「仮面ライダーギンガ」へと変身し、元に戻れなくなってしまった新崎新。偶然知り合った変化形ライダー・裁鬼に変身する鬼島とともに、事件の場所から逃走。
追手もなく、落ち着いた時には周囲は既に薄暗くなっていた。
「夢中で逃げてきましたけど……隣町まで来ちゃいましたね」
「どのみちあの場所に居れば私たちは逮捕されてしまう。あそこでは逃げるしかなかった」
「しかし、もう家にも戻れないでしょうし……それよりもこの変身を解かないと」
すっかり日も暮れてきた。誰もいない公園の隅で、男二人、試行錯誤。しかし、ベルトも外せず、ボディアーマーも壊せず、一向に変身は解けない。
「どうしたもんかな」
「シ! 誰か来るみたいです」
二人は物音を聞き、とっさに身を隠す。懐中電灯の光が周囲を照らす。
現れた人影が唐突に声を上げ始める。
「ここにいるのはわかってんですよー。出てきなさいよー、助けてあげるからさあー」
若い女の声だ。何とも間の抜けた様子だ。しかし、このまま声を上げられてはたまらない。
おそるおそる、まずは鬼島が会って応対する。
「お前さん、何を知っている。何者だ」
女は軽快な調子で返答。
「質問はひとつづつ! まずはわたしの事を教えてあげましょう。わたしは、
彼女は高らかに宣言し、ギンガの姿となっている新崎に向けビシと指をさした。
「そして、貴方にはわたしの手伝いをしてもらいます!」
「わたしが全てを話せば、貴方たちは逃亡生活を余儀なくされる。これは心優しいわたしからの提案ですよ? 救ってあげようというんです、わたしの言うことを聞いてくれればね」
「何をさせようというんだ」
「わたしの目的のために、邪魔なものを排除してもらいます」
「物騒だな……目的って?」
伊武はニヤリと口角を上げながら話し出す。
「わたしの目的は最強のライダーシステムを作ることです! そのための理論はもう完成しているのですが……上層部にコストが高すぎると却下されてしまいました! だから、貴方たちに目を付けたんです。貴方たちなら、上層部を黙らせる力が使えます」
「しかし、すでにこの仮面ライダーギンガという"力"があるんだが……君の発明は、それを超えるのか」
「わかりません。でも、わたしは自分で作りたい。それが発明家というものです! さあ、あのビルにビームを撃って!」
彼女は何でもないことかのようにテロ行為を勧めてくる。
「馬鹿! そんなことするわけないだろ!」
「ええー。じゃあ、警察に話しちゃいますよ」
「それは困る……」
そこに鬼島が口をはさむ。
「その力なら警察も敵ではないと思うがな……発明家のアンタならこの力のことも何かわからんのか?」
「知りませんよ、そんなこと。しかし、この力が世間に知れ渡ったら、社会はきっと大混乱☆しちゃうだろうな~あ、そうだ」
伊武はおもむろにタブレット端末を取り出す。
「今ここにぃ、今日の事件現場の監視カメラ映像があります。仮面ライダーギンガの凄まじい活躍もばっちり撮れてますよ。マスコミには情報規制が敷かれてるようですが、ハッキングで頂きました。これをネットの海に放出しちゃいましょう!」
「やめろ! そんなことをしたら社会が混乱するといったのは君だろう!」
「わたしは自分の研究ができればそれでいいので。さあ、どうします? わたしに協力するか、社会を混乱に陥れるか!」
彼女は既に端末に手をかけて、新崎を脅してくる。
(くっ……このままでは日本はとんでもないことになる。制御できない力に怯えるものだけでなく、それに乗じて暴徒化するもの、俺のこの力を利用しようとするものが出てくる)
「どうするんだ、新崎」
「はやく決めてくださいよ、仮面ライダーギンガさぁん」
(しかし、この常識のない発明家に協力したら、それ以上の惨劇が起こる)
「決めたよ。俺は、ここでお前を止める」
「ぽちっとな」
新崎が彼女に宣言した瞬間、仮面ライダーギンガの映像は全世界に向けて発信されてしまった。
「馬鹿だなあ。わたしに従ってくれれば悪いようにはしなかったのに」
「それよりも、お前をここで止めることが先決だ! 悪いが鬼島さん、下がっててください」
ギンガの体に力を込める。周囲を威圧感が覆う。
だが、伊武は動じない。
「仮面ライダーギンガの力は本物だ。でもね、攻撃はあてないと意味が無いんだよ」
そう言うと彼女は近くに停めていたらしきバイクに乗る。
「その力で私を攻撃して、どうするつもりだい? わたしを殺す覚悟が君には無いだろう」
伊武はバイクで走り出した。それをギンガが追撃すれば、バイクは大破、伊武も無事では済まないだろう。新崎はその力を向けることができなかった。
「まあ、奴一人ならテロなんてできやしない。とりあえず、今日の寝床を探そう」
鬼島が新崎の肩に手を置き、励ました。
バイクを走らせながら伊武は自分の隠れ家に向かう。その表情には苛立ちが見える。
「チッ……せっかくいい駒が見つかったと思ったのに、使えねー奴! あんな桁外れの強さじゃ、殴って言うこと聞かせられねーし……わたし一人であのビルぶっ壊すしかねーな!」
そう愚痴る彼女のバイクには、荷台にトランク。彼女が所属していた組織で作り上げた、発明の試作品であった。
ネットの海を、その情報は駆け抜ける。
「なんだこれw」「映画の撮影?」「加工でしょ」
圧倒的な力でライダーとなった強盗を倒す仮面ライダーギンガの姿を、多くの人は目にした。
「スポーツのライダーバトル以外で変身できないんじゃないの?」「これは危険だ! ライダーシステムは廃止すべき!」「正義のヒーローキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
そしてここにも、彼の雄姿を見たものがいた。
「凄い……これはライダーなんかじゃない、神様だ!」
青年は画面の奥のギンガを狂信的な眼で見つめる。
「僕もこんな風になりたいなぁ……そうと決まれば、早速準備しなきゃ」
その日の夜、
一人の男が、同じとき、同じ映像を見ていた。彼の元に帰ってくるはずだった部下は、未だ帰ってきていない。なぜなら、画面の奥の仮面ライダーギンガに倒されたからだ。男は強盗団のリーダーであった。
仲間を迎えにいくための道はギンガの衝撃波で封鎖され、計画は失敗。三人の仲間のうち一人は行方不明、二人は警察に捉えられたという。
「このライダー……生かしておけねぇ」
男は立ち上がり、その屈強な身体を乱暴に振り回す。卓上の小物が全て床に散らばる。
「三人とも待ってろよ、すぐに脱獄させてやるからな……あのライダーへの仕返しはその後だ」
新崎と鬼島の家はすでに警察の手が回っており、近づける状況ではなかった。
鬼島が偽名で取った安ホテルに、ギンガはこっそり窓から入る。
「さて、これからどうするか、だ」
「俺にも自分の体に何が起きてるのかわからないってのに」
「だな……その力を悪用したわけでもないのに警察に追われるのもやり切れねえぜ」
戦闘用以外のフィールドで変身した二人はまず逮捕されるだろう。プロライダーの資格も失う。しかし、新崎の体は変身を解除することができない未知の症状に悩まされている。まずこれを解決するのが最善と二人は判断した。
鬼島はスマホのネットで調べてみるが、似たような事例は載っていない。そもそもとしてライダーのシステムの開発や人間が変化型ライダーになれるようになり始めたのは数年前なのだ。まだまだ事例が少ない。
「そうだ!」
新崎は思いついたとばかりに、スマートフォンを弄り始める。変身した体では指紋が認識されない。
「鬼島さん、検索!」
「何をだ?」
「配信の方法!」
「は?」
「俺が、この姿で配信する! そしたら、人目を集められる。誤解を解くために説明をするんだ、ついでにこの症状を知ってる人を探す」
バカか、と鬼島は言いかけた。が、確かにネット社会の今、社会に情報を発信するには最も手早い方法だ。
「しゃあねえ、やってみるか」
夜は更ける……そして、次の朝がやってくる。
テロを決行する発明家。
殺人を犯した少年。
報復を決意した泥棒。
そして、配信を決心した仮面ライダーギンガ。
激突の日は近い。