょとんとした顔でモモンガが訊ねる。

 その表情で、皇帝は癒される。ただ働き……ではない。

 彼女からはすでに十分すぎる恩を受けた。

 もう一人の女神――アルベドは全て理解しているのだろう。

 皇帝の言葉を促してくる。

 

「国という看板を使うのだよ。つまりモモンガ殿が直接には法国と関わらず済むよう、我が帝国が間に入るのだ」 

 

 評議国では法国と平和な話し合いなどできまいからな、と口には出さず。

 ジルクニフは、己の土俵で話を始めた。

 




 続きました。
 冒頭の顔ぶれだけ書いたまま、このテキストは5か月も放置になってました……待ってくださってた方には、お待たせしてすみません。
 だらだらした話になってる感もありますが、一応じわじわ続く予定です。

 モモンガさんがアルベド主導にしたのは、好き放題するのまずそうだし国とかよくわかんないから助けてーって意図もあります。
 あと、神様ごっこに気づいて羞恥に苛まれ、あくまでアルベドのものである体を奪ってる自分が嫌になったというのも。

 アルベドさんとしてはナザリック並みに人材がいればどうとでもやりようありますが、世界級どれだけ抱えてるかわからず、推定100レベルの番外ちゃんもいる法国とはコトを構えたくありません。そんなことしてる暇あったらモモンガといちゃついてたいので……。
 そこでラナー的思考でジルとツアーを呼んで法国関係の情報をオープン。
 帝国に自発的に仲介国になってもらいました。
 ツアーを呼んだのは、変に勘繰られないようにです。この話のアルベドさんは、既にモモンガといちゃつきまくってるので世界征服も竜王抹殺も興味ありません。
 今回のアルベドさんの真の目的は、みんなモモンガ様のこと好きだよー、いないと困るよーってのを、モモンガに感じてもらうことです。メンタル回復してほしい! そして、ねっちょり生活に戻りたい! それだけです。
 ラナーと違ってそれなりに顔を合わせてるので、ジルクニフもストレスなくコントロールするようしてます。モモンガさんのお気に入りですしね!
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