頭を下げるミサトに加持は憮然とした顔をしていた。
「葛城三佐殿。子供達に飯を食わせる金も無いとは、どういう事なんですか?」
加持が他人行儀な事から、本気で怒っている事がミサトには分かっているだけに、下げた頭を更に下げる事になる。
「ほら、車の車検代が思っていたより、高くついてね」
「それなら仕方がない。俺も日本に戻って来て色々と揃えるのに余裕が無いからなあ」
加持にしたら、ミサトの年齢と役職から車検程度で子供達に食事を奢る金に困る事は無いとは分かっているが、上司であるミサトから頭を下げられては無下には出来ないのである。
「来月には耳を揃えて返してくれよ」
財布から数枚の札を出してミサトに渡す加持であった。
ミサトが加持に頭を下げていた頃、リツコはサハクイェル戦の分析をしていた。
「先輩。これは、一体?」
マヤがモニターを見て顔を青くしている。
「初号機のATフィールドが尋常でない事は納得が出来るけど、問題は零号機と弐号機ね」
リツコが指摘したのは初号機のATフィールドに零号機と弐号機のATフィールドが同調している事である。
(初号機はリリスのコピー。それにアダムのコピーである零号機と弐号機と同調するとは!)
「ATフィールドが同調して強化されるとは!」
エヴァや使徒、ATフィールドは謎ばかりなのである。
その、謎ばかりの物ばかりで、戦いをしているのが現状である。
「初号機のATフィールドに同調して零号機のATフィールドも強化してます。更に弐号機も加わり三機のエヴァのATフィールド全体を強化されてます」
マヤも分析結果の意味も分かるので驚きも大きい。
「今回は半球状に展開して使徒の爆発のエネルギーを上空に逃がしてます」
「形状まで変えるとはね。何でも有りね」
「でも、これからの使徒との戦いでは強力な武器になりませんか?」
現実問題として、事前に想定した家屋の被害も小さいのである。
「使徒だけならね」
ATフィールドだけでも、軍事技術としては価値がある。
ましてや、パイロット達が未成年となれば長い年月と費用を掛けてパイロットを育成する必要もない。
「マヤ、一度、休憩してから、同調するプロセスから調べましょう」
リツコとマヤは売店で買ってきた、カップ麺とサンドイッチの夕食を始めるのであった。
冬月は夕食のカップ麺のうどんを一口啜り、顔をしかめる。
「松本で仕入れたものか?」
セカンドインパクト以前は京都に在住していた冬月には松本から仕入れたカップ麺は塩辛く感じてしまう。
「ああ。そうだな」
ゲンドウのカップ麺は冬月のカップ麺より、出汁の色が明らかに薄い。
「碇。それは?」
「自前で用意していた物だ」
「な、何だと。碇。お前という奴は!」
冬月同様にゲンドウもセカンドインパクト以前は京都に在住していたので、食事は全般的に薄口である。
そして、ゲンドウは以前にも南極行きの経験があり、南極行きの艦内の食事に関しても知っていたので事前に用意していたのである。
ならば、南極行きが初めての自分に助言なり忠告くらいしても良いものを。
冬月はゲンドウの性格を知りながらも腹が立ったが、カップ麺ごときで喧嘩するのも、恥ずかしいと思い我慢して、夕食を再開するのであった。
ミサトに金を貸した事を加持は後悔していた。
「万札かと思っていたら、五千円札だったか」
ミサトに札を渡す時に一万円札を残したつもりが五千円札だったのだ。
自家用車の駐車場代を払うと財布の中身は空に近くなる。
「仕方ないが自炊するか」
加持は米を研ぎ炊飯器を早炊きにセットすると、買い置きの非常食を漁る。
「おっ、缶詰があったぞ!」
スパムを薄切りにカットして塩胡椒をして下味を付ける。
小麦粉をまぶしてフライパンで焼き、キャベツを敷いた皿に盛り付ける。
即席の味噌汁に少しだけチューブニンニクを入れると米が炊き上がる。
飯茶碗に飯を盛り付けて、スパムに醤油を垂らす。
「いただきます」
行儀良く手を合わせるのは、アスカの手本となる為につけた習慣である。
「もう少し水を入れた方が良かったかな」
一人での夕食だが、加持はミサトより家事のスキルは有るようであった。
加持に自炊をさせた原因を作ったミサトはアスカとステーキハウスで無言でステーキをカットしていた。
「綾波。あーん」
シンジがレイに肉を切って食べさせている。
「はい。碇君」
次はレイがシンジに肉を切って食べさせている。
アスカはミサトの向かいに座り、シンジがミサトの財布の中身を心配してラーメンでもとの主張を却下した事を後悔していた。
「あんた、ばか?」
アスカはお決まりの台詞の後に自身の説を主張した。
「ミサトの金欠病は毎晩の晩酌が原因なんだからね。ここで散財させてビール代を使わせるのがミサトの健康のためよ!」
この主張は、逆行前よりも酒量が増えた事を知るシンジには効いた。
「それに、レイも肉を食べれる様になってきたんじゃない。良い訓練にもなるわよ」
この主張にシンジも納得してステーキハウスでの晩餐になったのだが、まさか、ステーキハウスでもバカップルっぷりを発揮するとはアスカも想定外であった。
目の前で無表情でステーキを切り続けるミサトを見ると、ミサトが酒を飲む理由が分かった気になるアスカであった。
(加持さん。ミサトを助けてあげて!)
アスカとしたら、哀れな独身女を救えるのは加持しか居ないと確信したのだ。
若い自分にはチャンスがあるがミサトと結婚する奇特な男性は加持しか思い浮かばなかったのである。
アスカからミサトを救う候補から外された日向は青葉と二人でネルフ本部の食堂で食事をしていた。
メニューは二人とも野菜炒め定食にジャンボサラダである。
二十代半ばの二人には肥満とは無縁に思えるが、座り仕事が多い二人は慢性的な運動不足とビタミン不足の自覚があった。
「最近、葛城さんが残業する事が多くて、仕事のチェックが厳しいんだ」
日向の愚痴に青葉も自身の愚痴を口にする。
「自分も副司令が不在の時は、副司令の仕事が回ってきて大変なんですよ」
ゲンドウは家庭人として完全な落第生だが、管理職としては優秀で細かい所まで口煩いのである。
冬月はゲンドウの口煩い性格を把握していて、部下からの書類は全てチェックしていたが、冬月が不在の間は青葉が代行しているのである。
自然とデスクワークが多くなり、運動不足となるのである。
「ふう。碇司令か冬月副司令かの、どちらかが居てくれないと困るな」
日向の危惧はミサトの三佐昇進という形で対処されているが、日向の仕事量の減少には貢献してないのが現状である。
逆にミサトの三佐昇進の影響をモロに受けた者もいる。
「クワッ!」
ペンペンは自分の餌皿に山盛りのイワシと傍らに置かれたビールを前に喜びの声を出していた。
イワシを食べながら器用に嘴で缶ビールの開封してビールの穴に嘴を入れてビールを飲んでいる。ペットは飼い主に似るとは事実の様である。
ミサト達が帰宅すると、ペンペンは居間で大の字になって爆睡していたのである。
ビールを飲んで爆睡しているペンペンを見てパイロット達は飼い主であるミサトに冷たい視線を向ける。
流石に子供達の視線に耐え兼ねたのかミサトは晩酌をせずに自室に逃げ込んだ。
子供達は順番に入浴すると昼間の疲れが出た様でベッドの住人となった。
夜半、ミサトが盗み酒に起き出すと、ベランダでシンジとレイの二人が月を眺めていた。
(あら、まあ。シンちゃんもやるじゃない!)
ミサトは軍人としてのスキルを発揮して二人の会話が聞こえる位置まで移動すると既にアスカが身を隠していた。
二人は無言で互いの出歯亀行為について、無言で了承する。
「碇君。まだ、考えてるの?」
「いや、もう考えてないよ。綾波は?」
「私も考えられないわ」
若い二人は苦笑して肩を寄せ合う。
「僕達が考えても、ミサトさんやリツコさんの作戦を超える事は出来ないよ」
「そうね」
「僕は綾波さえ無事なら、それで満足だよ」
「私も碇君さえ無事なら満足よ」
(私は?)
二人の会話を聞いてアスカは色々な意味で口に出来ない思いを心で叫ぶ。
「でも、万が一の事もあるわ」
「大丈夫。ミサトさんやリツコさんがいるから、僕は大丈夫だよ。今も、ここに居る」
ミサトは流石に良心が咎めたのか、アスカを促して自室に戻った。
そして、シンジとレイの会話は続いていた。
「次の使徒は二人に任せるしかないわ。でも、その後の使徒は……」
そこで、言葉に詰まったレイがシンジに抱きついた。
「大丈夫だよ。まだ、時間はある。ゆっくり考えよう」
シンジは抱きついてきたレイを抱き締めて強敵である使徒について考えた。シンジとレイの関心は既に第十一使徒イロウルではなく、第十二使徒レリエルにあった。