ゼクス学園-深緑の姉妹-   作:鞍月しめじ

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青春! 白の世界!

「なんでまた朝にこんな目に……!」

 

 再び全速力ダッシュの千郷。背後に迫るのは真っ黒のスポーツカーだった。

 アメリカ製エンジンの低い唸りに合わせ、ボンネットから大きく突き出したシルバーの空気取り入れ口が物々しく揺れる。

 

「昨日の夜『フューリーロード』見て夜更かししたから!? ていうか、なんで未来はまた先行ってんのよぉ!」

 

 昨晩の行動を悔やんでも、現実は現実だった。

 背後から迫るエンジン音が消えることもなく、千郷はただひたすら走るしか無かった。

 

(と、とにかく学校まで走れば――)

 

 学校までいけば安全。そう思いかけた時、千郷のスマートフォンが鳴動する。

 空気の読まない連絡に対応する暇が無い程度には状況が逼迫していたが、なんとか画面をチェック。

 

(未来!?)

 

 電話の履歴に未来の名前があり、すぐにメッセージアプリで一言送られてくる。

 

『ダンデライオンを出して避けて』

 

 頭にクエスチョンマークを浮かべながら、だが千郷にも他に選択肢は無かった。

 カードデバイスを取り出して、起動ワードを叫ぶ。

 

「アクティベート!」

 

 深い緑の輝きと共に、ダンデライオンがデバイスから飛び出す。

 ふと、千郷の背後を走るスポーツカーのドライバーの目付きが変わった。ステアリングを強く握り、窓が開く。

 

「オイ、お前――」

「みらぁぁぁい!!」

 

 ドライバーの声がかき消えるような声量で千郷が叫び、ダンデライオンが直ぐ様に千郷の身体を抱えて道路脇へ飛び退いた。

 

「チッ!」

 

 男が舌を打ち、ステアリングをオーバーアクションに振り回した。

 

 退避させられた千郷はダンデライオンに庇われながら、その肩越しに車がスピンターンするのを目にする。

 図体の大きな車がタイヤから巻き上げる白煙と共に180度逆を向くと、ほぼ同時に二本の矢がリアウィンドウのルーバーに突き刺さった。

 

「蒲公英!?」

 

 間違いなく、タイミング的にも未来と蒲公英のコンビの攻撃としか千郷には思えなかった。

 スポーツカーは襲撃を察知してか、そのまま千郷を追い掛けた道を凄まじい速度で逃げていく。

 

「はぁ……」

 

 息も絶え絶えに、千郷は壁に背中を預けへたりこんだ。

 

 □

 

「……防がれた」

 

 膝立ちで矢を放ったのちに残心する蒲公英だったが、眼下の小さな目標が素早く転回し、矢を防いだのは見逃さなかった。

 威嚇程度だったとはいえ、単なる人間があそこまで素早く対応出来るとは彼女にも思えない。

 

「でもお姉ちゃんは無事だね。よかった」

 

 胸に手を当て、安心したように息を吐く未来。

 その傍らで、蒲公英は弓を片付けつつ立ち上がった。未来に向き直り、彼女は意味深に告げる。

 

「まだ私の矢は未熟だと思うけど、それでもホウライの中では強いと自覚してる。だけど分かるんだ、未来。あの運転手は、多分私を知ってる人間なんだって」

 

 ビルの屋上で風に髪を靡かせ、真っ直ぐに蒲公英は未来を見つめていた。

 

「じゃあ、どうしてお姉ちゃんを追いかけたりするの?」

「……さあ。顔は良くわからなかったから、あの人なのかも分からないし……」

 

 走り去っていった車はもう見えない。

 蒲公英は少しだけ寂しそうに、その目を伏せた。

 

 □

 

「大丈夫ですか? 千郷さん」

 

 学校で声をかけたのは、『美人』とストレートに直感出来るような整った顔立ちの生徒。

 ゼクスだが、戦闘にならない限り異形はさほど目立たない。彼女はケィツゥー。白の世界の『ガーディアン』である。

 アイドルのたまごで(まじな)い部、別なクラスのゼクス『ガルマータ』に静かな想いを寄せているらしい、恋する乙女。

 

「朝から全速力で走らされたんだから無事なわけ無いじゃない……」

 

 また千郷はぐんにょりと机に項垂れていた。

 ダンデライオンは相変わらず花飾りを器用に編んでいる。完成した花飾りが千郷に頭に乗せられると、ケィツゥーはその手を合わせて笑みと感嘆の声を漏らす。

 

「わぁ! かわいい花飾りですね! 緑の世界は自然が豊かになっていると聞いてはいますが、やっぱりお花の扱いも慣れているのですね」

「もちろん! チサトにあげるためにつくってたんだし!」

「ありがたいけど、花冠って年でもないよー? 授業始まったらしまうからね?」

 

 満更でもなさそうに頭の花冠に触れ、千郷は小さく笑みを浮かべる。

 その顔を見て、ダンデライオンもまた満開の笑みを咲かせた。

 

 □

 

 放課後、千郷とダンデライオンはケィツゥーと共に校内を歩いていた。部活は休みらしく、可愛げのある女子トークで盛り上がる。

 ふと、廊下に褐色肌の男性が現れた。さらさらと靡く白髪が肌色とは対照的だった。

 

「が、ガルマータ様……!」

「む、ケィツゥーに千郷、ダンデライオンか。そちらももう授業は終わりか」

 

 頬を染めるケィツゥーに、白の世界の『ガーディアン』、サー・ガルマータは首をかしげつつも三人を真っ直ぐに見つめて問い掛けた。

 

「なーに、ガルくんはミサキさん捜してたり?」

「うむ。近々、またライブがあるからな。私も彼女に仕え、護る身として傍にいなくてはと……」

「あーあー、ガルマータやっちゃったー」

 

「あっ」と千郷が慌ててその口を塞ぐ。

 ケィツゥーが俯き加減に、だがぷるぷると肩を震わせる。

 

「どうした、ケィツゥー? 寒いのか? 身体を冷やすのは良くない、ジャージの上を……」

「あ、ありがとうございます……」

 

 そっと、ガルマータがジャージをケィツゥーにかけてやるのを眺め、千郷たちは声を殺しつつ、どこか甘酸っぱい光景に釘付けだった。

 

(おー。いいなー、いいなー!)

 

 女子にはたまらない光景が目の前で繰り広げられて、千郷はどこか忘れた青春女子な心を取り戻す。

 ふと気になって、千郷は横にいるダンデライオンに訊ねる。

 

「ねーねー、ダンデライオン。佑真さんって、カッコいい?」

 

 見たことの無いダンデライオンの元パートナー。

 男性なのは間違いないにしろ、千郷にはその姿は全くわからない。

 

「わかんないよ……。でもタンポポはカッコいい方だって、言ってたよ」

「蒲公英が言うなら……いや、わからんな。精神的にカッコいいだけやも……」

 

 向きかけていた想いが少し折れ曲がる。

 気付けばガルマータはいなくなり、ケィツゥーは借りたジャージを大事そうに抱えて固まっていた。

 

 □

 

「……で、青春したくなったの? お姉ちゃん」

 

 自宅に帰ってからは、ひたすら自習する未来に構っていた。

 少々言葉の端々に苛立ちを感じさせるが、未来が言葉を荒げる事もなく。

 

「いいよね、青春。佑真さん、早く捜してみよーっと!」

 

 パタパタとリビングから自室に上がっていく千郷を眺め、蒲公英とダンデライオンは不思議そうに顔を見合わせていた。




 あの心優しいケィツゥー、生き返れ生き返れ……

 最近仕事始まって忙しいので、更新ペースは落ちますがこれからもよろしくお願いいたします!


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