新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第17話 第八使徒サンダルフォン

 

 ブリーティングルームに集合したパイロット達に浅間山火口への出撃命令と作戦内容が伝えられた。

 

「今回は使徒の殲滅ではなく、使徒の捕獲を目的とします。その為には火口内にエヴァで潜航する必要があります」

 

 リツコは作戦内容に続き具体的な手順を説明する。

 

「火口に潜る人選はアスカとします」

 

 リツコが人選の発表をするとマヤが補足する。

 

「局地用のD型装備が弐号機にしか装着が出来ないのよ」

 

「エヴァの装備だけで火口に潜るんですか?」

 

 シンジの質問にリツコも苦笑しながら返答する。

 

「本当はハリネズミみたいに色々と装備させたいけど、他には耐熱型のプラグスーツのみね」

 

「その耐熱型プラグスーツを僕の分も用意して下さい」

 

「私も希望します」

 

 シンジとレイの申し出にリツコも再び苦笑する。

 

「こんな事もあろうかと思って、貴方達の分も用意しているわよ」

 

 リツコの傍らで黙って聞いていたマヤは場違いな事を考えていた。

 

(万が一の事を考えたら普通に用意する物でしょうに。先輩。言ってみたい台詞だったんだろうなあ)

 

 マヤは内心の思いとは別にレイとアスカを更衣室に連れて行く。

 

「ねえ。何処が耐熱仕様なの?」

 

「左手首のスイッチを入れてみて」

 

 プラグスーツを着たアスカの問いにマヤが返答する。

 その数秒後、アスカの悲鳴が更衣室に響いた。

 

「何よ。これは!」

 

 色、形から達磨としか形容が出来ない存在が更衣室に誕生した。

 

「ちょっと、レイもスイッチを押しなさいよ!」

 

「私には、まだ、必要が無いから」

 

 レイも思春期の少女だけあって、流石に白い達磨となってシンジの前に出る勇気は無い様である。

 アスカはシンジが青い達磨になっている事を期待してケイジに移動したが、アスカの期待は見事に裏切られた。

 

「ちょっと、シンジも何でスイッチを入れてないの?」

 

「何処がスイッチか知らないから」

 

「シンジ君。左手首のスイッチよ」

 

 マヤがスイッチの場所を教えたがシンジはスイッチを押す気が無い様である。

 

「はあ。友情って、脆いものね。私は世界一不幸な少女だわ」

 

 アスカの不幸はプラグスーツだけではなかった。

 

「私の弐号機が!」

 

 大昔の潜水服か宇宙服の様な姿の弐号機がケイジに鎮座していた。

 

「では、出撃するわよ」

 

 アスカの嘆きを無視してリツコは出撃命令を出すのであった。

 アスカは作戦開始前から精神的ダメージを受けていた。

 アスカのダメージとは関係なく、浅間山火口では作戦準備が進んでいた。

 

「えっ、零号機も此方に来るの!」

 

 自身の作戦とは違う事にミサトも驚きを隠せない。

 ネルフ本部内では、ゲンドウ、冬月に次いで制服組のNo.3のミサトの指示を無視する事が出来るのは前者の二人しか居ない。

 

「司令の命令かしら?」

 

 ミサトの予想は半分当たりで半分は外れた。零号機の出撃命令を出したのはゲンドウだったが、出させたのはシンジであった。

 

「現場の人間から言わせたら、使徒が卵から孵ったら弐号機は、マグマの中で使徒の餌食になるのは確実だよ。1対1より2対1で対応させて欲しい」

 

 ゲンドウもシンジの主張の正しさを認めて零号機を出動させたのである。

 その様な事情を知らないミサトは到着したパイロット達に別の意味で説教する事になる。

 

「遊びじゃないのよ。何でペンペンを連れて来るの!」

 

「だって、全員で此方に来たら、誰がペンペンの面倒を見るのよ」

 

「クワッ!」

 

 アスカの反論にペンペンもタイミング良く同調したので、ミサトも何も言えずに黙るしかなかった。

 指揮車内ではA-17発動で緊張していたオペレーター達もペンペンのタイミングの良さに笑いが込み上げるのを我慢する。

 

(まあ。皆の緊張が解れたならいいか)

 

 パイロット達の無垢な行動が大人達には救いであった。

 ネルフ職員の誰もがパイロット達に罪悪感を持っていた。

 しかし、当のパイロット達が大人達の罪悪感を一時的でも吹き飛ばしてくれるのである。

 

「レーザー照射!」

 

「レーザー照射完了。軌道確保」

 

「エヴァ弐号機発進!」

 

 ミサトの号令により、弐号機がクレーンで吊られて火口の上まで移動する。

 

(UFOキャッチャーの景品みたいだな)

 

 シンジはアスカが知れば怒りそうな感想を持ったが、当のアスカは楽しまなければ損とばかりに能天気な事を言ってきた。

 

「シンジ、レイ。見て。ジャイアントストロングエントリー!」

 

 これには、シンジもレイも苦笑するしかなかった。

 シンジとレイを苦笑させたアスカもマグマの中に入ると笑みが消える。

 温度調整システムを最大にしても深度が増すと同時に温度が上昇するのである。

 

「熱いわねえ。プラグスーツの中は汗だらけよ。早く終わらせてシャワーを浴びたい!」

 

「終わったら温泉に行きましょう。近くにいい温泉があるわ。そのつもりだったんでしょ。最初から!」

 

「 分かる?」

 

「分かるわよ。ペンペンまで連れて来たら」

 

 ミサトが一人暮らしをしていた時から同居していたのだ。二日や三日程度の放置には慣れているのだ。

 

「でも。ペンペンを一人だけにするのが可哀想なのは本当よ」

 

 ミサトは発露したアスカの根の優しさ微笑んでしまう。

 

「限界深度を超えました。葛城さん!」

 

「あと少し潜りましょう」

 

「今度は人が乗っているんですよ!」

 

 日向が流石に制止する。

 

「私が責任を取ります」

 

「大丈夫よ。日向さん。潜っている本人が言っているから!」

 

 日向もアスカ本人が言っているので引き下がるしかなかった。

 更に潜航すると足に装着していたナイフと固定したベルトが熱と圧力により弐号機から失われる。

 全員が作戦の続行を諦め掛けた時に日向の声が指揮内を緊張させる。

 

「パターン青。反応ありました」

 

 リツコがアスカに技術的な説明をして注意喚起をする。

 

「アスカ。お互いに対流に流されてるから、チャンスは一度だけよ」

 

「了解。任せなさい!」

 

 言葉通りにアスカは天性の勘を見せて使徒を捕獲した。

 

「お見事!」

 

 アスカが使徒を捕獲して引き上げられる最中にも、シンジとレイは緊張をしていた。

 レイは零号機が装備している、ソニックグレイブを火口に投擲するタイミングを図っていた。

 シンジも軌道確保に使用したレーザーで火口から援護射撃が出来ないかと考えていた。

 そして、シンジとレイが恐れた事態が起こり始めた。蛹の状態から羽化が始まったのだ。

 予兆もなく突然の事に反応が出来ない大人達を尻目にレイがソニックグレイブを火口に投げ込む。

 

「アスカ。キャッチャーを捨てろ!」

 

 シンジの鋭く強い声にアスカも反射的に従う。

 

「キャッチャー破棄!」

 

「弐号機の引き上げを急いで!」

 

 ミサトも瞬時に指示を出すが、他の指示を出せないでいた。

 

「アスカ。レイがソニックグレイブを投げたわ。受け取って!」

 

 ミサトの声にアスカは返事をする暇もなかった。羽化したサンダルフォンが弐号機に猛烈なスピードで突撃して来たからである。

 

「バラスト放出!」

 

 一撃目はなんとか避けたがサンダルフォンはマグマの中とは思えないスピードで泳ぎ回っている。

 

「視界は悪い。敵は速い。おまけに熱い!」

 

 アスカの背中をマグマの中であるのに冷たい汗が流れる。

 

「アスカ。届くわよ!」

 

 零号機が投擲したソニックグレイブを弐号機が受け取る。D型装備のマジックハンドでは振り回す事が出来ないが、突きや薙ぎ払いくらいは出来るだろう。

 

(少しずつ弐号機は上昇している。火口表面近くに行けばシンジやレイの援護も期待が出来る)

 

「アスカ。正面よ!」

 

 指揮車からミサトがサンダルフォンの位置を指摘してくる。

 

「そこか!」

 

 弐号機が突き出したソニックグレイブとサンダルフォン自身の正面突撃の勢いでサンダルフォンはソニックグレイブで串刺しにされた。

 

「チィ、コアは固くて破壊が出来ないか!」

 

 それでも、アスカはサンダルフォンの動きを止める事に成功した。

 サンダルフォンは串刺しにされても自由な両手を使い弐号機の命綱とも言える冷却パイプに手を伸ばしかけた。弐号機より長いサンダルフォンの両手を払い退ける手段は弐号機には無い。アスカは背筋が凍るのを実感して目を閉じた。衝撃が連続した。

 

「アスカ。使徒の両手の様子を報告して、此方からは末端部分はモニター出来ない!」

 

 リツコの声にアスカが目を開けて指示通りにサンダルフォンの両手を確認すると付け根から消えている。

 

「無いわ。使徒の両手がなくなっているわ。何で?」

 

 アスカの疑問に返答する余裕はリツコにもミサトにもなかった。

 初号機は軌道確保用のレーザーを持ちミサトの指示で移動している。

 リツコはモニターから送られるサンダルフォンの位置データと火口の形からMAGIでレーザーでの狙撃ポイントを割り出すのに忙しかった。

 

「シンジ君。胴体部には致命傷は与えられないけど、怯ませる事は出来るわ」

 

 初号機がレーザーでサンダルフォンの両手を撃った事がリツコの通信でアスカは理解した。

 

「アスカ。効いている?」

 

「駄目。効いてないわ!」

 

 アスカが報告した直後、再び弐号機に衝撃があった。弐号機が急上昇しているのである。

 

「今度は何よ?」

 

 今度は零号機が引き上げ用のモーターを無理矢理に回した結果である。

 

「ちょっと、Gが!」

 

 弐号機とサンダルフォンにGが掛かる最中、突然に変化が起きた。

 サンダルフォンが急に膨張したと思ったら、粉々になって消えたのである。

 

「パターン青。消滅。使徒、殲滅しました」

 

 マヤの宣言を聞きながらアスカは何が起きたか分からないままだった。

 

「まあ。生き残れたみたいね」

 

 この時に唯一、アスカに分かる事であった。

 

 

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