新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第19話 第九使徒マトリエル

 

 シンジは送迎中の車の後部座席から、ゲンドウに携帯で電話していた。

 

「来年以降の進路の三者面談があるんだけど」

 

「お前の学校生活から全てを葛城君に一任している」

 

「ミサトさんも忙しいだろ。部下にプライベートな事まで押し付けるのは駄目だろ」

 

「お前の言う事も一理はあるが、」

 

 通話中に電話が切れてしまった。

 

(来たな!)

 

 シンジは横で話を聞いていたレイに目だけで合図するとレイも無言で頷く。

 レイは携帯を取り出して電話を掛ける。

 

「どう。綾波?」

 

「駄目。繋がらない」

 

 二人の会話を聞いていた助手席のアスカが振り返って会話に加わる。

 

「何が駄目なの?」

 

「その、携帯が繋がらないんだ。アスカは?」

 

「二人の携帯が繋がらない?」

 

 アスカも携帯を出して掛けるが繋がらない様子である。

 

「これ、おかしいわ!」

 

 運転していた警備部員も車を止める。

 

「携帯だけじゃないぞ。見てみろ。信号機も消えている!」

 

 言われて窓の外を見てみると交差点の全ての信号機が消えている。

 

「全員手摺りに掴まってくれ。本部まで飛ばすぞ!」

 

 急発進した車内で、運転手の警備部員も含めて対策会議を開く。

 

「何か事故か事件が起きているのは間違いないわ」

 

 アスカが会議の口火を切った。

 

「問題は何が起きているかね」

 

「携帯電話が使用不能になり、信号機も消える」

 

 シンジが起きている現象を確認する。

 

「停電ね」

 

 レイが事実を口にする。

 

「しかし、停電となると事故ではなく、人為的な現象だな。この街は使徒と戦う為に作られた街だから、何重にも停電対策をしている。事故で停電したとは考えにくい」

 

「リツコが実験に失敗した可能性は?」

 

「……」

 

 アスカの失礼な発言に警備部員が否定も肯定もしないのは、リツコへのネルフ職員からの評価が分かる。

 シンジとレイは事実を知る者として、リツコの濡れ衣を晴らそうと思ったが出来なかった。

 

「もし、リツコが犯人じゃなかったら、誰が停電を起こしたの?」

 

 アスカの疑問は当然の疑問である。

 

「エヴァだけじゃなく、ネルフはハイテクの集合体だから狙う連中は沢山いる。君達を狙う連中もいるから気をつけてくれ」

 

「はい」

 

 三人が異口同音に返事をすると同時にネルフ本部の出入り口まで到着していた。

 シンジ達がネルフ本部に入った頃、日向はコインランドリーで洗濯物を回収した帰りであった。

 

「葛城さんも本当にズボラだな。自分の洗濯物ぐらい自分で取りに行けばいいのに。シンジ君の苦労が忍ばれる」

 

 愚痴を言いつつも惚れた弱味でミサトの制服を運ぶ日向である。

 この時点では、日向はネルフ本部の異変を察知してなかった。

 そして、日向が徒歩で駅に向かっていた頃、ネルフ本部は混乱の極みであった。

 

「生き残った回線は?」

 

「全ての回線を含めて1.25%です!」

 

 発令所内を大声で会話する状態であった。

 

「全ての電力をセントラルドグマとMAGIに回せ!」

 

 叫ぶ冬月に青葉が全館の生命維持に支障が出る事を進言する。

 

「構わん。セントラルドグマとMAGIが最優先だ!」

 

 照明代わりの蝋燭を中で生き残った回線をマヤが探している。

 

「駄目です。正、副、予備の全ての回線が落ちています」

 

「保安部と警備部は非常警戒体制を取れ、整備部と営繕部は回線の復旧を急げ」

 

 矢継ぎ早にゲンドウが指示を出す。

 

「碇。パイロット達はどうする?」

 

「問題無い。シンジ達は既に本部の異変を察知している筈だ。今頃は送迎車で此方に急行している」

 

 ゲンドウの予想した通りに、この直後に警備部の送迎車が発令所に入って来た。

 

「非常事態により、パイロットを発令所まで直接に連れて来ました!」

 

 車からパイロット達が降りて来る。

 

「パイロット達はプラグスーツに着替えて待機せよ」

 

 ゲンドウはシンジ達に指示を出すとリツコにミサトの行方を尋ねる。

 

「分かりません。本部に居るのは確かです。何処かに閉じ込められてると思われます」

 

「そうか」

 

「ふむ。葛城君が不在の今、復旧までの間に使徒が来なければ良いが」

 

 冬月の危惧が現実化したのは数分後である。日向が選挙カーで使徒進攻を知らせたのである。

 

「冬月、ここを任す。私はケイジでエヴァの発進準備をする」

 

「手動でか?」

 

「緊急用のディーゼルがある」

 

「もう、若くないのだから、無理をするな」

 

「ああ」

 

 そう言い残すとゲンドウは盥から足を出して靴下と靴を履き、タラップを下りて行った。

 エヴァの発進準備が部署を超えてネルフ職員達が人力で進めている最中に作戦部の長であるミサトも危機に瀕していた。

 

「こんな長時間の停電は異常だわ。ここを脱出しないと!」

 

「発令所には、碇司令に副司令もいる。赤木もいるから、葛城が居なくとも心配ないだろ」

 

 エレベーターに一緒に閉じ込められた加持がミサトの焦りを宥める。

 

「それだけじゃないわ」

 

「他に何が」

 

「さっきから、トイレを我慢していたの。もう限界に近いわ」

 

「マジ!?」

 

 流石に顔を赤くするミサトの切迫した事態に顔を青くする加持であった。

 ミサトと加持が被害としては軽微だが危機に瀕していた頃、ケイジではエヴァの発進準備が完了していた。

 

「エヴァ、拘束具を実力で除去!」

 

 三体のエヴァが拘束具を自力で動かして行く。

 

(また、コストが……)

 

 冬月が呟いていたが聞こえた者も聞こえなかった事にした。

 

「非常用バッテリー搭載完了!」

 

 リツコがハンドスピーカーを手に号令を掛ける。

 

「エヴァ全機。出撃!」

 

 三体のエヴァは出撃を始めた射出口をよじ登り、途中からは水平方向へと匍匐前進をする。

 

「格好悪い!」

 

 アスカが嘆いたが使徒が直上まで来ているのである。格好悪くとも急がなければならない。

 

「この先の穴を出れば地上だよ!」

 

 先頭を行く初号機の中からシンジがアスカを慰める。

 

(さて、この先からは上から溶解液が降って来るけど、その前に辿り着けるかな)

 

 シンジの心配は的中した。縦穴を登っている最中に第九使徒マトリエルが溶解液を落としてきた。

 

「溶解液だ!」

 

 シンジが叫んで後方のアスカとレイに注意を喚起する。

 シンジは初号機を両足だけで縦穴に固定して、ATフィールドを斜めに展開して溶解液を縦穴の一部分だけに集中して流す。

 零号機も両足だけで縦穴内で自身を固定させると手にしたライフルを初号機に投げ渡す。

 初号機はライフルを受け取ると頭上のマトリエルに乱射した。

 マトリエルは至近距離からの攻撃を受けて力尽きた。

 

「ナイスコンビネーション!」

 

 最後尾から初号機と零号機の連携プレーを目撃したアスカが素直に称賛した。

 

「私とでは、こうは行かないわね」

 

 アスカが人の悪い笑みを浮かべて意味深な発言をする。

 

「そうね。私と碇君だもの」

 

「レイ。あんたね」

 

 レイの惚気とは自覚しないままの惚気にシンジはエントリープラグの中で赤面するのであった。

 

 6時間後、第3新東京市に人工の光が甦る。星空を眺めていたパイロット三人の眼下では街に光が広がる光景が展開される。

 

(今回は大した対策も取れないでいた。事前に起きる事が分かっていても、僕の力では僅かな事しか出来ない。次の使徒は前回と同じ戦法しかない。これから先が不安だな)

 

 シンジが自身の無力さを痛感しているとレイがシンジの手を握ってきた。

 シンジがレイに視線を向けるとレイは頷きながらシンジに笑顔だけで語り掛けてきた。

 

(大丈夫。少しずつだけど前回よりは確実に改善しているわ)

 

 シンジは握られた手を握り返す事で自分は一人ではなかった事を伝える。

 そう。シンジ一人では無いのだ。今、自分の横には最大最強の協力者がいるのである。

 そして、見つめ合う二人に気付いた一人の少女が声に出さないまま神に縋っていた。

 

(神様。私にも幸福を下さい!)

 

 更に不幸な一組の男女がネルフ本部に居た。

 男の肩車でエレベーターから脱出を試みた女は結局、トイレには間に合わずに男の肩に漏らしてしまう。

 肩車をした男は漏らされて上着とシャツをシャワー室で自身の体と一緒に洗濯をしていた。

 更に2日後、全身が筋肉痛の為に湿布を体中に貼り付けた男が筋肉痛と戦いながら被害報告をゼーレにする事になる。

 

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