時系列としては41話後です。
時は少し巻き戻り。
“
村では祝いの宴。
女神は早々に城塞へと戻った後。
大幹部らは、宴の輪から外れ集まり……消音結界を張った状態で、今後を話し合っていた。
「クソ隊長とクソ兄貴をぶっ殺せて超サイコーな気分なんだけどさ~。これ、ぜーったい法国から何か言って来るよねー? 番外ちゃんとか来たら、あたしらでもやばくなーい?」
「ああ、番外席次はともかく……法国の使節は間違いなく来るだろう。とはいえ、法国はモモンガ様の“コゥ・セ・ボッヘキ”により痛手を受けたはず。詳細についてはわかっていまい。各神官長の合議、戦力の決定なども行えば……どれほど早くとも数日はかかるだろう」
クレマンティーヌの言葉に、ニグンが頷いた。
「連中の装備は法国の秘宝ばっかだもんねー。それだけでも返せってうるさいよー?」
「しかし、モモンガ様も重視されていたあの衣服と槍は、手放せませんわよ」
二つの品の危険性については、軽く魔法で分析したレイナースも承知している。
法国は無論、誰の手にも渡せる品ではない。
「森林での事故として、知らぬ存ぜぬで通せれば何よりですけど……あの樹を操作している以上、無理ですもの。こちらは一村落、あちらは強国。高圧的にくる可能性も高い。とはいえ受け流しつつ、こちらの力を見せつければ。認識を改めるはずですわ」
「たとえ形式的にでも、法国に膝を折りたくはありませんね」
レイナースの言葉に、エンリが冷たい表情で呟く。
女神降臨のきっかけとなった襲撃。モルガーその他の村人が殺され。他の村人も心に傷を負い。近隣の村が多く滅ぼされ、死者を出した。あのような凶行をした国を、許せるはずがない。しかも女神ではない、利権にまみれた神を崇める総本山。
女神信徒の筆頭としてエンリは、存在自体を認めたくない。
「無論、屈する必要などありません。少々の方便で、引き立ててやればよいのです。スレイン法国の理念上、明確な敵でもない相手と激突しての戦力消費は避けたいはず。
傾いた太陽で長い影を作る“破滅の竜王”を眺め、ニグンが諫めるが。
その最後の言葉に、エンリは引っかかるものを感じた。
「そういえばトブの大森林って、どこの領土なんですか?」
「帝国と王国の両方が領有を宣言していますが……さしたる開拓もできずにいる状態ですわ。実質上、誰の領地でもないかと」
「人間はとても生きてけない秘境って言われてるもんねー」
「我々はさんざん亜人討伐に入った場所だがな」
「なんか、あたしにだけ口調がぞんざいじゃね? ニグンちゃん」
そんなやりとりを聞いて、エンリはぽつりと呟く。
「ニグンさん、私たちって王国に税は納めず、独立する方針でしたよね?」
「村が小都市程度まで発展してからか、あるいは王国と衝突または威圧外交の上で……ですな。国際的には“起きている反乱に王国が気づいていない”という扱いでしょう。独立するにも王国の動きを待ちたいところですな。現状で法国とこじれれば、後の独立も面倒になってしまう」
現状確認を兼ねて説明するニグンだが。
エンリは政治がよくわからない。
とりあえず、女神の降臨したこの地が、下劣な国より格下と考えられているのだとだけわかった。
さっさと独立すべきではないだろうか。
「じゃあ、別にこの村だけで独立しなくてもいいんじゃないですか?」
「帝国はまだ、この村に接触していない建前ですし……法国側にすり寄るのは難しいと思いますわよ」
「いえ、そうじゃなくて。誰のものでもないなら、トブの大森林すべてを領土にしたらいいんじゃないですか?」
「は?」
「え?」
「ちょ、ちょーっと待ってエンリちゃん。あたしたちが知ってるのって
「でも、王国や帝国だって、何があるかわからないのに領有を宣言してるんですよね?」
つい先刻、レイナースが言ったことだ。
「それは――はっ、そうか!」
「そういうことですのね!?」
「えっ、どゆこと?」
少し考えたニグンとレイナースが、不意に驚愕で目を見開き。
特に知性を強化されていないクレマンティーヌは首をかしげた。
(あれ? 女神様は森の奥にいるって言えばってつもりだったんだけど……違うのかな)
エンリとしては、女神の所在を隠すため森を利用するつもりだった。
法国や王国に、女神が城塞にいると思われるとよくないかなという程度の配慮。もちろん、女神に直接森にこもってもらうつもりなどない。単なる居留守の言い訳だ。
しかしどうやら、ニグンとレイナースには違うらしい。
「さすがはエンリ殿ですな。我々のような固定観念にとらわれた者にはありえぬ発想」
「まさに神算鬼謀、神機妙算……ニグン殿のように有能な指揮官と、エンリ殿という策士あらばこそ。モモンガ様は俗世に煩わされずいらっしゃるのですね」
「ありがとうございます」
言葉の意味はよくわからないが、とりあえず褒められているらしいのでお礼を言う。
「いや、わかんねーんだけど。説明してくんない?」
(うん、私もわかんない……)
クレマンティーヌに、内心で同意するエンリ。
ニグンが呆れたように溜息をついて、説明を始めた。
「いいかね、クレマンティーヌ。エンリ殿はあの大森林を我らの領土と定めたのだ」
「いや、そりゃわかるけどさ」
(ちょっと言っただけで、別に定めたわけじゃ……)
クレマンティーヌと共に、エンリもいぶかしげに説明を聞くしかない。
「この森林は事実上の中立地。誰の領土とも言えん。時折、亜人討伐に入っていた陽光聖典も、法国上層部も、その奥の詳細などまったく知らないのだ。王国も帝国も、領土宣言すれど中に入れずいる」
「そりゃそーでしょ。中は亜人やモンスターでいっぱいじゃん」
内心でエンリも、クレマンティーヌに頷く。
「つまり、新たな国が領有を宣言しても何の問題もない……いや、違う。エンリ殿がおっしゃるのはこういうこと……大森林には、人類の知らぬ国が既にあったのだ」
「はぁ!?」
(はぁ!?)
驚きながら無表情を維持するしかないエンリ。
「無論、そんな国はない。先に宣言だけして、おいおい作って行けばよいのだ」
「ああ、時間稼ぎってわけ」
(びっくりしたぁ……そっか。すぐに会わせろって言われないようにするんだ)
このくらいはわかる。
森の奥に女神がいると詐称するエンリの原案と、実質同じだ。
「そして、大森林そのものが国土なら。勝手に踏み込み暴れた漆黒聖典が討たれるのは、領土防衛上当然の成り行きだろう」
「なるほどねー。森のどこが重要拠点かなんてこっちが勝手に決められるんだし。大事なトコで暴れたから、やむをえずって言えばいいわけだー」
(そっか、勝手に来た悪い人ってことにできるんだ)
理解したクレマンティーヌが悪い笑みを浮かべる。
エンリも納得し、頷いた。
「ふふ、ここまで想定済みとは、さすがエンリ殿ですな」
「皇帝が女神と良好な関係を築いてくれたこと、心から感謝しますわ」
「やっぱエンリちゃんすごいねー」
「ふふ」
(いや、そんな期待されても……)
とりあえず笑顔でごまかす。
暗黒神官衣装と硬い表情ゆえ、酷く邪悪な笑みになってしまっていたが。
そのままいくらか話が続き。
今回得た、規格外のアイテムについて話が及んだ。
「後は法国によるアイテムの返還要請ですな。これは適当に時間を稼ぎつつ、紛失した扱いにすれば……」
「待ってください」
そこで、エンリは咄嗟に言葉を挟んでしまった。
特に何の考えもなく、反射的に。
法国憎しの念だけで言ってしまった。
「どうしましたの?」
「紛失でグレーにしとくのが定石じゃないのー?」
三人の視線がエンリに向けられる。
先刻の独立時の話もあり、妙に期待を向けられている気がしたが。
エンリとしては、法国には敵意しかないのだ。
「あの品が、樹を操ってるのは明らかですよね?」
「それはそうですが。持っていれば返還を迫られるものですし、モモンガ様が支配下に置いたとでも称しておけば、交渉は容易でしょう。法国の譲歩を引き出せる自信もありますが」
アイテムについて知らぬ存ぜぬを通すべきと言うニグンだが。
「ダメです」
エンリはきっぱりと断じる。
「信徒たる我らが、モモンガ様の力を詐称するなどあってはなりません。また、スレイン法国はかつて村を襲い、女神様に天罰を受けた仇敵。彼らに譲歩しては、犠牲者にもモモンガ様にも申し訳が立ちません」
その表情は既に村娘でなく、狂信者のそれ。
「アイテムや装備の確保は明確に宣言してかまいません。死体は完全に破壊したとしましょう。魔獣か
「そ、それでは返還要請に対して宣戦布告に等しい返答となりますぞ」
「そーだよ。あたしらより強いのが出て来るかもだし」
法国の潜在戦力を知るニグンとクレマンティーヌが慌てる。
「ニグンさん。今まで陽光聖典は森林に入って亜人やモンスターを狩っていたのですよね?」
「そうですが……」
「我々に賠償や返還を求めるなら、法国も今まで殺した我が国民への賠償や遺産返却をすべきですよね?」
「「「えっ……」」」
三人が悪魔を見る目で、エンリを見た。
「ぼ、冒険者は国に属しませんが、各軍について……いや、しかし森から出た
「冒険者が国に属さないように、森から出た者たちも属さない……いえ、追放者としましょうか。彼らについて問題視するなら、もちろん冒険者が討伐した分も返してくれるのですよね? そうそう、冒険者は討伐時に耳などを切り落とすと聞きました。そのように遺体の一部を持ち去った以上、それも返してくれますよね? ――という形でどうでしょう」
亜人の連合国家があると名乗ってしまえば、確かに彼らは国民。法国や冒険者は、自衛のため立ち向かった兵士を殺害し略奪してきた侵略者という位置づけになる。
最初から亜人を下に見る、普通の人間には決して出ない発想。
アンデッドとなった三人が、異様な寒気を感じて震えた。
日は暮れつつある。
夕陽を背に、逆光となったエンリが、アンデッド以上のおぞましい怪物に見えた。苛立ったように肩をゆする姿に、恐ろしい威圧感がある。
実際、性欲の強いエンリはさっさと会議を終わりにし、夫に跨りたくて仕方なかった。
「え、エンリちゃんこわ……」
「お、おそろしい……さすがはエンリ殿です」
「そ、それならば、アゼルリシア山脈も入れてしまいましょう。帝国はかつて
レイナースが、同じく秘境である山脈を推す。
エンリとしては正直これ以上、面倒な話を続けたくない。遠くの山脈とか好きにすればいい。今日はンフィーレアもそれなりに活躍したし、宴に出ず家に引きこもっているのだ。彼もしたがっているのだろう。早く帰って合体したい。
「では、そのようにしてください」
会議を打ち切るような、苛立った口調でぴしゃりと言い。
そのまま席を立ち……背を向けた。
と、エンリの足が止まる。
「あ……一つだけ。スレイン法国が女神様に会わせるよう言ってきた場合ですが」
「「「ははっ!」」」
三人はすっかりエンリを格上と認め、主に対するが如く返答する。
「女神様に見合う存在――六大神のどれか一柱を連れてきたら会ってよいとしてください。使い走りや神官長如きが、女神に会えるなどと不遜な考えを起こさないように」
苛立ちと憤怒を込めた、冷たい宣言と共に。
エンリは己の住まい……神殿に帰って行った。
沈黙のまま、他の三人は見送り。
彼女の姿が消えてから。
「……エンリちゃんやばくない?」
「さ、さすが女神様から最初にその才を見出された方……」
「ただの村娘が一国を相手にあんな考えを持てるものですの?」
「この策謀は、間違いなく世界を一変させるでしょうな」
「国際関係、軍事バランス、ぜーんぶめちゃくちゃだねー」
「アンデッドとなった私たちには望む変化ですけれど」
三人がエンリへの評価を改めて高め。
今後の方針について話し合い、皇帝や竜王に《
同時に、蜥蜴人の代表者や森の賢王の活用も固まっていった。
一方で、悪のカリスマ全開で神殿に帰ったエンリはといえば。
ノーパンチャイナドレスチンチラ凱旋を恥じてひきこもるンフィーレアに、襲いかかっていた。
モモンガさんが、本来の肉体をアルベドに返してる頃の話。
エンリさんはまさに原作アインズ様のポジになっていきます。
モモンガ&アルベドが夫婦生活に溺れられるよう、動いてるだけですが。
適当に発言すると、ニグンさんがめっちゃプロデュースして悪の参謀に変えてくれます。
実際は村の運営でもたいしたことしてないけど、やたら持ち上げられてる……。
モモンガ:方針決定
アルベド:村には口出ししない
エンリ:計画発案、モモンガと直接交流あり
ニグン:具体的計画、外交、軍事
レイナース:具体的計画、内政、軍事補佐
クレマンティーヌ:執行、モモンガと直接交流あり
貴族経験あるレイナースが統治に入り、ニグンは外交中心。二人は軍事責任者でもありますが、ヘッケランあたりにいろいろ任せてるので軍関係の仕事はさほどしてません。街道の監視のみ、休まず交代でやってます。