アルベド二人旅   作:神谷涼

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 カルネ村は襲撃直後にモモンガ降臨したので、焼かれたりしてません。



5:命を刈り取る形

 戦士長ガゼフ・ストロノーフは、夕陽の中で遠目に見えるカルネ村の様子に首をかしげ。

 率いる戦士団に急ぎ、指令を下す。

 

「待て! あの村は襲われている様子がない……周囲を警戒せよ! 村を襲わんとする者がいないか、探りつつ進め!」

 

 これまでの、煙を立ち昇らせ、破壊された村とは明らかに違う。

 破壊痕もなく、焼かれた様子もない。

 これから襲われんとしているのか。

 あるいは今まさに襲われているのか。

 だが、近づきつつあっても、悲鳴の類は聞こえてこない。

 他の村が襲われていた様子に、罠を警戒していたが……どういうつもりか。

 帝国兵だと言う襲撃者について、思い悩むガゼフだった。

 

 

 

 一方、森近くに潜伏し、ガゼフらを包囲せんとしていた陽光聖典隊長ニグン・グリッド・ルーインは激昂した。

 

「ええい! 奴らが散開してしまうではないか! ベリュースめ、あんな小村の焼き討ちもできんのか!?」

 

 午前中にベリュースらの部隊はバハルス帝国騎士に扮し、カルネ村を襲ったはず。

 村に戦力はない。これまで以上にたやすく焼き捨てられる村だ。

 だが、襲われた様子は確認できない。

 不審に思ったのだろう、戦士団は散開し、周囲を警戒しつつある。

 

「まずい……まずいぞ……」

 

 陽光聖典は魔法詠唱者(マジックキャスター)の集団だ。

 召喚魔法を用いた集団戦術による、殲滅戦を得意とする。

 逆に言えば、戦士との正面戦闘では、真価を発揮できない。騎馬で行動する彼らが、逃げ出さんとすればなおさらだ。

 王国貴族との策略により、戦士長ガゼフ・ストロノーフは、最低限の装備で出撃している。貴族のいやがらせで、戦士団には制服も階級章もない。つまり、戦士長とて一般兵と変わらぬ装備――散開して逃げ出されれば、戦士長の特定など、運任せにするほかない。

 ベリュースたちは何をしているのか。

 村を襲ったまま、中でくだらぬ乱痴気騒ぎでもしていれば……中で乱戦となるはず。

 それなら村ごと包囲して襲撃できるが……。

 

「クソっ、祈るしかないのか……!」

 

 暗殺任務など己の本分ではないというのに。

 苛立たしく、スルシャーナの聖印を握るニグンであった。

 

 

 

 そんな両者の様子を、不可視化した集眼の屍(アイボール・コープス)が、じっと見聞きしていた。

 全てを主たるモモンガに報告しながら。

 

「ふむ……アルベドよ。あちらの魔法職集団に向かえ。指揮官はアンデッド化させる。あまり壊しすぎるな」

 

 未だ隠れ続ける、明らかに村に敵対的な集団を指さす。

 

「承知イタ――」

 

 最後までは聞こえなかった。

 普通にダメージの入る勢いで蹴られ。

 戦用双角獣王(ウォーバイコーンロード)が疾駆したのだ。

 100レベル乗騎は、戦場内を一瞬で駆け抜ける。

 音の速度か、それ以上で。

 甲冑のアルベドを乗せ、魔獣が走る。

 

 

 

「隊長、村の方から何かが!」

 

 気づいた陽光聖典隊員が、指揮官たるニグンに報告できたのは。

 それ自体が奇跡的な功績だったろう。

 だが。

 無意味だ。

 

「ん? ベリュースの奴がやっトッ――」

 

 ニグンは何が起きたかわからぬまま。

 開いた口を後頭部まで貫かれ、絶命した。

 そのまま、彼の骸が上へと、吊り上げられる。

 アルベドが、手にした長柄斧――バルディッシュを持ち上げたのだ。

 

「隊長?」

 

 突然、指揮官が宙に飛び上がったようにしか見えず。

 報告した隊員が、間の抜けた声を発する。

 周囲の隊員らも、状況把握ができず、呆けた顔をするばかり。

 

「クフッ、イヒッ――クヒヒヒヒヒ」

 

 突然現れた、恐るべき騎士が笑っている。

 アルベドの兜の中、瞳が紅い光を放ち。

 紅い尾を引きながら、周囲を見回す。

 他に地位の高そうな者はいない。

 

「指揮官確保ォ――〈鮮血鋼刃(ブラッドスチールブレード)〉ッ!」

 

 バルディッシュがどくんと脈打ち、赤い血管状の模様が浮かぶ。

 攻撃後に武器強度とダメージを上昇させ、負属性も付与する、暗黒騎士(ダークナイト)のスキル。

 ニグンの死体を貫き持ち上げたまま。

 死体もろとも、発動したのだ。

 貫かれたニグンの骸も()()()()()()()()()()赤い模様を浮かべ。

 武器と一体化して硬化する。

 ぶら下がる彼の体は、おぞましい装飾を凝らした武器の一部としか見えない。

 懐からはみ出して青白く光る水晶など、まさに装飾の宝石だ。

 

 ニグンの身を以てバルディッシュは、大鎌と化し。

 命を刈る形を得た。

 

「隊長?」

 

 陽光聖典隊員が、もう一度空ろな声を発した。

 この状況を理解も受容もできず。

 浮かび上がった、己の指揮官を見上げる。

 そこには、ただ歪な、巨大な、暴力だけが。

 

「え?」

 

 猛悪なる何かが、黒騎士と化して立つ。

 吐き出されるは、理不尽なる殺意の渦。

 憤怒と殺戮衝動が奔流と化して。

 彼らの正気と生命を、押し流す。

 

「死ィィィィネェェェェ――!!!!!!」

 

 2メートルを超える長柄武器。

 その先に硬直固定された、2メートル近い長身の男。

 100レベル戦士の筋力は、これをたやすく振り回す。

 アルベドの腕の長さが加わり。

 騎士クラスを極めたゆえの人馬一体が加わり。

 半径10メートル以上を、くまなく一閃する範囲攻撃と化す。

 

 バルディッシュに斬られる者。

 ニグンの足に踏み砕かれる者。

 魔獣の蹄にて踏み潰される者。

 過剰な攻撃力で、あるいは両断、あるいは爆散、あるいは挽肉。

 夕陽の中の、その光景は酷く酷く幻想的で。

 血も肉も臓腑も、飛び散る紙吹雪のようで。

 その非現実さが。

 残る隊員から、逃げ出すべき時間を奪った。

 

「死死死死死死死死死」

 

 容易に死に過ぎる彼らでは、アルベドの殺意を抑えられない。

 甲冑には一片の肉、一滴の血すらついていない。

 殺意の風は、さらなる獲物を求める。

 

「ひっ……!」

「あっ、あっ」

 

 殺意に晒され、初めて残る隊員らも己の死地に気づく。

 背を向け、この黒い死神から逃げ出さんとするが。

 時、すでに遅し。

 

「逃ガスカァァァァ!!!!」

 

 咆哮と共に暗黒の騎士は駆け。

 全ての陽光聖典隊員を刈り取っていく。

 

 夕陽に照らされる平原に。

 人体が爆散し、血煙が幾度も噴きあがる。

 そんな惨劇を。

 不可視化して浮かぶ集眼の屍(アイボール・コープス)だけが見ていた。

 正しくはその主と共に。

 

 

 

「ふふ、あんなにはしゃいで……よっぽど戦いたかったんだな」

 

 モモンガはほっこりと、アルベドの戦う姿を眺める。

 

「あの『殺殺殺』とか『死死死』ってどう発音すればいいんだろう」

 

 その光景は、モモンガの厨二魂にダイレクトヒット。

 武器強化スキルの応用も、思わず膝を叩く見事さだ。

 

「あのスキルにあんな使い方があるとはな……さすがアルベドだ」

 

 にこにこと微笑み頷く様子は、女神そのもの。

 悪魔系種族の肉体に引っ張られてか、人間の死にざまにはまるで抵抗を覚えない。

 むしろ、妙に興奮を覚え……。

 

「んん? アルベドめ、戦いながら興奮しているのか? ま、まあ戦いの後は昂ぶると言うからな! 私にまで伝わってくるほど高まるとは、か、帰って来た時……だいじょうぶか?」

 

 己の在り方に違和感を感じる前に。

 アルベドの興奮と思い、どぎまぎする。

 戻って来たアルベドに押し倒される時を少し、期待してしまうのだ。

 

(うう……淫魔の体のせいか? なぜ期待する……?)

 

 そんな想いが、アルベドにも伝わり、相互に高め合っている。

 

(とと、いかんいかん。私は私で、あの連中の相手をせねば)

 

 モモンガはぺちぺちと、己の頬を軽く叩いた。

 傍らには死の騎士(デス・ナイト)

 真なる無(ギンヌンガガプ)はアイテムボックスに、隠しておく。アルベドは瞬間装備スキルも持っている。当人ほど使い慣れていないが、瞬時に取り出し振るえることは、実験済だ。

 実力の多くを隠し、待ち構える。

 

「さて、貴族の犬はどう受け取るかな。アルベドが戻る前に、対処を決めたいものだが……」

 

 モモンガが抱く戦士団の認識は、遅まきながら村の救援に来た貴族の兵士。

 あまり好意的に接するつもりはない。

 アルベドは既に、皆殺しを終えつつある。

 まだまだ興奮しているようだし、彼女がいては、交渉も面倒そうだ。

 

「……このまま殺して、なかったことにしちゃダメかなぁ」

 

 モモンガ自身、アルベドが恋しく、そんな考えを弄び始めてしまう。

 そんな時、ようやく濃い顔のおっさんと、いかつい連中が村に来た。

 集眼の屍(アイボール・コープス)越しに見た時も思ったが、さっきの騎士と違い、傭兵か山賊の集団にしか見えない装備。人相が悪ければ、他の何者でもなかったろう。

 

「私はリ・エスティーゼ王国所属の王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ! ご婦人はいったい?」

 

 貴族とでも思っているのか、先頭の男が誰何(すいか)して来た。

 背後の戦士らには、明らかに好色な目をモモンガ――アルベドの肉体に向けている者もいる。

 モモンガとしては正直、皆殺しにしたい。

 

「私はモモンガ。此の地に降りたった神」

 

 蛇のような目で彼らを睨み。

 ふわりと翼で浮き上がりながら。

 〈絶望のオーラⅡ〉を放出する。

 相手のレベル帯では、Ⅲでも会話にならぬ可能性があると見てだ。

 

 だが。

 しかし。

 

「な――――!」

「ひ、ひぃぃぃ!」

 

 Ⅱでも、戦士長以外は全て恐怖のあまり漏らしながら失神。

 戦士長も怯え切ってしばらく話にならなかった。

 




 ニグン瞬殺!
 陽光聖典即座に殲滅!
 村から移動+殲滅で、1分かかってません。

 〈鮮血鋼刃(ブラッドスチールブレード)〉は捏造スキルです。
 暗黒騎士やアンホーリーナイトの何か。
 フレーバー的には相手の血で武器を鍛え強化する、エンチャント系バフ。
 ニグンさんを武器に振り回させたかったので……。
 即座に鋼化されたので、カルカ様みたいにはなってません。
 魔法的コーティングで最低限の損傷のまま、解除すればキレイな体のニグンさんです!
 騎乗系スキルや範囲攻撃スキルもガンガン使ってるはずですが、名前つけてくのも何なので……。
 なお、少なくとも本作において、バーサーク系スキルは出てこない(はず)です。
 アルベドさんの暴走っぽい演出は、本人の精神的在り方によるもので、少なくとも今のモモンガさんは真似できません。憧れの「殺殺殺」も、モモンガさんだと「さつさつさつ/ころころころ」になります。

 陽光聖典隊員は、普通にミンチになりました。
 アルベドがキレイに殺しても、クロマル(バイコーン)が念入りに潰します。
 前作がアクション皆無だったので、思えばこれがハーメルンで書く初アクション(汗)。
 拷問設備やスタッフがいないので、原作と違って邪魔な人間はサックリ殺してもらえます。慈悲深いですね!

 嬉しくない、戦士団の集団失禁シーン。
 味噌もあるでよ。
 ハムスケが〈絶望のオーラⅠ〉で即降参でしたので。
 Ⅱを浴びたら、一般戦士は気絶くらいするだろうと。
 ガゼフさんは気絶こそしませんが、硬直して命乞いしたい己と必死に戦ってます。
 デスナイトさんは、プレッシャーこそ感じてますが、アンデッド特性である精神系無効のおかげで大丈夫です。 
 (このあたりは元能力のシナジーでもあるでしょし)

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