定期的にこういうの書きたくなる……。
帝国と評議国との会談を終え、帰還したニグン。
素早く森林および山脈の調査部隊を選出し、翌朝の出発を指示する。
森の賢王には湖で
フォーサイトはクロマルと共に、大森林内で協力的な亜人の代表、知性あるモンスターを捜索。地位を与えるに値する者を、多様な種族で用意する必要があるゆえに。
クレマンティーヌと漆黒の剣は、アゼルリシア山脈への探索。
これらは法国の訪問に対し、いるべき人材の帰還を急がせた結果であり。
クレマンティーヌと漆黒の剣は、長期不在でもカルネ村に影響が薄いと考えられたがゆえの配置。
「山小人の都市を探し出すは困難だろうが……道中で協力者を得ることもできるだろう。モモンガ様の名前を出してもかまわん。クレマンティーヌよ、任せたぞ」
「いや、そりゃニグンちゃんとレイナースちゃんが残るのはわかるし、エンリちゃんだって動かせないってわかるよ。わかるけどさー」
そう。
山脈探索とはいえ、途中までは森の中を全員で進むことになる。
つまり同行するのはフォーサイトと漆黒の剣、そして――
「拙者とて森ではひとかどの強者! けして足手まといにはならぬでござるよ!」
「お前じゃねーよ」
抗議する巨大ハムスター……森の賢王に、脱力して答え。
クレマンティーヌは、視線をもう一頭の魔獣に向けた。
「MUGEN?」
「なんで、こいつと組まなきゃいけねーんだよ!」
唸り、首をかしげるクロマルにツッコミを入れる。
かつて受けた暴行により、クレマンティーヌにとってこの強大な
「つんでれというやつでござるな。同じ雄に乗られた雌として、それがしも共感――」
「だまれ。ころすぞ」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!」
語彙が小学生になったクレマンティーヌの殺気に、森の賢王が恐怖の悲鳴をあげた。
「お、俺は気にしないっすよ。クレマンティーヌさん」
「お前にフォローされるのかよ……」
ルクルットの言葉に、深々と溜息をつく。
この村に来た時の状況――クロマルに(性的に)こらしめられた一件は、村人には周知の事実。ルクルットに限らず外来者だって、既に聞き知っている。それゆえ、クロマルは女性全般に避けられており。平気で騎乗するエンリには、この上ない畏怖が抱かれるのだ。
クレマンティーヌと親しい村人がいないのも、それが理由である。そして新たに来る人々は、彼女による王国貴族拷問を目の当たりにした者ばかり。良い噂など立ちようもない。
「ま、まあ湖まで行ったら、別行動でいいんじゃない?」
数少ない例外のイミーナが助け舟を出すが。
それとて同じ女性としての同情。特に仲がいいわけではない。
「森林で二手に分かれて行動した方が、確実。該当目標を手に入れたら、ニニャから〈
アルシェが、イミーナに同調する。
実際、山脈探索は将来の布石であり、一日を争うものではない。森で適当な代表者格を集める方が重要なのだ。効率性を考えるなら、別行動は妥当である。
「……ありがとねー」
ここには漆黒聖典のような、押しつけがましい連帯感はない。
女神への帰属意識は、クレマンティーヌとて持っている。
実力者として評価を得ている。
好き勝手しても許されている。
復讐とて、仲間の手で成し遂げられた。
法国にいた頃に比べれば、破格の待遇だ。
恵まれている。
幸運。
そう言ってしまうのはたやすいだろう。
けれど、彼女には今どこか満たされぬものがあり。
魂にぽっかりと穴が開いたように空虚。
ここ数日は己らしく振舞ってはいたが……急に己が己でなくなったように、感じられてならないのだ。
半ばアンデッドになったクレマンティーヌにとって、食事は……不要ではないが、欠かしたからとすぐ倒れるものでもない。
明日の準備を理由に、一足早く彼女は仲間の輪を離れた。
明日の朝から出発とあって、夕食会にはすぐ、出陣組も解散となる。
長期不在となる者は、それぞれに村の知り合いと別れを惜しむのだろう。
パーティーでの野営となるため、欲求が募らぬようにと濃厚な一夜を過ごすカップルも多い。
フォーサイトも漆黒の剣も、それぞれの住まいに戻る……中。
漆黒の剣の
この村に、彼女の住まいはない。
いつも、村の守りとして広場や裏門の辺りにいるのだが……。
「だーれ、探してんのー?」
「うわっ、お、驚かさないでくださいよ」
音もなく屋根から跳躍してきたクレマンティーヌが、背後からルクルットを抱きすくめていた。
アンデッドになってなお、彼女の体は暖かくやわらかく……いい匂いがする。
「毎回、よく驚くねー。それに毎回すーぐ、こっちも反応するしー♪」
「そっ、そりゃあまあ、俺は凡人だしっ」
ぴったりと後ろから密着されて反応した下半身を、無造作に掴まれる。
悲鳴じみた声を抑えたルクレットだが。
「んー? 凡人がこんな場所にいて場違いだーとか思ってるわけー? まあ、英雄や準英雄ばっかの魔境だもんねー?」
「……俺は二ニャみたいな過去も、ないし……軽いノリで英雄に憧れて、冒険者になっただけだから……」
そんなものは、常から抱え続ける軽い愚痴にすぎない。
遠慮なく動く女の手に、男の息遣いは荒くなる。
「はー。ニニャちゃんねー。ニニャちゃんかー」
「く、クレマンティーヌさん?」
なぜニニャの名前を出すのだろうかと、いぶかしげに後ろを見ようとするが。
「……まーいっかー」
「あいたっ!」
ばちりとけっこうな強さで尻を打たれてしまう。
「たーまーにーはー……外じゃなくてベッドでしなーい?」
ゆらゆらと身を揺らすクレマンティーヌ。
背に当たる肢体がくねり、擦りつけられる。
まだ握られたままのルクルットは、さらに反応してしまう。
「は、はい」
今一つ経緯がわからないまま、ルクルットは己にあてがわれた小屋へと彼女を案内した。
実のところ、彼の寝床に女が来るのは……いや、そもそもこの二人がベッドを共にすること自体、これが初めてなのだった。
少し後。
つまり事後。
跳ね上げ窓から差し込む星明かりが、二つの裸体を照らす。
クレマンティーヌは外を見るでもなく……ぼんやりと天井を眺めている。
「ど、どうしたんですか、クレマンティーヌさん。らしくないっすよ」
「……らしくないかー」
ごろんと横向きになって、声をかけたルクレットを見てくる。
じっと正面から、至近距離で見つめ合う。
「ほ、ホントにどうしたんです」
どぎまぎしながら、ルクルットは再度問う。
さんざん関係を結びながら……こんなふうにじっと顔を見つめ合った記憶はない。
最中や事前なら、こんな距離もしただろうが。
事後、クレマンティーヌはさっさと立ち去ってしまう。
余裕をもって向かい合った記憶など……思えばなかった。
「……アンタにとって、あたしってどーんな風に見えてるワケ? あたしらしくーって、どうしてたらいいのかなー?」
「い、いやそれは……」
ルクルット視点では、踏みつけてきたり、跨ってきたり、寸止めを繰り返してきたりするのが、いつものクレマンティーヌだが。さすがに空気は読む。そんな言葉を求めているわけじゃないと、わかる。
「あたしも、いろいろイヤーな過去があってさー。殺したり拷問したりするのが、だーい好きで愛してたんだよねー」
「ま、まあニニャも世話になったから……それは知ってるっすよ」
ルクルットは鈍い男ではない。
言葉の隅……“愛してた”という過去形を聞き逃さない。
「そーそー。ニニャちゃんといっしょだねー。いろーんな遺恨の相手や、関係ない人を痛めつけてさー。ぐちゃぐちゃにして、命乞いさせて、ぶっ殺して……鬱憤晴らしと八つ当たりを繰り返してたんだー」
「王国貴族にしたみたいに……ですか」
そーなんだけどねー、と疲れた笑顔になる。
少なくともルクルットは、見たことのない表情。
「……飽きた」
「飽きたって……」
軽いノリで皮肉を言おうとしても、正面から見つめてくる彼女の貌は真剣。
「ちょーっと前まで、さ。アンタだって踏みつけてる時は、踏み潰してやろうか本気で迷ってたし。ヤってる時だって、そのまま腕とか切り飛ばしたらどんな顔するかなーってけっこう考えてたんだよねー」
「そ、そーなんすか」
「そーなんだよー?」
さすがに声が震えるし。
いろいろ縮み上がる。
軽く答えられても、ぜんぜん安心できない。
「い、今はそうじゃないってことっすよね」
真顔で見つめられる。
数呼吸。
いやもっと過ぎたろうか。
「……そうだよ」
ようやく出た答えは、なぜか年下の……いや、子供のような震えた声だった。
ぽつり、ぽつりと言葉が続く。
「漆黒聖典のクソ隊長とクソ兄貴が、あたしのずーっと殺したかったヤツでさ。あいつら、あの時に……ミンチになってただろ?」
「見た時すげー喜んだのに、すぐいろいろどうでもよくなって……あたしがあたしじゃなくなったみたいで……気持ち悪ぃ……何もかも、なくなったみたいな感じ」
「王国貴族でもう一生分、拷問しまくったからかなぁ。なんか、痛めつけたり殺したりしたいって思えなくなって。したいことが全部からっぽになって」
「モモンガちゃんも、すぐ引きこもって話できねーし、撫でてくれねーし……あたし自身があたしをわからなくなったら、もう……あたしってどこにもいないみたいじゃねーか」
「なんか今、自分のふりをしてる人形になってるみたいな……アンデッドだから当たり前だけど、ただの動いてる死体みたいな。自分で自分が感じられない……今日だって、あのクソ山羊、ホントはどうでもよかったんだ……ただ、ああ言っといた方が、あたしらしいなって……あたしらしいって何なんだ?」
「あたしも、世界も、今までした何もかもも、なんかスカスカの穴だらけになって。お前だけ、なんか勝手に寄って来るからこうしてるけど……ぜーんぜん、埋まらなくてさ……寝ないからわかんねーけど、寝たらそのまま消えてなくなりそうっていうか……なくなりたいっていうか……」
涙は出ない。
アンデッドだからではなく。
ただ、からっぽなだけだから。
からっぽなことがつらくても。
からっぽだから、何も出てこない。
しかし、彼女からは確かに何かが流れでていて。
彼女の存在感は、かつてなく薄く。
儚い。
ルクルットが眠れば……目を醒ました時にはこの世から消えていそうにすら、見える。
「クレマンティーヌさん」
あふれ出す言葉が途切れた時。
ルクルットは、横たわったままの彼女の上にのしかかっていた。
クレマンティーヌなら、身体能力だけで容易に、払いのけられるだろう。
だが、投げやりな視線を向けるだけで。
彼女は何もしない。
する気力がないのか。
「俺が……!」
言葉を続けようとして、やめる。
理屈で埋めるべきじゃないと思ったから。
だからただ、ルクルットは……相手の名を何度も呼び。
ひたすら全身全霊で……彼女を求めてみせた。
翌朝。
ニグンたちは既に他の準備に奔走している。
出発するメンバーを見送るのは、当人らと縁のある村人のみ。
そんな中で彼らは出発するのだが……。
「お、おい大丈夫かルクルット」
「だ、大丈夫だ、問題ない」
虚ろな目と、小鹿のような足取りで現れた仲間へ、ペテルは心配げな声をかける。
どう見ても大丈夫ではない。
「大事な出発前に何してたんですか」
「一行の目である
ニニャとアルシェが咎める視線を向けるが。
当人は気づいてすらいない。
言葉も聞こえていないようだ。
代わりに。
「あー。まあ途中までイミーナちゃんがいるしねー。このバカがダウンしたら背負ってくなりするから。ほっといていーよ。回復も使わなくていいから。行くよー」
クレマンティーヌが、ひらひらと手を振って二人を鎮める。
「そういうことなら、それがしがs――痛いでござる!」
背負って行こうと言いかけた魔獣が足を踏まれた。
レベル差があれば足を踏むだけでもダメージなのだろう。
もう一人の野伏たるイミーナはと言えば、軽く肩をすくめるのみ。
ヘッケランとロバーデイクも小言を言いかけたが……イミーナの視線を追って黙る。
ふらつくルクルットの手が、そっとクレマンティーヌとつながれているのが見えたのだ。
こうして、総勢9人と1頭と1匹からなる調査部隊がカルネ村を出発した。
クレマンさんのメンタルケアを挟める機会がここしかなく、閑話扱いすると淡々と出発して調査するだけになるので、唐突なクレマン&ルクルット回。
更新空く前のモモンガ&アルベド回と同じような、唐突に重いノリになってすみません。
一応、クレマンさんが兄死亡からちょっとメンタル凹む流れは考えてて……どっかに入れようと思ってたんですが。
出発後だと、ルクルットと二人になる機会がないんですよね!
なのでこの詰め詰めな日程の中で起きることになり。
ルクルットの自己管理評価が、フォーサイトでも漆黒の剣でも下がりました。
その代わり、クレマンさんをほぼ攻略済。
今回のルクルットは気力体力の限界まで、ひたすらクレマンさんを夜通し求めて見せた感じ。
言葉で何言っても重みがないと思い、不器用に心の隙間を埋めようとがんばりました。
クレマンさんは、モモンガ以外には快楽堕ちとかしないので、ルクルットとはかなり健全な恋愛です。
この状況を知れば、アルベドさんも応援してくれるでしょう。
というか目下この話でマトモな恋愛してるの、こいつら以外じゃヘッケラン&イミーナくらいでは……。
なお、クレマンさんは拷問や殺人に忌避感持ったわけじゃないので、やる時はふつーにします。
特に好きなことでもなくなった、ってだけ。