新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第12話 幸せな日常と陰謀

 

 シンジがレイに告白して一週間が過ぎた。

 二人は学校では冷やかされネルフでは生温かい目で見られていた。

 自宅ではミサトを残業を理由にネルフ本部に避難させていた。

 

「覚悟していたけど、四六時中、二人でイチャイチャして!」

 

「そんな事は分かりきった事じゃないの」

 

 ミサトの愚痴にリツコが突っ込みを入れていた。

 

「まさか、レイが、あそこまで変わるとは思わなかったもん」

 

 ミサトの話に全員が興味を持ったが聞かないのが大人である。

 

「ミサトが毎日、残業するので日向君は助かっているわね」

 

 リツコは日頃、ミサトが日向に仕事を押し付けている事を遠回しで指摘する。

 

「そんな事より、ミサト。例の準備は?」

 

「出来ているわ。その為の残業よ」

 

 リツコの問い掛けに憮然として返事をするミサトであった。

 ミサトが残業に勤しんでいる頃、葛城宅ではシンジとレイが感心な事に中学生らしく仲良く勉強をしていた。

 中学生二回目のシンジとリツコに英才教育をされたレイであるから勉強は捗るのである。

 時折、ペンペンがレイに甘えてくる程度である。

 

「ペンペンは綾波に懐いたなあ」

 

「葛城一尉が居ないから寂しいのね」

 

 ペンペンはレイが喉元を撫でると気持ち良さそうに目を閉じて甘えた声を出す。

 

「ペンペンは可愛いわ」

 

 それを見たシンジが悪戯心を出してペンペンと同じ様にレイの喉元を撫でる。

 

「クウ~ン」

 

 レイもペンペン同様の反応をしてしまった。

 

「綾波も可愛いよ」

 

 レイも仕返しとばかりにシンジの喉元を撫でるとシンジもペンペン同様の反応をしてしまった。

 

「クウ~ン」

 

「碇君も可愛いわ」

 

 二人で互いに相手の喉元を撫で合うのである。

 その光景を見たペンペンは呆れたのか。自室である冷蔵庫に引き上げるのである。

 勉強が終わると明日の朝食と弁当の仕込みを二人で始める。

 レイは自炊とは無縁の生活だったが、シンジの指導で既にミサト以上の腕前になっていた。

 レイはシンジと一緒に居るだけで幸せだった。

 自身には何も無く、いずれは無に還る事を望んでいた自分にはゲンドウとの絆以外は不要だと思っていた。

 その思い込みをシンジが変えてくれたのである。レイ以外の人間も時が来れば無に還るのである。しかし、無に還る間の期間をシンジは楽しむ事を教えてくれた。ゲンドウ以外の絆もある事も教えてくれたのである。

 レイは今の幸せな日常が続く事を祈っていた。

 シンジもレイ同様にレイと一緒にいる時間を幸せに感じていた。

 逆行前には孤独だった自分を最初に孤独から解放してくれた存在はレイであった。

 ミサトの同情と指揮官としての下心のある同居生活ではシンジは孤独から解放されなかった。

 利害関係なしでシンジの心に寄り添ったのはレイであった。

 その反動か、二人は常に一緒にいる事を望み互いに依存していた。

 端から見れば、若いバカップルにしか見えなかった事が難点であった。

 その日もバカップルからの精神汚染攻撃から残業という名目で避難していたミサトが帰宅したのはバカップルが就寝した後であった。

 翌朝、ミサトがネルフの礼服で自室から出て来た姿を見て、朝食を摂っていた同居人達は手にしたトーストを落としそうになる。

 

「レイ、シンジ君。おはよう」

 

「おはようございます」

 

 ミサトは反射的に挨拶を返す同居人達に苦笑しながらも連絡事項を伝える。

 

「朝食はパス。帰りは今日も遅くなるから」

 

「分かりました。今日は出張なんですね」

 

「まあ。そういう事」

 

「それなら、五分だけ待って下さい。綾波!」

 

 シンジとレイは五分で二人分の弁当を作るとミサトに差し出す。

 

「痛みにくい様に生姜とニンニクを使ってますけど涼しい所に置いて下さいね」

 

 シンジの気配りに感心しながら、ミサトは礼を言って自宅を出た。

 

「綾波。僕達も行こうか」

 

 シンジ達も自分達の弁当を持って登校する。

 逆行前の世界でミサトから、日本重化学工業が自分達のテーブルにはビールしか出さなかった事に対して恨み事を言っていた事を覚えていたシンジは二日前から毎晩煮しめを作り、弁当の用意をしていたのである。

 どうやら、シンジは第十二使徒戦での虚数空間とサードインパクト後の空腹体験がトラウマになっている様であった。

 

(まあ。また、ミサトさんがロボットの暴走を止めるから、僕達には関係ないか)

 

 シンジは自分の手の届かない範囲と割り切り今回は静観するつもりである。

 

(所詮は中学生の僕が頑張っても駄目な事はあるからなあ)

 

 シンジはサードインパクトの阻止とレイを幸せにする事を目標に帰って来たのである。

 それ以外の事までは責任は持てないと健全な考えを持つ様になった。

 サードインパクトの引き金を引いたのは自分だが、弾倉に弾を込めて撃鉄を起こしたのはゼーレでありゲンドウである。

 自分にも責任はあるが、全責任があるわけではないとシンジは考える様になった。

 

(でも、サードインパクトは絶対に阻止する)

 

 横を歩くレイに視線を向けると、以前の様に無表情ではなく幸せそうな笑顔を浮かべて歩いている。

 シンジはレイの笑顔を何時までも見たいと思ったし、何時までも見る為にはサードインパクトの阻止は絶対条件だと確信した。

 逆行前と同じ様に昼休みが始まると同時にネルフから非常呼集されたのである。

 送迎車の中で昼食を摂りながら、事態の内容を聞くのである。

 

「綾波と二人で片方がロボットを抑えて、もう片方がミサトさんをロボットに乗せる役をした方が確実ですね」

 

「分かった。葛城一尉に伝えよう」

 

 送迎車の運転手を務める警備部員がシンジの策の正しさに納得してミサトに上申してくれた。

 

「ありがとうございます!」

 

「いや、多分、君の策が最上だと俺も思うよ。まあ。今回は日本政府に恩を高値で売り付けてやれ!」

 

 シンジは警備部員の言葉に苦笑するしかなかった。

 シンジは苦笑するだけだったが、ミサトは現場の指揮を取るのに悪戦苦闘していた。

 役人特有の責任転嫁の為の盥回しにシンジ達との合流手段の確保とJAのコックピットへの侵入方法の確認と忙しい。

 

「ミサト。本気なの?」

 

 裏面の事情を知るリツコは危険は無いと思いミサトを本気で制止するつもりは無いが、一応は制止する。

 

「仕方ないでしょ。誰かが止めないと」

 

 防護服を着ながらミサトは気軽に返事をしていたが、急に着替える手が止まる。

 

「やっぱり、止める?」

 

 リツコはミサトが考え直したと思ったが違った。

 

「服が入らない!」

 

 リツコのコメカミに青筋が浮く。

 

「人が、あの男と喧嘩している時に、他のテーブルから料理を貰ったりするからでしょう!」

 

 ミサトはリツコと開発責任者が激しく討論をしている時に、他のテーブルから料理をお裾分けして一人で食べてたのである。

 他のテーブルから見ればビールが6本だけのネルフのテーブルは嫌がらせにしても露骨に見えたうえ、ミサトが高名な赤木博士の随伴で来た新人に見えたのである。

 新人の士官が組織同士の対立で空腹を抱えている様に見えたのだ。同情するのも不思議ではない。

 一人だけ料理を食べた後にシンジが用意した弁当も食べたのだから物理法則に従いミサトの体型も一時的に膨張しているのである。

 

(この娘は!)

 

 それでも、ワンサイズ上の防護服を調達して来るリツコはミサトと良いコンビかもしれない。

 

「じゃあ。ちょっち、行って来るわ!」

 

 防護服を着込んだミサトはヘリで厚木に向かう。既に厚木には日向がパイロットとエヴァを運んで来ている。

 厚木に到着したミサトはウイングキャリアに搭乗するとシンジとレイと細かい打ち合わせをする。

 

「じゃあ。綾波がロボットを正面から止めてる隙に僕がミサトさんをロボットに運べばいいんですね」

 

「そう。万が一の時はATフィールドを全開にしてね。エヴァなら大丈夫だし、被害も最小限に抑える事が出来るわ」

 

 逆行前の体験からシンジも無駄にミサトの心配をしない。

 端から見ればミサトに絶対の信用を置いている様に見えた事であろう。

 事実、ミサトは見事に炉心溶融を阻止して見せた。

 

「ミサトさん。大丈夫ですか?」

 

「大丈夫よ。今夜は冷たいビールを宜しくね!」

 

 シンジの通信に軽い口調で応えながらも、ミサトは仕組まれた暴走劇について考える。

 

(きっと、碇司令の差し金ね)

 

 今回の暴走劇で一番の利益を蒙るのはネルフであり、ゲンドウなのである。

 

(まあ。司令らしいと言えば司令らしい)

 

 ミサトにも利益があったと言えば晩酌のビールをシンジが増やしてくれた事である。

 

(シンちゃんの作る肴はビールに合うのよねえ)

 

 ゲンドウの暗躍に気付きながらも違和感もなく受け入れたミサトは久しぶりの運動で、翌日には全身筋肉痛になり、湿布を下着代わりに貼られ、ネルフ本部で隔離される運命を知らない。

 

 

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