ゼクスは離れて久しいのですが、久々に平和なゼクスがアプリで見られて嬉しく思います。
そして始まった本作品。
COBベースに、オリジナル展開を盛り込んであります。
お楽しみいただければ幸いです。
世界各国に、数多の未来に繋がる『ブラックポイント』と呼ばれる異世界への扉が開いた。
現代の人間に対し攻撃を仕掛けた正体不明の生物たち。『未来の可能性』の存在を、人々は『ゼクス』と呼んだ。
ゼクスに対抗するにはゼクスの力を借りるしかない。そうした資質を持った人間を『ゼクス使い』または『プレイヤー』と呼び、現代を守るために戦った。
赤、青、緑、白、黒――様々な発展を遂げた五色の未来の力を借り、五色の未来と戦った。
各世界の頂点――様々な思惑が裏で蠢くなか、五色の世界は一時的な休戦協定を結ぶ。
ブラックポイントはそのままでありながら、ゼクスたちはその侵略や戦争を一時的ではあるものの止めたのである。
現代には平和が訪れた。それが例え一時のものであっても。単なる夢幻だったとしても。
□
「やっばー! 遅刻だぁ!」
某県に新設された特殊な高校、九頭竜学園。
チャイムを遠くに聴きながら、綺麗な薄緑色のツインテールを靡かせ少女が走る。
「チサト、またおこられちゃうねー」
その後ろを、全く息も荒げずについてくる少女がまた一人。
先頭を走る少女に良く似た緑髪だが、制服は特に着ていない。たんぽぽの髪飾りが特徴的な少女はあたかも他人事のように、自身の前方を走る少女に語った。
「ダンデライオンがアラーム止めちゃうからでしょー!? もう、サイアク!」
ひたすらに走り続ける少女は息も絶え絶えながら、反論のために叫ぶ。
九頭竜学園は特殊な高校。それは、人間とゼクスとの共学であるということ。
人間の少女、佐伯千郷とそのパートナーゼクス『ダンデライオン』もまた、お互いが生徒だ。
緑の世界からやってきた『リーファー』と呼ばれる種族のゼクスである彼女たちは、基本的にはのんびり屋である。そんなリーファーであるダンデライオンからすれば、千郷が怒られるのも他人事に過ぎなかった。
「ねー、チサト」
ダンデライオンは全力ダッシュの千郷にぴったりとついていきながら問う。
「今日は、会えるかな?」
千郷の足が唐突にぴたりと止まった。
ゼクスとは本来、人類に簡単に付き従うものではない。何せ元を正せば侵略者なのだ、本来ならば人間など簡単に殺されてしまう。
ダンデライオンがそういった気質ではないにしろ、彼女には千郷というマスターを受け入れる代わりに交換条件を提示していた。
「元のマスターの話でしょ。手掛かり、まだ見つからないんだもん。仕方ないじゃない」
千郷は斜を向いて、背後のダンデライオンへ語りかけた。
ダンデライオンからの条件は『かつて共に戦ったマスターを捜すこと』――彼女は完全に野良ゼクスという訳ではなかった。
出会いの話になれば長くなるが、九頭竜学園創立前にゼクスに襲われていたダンデライオンを助けた『カードデバイス持ち』……それが、千郷だった。
ゼクスとは完全無敵の侵略者のようで、そうではない。
ブラックポイントから離れ『リソース』と呼ばれるエネルギーが切れれば、現代で姿を保つ事は出来ない。
それは強力なゼクスであればあるほど顕著で、力があればあるほどブラックポイントからは離れられなくなる。
ゼクス使いの持つカードデバイスには、そのリソースを供給する力がある。また、『キャプチャー』することで、捕獲やパートナーの隠蔽、持ち運びも可能になる。
とはいったところで、ゼクスが人類を攻撃しなくなった現在において言えば、専らリソース供給装置になってしまっているが。
「でも、見つかるといいね。ダンデライオンのパートナーさん」
再び歩き出した千郷は言う。
横に並んだダンデライオンは、彼女の言葉に頷いてから満面の笑顔を浮かべる。
人類も皆、笑っていた方がいい。それが、ダンデライオンというゼクスの考え方だった。
□
「あー、疲れた」
風紀委員に捕まることもなく、千郷は教室の机でうなだれた。
ダンデライオンはその横の席で、花飾りを編んでいる。
ホームルームも終わり、人とゼクスの入り乱れる不思議な空間も千郷には見慣れた光景だった。
彼女のクラスのゼクスは他クラスに比べれば比較的少ないが、それでも不思議な光景に変わりはない。
「人間って大変だねー!」
席の近いゼクス、白の世界の『エンジェル』であるマルトーが後ろから千郷に話し掛ける。
彼女にもパートナーはいるが、別なクラスになってしまった。カードデバイスのリソース供給範囲は比較的広いため、同じ敷地内位であれば問題なく存在を保てる。
「うるさい……もう、ダンデライオンがアラーム止めるから……」
「だってうるさいんだもん!」
「だからって粉々にすることないでしょ!? リーファーって、そんなのばっかりなの!?」
「いや、無い無い」マルトーがあきれ半分に手を振りながら否定する。
「それ、前の人間から教わった戦い方なんでしょ? 封印してたのに」
マルトーがダンデライオンへちらりと目を向ける。
緑色のドレスには、後から突貫で取り付けたような短刀用の鞘が下がっている。
本来のリーファーには、到底必要の無いもの。しかし、ダンデライオンには異例として備わっていた。
「ビックリしちゃうとこんなの忘れちゃうもん」
花飾りを編む手を止めて、ダンデライオンは腰に下がる短刀の柄をいじる。
あまり手に馴染んでいる様子ではない。
「とはいっても、他のリーファーからも言われてるんじゃないの?」
「むう……」
千郷の言葉に、不機嫌に口を尖らせたダンデライオン。
ダンデライオンの機嫌とは裏腹に、作りかけの花飾りが開け放たれていた窓から入る風を受け、どこか機嫌良く揺らされていた。
□
九頭竜学園には寮があるが、ゼクスとの共学であるがゆえに極力の自宅通学が言い渡されている。
千郷たちがまさにそれで、毎日校門前で妹を待つのが日課だった。
「お姉ちゃん、おまたせ」
控えめな足取りで近寄ってきた、内はねセミロングヘアの少女。良く似た緑色の髪に、傍に佇む少女もまたダンデライオンに似た緑色の髪。
しかしダンデライオンと決定的に違うのは、背中に背負った和弓と少々露出のある和服。
「ごめんなさい、少し未来の部活が遅くなって」
和弓の少女が礼儀正しくぺこりと頭を下げる。
佐伯
何の悪戯か、未来もまたゼクス使いだった。彼女に従うのはダンデライオンと同じ、緑の世界から来た『ホウライ』という種族のゼクス、
蒲公英は元の世界での友人を捜しつつ、また元のマスターを捜しているところを未来に発見された。
未だ少なからず蔓延る危険なゼクスに襲われた未来を守るために戦い、だが同時にリソース不足から危うく死に至るところだったのを、未来が助けていた。
その偶然性から、蒲公英とダンデライオンが顔を合わせた時はお互いに目を丸くしていたが、何より驚いたのは佐伯姉妹だっただろう。
全く同じ目的で動く同じ世界のゼクスがいるとは、勿論考えてもいなかったわけで。
「まあ、帰ろっか」
「うん」
姉妹はそれぞれの相棒を連れ、自宅に向かった。
また明日には平和に一日が過ぎ去っていく。そう考えていた。
ダンデライオンも蒲公英も、いつかは元のパートナーに会えると信じて揺らがない。
その夜、佐伯姉妹は自宅で何の気なしにニュースを見ていた。
なんてことはない夕方の報道番組。いつも、他人事のように受け流して終わる。
二人の両親は健在で、ゼクスであるダンデライオンと蒲公英の存在に最初こそ否定的だったものの、主に蒲公英の積極的な働きかけにより受け入れられている。
料理の手伝いから、父親の晩酌まで。母親には『必要ない』と言われたが、蒲公英は特に気にせず酒の席に付き合っている。
「ゼクス関連の死亡ニュースが減ったのはいいことだけどさぁ、やっぱまだ少し世の中暗いよね」
千郷が頬杖ついて眺めるテレビ画面には、また人が死んだというニュースが流れる。
ゼクスのニュースは減っているが、まだまだ元に戻るような状況ではない。
「未来、これ食べるー?」
居間で自習する未来の傍で、千郷はひらひらとポテトチップスを揺らす。
顔をあげる妹へ、ひょいとポテトチップスをくわえさせた。
「ありがと、お姉ちゃん」
「いえいえー」
袋から取ったチップスをさらに一枚。
寄ってきたダンデライオンに一枚、遠慮する蒲公英には千郷から歩み寄ってくわえさせた。
平和な夜は過ぎていく。ゼクスという異世界の住人と過ごす夜は幾度目か。
また明日。おやすみなさい。
「ダンデライオン、お願いだから次の目覚ましは壊さないでよ!」
「しずかだったらこわさないよ!」
「静かだったら意味ないんだってーの!」
第一話、如何だったでしょうか?
九頭竜学園はリルフィの『部屋に戻って~』からの台詞から、寮があるのではないかと推測していますが本作品では自宅通学推奨になっています。
CRベースだと男性キャラを出しづらいので、男女共学らしいCOBをベースにしました。
いきなり特大級のネタバレになっている気もしますが、昔ならいざ知らず現環境からなら……問題ないですよね?
……もしかするとハーメルン歴そこそこ長い方は『徒手空拳ダンデライオン』に見覚えがあるかも?
はい、あの徒手空拳ダンデライオンです。
分からなくても問題ないように、改めて作中で説明はしていくのでご安心ください。
次回以降はゆっくり更新していきますので、よろしくお願いいたします!