「やーい。シンちゃんの浮気者!」
アスカとシンジが手を取り合っているのを見つけたミサトが能天気な声を掛ける。
「葛城。お前なあ」
ミサトの背後では加持が頭を抱えていた。
「あっ、加持さん」
アスカが自分の横に加持を招くとミサトはシンジの隣に座り、シンジをからかい始める。
「レイに告げ口しょうかな!」
ミサトの言葉を聞いてアスカも思春期の少女らしく敏感に反応する。
「ミサト。レイって、もしかしたらファーストの事?」
「そうよ。ファーストチルドレンでシンジ君の彼女なのよ!」
ミサトの口から彼女という単語が出た途端にシンジの顔が赤くなる。
「へえ。サードもやるじゃん!」
アスカも思春期の少女らしく恋愛話が好きみたいである。
「ねえ、ミサト。ファーストって、どんな娘なの?」
「可愛い娘よ。無口で内気な娘よ」
ミサトがレイの事を教えるとアスカは更に興味を持った様である。
「サード。そんな娘を、どうやって口説いたの?」
シンジもアスカに質問されて、本来のヘタレな中学生に戻る。
「いや、別に、その僕が口説いたとかじゃないよ」
「ほう。では、ファーストの方がサードを口説いたの?」
アスカが意地の悪い笑みを浮かべてシンジに質問すると代わりにミサトが応える。
「シンちゃんが全力でレイを守る為に戦う姿を見て、レイもシンちゃんにメロメロになったのよねえ」
「あら、ファーストが羨ましいわ。私も、そんなナイトが現れたらメロメロになっちゃうなあ!」
「シンちゃんは女の子の理想の男の子よね。料理も上手で優しくて命懸けで守ってくれて!」
日頃、自宅で二人に当てられてる仕返しとばかりにミサトも照れるシンジに追い討ちを
掛ける。
シンジがアスカとミサトの二人から玩具にされてるのを見て、加持もシンジを気の毒に思い、助け船を出す。
「シンジ君は葛城と同居しているんだろ?」
レイの事から話が逸れたのでシンジも加持の話に飛び付く。
「はい」
「彼女の寝相の悪さ治っている?」
「毎日、起こしてますけど、凄い格好で」
加持の質問はシンジには日常的な事なので自然に応えるがアスカとミサトは一瞬に顔を赤くする。
「加持、あんた子供相手に何を!」
「ちょっと待て、葛城。シンジ君が毎日と言っていたが、大人の癖にシンジ君に起こしてもらっているのか!」
「それとこれとは関係ないでしょ!」
「誤魔化すな。学生じゃないのに、ズボラでガサツな性格を治せよ!」
大人の男女の醜い口喧嘩にアスカも呆れながら自身の情操教育に悪いと判断して、シンジを連れて食堂を出るのであった。
「馬鹿な大人はほっといて、サードには私の弐号機を見せてあげる」
「あ、ありがとう!」
シンジはアスカの優しい笑顔に思わず顔を赤くする。
アスカはシンジの反応に苦笑しながらも弐号機を積んでる船まで連れて来た。
「これが、私の愛機の弐号機よ!」
「弐号機は赤いんだね」
「カラーリングだけじゃないわ。試作品の零号機やプロトタイプの初号機と違い正式モデルよ!」
アスカは力説した後に声のトーンを変えて話を続ける。
「だから、安心しなさい。ネルフの戦力は確実に向上しているから、使徒から貴方の大事な人を確実に守れるわ!」
「うん。ありがとう」
シンジはアスカが弐号機を自慢する為に見せたのでない事を悟った。
(アスカは不器用だけど、優しい娘だよなあ)
シンジがアスカの事を再認識していると、爆音と共に船が大きく揺れた。
「何事!?」
「使徒だ!」
アスカの疑問にシンジは瞬時に応えると甲板に走っていく、その後をアスカも追い掛ける。
海上では魚雷攻撃で応戦しているらしく水柱が幾つも確認できた。
「あれが、使徒!」
「駄目だ。魚雷程度ではATフィールドは破れない!」
シンジの横でアスカが他人には見せれない表情で呟いていた。
「チャーンス!」
アスカはシンジを連れて艦橋に戻ると自分の予備のプラグスーツをシンジに渡す。
「これに着替えて!」
「大丈夫。自分のを持参して来たから!」
シンジは紙袋を掲げて見せる。
「流石ね。やるじゃない!」
二人はプラグスーツに着替えると弐号機に乗り込む。
「思考言語は日本語にしてね」
「あっ、そうか!」
シンジの指摘にアスカも思わず別の意味で声が出た。
シンジが素人の中学生だった事を思い知る。
「思考言語、日本語をベーシックに!」
シンジが小さく頷く。
「エヴァンゲリオン弐号機起動!」
アスカは弐号機のシステムを立ち上げると同時に弐号機も文字通り立ち上がった。
「ミサト。聞こえる」
「アスカ!」
「僕も居ますよ」
「シンジ君も居るのね!」
空母の艦長が横で騒いでるのが聞こえるがシンジもアスカもミサトまでもが見事に無視をしている。
「アスカ。出して!」
直後に艦長の一際、大きな声が聞こえたが、またもや、無視をするネルフ一党であった。
アスカが操縦する弐号機は大きく宙にジャンプする。
「ミサト。甲板に外部電源を用意して!」
「了解!」
弐号機は文字通りに海上に点在する艦艇を足場に八艘跳びをして空母の上空まで辿り着く。
「エヴァ弐号機。着艦します」
アスカはシンジやレイにも出来ない巧みな操縦で弐号機を空母に着艦させると外部電源を装着させる。
着艦時に一機数億円の戦闘機が何機か海に落ちたが誰も気にしない。
「来るよ。左舷九時方向!」
「任せなさい!」
アスカが肩のウェポンラックからナイフを取り出そうとするとシンジが制止する。
「どうして?」
「敵を受け止めるのに両手を使うから、ナイフを使う余地は無いよ」
アスカもシンジの意見に納得して素手で敵が来るのを待ち構える。
「それと、足元に注意して。戦闘機用のエレベーターとかあるから!」
アスカはシンジの的確なアドバイスに内心は感心した。
(流石に素人とは言え、三体も使徒を倒した強者だわ!)
アスカが感心している間にも使徒は猛スピードでジャンプして空母の上に弐号機に襲い掛かる。
「なんの!」
アスカは空母の上でジャンプして来た魚型の使徒ガギエルを受け止める。
「ミサトさん。このまま陸にコイツを運びましょう!」
「了解。此方のホームグランドで袋叩きにしてあげましょう!」
「そんな無茶な!」
艦長の叫びを何回目かの無視を決め込んだネルフ一党は空母でガギエルを一路、第三新東京市まで運ぶ事にした。
「シンジ君。向こうに着いたら零号機が敵を抑えるから、その隙に初号機に移乗して!」
「はい」
「アスカは向こうに着いたら、敵を陸地に投げて。出来る?」
「任せなさいよ。ミサト!」
第三新東京市に到着する間は、シンジとアスカの二人は協力して使徒を空母の上に抑え込んだのである。
「コイツ、魚の癖にパワーが有るわ!」
操縦桿を握るアスカの手の上からシンジも手を出してアスカの負担を軽減させる。
「向こうに着いたら、どうやって陸地にあげるつもり?」
「あら、ミサトも言っていたじゃない。投げるのよ!」
シンジは弐号機の何倍も有る使徒を、どうやって投げるのか不思議だったが、アスカの自信のある態度を信用する事にした。
二時間後に空母は第三新東京市に到着したのである。
「アスカ。遠慮なく投げちゃいなさい!」
ミサトの言葉は指示や命令ではなく、アスカを嗾けてるだけである。
「待ってました。喰らえ。ジャーマンスープレックス!」
弐号機はガギエルを両手で掴んだまま後ろに倒れる様にして砂浜にガギエルを投げ飛ばした。
「ジャーマンじゃない。フロントスープレックスだ!」
シンジの無駄に正しい叫びは誰からも無視された。
砂浜に投げ飛ばされたガギエルは待機していた零号機にナイフで尾ヒレの付け根を刺されて地面に縫い付けられた。
更に零号機が馬乗りになりガギエルの頭部にパンチを連打する。
「シンジ君。今のうちに初号機に移乗して!」
弐号機の上空にヘリが現れて縄梯子を投下する。
「じゃあ。後は任せたよ」
シンジはエントリープラグにアスカを残して縄梯子に掴まり待機していた初号機へ搭乗する。
アスカはシンジが縄梯子に掴まり移動した事を確認すると弐号機を空高くジャンプさせる。
「退いて、ファースト!」
弐号機が見事なムーンサルトプレスを披露した後、ガギエルは既に虫の息となっていた。
「零号機と弐号機は初号機のアシストに回って!」
リツコの指示を受けて二人が初号機を見ると初号機がナイフを片手に近づいて来る。
「シンジ君。三枚おろしで良いから」
リツコの指示にアスカは意味が分からなかったが初号機の行動で意味を知った。
「リツコさん。コアはどうします?」
「コアは切り取ってね。内臓もある様なら切り取ってくれたら助かるわ」
感覚はカエルの解剖か。それとも、大物の釣魚を魚屋に持ち込んだ常連である。
初号機は見事なナイフ捌きでガギエルを三枚おろしにしていく。
「見事なもんね!」
皆が使徒の解体ショーに注目する隙に、加持がハリアーで離脱したのに気付くのは、全てが終わった後であった。