佐伯未来の日常は、まさにいつも通りだった。
姉より先に学校へ向かい、蒲公英と共に支度を整える。
まさか後で姉が遅刻してきた挙げ句、道場でダンデライオンを戦わせているとは思うわけもなく昼食のため中庭にいた。
まだ姉の姿はない。
「結局、お姉ちゃんは遅刻かぁ」
特に驚くこともなくなってしまった。
姉に限ってサボりは有り得ない、帰りには合流できるだろうと考えていた。
「でも、遅刻グセはやっぱり良くないね」
弓の手入れをしつつ、蒲公英は呟く。
「勿論なんだけど、ダンデライオンがね……」
「リーファーは気ままな種族だから、言って聞くタイプじゃないもんね。でも、佑真様はそんな彼女にあの戦い方を教えたのか……」
蒲公英が空を仰ぐ。ゼクスも空を飛んでご機嫌になる程度には、好天に恵まれた。
彼女は改めてダンデライオンの戦い方を回想する。何度も過去に手を組んではいたが、改めて思うと規格外だ。だが、何かが足りていない。
ダンデライオンはまだ真の力を隠している。蒲公英は彼女への違和感を、そう解釈する。
「ん……?」
ふと、空に黒点を見る蒲公英。
次第に大きくなるそれは剣を構え、そして遥か空の向こうから未来たちを狙って降下していた。
蒲公英の身体が未来を護るため動く。覆い被さるようになり、襲撃者からの攻撃に未来が巻き込まれないよう庇った。
「何者っ!?」
立て掛けていた弓に矢をつがえ、瞬時に戦闘体制へ。立ち込める土埃の中から現れたのは、青いショートボブが特徴的な少女だった。
緑色に輝く光学剣を片手に、少女は気だるげに首を回す。
「何者かと訊いている!」
「私が何者か、と普通この場合名乗りますか?」
襲撃者と蒲公英の視線が結ばれる。
「蒲公英、あれゼクス!?」
混乱する未来の問いに、蒲公英は頷いた。
「青の世界のバトルドレス。それも、その辺の汎用じゃない……!」
「素晴らしい洞察眼です。ですが、今はちょっと邪魔ですね」
バトルドレスは戦闘特化のサイボーグだ。随所に機械めいた部分はあるが、見た目はほぼ人間のそれと変わらない。
それでも襲撃者は目を見張るような速度で蒲公英の背後へ回ると、その先でブレードを振る。
「あぐっ!?」
ただ通過しただけ。それだけに見えて、蒲公英は苦痛に膝をついた。装束に複数の切り傷を作り、白い素肌からも鮮血が滴る。
「蒲公英っ!」
「動かないでください、人間」
襲撃者のブレードが切り上げられ、剣の巻き起こした衝撃が未来を吹き飛ばす。
駆け寄ることもままならず、未来はただ怯える以外に無い。
「未来に手を出さないで。彼女は関係ない!」
「出していません。近寄れないように妨害しただけです」
「……それは、へりくつって言うの!」
矢をつがえ、蒲公英は膝をついた体勢から前転。転がりつつ後方の襲撃者を射ってみせる。
だが襲撃者は軽い動作でブレードを振り回して矢を弾き飛ばすと、ゆっくりと蒲公英との距離を詰めていった。
「目的は!?」
弓矢を構え、蒲公英は襲撃者へ問う。彼女が実力から見て、未来も自身をも襲撃者はまとめて殺すだけの実力を備えている。だがそれをしない。
なぶって遊んでいるのか。しかし、無表情な襲撃者の表情からそれを窺い知ることはできない。
「目的を話したとして、あなた方は従ってくれるんですか?」
淡々と語る襲撃者。なおも二人の差は詰まる。
蒲公英はじりじりと距離を離すために後ずさりするが、襲撃者は一定の距離で追い詰める。
「いきなり襲ってくるやつの要求なんて……!」
「面倒くさいですねぇ。殺傷許可が出てくれれば殺してますよ」
蒲公英を追い詰める襲撃者。遠くから見つめるしか無い未来に、襲撃者の言葉が重くのし掛かる。
とっくに殺されていていいものをそうしないのは、許可が無いから。もしどこかがそれを許可すれば、間違いなく蒲公英も自分も殺される。
蒲公英とともに暮らして長い。蒲公英が苦しむ姿は、優しい未来にとってつらく映る。自分の行く末も恐いが、何より彼女には友人の蒲公英がいた。
「待ってッ!」
気付けば未来は蒲公英と襲撃者の間に割って入り、両腕を広げ蒲公英に背を向ける。
彼女はゼクスに対し、自らの身を呈して護るため動いた。
「未来、ダメ! 向こうの目的がわからない、危ないよ!」
「いや! 私は退かないッ! まだ私は、あなたに何も出来てないもんっ」
叫ぶ未来。襲撃者の足が、不思議と止まっていた。
「あなたの元マスターを捜すのだってそう! こんな私に付いてきてくれたお礼だってまだ!」
未来はポケットからカードデバイスを取り出し、抱き寄せる。
「例え一時的でも、蒲公英は私のパートナー、友達なのっ! だから私は、絶対に蒲公英を見捨てたりしないッ!」
未来の言葉を受けてか、カードデバイスが緑色の輝きを放つ。
広まった輝きは未来を、そしてその背後の蒲公英を包み更に輝きを増す。
「……まさか、本当に」
襲撃者は目元に手をかざしながら、驚愕の言葉を漏らす。
深緑の輝きが収まった時、未来の姿はそこには無かった。代わりに、蒲公英が不思議そうに自身の身体を見回す。
「この感覚……」
『な、なにこれ!? 私、蒲公英になったの!?』
「わからないけど、未来の気持ちが……想いが流れ込んでくるよ」
大まかな外観は変わらないが、ツインテールは内はねのセミロングヘアへ変わり、武装も和弓ではなく少々厳ついコンパウンドボウのような弓へと変化していた。
「オーバーブースト成功ですね、佐伯未来。そして蒲公英」
襲撃者はブレードを翻し、何処かへ仕舞う。まるで消してしまったかのような手品めいた技術だ。
『オーバーブースト……?』
「オーバーブーストって、なに?」
コンパウンドボウを構える蒲公英。慣れている筈の無い洋弓に、彼女は慣れ親しんだかのように迷いの無い構えを見せる。
彼女は一人ではない。パートナーである未来も、蒲公英とともに構えているのだ。
「オーバーブーストはまだ発現条件もはっきりしていない、ゼクスとパートナーの合体現象です。すぐに解けるのでご安心を……」
襲撃者の説明の後ろ、道場からけたたましい崩壊音がとどろいた。しかし、今は前に集中しなければ。
「じゃあ、あなたの目的は?」
蒲公英が問うと、襲撃者は疲れきったように伸びをする。矢を向けられているというのに、彼女は大きな隙をあっさりと見せた。
「あなた方にオーバーブーストさせることです。殺傷許可なんて出ませんよ、私だってさっさと終わらせて昼寝したいので」
『え、えぇ……?』
蒲公英と未来の気持ちが文字通りにシンクロした。
襲撃者は道場へ振り返ると、再び視線を二人へ戻す。
「向こうはまだ掛かりそうですが、答えはあの人が持っています。また近々お会いしましょう」
襲撃者は近くの足場へ飛び移ると、そのままスラスターによって飛び去ってしまう。
取り残された蒲公英。再び緑色の輝きが彼女を覆うと、未来が彼女の横に立っていた。
「オーバーブースト……」
カードデバイスを眺める未来。すると、すぐに蒲公英からの叱責が入った。
「もう、無茶するんだから! あのまま殺されてたら私……!」
「でも、蒲公英を守れた。きっと、守れたよ」
「そうじゃなくて……うーん。未来がいなくなって悲しむ人はたくさんいるんだよ? 勿論、私も……」
少々口ごもる蒲公英。彼女の白い頬はどこか朱に染まっていた。
だが、結果オーライとはこの事で。これ以上は蒲公英も未来を叱咤することは出来なくなってしまう。
襲撃者はなにかを企んでいる様子だった。サボり魔のような雰囲気だったが、恐らく何かが待っている。
蒲公英と未来は互いに視線を結び、そしてその手を取り合い、青い空を二人で見上げた。
やっとZ/X:COBでXIちゃんとれました。
未来と蒲公英のOB姿は少々考えを練らねばなりませんね。
今は仮というか、出たばっかりなので……。
また次回も宜しくお願いします!
ゼクスはいいぞ。