九頭竜学園への登校中、まだ朝だというのに千郷の周囲は暗い死の雰囲気に包まれていた。
「また遅刻じゃない、コレ」
ダンデライオンと彼女の周囲を囲む異形。黒の世界の『トーチャーズ』と呼ばれる、拷問器具めいた人工生命体が不気味な音を鳴らす。
登校中、助けを求める声に近付いてみたらこの有り様だった。トーチャーズたちの向こうには、またもや黒の世界の『ノスフェラトゥ』の骸骨がいた。
「奥のガイコツさん! こいつは壊しちゃっていいのよね!?」
千郷が呼び掛けると、ダンデライオンも一度構える。ふと思い出したように腰の短刀を引き抜き、ぎこちなく構えを変えた。
「あー! 待って待って! 待ってください!」
ノスフェラトゥの骸骨は慌て食ったようにトーチャーズの前へ飛び出し、ダンデライオンとの間に割って入る。
「大変失礼致しました! あ、私こういった者でして……。どうぞ」
骸骨から千郷に手渡されたのは、意外にもごく一般的な名刺だった。特に材質が違ったり、罠だったりもしない。単なる紙の名刺である。
「こりゃどーも、ご丁寧に……」
さも当たり前のようにのせられて名刺を受けとる千郷。『デススミス商会営業担当スケルタルセールス』との名前がそこにはあった。
「デススミス商会……へー――って、構ってる暇ないっつーの! アンタがあのオモチャ退けないなら、ぶち壊して通るだけ!」
「いやいやいや! ちょっとお話だけでも聞いてみませんか!? 後悔はさせませんから!」
「ダンデライオン、やっちゃって!」
「あー! ちょっと待ってください!」
錯綜する攻撃命令。ダンデライオンもトーチャーズを前にしどろもどろだった。
スケルタルセールスが必死に千郷を制止するが、トーチャーズはそんな声も無視してダンデライオンへ襲い掛かる。
「ダンデライオン!」
千郷の声と共に、困り果てていたダンデライオンの目付きが一瞬にして戦闘モードに変わる。鋭い目付きで敵を睨み、右足を後ろへ引く。
重厚な攻撃に対し、ダンデライオンが姿をかき消すようにして動いた。
不意にざり、と地面の埃が擦れて鳴る。ダンデライオンはトーチャーズの背後に回り込み、極限まで腰を落とした姿勢から、短刀でトーチャーズを下から真上へ真っ直ぐに切り裂いてみせる。
「あーッ! ウチの新製品がーっ!」
スケルタルセールスの叫びがこだまして消える。
消えていくトーチャーズ。膝から崩れ落ちるスケルタルセールス。
ぼきりと音をたてて彼の足の骨が折れた。
「チサト、そのガイコツもやっつけるの?」
ひゅんと音を鳴らしながら短刀を逆手から順手に翻して持ち直すダンデライオン。とても使い慣れていないとは思えないほどに、短刀は彼女の手に馴染んでいた。
「なんかかわいそうだし……特に何もなさそうだし、ほっとこ」
「わかった。がっこー行こ、チサト」
あまりにも哀れなスケルタルセールスにも、千郷は特に同情はしない。
そもそも怪しいセールスはお断りだったし、何よりお陰でまた遅刻だ。むしろ攻撃しないだけ、感謝してほしいくらいだった。
短刀をしまうダンデライオンと共に、千郷は再び全速力で学園へと向かう。
□
「で、また遅刻というわけかおぬしは」
いよいよ教頭にまで呼び出される千郷。白髪を綺麗に切り揃えたようなロングヘアの女性は『ポラリス』という。
『アドミニストレータ』と呼ばれる、青の世界における重要人物の一人であり、九頭竜学園の教頭という立場にいる。
「まだ妾で済んでおるうちは良いが、あまり遅刻を重ねると色々響くじゃろう?」
ポラリスの語調はまだ優しい。諭すような雰囲気に、千郷もダンデライオンもただただ黙って話を聞くしかない。
「それとダンデライオン。おぬしの以前のパートナーじゃが……」
「しってるの!?」
「まあ、妾も知っている人間じゃからのう。こちらでも捜しておる、調べがついたら教えよう。行って良いぞ」
ダンデライオンの期待とは裏腹に、まだ詳細は不明という返答。
明らかに落ち込むダンデライオンの頭を撫でた千郷は、ポラリスに小さく頭を下げ職員室を出る。
「あんましょげないでよ。いっつも笑ってるアンタがそれじゃ、こっちの気まで滅入るから」
下を向いたままのダンデライオンに、千郷は彼女の頭をぽんぽんと優しく叩く。
「チサト……ユーマは、わたしをすてたのかな?」
日の差し込む廊下で、ダンデライオンは俯きつつ語る。
前パートナーの名前を聞くのは、千郷にとっても初めてではない。
「わかんないわよ。私はその人じゃないんだから」
だからこそ、訊かれても千郷には答えようがなかった。
教室に向かう足取りは重かったが、教室に着く頃にはダンデライオンもいつも通りに戻っていた。
□
「お姉ちゃん、また遅刻したんだ」
昼。九頭竜学園の学食にて、佐伯姉妹は仲良く昼食をとっていた。
双方の傍らには落ち着き払った蒲公英と正反対に視線を巡らせるダンデライオンがいる。
「まあね。でも、変なゼクスに襲われたんだから仕方ないじゃない」
「変なゼクス……?」
蒲公英が興味を示したのか、千郷へ訊ねた。
「スケルタルセールスだって。名刺くれたけど、ヤバそう」
ごそごそとポケットを漁って今朝受け取った名刺を見せる千郷。
未来と蒲公英が身を乗り出して名刺を見つめる。
「せ、セールスマンなのかな……」
「それ、絡むとろくなことにならないと思うわよ」
未来の話に割り込んだのは、綺麗な金髪の女性。傍らには青い髪の少女が控えていた。
「リゲル! いきなり割り込んだら、ビックリさせちゃうよ?」
「あづみちゃんにリゲルじゃん。良かったらどう?」
青い髪の少女と佐伯姉妹は友人同士。席をずれて場所を空けると、遠慮がちに少女は千郷の横に座る。
少女の名は各務原あづみ。金髪の女性はあづみのパートナーゼクス、青の世界の『バトルドレス』であるリゲルという。
「失礼するわ」
「リゲル? せめてあづみちゃんの正面にならない?」
ぎゅうぎゅうと、千郷とダンデライオンを押しやりながらあづみの横に座るリゲル。
正面にがらりと空いたスペースで、未来と蒲公英が苦笑いを浮かべていた。
「仕方ないわね……」
心底仕方ないといった雰囲気で、リゲルは未来たちの席へ移動する。
あづみとリゲルを見ていれば、このくらいは日常茶飯事だった。リゲルが過保護過ぎるのである。
「で、千郷たちはまた遅刻したのよね?」
じとっと突き刺さるリゲルの視線。
「それ、まだ引き摺りますか……」
ぐんにょりと溶けるように項垂れた千郷。ダンデライオンは相変わらず、他人事のように話は聞いていない。
「え、えっと……。そうだ! ダンデライオンちゃんのパートナーって、確か……」
居たたまれなくなったあづみが話題を変えるために言いかけると、何処かに行っていたダンデライオンの意識が一瞬にして帰ってくる。
「わかるの!?」
「あ、ううん。場所は知らないの。ごめんね……? でも、日下佑真さんだよね? 昔、助けてもらったから……」
「あの男ね……。どうして突然パートナーを放置して消えたのかしら」
あづみ、リゲル共にダンデライオンの元パートナーを知っている様子。
名前を聞いて、蒲公英も反応を示した。
「ダンデライオンのパートナーが、佑真様……? いったい、どういうこと?」
蒲公英の大きな瞳が真ん丸に見開かれる。
「わたしの一番さいしょの、人間の友達なの!」
「私が山吹を捜す間、付き従っていた方でもあるのに……」
一気に混乱する佐伯姉妹のパートナーたち。
ぱん、と手を打った千郷はそこへ口を挟む。
「要するに浮気か」
「ちがうよ!」
「そんなことありません!」
一斉に反論され、千郷は心持ち身を縮こまらせた。
「でも、そんなに信頼されてるならなおさら気になるね。佑真さん……か」
未来でさえ、食事する手を止めていた。
騒がしいゼクスたちの声も、この空間には届かない。
謎の多い、ダンデライオンたちの元パートナー。行方はわからず、人物像もわからない。
今はただ、学園生活を送るかたわらに捜す以外、佐伯姉妹に選択肢は無かった。
幸いにして、名前はあづみが明かしてくれた。
間違いがないのなら、確かな一歩だろう。
チャイムと共に、昼休みの終わりが告げられる。慌てたように千郷たちは食器を下げて、あづみたちと共に食堂を後にした。
「あ、ろくにお昼食べれなかった……!」
後悔先に立たず。
千郷にとっては、まだまだ食事は足りなかった。というよりは、ほぼ食べていない。故に、午後の授業が集中出来たものではなかったのは、当然の結果と言えた。
何度かゼクス二次はかきましたが、スケルタルセールスさんが出たのは初めてです。
ソトゥミサとか見てると不憫すぎて……意外と好きなキャラです。持ってないけど。
そろそろリルフィだとか、ケィツゥーだとか、ああいう系を出したいです。
九頭竜学園ベースのオリジナルなのでガル君もいるよ! やったねケィツゥー!
……しばらく見ない間に、本筋のケィツゥーめちゃめちゃ病んでるんですけど……。
あ、COBでは今のところケィツゥーが相棒です。ダンデライオンが来たら変えるけど……けど。