なんだよ王国帰属って……。
今までいろんな誤字脱字を教えていただいては、こっそり直してきましたが、これはひどい……。
いつも誤字脱字の指摘くださる皆さん、ありがとうございます!
今回、リザードマンのネームドがやたら出てきますが、さらっと適当に読んでいただいてかまいません。
あと、原作読み返してたら、後半の巻では種族名とかは漢字にルビ振った以後はカタカナになってたので、そちらに準拠し始めます。というか、逐一種族とか漢字+ルビで書くのめんどくさいし。呪文とかは一回ルビした後は漢字。
とはいえ絶対厳守もできないと思うので、ゆるい法則と思ってください。
トブの大森林。
人類が未だ全てを知らぬ秘境。
数多の亜人と怪物がひしめく魔境。
どれほど実力をつけようとも種族の実力差は大きい。
数日前は“
熟練の冒険者とて本来ならば警戒し、休憩を挟みつつゆっくりと分け入るが当然。
かつての竜王討伐においても、冒険者らは一泊の野営を挟みつつ分け入ったのだ……が。
今では村と森の間に“破滅の竜王”進行による道もあり。
最短距離でサクサクと進む。
「〈
「〈
「承知でござる!」
復活した森で閉ざされた場所も、今の面々には障害と呼べない。
さらに、保護者として超逸脱級のアンデッドと魔獣。
襲撃するような愚かな怪物はいない。
「湖の水面が見えたでござる!」
「あと一歩だな。アルシェもニニャ君も休憩入れなくて大丈夫か?」
「問題ない」
「わたしも大丈夫です!」
村でパワーレベリングしてきた漆黒の剣も、プラチナ級どころかミスリル級と呼べる実力をつけつつある。
「おーい、そろそろ着くみたいだよー? 起きとくー?」
「ふぁっ!?」
もっとも、そのメンバーの一人たる野伏は、保護者の背中で眠っていたが。
強く咎める必要もないほど、順調な行程であった。
朝に出発。
昼食休憩を挟み。
少し日が傾いたところで到着。
まだまだ空は明るい。
元より“破滅の竜王”討伐を乞い願ったのは
女神の使いが来たとなれば、総員にて歓待するが道理。
昼過ぎの到着から夕暮れには……諸部族が集まり、使いを迎えた。
交渉役は、森の賢王とイミーナ。
クレマンティーヌも横にいるが、主な交渉は一人と一匹に任されている。人間でない方が、亜人との仲介役として安心してもらえるだろうとの配慮だ。ロバーデイクでは宗教家として面倒が起きるかもしれず。魔術師の二人も交渉は得意でない。
イミーナは、ワーカーとしての経験もあり、交渉もそれなりに慣れている。世間知らずで交渉に慣れぬ森の賢王への補佐役でもあった。
「――というわけで、モモンガ殿は村に来てくれる者を求めているでござるよ」
「将来的には、さらに外へ交流に出てくれる人材も求めているわ。できれば若くて森の外に関心を持っている人がいいんだけど」
対するはリザードマン五大部族の長。
「おお! 俺は行くぞ! まだまだ強くなりてぇからな!」
「森と大湿地を救ってくださった方の望みとあらば、我ら総員で向かうも視野に入れるが……」
「十分な水場があるなら、子供を含め数百人単位の移民を提案するわ」
「ところで亜人全般となると北部のトードマンにも声をかけるのですかね?」
「あれら、かわく……にがて。りくち、すすめない」
胸襟を開いているとの証か。
五人の族長は一行の前で、堂々と内輪の話を晒す。
事前の打ち合わせもない会話だ。それぞれ内心の打算はあれど、内部の問題や他種族については正直に明かす。
「ふーむ。トードマンとはそれがしも見たことがない種族でござる。リザードマンなら」
食べたこともあるでござるが、と言いかける魔獣の口をふさぎつつ。
イミーナが言葉をつなぐ。
「私もレンジャーとして、この森の中で見た記憶はないわ。でも、先日の“破滅の竜王”討伐の時は、あなた達リザードマンに交じってなかった?」
チラと背後の仲間に目を向けたが、他の者は首を横に振っている。
漆黒の剣は湖の傍まで来ていない。フォーサイトの他の面々とて、リザードマンの詳細まで見ていなかったのだろう。
ここでは、イミーナしか見ていない種族というわけだ。
「かつて我らとトードマンはたびたび衝突し、険悪な状態にあった。あの災いでは、どちらも干上がった住まいから這い上がり絶望していたがな」
「とーどまん、おおぜい、みずににげた……みず、かれた。ぎせい、おおい」
「彼らは水中活動が得意だけど、乾燥した場所で一定期間を過ごすだけで死んでしまうわ」
「女神様の村にも……トードマンは自らの足で行き来はできないでしょうね」
リザードマン族長側の言葉に嘘はない。
しかし、これは明らかな売り込みであり。
己たちこそが湖の主であると、女神から認められんとの思惑が透けて見える。
帝都でも熟練のワーカーだったフォーサイトや、元漆黒聖典のクレマンティーヌからすれば、微笑ましいレベルの狡猾さだ。不誠実を咎めるほどのものでもない。
むしろ、十分に正直に教えてくれている。
「そう。じゃあ、女神さまの元に……まずは代表者格で何人か来てもらえる? もちろん、全員じゃなくていいんだけど」
「湖というナワバリは維持してほしいでござるよ!」
リザードマンと遺恨があり、行き来にも問題あるなら、トードマンを無理に誘う必要はない。なるべく早く他種族の代表格を村へ……それが、ニグンの指令だ。
こちらの焦りを悟らせなければ、それでいい。
「なら、俺が行くぜ! 元は旅人だ。文句ねぇだろ?」
異様に大きな片腕を持つ巨漢の族長ゼンベルが名乗り出る。
「旅人?」
「この大湿地を出て行った者ですね。ゼンベルはあの遠き山に住む
細身の族長スーキュが説明した。
アゼルリシア山脈探索を任務とするクレマンティーヌが反応する。
「えっ? ちょ、ちょーっと待って。おにーさん、ドワーフのところに行ったんだー?」
「おう! 行ってきたぜ! あの岩だらけの山をひたすら登って――」
ゼンベルが胸を張り語り始めるが。
瞬時に彼の背後に回り込み、肩をがっちりと抱きかかえるクレマンティーヌ。
「いやー。それも含めてちょっと詳しーく、教えてほしいんだよねー……ていうか、おねーさんと一緒に山まで来てほしいんだー」
「そうね。申し訳ないけどゼンベルさんには、今回もっと大切な仕事をお願いしなければならなくなったわ」
「な、なにぃ!?」
思惑を外され、戸惑うのも当然か。
クレマンティーヌはすさまじい強者のオーラを隠さず、にやにやと上機嫌に笑っているが。だが、彼女をよく知らないリザードマンにしてみれば。
「ま、待ってくれ。そいつは誰にだってそういいう口のきき方なんだ!」
「女神様とその使いを愚弄する意図はありません。どうかお許しください」
「そんなでも、我々の中では最強格の戦士でしてね。どうしてもということなら……」
「すきゅー、だめ。ここは、いちばんとしよりが……」
パニックになりかける。
「いやいやいや。別に殺さないって。ほんとにお仕事お願いしたいんだってば」
「ええ。私たちはドワーフにも会いに行くべく、この人数で来てるの」
「村に向かう者は拙者が護衛するでござるよ!」
クレマンティーヌが慌てて、ゼンベルから少し距離を取る。
イミーナと賢王も、フォローした。
「森林と山脈、様々な種族で交流できればって話なの」
「そーそー。だから、モモンガ様がドワーフに会いたがってるんだよー」
「む? 会いたがってるのはニグ――痛いでござる!」
クレマンティーヌ率いる山脈組には思わぬ奇貨。
そして、イミーナとしても助かる。
ゼンベルという族長は、他の四人に比べてあまり理性的なタイプに見えない。彼らには教えていないが……連れていくリザードマンの一人は、公的には種族全体の代表と称されるのだ。
そんなわけで、どうにか誤解を解き。
ゼンベルにクレマンティーヌの部隊について行くよう、納得させたのだった。
そうして。
クレマンティーヌは、ゼンベルと話し込み始めている。
イミーナと賢王も、改めて族長らと細部を話し合う。
「他にも元旅人で、さほど年配でない人がいればお願いしたいんだけど……」
「体力に自信がなければ、それがしの背に乗るといいでござる!」
「ならば、俺の弟がいい。あいつなら、モモンガ様にも無礼はないだろう」
いかにも古強者といった様子の族長シャースーリューが、推した。
「ザリュースですね。先日の避難誘導も見事でしたし、若く強い」
「ならば決まりだな。あいつの見識を広げれば、俺たちの発展にもつながると信じている」
「わ、私も! 私も外に興味があるわ!」
と、慌ててアルビノの族長クルシュが口を挟む。
話の流れや空気を壊す、唐突な言葉だ。
会話していた面々が、クルシュに目を向ける。
沈黙。
己の発言にびっくりしたように、彼女は口を空けたまま硬直し。
他の族長はそんなクルシュを見て、どこか微笑ましげな様子。
「彼女は、俺たちの中じゃ最高の祭司だ。役に立つだろう」
「族長を二人出せば、面目もたちますね」
「たびびと、ほかも、さがす。わかもの、むかわせる」
どこか、のどかな空気だ。
女神の使いに対する緊張感が、ほぐれたようにも見える。
身内特有のそんな様子に、イミーナと賢王は首をかしげた。
「随分と部族同士で仲がいいのね。もうちょっと、誰が行くか揉めるかと思ったんだけど」
「それがしと命のやりとりをした人間や亜人には、見苦しく仲間割れをする者も少なくなかったでござる。彼らを思えば、モモンガ殿の見込まれた種族だけあってリザードマンは実に見事!
「いやぁ、まあ……な」
「そう、ね」
きまり悪げに、シャースーリューが尾を軽く揺らし、目を逸らした。
「あの“破滅の竜王”の件がなければ、我々の間に戦争が起きても、おかしくありませんでしたね」
スーキュが、肩をすくめた。
黙っていてもわかること。
後で知られる方が問題だ。
「どういうことでござる!?」
感受性豊かな魔獣が驚き、問う。
ただ一匹限りの強力な個体として生きて来た彼女には、集団性というものがわからない。強者として必要なものは力づくで手に入れてくればいいだけ。これだけ多くの仲間がいながら、仲間同士で殺し合う亜人や人間の行動は理解不能である。
「なかまのかず、ふえてた……けど、なかまのかず、へった」
「この大湿地は多くの恵みを与えてくれる。でも、養える数には限度があるわ。そして、私たちの数は限度に達しようとしていたの」
「俺たちの数に対して、魚が足りなくなっちまったんだな」
「むぅ。繁殖のしすぎとは……贅沢な悩みでござるなー」
森の賢王にとってみれば、呆れるしかない。
クロマルと交尾を重ねてはいるものの、同種でない以上難しかろうと……彼女はある種の諦観を抱いている。
「そ、そうね」
イミーナが気まずそうに頷いた。
カルネ村に来てからほぼ毎晩、ヘッケランとしている。
それに、
「とはいえ、生き物として子孫を残さなくてはいけないわ……」
同じく妻帯者として気まずそうにする族長らの中、既に羞恥を味わったクルシュが突如呪文を唱える。
有害な呪文ではなく、占術系。
それも背を向け、己の同族に対して使って見せる。
「〈
精密に見分けられる生命探知呪文は、妊娠状態を明らかにする。
周りを遠巻きにするリザードマンを次々と指さし示す。
白い背を向け、己の背負う同族の命を、示す。
「――あれら全てが身ごもっているメスなの。あれほどの危機があったからこそ、子を残そうとする者は増えるわ」
私もいきなり口説かれてるし……とは、口に出さないクルシュ。
女神の救いがなければ、ろうそくの最後の輝きの如く、あの日会ったばかりのザリュースと情熱的に交尾に及んでいた可能性はかなり高い。
どさくさにまぎれたような口説きだったが。
思い出せば、いろいろと熱くなるのだ。
そんな考えにとりつかれたせいか。
くるりと振り向き、リザードマンの繁殖状況を説こうとしながら。
本来は解くべき呪文を、発動させたままだった。
「だから私だって、近くオスを迎えて子を為さなければと……あら?」
まだ沈黙の続く面々に生命探知を使ってしまった。
そして、気づく。
クルシュは、気づく。
リザードマンにおいて、祭司とは医師でもあるのだから当然に。
説教じみた言葉を紡ごうとしていたが。
笑顔になり、一人と一匹を見つめた。
イミーナと魔獣は、首をかしげる。
「あんなことを言ってたけどイミーナ殿、森の賢王殿……お二人も孕んでるのね」
「「は?」」
「まだまだ宿ったばかりの子かしら。今は大丈夫だけど、体調には気をつけ――」
「「はあああああああああ!?」」
突然の二人の大絶叫。
カルネ村側、リザードマンを問わず何事かと目が向き。
駆けつける者たちとている。
だが、それも次の瞬間。
大きな歓声となって、宴をなお盛大なものに変えるのだった。
アニメでけっこういいキャラしてた、モブ族長ことスーキュ(小柄狩人)とキュクー(骨鎧ひらがな)が好きなもんで、リザードマンの族長会話、えらい人数になってしまいました。
ザリュースが族長じゃないので参加してません。
たぶん画面外でヘッケランやペテルと話してるんでしょう。
ザイトルクワエ(破滅の竜王)襲撃によって、リザードマンはコキュートスに襲われた時よりなにげに死者出してます。
湖が枯れてましたもんね。
トードマンはもっと被害出てます。
おかげで部族が集まって助け合って生きてる被災状態。
災害をもたらしたザイトルクワエを、モモンガがなんとかしてくれたし、湖まで復活させてくれたので頭が上がりません。ゼンベルとかも含め、ただの使いである一行にも丁寧に接してます。