戦士長ガゼフ・ストロノーフは、夕陽の中で遠目に見えるカルネ村の様子に首をかしげ。
率いる戦士団に急ぎ、指令を下す。
「待て! あの村は襲われている様子がない……周囲を警戒せよ! 村を襲わんとする者がいないか、探りつつ進め!」
これまでの、煙を立ち昇らせ、破壊された村とは明らかに違う。
破壊痕もなく、焼かれた様子もない。
これから襲われんとしているのか。
あるいは今まさに襲われているのか。
だが、近づきつつあっても、悲鳴の類は聞こえてこない。
他の村が襲われていた様子に、罠を警戒していたが……どういうつもりか。
帝国兵だと言う襲撃者について、思い悩むガゼフだった。
一方、森近くに潜伏し、ガゼフらを包囲せんとしていた陽光聖典隊長ニグン・グリッド・ルーインは激昂した。
「ええい! 奴らが散開してしまうではないか! ベリュースめ、あんな小村の焼き討ちもできんのか!?」
午前中にベリュースらの部隊はバハルス帝国騎士に扮し、カルネ村を襲ったはず。
村に戦力はない。これまで以上にたやすく焼き捨てられる村だ。
だが、襲われた様子は確認できない。
不審に思ったのだろう、戦士団は散開し、周囲を警戒しつつある。
「まずい……まずいぞ……」
陽光聖典は
召喚魔法を用いた集団戦術による、殲滅戦を得意とする。
逆に言えば、戦士との正面戦闘では、真価を発揮できない。騎馬で行動する彼らが、逃げ出さんとすればなおさらだ。
王国貴族との策略により、戦士長ガゼフ・ストロノーフは、最低限の装備で出撃している。貴族のいやがらせで、戦士団には制服も階級章もない。つまり、戦士長とて一般兵と変わらぬ装備――散開して逃げ出されれば、戦士長の特定など、運任せにするほかない。
ベリュースたちは何をしているのか。
村を襲ったまま、中でくだらぬ乱痴気騒ぎでもしていれば……中で乱戦となるはず。
それなら村ごと包囲して襲撃できるが……。
「クソっ、祈るしかないのか……!」
暗殺任務など己の本分ではないというのに。
苛立たしく、スルシャーナの聖印を握るニグンであった。
そんな両者の様子を、不可視化した
全てを主たるモモンガに報告しながら。
「ふむ……アルベドよ。あちらの魔法職集団に向かえ。指揮官はアンデッド化させる。あまり壊しすぎるな」
未だ隠れ続ける、明らかに村に敵対的な集団を指さす。
「承知イタ――」
最後までは聞こえなかった。
普通にダメージの入る勢いで蹴られ。
100レベル乗騎は、戦場内を一瞬で駆け抜ける。
音の速度か、それ以上で。
甲冑のアルベドを乗せ、魔獣が走る。
「隊長、村の方から何かが!」
気づいた陽光聖典隊員が、指揮官たるニグンに報告できたのは。
それ自体が奇跡的な功績だったろう。
だが。
無意味だ。
「ん? ベリュースの奴がやっトッ――」
ニグンは何が起きたかわからぬまま。
開いた口を後頭部まで貫かれ、絶命した。
そのまま、彼の骸が上へと、吊り上げられる。
アルベドが、手にした長柄斧――バルディッシュを持ち上げたのだ。
「隊長?」
突然、指揮官が宙に飛び上がったようにしか見えず。
報告した隊員が、間の抜けた声を発する。
周囲の隊員らも、状況把握ができず、呆けた顔をするばかり。
「クフッ、イヒッ――クヒヒヒヒヒ」
突然現れた、恐るべき騎士が笑っている。
アルベドの兜の中、瞳が紅い光を放ち。
紅い尾を引きながら、周囲を見回す。
他に地位の高そうな者はいない。
「指揮官確保ォ――〈
バルディッシュがどくんと脈打ち、赤い血管状の模様が浮かぶ。
攻撃後に武器強度とダメージを上昇させ、負属性も付与する、
ニグンの死体を貫き持ち上げたまま。
死体もろとも、発動したのだ。
貫かれたニグンの骸も
武器と一体化して硬化する。
ぶら下がる彼の体は、おぞましい装飾を凝らした武器の一部としか見えない。
懐からはみ出して青白く光る水晶など、まさに装飾の宝石だ。
ニグンの身を以てバルディッシュは、大鎌と化し。
命を刈る形を得た。
「隊長?」
陽光聖典隊員が、もう一度空ろな声を発した。
この状況を理解も受容もできず。
浮かび上がった、己の指揮官を見上げる。
そこには、ただ歪な、巨大な、暴力だけが。
「え?」
猛悪なる何かが、黒騎士と化して立つ。
吐き出されるは、理不尽なる殺意の渦。
憤怒と殺戮衝動が奔流と化して。
彼らの正気と生命を、押し流す。
「死ィィィィネェェェェ――!!!!!!」
2メートルを超える長柄武器。
その先に硬直固定された、2メートル近い長身の男。
100レベル戦士の筋力は、これをたやすく振り回す。
アルベドの腕の長さが加わり。
騎士クラスを極めたゆえの人馬一体が加わり。
半径10メートル以上を、くまなく一閃する範囲攻撃と化す。
バルディッシュに斬られる者。
ニグンの足に踏み砕かれる者。
魔獣の蹄にて踏み潰される者。
過剰な攻撃力で、あるいは両断、あるいは爆散、あるいは挽肉。
夕陽の中の、その光景は酷く酷く幻想的で。
血も肉も臓腑も、飛び散る紙吹雪のようで。
その非現実さが。
残る隊員から、逃げ出すべき時間を奪った。
「死死死死死死死死死」
容易に死に過ぎる彼らでは、アルベドの殺意を抑えられない。
甲冑には一片の肉、一滴の血すらついていない。
殺意の風は、さらなる獲物を求める。
「ひっ……!」
「あっ、あっ」
殺意に晒され、初めて残る隊員らも己の死地に気づく。
背を向け、この黒い死神から逃げ出さんとするが。
時、すでに遅し。
「逃ガスカァァァァ!!!!」
咆哮と共に暗黒の騎士は駆け。
全ての陽光聖典隊員を刈り取っていく。
夕陽に照らされる平原に。
人体が爆散し、血煙が幾度も噴きあがる。
そんな惨劇を。
不可視化して浮かぶ
正しくはその主と共に。
「ふふ、あんなにはしゃいで……よっぽど戦いたかったんだな」
モモンガはほっこりと、アルベドの戦う姿を眺める。
「あの『殺殺殺』とか『死死死』ってどう発音すればいいんだろう」
その光景は、モモンガの厨二魂にダイレクトヒット。
武器強化スキルの応用も、思わず膝を叩く見事さだ。
「あのスキルにあんな使い方があるとはな……さすがアルベドだ」
にこにこと微笑み頷く様子は、女神そのもの。
悪魔系種族の肉体に引っ張られてか、人間の死にざまにはまるで抵抗を覚えない。
むしろ、妙に興奮を覚え……。
「んん? アルベドめ、戦いながら興奮しているのか? ま、まあ戦いの後は昂ぶると言うからな! 私にまで伝わってくるほど高まるとは、か、帰って来た時……だいじょうぶか?」
己の在り方に違和感を感じる前に。
アルベドの興奮と思い、どぎまぎする。
戻って来たアルベドに押し倒される時を少し、期待してしまうのだ。
(うう……淫魔の体のせいか? なぜ期待する……?)
そんな想いが、アルベドにも伝わり、相互に高め合っている。
(とと、いかんいかん。私は私で、あの連中の相手をせねば)
モモンガはぺちぺちと、己の頬を軽く叩いた。
傍らには
実力の多くを隠し、待ち構える。
「さて、貴族の犬はどう受け取るかな。アルベドが戻る前に、対処を決めたいものだが……」
モモンガが抱く戦士団の認識は、遅まきながら村の救援に来た貴族の兵士。
あまり好意的に接するつもりはない。
アルベドは既に、皆殺しを終えつつある。
まだまだ興奮しているようだし、彼女がいては、交渉も面倒そうだ。
「……このまま殺して、なかったことにしちゃダメかなぁ」
モモンガ自身、アルベドが恋しく、そんな考えを弄び始めてしまう。
そんな時、ようやく濃い顔のおっさんと、いかつい連中が村に来た。
「私はリ・エスティーゼ王国所属の王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ! ご婦人はいったい?」
貴族とでも思っているのか、先頭の男が
背後の戦士らには、明らかに好色な目をモモンガ――アルベドの肉体に向けている者もいる。
モモンガとしては正直、皆殺しにしたい。
「私はモモンガ。此の地に降りたった神」
蛇のような目で彼らを睨み。
ふわりと翼で浮き上がりながら。
〈絶望のオーラⅡ〉を放出する。
相手のレベル帯では、Ⅲでも会話にならぬ可能性があると見てだ。
だが。
しかし。
「な――――!」
「ひ、ひぃぃぃ!」
Ⅱでも、戦士長以外は全て恐怖のあまり漏らしながら失神。
戦士長も怯え切ってしばらく話にならなかった。
ニグン瞬殺!
陽光聖典即座に殲滅!
村から移動+殲滅で、1分かかってません。
〈
暗黒騎士やアンホーリーナイトの何か。
フレーバー的には相手の血で武器を鍛え強化する、エンチャント系バフ。
ニグンさんを武器に振り回させたかったので……。
即座に鋼化されたので、カルカ様みたいにはなってません。
魔法的コーティングで最低限の損傷のまま、解除すればキレイな体のニグンさんです!
騎乗系スキルや範囲攻撃スキルもガンガン使ってるはずですが、名前つけてくのも何なので……。
なお、少なくとも本作において、バーサーク系スキルは出てこない(はず)です。
アルベドさんの暴走っぽい演出は、本人の精神的在り方によるもので、少なくとも今のモモンガさんは真似できません。憧れの「殺殺殺」も、モモンガさんだと「さつさつさつ/ころころころ」になります。
陽光聖典隊員は、普通にミンチになりました。
アルベドがキレイに殺しても、クロマル(バイコーン)が念入りに潰します。
前作がアクション皆無だったので、思えばこれがハーメルンで書く初アクション(汗)。
拷問設備やスタッフがいないので、原作と違って邪魔な人間はサックリ殺してもらえます。慈悲深いですね!
嬉しくない、戦士団の集団失禁シーン。
味噌もあるでよ。
ハムスケが〈絶望のオーラⅠ〉で即降参でしたので。
Ⅱを浴びたら、一般戦士は気絶くらいするだろうと。
ガゼフさんは気絶こそしませんが、硬直して命乞いしたい己と必死に戦ってます。
デスナイトさんは、プレッシャーこそ感じてますが、アンデッド特性である精神系無効のおかげで大丈夫です。
(このあたりは元能力のシナジーでもあるでしょし)