ゼクス学園-深緑の姉妹-   作:鞍月しめじ

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気付いたらZ/X COBがサ終してました……


思い出のダンデライオン

 未来が青の世界のバトルドレスを退け、千郷がダンデライオンと共に赤の世界のマイスターに好敵手宣言されてから数時間後。瞬く間にすっかり放課後だ。

 道場の破壊は特に責められなかったが、イグニッションオーバーブーストを確立した未来はポラリスに呼ばれることになった。姉として不安はあったが、彼女が聞くにオーバーブーストとは、少なくともゼクスとの深い繋がりが無くては成り立たないという。

 蒲公英とそうなったということは、互いが立派なパートナーと認めあった証……ということなのだが。

 

「いつかは、お別れなんだよね」

 

 千郷は傍らにいるダンデライオンの頭を撫でながら呟く。気持ち良さそうに目を細める彼女はまるで猫のようだ。

 しかし、未来と同じく千郷にも別れが待っている。ダンデライオンは本来、彼女のパートナーではないのだ。いつかは元の持ち主の下へ帰る──そういう契約でもある。

 最良のパートナーとなった未来と蒲公英にも、いつか別れが。そう思うと、千郷にも珍しくシリアスな感情が溢れてきた。

 

「あれ、千郷さん……でしたよね?」

 

 廊下で未来を待っていた千郷に声をかけたのは、一人の少女だった。綺麗な白い髪と天使の羽。しかし、後ろに見えるのは魔人の尻尾。抱えた杖は機械的で、どこかちぐはぐ感が拭えない。

 

「リルフィ……? どうしたの?」

 

 少女の名はリルフィ。九頭竜学園に通う生徒であり、この学校の一人の『先生』のパートナーゼクス。千郷が知る限りでは、リルフィについてはそれくらいしか分からなかった。

 

「いえ、たまたま通り掛かっただけですが、随分思い詰めた顔をしていたので」

 

「え……マジ? そんな顔してた?」

 

「してましたよ。この世の終わりぜーんぶ背負ったような顔でした」

 

 リルフィとはあまり話したことはないが、千郷の印象としてはたちの悪いジョークを言うタイプではないと思っている。つまり、割と本気でそんな顔をしていたということだ。

 それではいけないと、両手で顔を挟んでぐりぐりとこね回す。寄った皺はこれで何とかなるだろう。

 

「っ──ふぅ。そういえば、先生は研修だっけ」

 

 表情を繕ってから、千郷が呟くように語ると、リルフィが明らかにぴくりと身体を震わせた。

 彼女の語る先生とは教師のことだが、教師全般ではない。リルフィのパートナーであり、この九頭竜学園の生徒兼先生という複雑な肩書きを持つ特定個人を指す。

 

「リルフィも行くって言ったんです。なのに先生ってば、『リルフィは学園の皆を頼む』なんて言って……」

 

「まぁ、先生のパートナーなら大体の生徒は従うでしょ」

 

「違うんですー! リルフィは、一日とも先生から離れるなんて有り得ないんです!」

 

 リルフィの『先生』に対する敬愛は尋常なものではない。病的──否、スーパー一途な愛情とでも言うべきか。千郷にはその理由は分からないが、彼女も生徒である以上『先生』とは話している。

 自身のタイプではないが、老若男女、人もゼクスも別け隔てなく接するその性質は普通の人間に備わるものではない。彼自身も特別な何かなのではないか──千郷はたまにそう考える。

 千郷はそれなりに長々と思考したが、要するにリルフィは『先生』に置いていかれてパニック……らしい。

 

「明後日には戻ってくるんでしょ? 確か教員研修は二日くらいだって聞いたし」

 

「そうなんですけど……」

 

「戻ってきた先生に、美味しいご飯でも振る舞ってみたら?」

 

 千郷の提案に、リルフィがまたぴくりと反応を示す。

 

「先生の伴侶としたことが……失念していました。ご飯の買い出しに行かないとですね! やる気がぎゅんぎゅんです! 失礼します、千郷さん!」

 

「頑張れよー」

 

 ぺこりと頭を下げて走り去るリルフィを、手をひらひらと振って見送る千郷。

 一転してるんるん気分のリルフィとすれ違うようにして、未来と蒲公英が教頭室から出てくる。 

 

「お姉ちゃん? 待っててくれたんだ」

 

「まぁね。教頭はなんて?」

 

「この力を、自由に出来るように精進しろ……そう言われたよ。私は、あまり戦いたくないけど」

 

 カードデバイスを胸元に抱き寄せ、未来は俯いた。

 千郷も実の姉であるからこそ分かる。未来は争いごとを嫌うタイプだ。可能な限り対話でどうにかしたい、と二人のゼクスを迎え入れたある日に語っていた。

 勿論そう上手くいくはずもないから戦うのだが、イグニッションオーバーブーストという戦闘向きの現象を発現し、それを使いこなすように言われる。それはつまり、未来にも戦力になるよう宣告されるのと同じだ。

 

「未来、無理はしなくていい。わたしも、貴方に付き従うゼクスとして主の嫌がることはしたくないから」

 

 蒲公英も未来をよく分かっているように思えた。千郷から見える彼女の目にも、気遣う意志が見て取れた。姉として、蒲公英になら未来を預けられる。

 

(蒲公英なら、未来を任せても安心……。ん? いや、逆か?)

 

 未来が蒲公英を預かっていたか。ダンデライオンならまだしも、蒲公英はしっかりした娘だ。たまに混乱してしまう。

 

「とにかく、今日は帰ろ。学校が私らをどうしたいかは、そのうち分かるって」

 

 眠りかけていたダンデライオンの頭を軽く叩いて起こしてやると、千郷は未来たちへ向き直る。

 自分たちはただの人間で、一介の生徒でしかない。学園の考えを慮ることもない。いつか、何かの時が来る。

 九頭竜学園の校門を潜った時まで、それはいつかだと思っていた──

 

「佐伯さん……だね?」

 

 ──後ろにタンポポを思わせる柔らかな黄色をしたスポーツカーを控えさせ、傍らには明らかにゼクスと判る女を待機させる男が二人に声を掛けるまでは。

 

「先ほど振りですね、佐伯未来に蒲公英」

 

 男の横にいるゼクスは、未来たちを見つめるとそう語った。

 蒲公英は間髪入れずに戦闘態勢に入るが、待ち構えていた二人は何も構えはしなかった。

 

「……どうして、佑真様が青の世界のゼクスと──?」

 

 構えた蒲公英だったが、先ほど戦ったゼクスについていたのが他ならぬ元のパートナーと判ると、矢をつがえる手に迷いが生まれる。

 

「ちょっと、佑真様って……まさか!?」

 

 千郷も思わずたじろいだ。

 

「ユーマ!? ユーマだ!」

 

 ダンデライオンも、男が日下祐真だと認識すると、彼に飛び掛かる。

 強烈なジャンピングハグに佑真も大きくバランスを崩しながら、しっかりとダンデライオンを受け止める。苦笑いする千郷だが、確かに一日千秋の想いで待っていたパートナーが眼前に現れれば、彼女の行動も理解できる。

 

「ユーマ! やっと会えたっ!」

 

 涙ぐむダンデライオン。彼女にとっては、それほどまでに長い時間だった。

 

「……おっどろいた。まさか、こんな急に」

 

 ダンデライオンは常に笑顔を絶やさない。しかし、ここ最近は曇ることもあった。そして佑真の話を欠かしたこともない。

 そんな二人の本来のパートナーが、こうして現れる。それが千郷にとって意外だった。もっと周囲の情報を探って、探偵のようなことをしないと見つからないかとも思っていたが。

 

「佑真、ホウライを従えている方が佐伯未来。リーファーを従えている方が佐伯千郷、こちらが姉のようです」

 

「知ってるさ。近くで見てきた」

 

 ゼクスの言葉を聞いても、佑真はあくまで態度は変えなかった。

 ダンデライオンを優しく引き離すと、彼は千郷たちへ告げる。

 

「二人を見てくれてありがとう。ダンデライオンたちとはぐれてから、心配はしていたんだ。だけど、優しいゼクス使いに拾われたみたいで安心してる」

 

「佐伯家の皆様には、本当にお世話になりました。未来たちがいなければ、私達もこうしては居られなかったかと」

 

 蒲公英の言葉に、佑真は静かに頷く。力の強いゼクスほど、ブラックポイントからは離れられないものだ。ダンデライオンも蒲公英も、必要とするリソース量は多い。千郷たちが見捨てていれば、この現代で力尽きていたに違いない。

 

「ちょっと待ってください。今、『見てきた』って? 佑真さん、近くに居たんですか?」

 

 ずい、と一歩、千郷が佑真へ詰め寄った。彼の傍らのゼクスが止めに入ろうとするのを、佑真は手で制する。

 

「タイミングをはかってた。前に君たちを追い回したのは、済まないと思ってる。まさか蒲公英に射られると思わなくて、引き返す羽目になったが」

 

「……やっぱり、あの黒い車も佑真様の……」

 

 蒲公英の中で、改めて合点がいった。千郷を追い回した黒い車に矢を放った時、彼は完全に読み切ったかのように攻撃を防いでみせた。

 蒲公英との付き合いも短くない。気配で気取られたならば、佑真は確実に捌いてくる。彼女にはそう思えた。

 

「佑真さんが来た理由は、二人の回収──ですよね」

 

 千郷が少し声を震わせる。

 考えるまでもなく当たり前だ。本来のパートナーが現れたのだから、千郷たちの役割はここで終わる。ダンデライオンも蒲公英も佑真のもとへ戻り、姉妹にはまた普通の日常が。

 

「それなんだが。このまま引き受けてもらえないか、二人を」

 

 佑真の発言には、彼のゼクス以外の全員が目を丸くした。よりによって、彼はダンデライオンたちを迎えるとは言わなかったのだ。

 

「私が説明しますよ。彼は要領を得ませんので。あとでまとめてお休みを貰いますが」

 

 佑真を下げ、自分が前に出るゼクス。彼女は自身を『イレヴン』とだけ名乗ると、佑真が現在置かれている状況を説明し始める。

 

「彼は致死性の難病です。勿論、タダで死ぬ気など無かったようで、治療法は探しましたが……現代にそんなものはありませんでした」

 

 そうして白羽の矢を立てたのは──イレヴンはそう語りつつ、指で宙に絵を描く。

 

「彼が縋ったのは、青の世界の技術でした。引き換えに、我々のマスター──アドミニストレータたちは、彼に任務を与えたのです」

 

「任務……?」

 

 千郷はオウム返しに問う。

 

「現在均衡状態にあるこの世界で、我々が出し抜けるよう工作すること。それが表向き。その後、私のマスターであるポラリス様が、この世界の均衡を守ること──そう指示を変えました」

 

 つまりは青の世界の工作員になれ。イレヴンの言うことは、つまりそういうことだ。離れ離れになったゼクスは後回しに、彼はその為に動いたのだと。

 

「ただ、はぐれたゼクスに命が尽きる前に会える確率のほうが低かった。それが、ダンデライオンたちより任務を優先した理由でしたが──」

 

 そのはずだったが、とイレヴンは話す。

 

「──どうも、彼の中で何かが決まったらしく。ダンデライオン、蒲公英の成長を見届けたら姿を現そう……そう考えていたそうです」

 

 イレヴンの話を聞いても、千郷たちにはいまいちピンとこない。結局佑真は何を考えているのか……それが分からなかった。

 

「赤の世界のマイスター、レーヴァテインを出し抜いたダンデライオン。そして、私をイグニッションオーバーブーストで退けた蒲公英。……成長とするには、充分だそうでして」

 

「待ってよ。イレヴンだっけ? この二人は、佑真さんの家族でしょ? そんな淡々と評価しないでよ」

 

「……私だって最初は止めましたよ。けど、彼自身が考えを変えなかったんです」

 

 イレヴンの答えを聞いて、千郷の視線が佑真へ向けられた。鋭く、射貫くような目で千郷は佑真を睨み付けていた。

 

「二人がどれだけ貴方に会いたがってたか、知らないんですか?」

 

「知ってるよ。だけど、二度も別れを経験する必要はないだろ?」

 

 イレヴンが語った佑真の『何か』──それが、自分自身の死である。彼の語り口から、佐伯姉妹はそう感じ取った。

 青の世界に縋っても、彼は死から逃れられない。佑真はそう言いたいように聞こえる。しかし、青の世界とは現代からは想像もつかないオーバーテクノロジーの世界だ。それなりに服さえ着込めば人間にしか見えないであろうサイボーグことバトルドレスのイレヴンが、それをまざまざと見せ付ける。

 彼の生き残る方法が無いとは、事情に詳しくない千郷にはわからない。未来はずっとショックを受けっぱなしのようで、蒲公英の手を強く握ったまま動こうとしない。今は、千郷だけが彼の秘密を暴ける存在だった。

 

「納得の行く答えを下さい。私達だって、タダでダンデライオンたちと一緒にいた訳じゃないわ。佑真さ──アンタを捜して、返してやるって約束してたの」

 

 更に一歩、千郷は佑真へ詰め寄る。睨み上げるようにしてから、彼の胸ぐらを掴んで引き寄せた。

 絶対にこのまま引き下がるものか。背の高い佑真の顔を、自身と真っ直ぐに向き合わせる。

 

「──だから、納得の行く答えを話してよ」

 

 もはや千郷には佑真に対して敬語を使う気もなかった。しばし俯いてから、佑真は観念したように口を開く。

 

「サイボーグ化しかないんだ。生き残るには」

 

「は……?」

 

「この身体を捨てて、青の世界で機械になる。それしか生き残る術がないんだ」

 

 胸ぐらを掴んだままの千郷の手が震えだす。想像以上の答えが返ってきて、どうにもならない。

 機械になるというのは、傍らにいるイレヴンのようになるということなのは何となく分かる。しかし、千郷の頭が処理を拒むのだ。

 

「補足しましょう佐伯千郷。端的に言うなら、彼は青の世界で結局は死を迎えるのです」

 

 反応に困る千郷を見かねてか否か、無表情のままイレヴンは淡々と告げた。彼女にも嘘を吐くメリットは無いように思える。

 

「生きるのに死ぬって……どういうこと?」

 

「青の世界的には充分に生存ですが──人とは、理解しがたいモノですね」

 

「俺は、人を捨ててまで生きてはいたくないんだ。それに、機械化されれば青の世界の制御下に入る。それじゃあ、俺は生きてるとは言えない」

 

 佑真の言葉を聞いて、千郷の手がするりと襟から離れた。

 状況を整理しなければ。混乱しているのは千郷だけではない。後ろで不安げに見守っているゼクスと妹も混乱しているのだから。

 

「待って……。要するに、機械になるくらいなら人として死ぬってこと?」

 

「そう思ってくれて良い」

 

「……だからって、それが相棒を捨てる理由なの? 二人の信頼を裏切る理由なワケ!? それが!?」

 

 死にたくない。だが、機械にはなりたくない。だから嘗ての仲間を諦めるしかない。まだ千郷も理解できていない。しかし何故諦めるのか。

 青の世界については詳しくはない。それどころか、ダンデライオンたちの世界である緑の世界の事も殆ど知らない。

 要するに、彼は“彼の理由“で仲間を捨てる。千郷はそう解釈せざるを得なかった。

 これ以上は話しても無駄だ。それどころか手を上げてしまいそうになる。

 

「ダンデライオン。未来に蒲公英も。帰るよ」

 

 半ば強引にダンデライオンの手首を引っ張り、千郷はそのまま佑真を放って帰路についた。

 

「お姉ちゃん!? 待って……! 佑真さん、ごめんなさい。失礼します!」

 

「すみません、佑真様。少し千郷も頭を冷やさないと」

 

 そう言い残し、未来も蒲公英も千郷の後を駆け足で追い掛けた。

 その後姿を見送って、佑真は懐から一枚のカードデバイスを取り出す。

 

「渡しそびれたな。……イレヴン」

 

『いや、なんでもない』──佑真はカードデバイスを仕舞うと、車に乗り込んだ。

 この短時間で理解しろという方が無理だ。イレヴンにカードデバイスの譲渡を頼もうとしたが、それも筋違い。やはり、お互いにもう少し時間が必要か。

 助手席にイレヴンが乗り込むのを確認すると、佑真は静かに車を発進させた。

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