朝の葛城宅のキッチンでは、少女二人が朝食と弁当作りに勤しんでいる。
「レイ。これで、良いかな?」
「大丈夫だと思う」
二人の美少女が色々と思案しながらも、料理をする光景は美しいが、当人達は必死であった。
話は数日前のネルフ本部の食堂に遡る。
「流石にミサトも加持さんと別れた後、何人かと付き合ったでしょう」
「付き合ったけど、結婚まで至らなかったのね」
アスカのミサト擁護とも言える発言にレイは冷たく現実を突き付ける。
「まあ。当然と言えば当然だろうね」
シンジが訳知り顔でお茶を啜りながらレイの発言を支持する。
「シンジに何が分かるのよ!」
「だって、ミサトさんは料理が壊滅的に下手だもん」
シンジはフェミニストが聞けば逆上する様な事を言う。
「前時代的な発言ね。今時、料理の腕前程度で女性を判断するなんて!」
アスカの立ち上がっての主張は食堂に居合わせた女性職員達の耳にも届いていたので、女性職員達は心の中でアスカに声援を送っていた。
「逆に言えば料理も出来ない女性とは結婚を考えるよ。アスカだって、ミサトさんと結婚して、死ぬまでミサトさんの御飯の面倒を見れる?」
アスカが殴られた様によろめいた。其処にシンジは追い打ちを掛ける。
「それに、外食や買ってきた物ばかりだと不経済だし健康にも悪いよ」
アスカは、既にノックアウト寸前のボクサーの様であった。
「だからミサトさんみたいに美人で公務員のエリートが、性格も良いのに売れ残るんだよ」
「ぐわっ!」
シンジの言葉はポジトロンスナイパーライフル並みの破壊力でアスカを完全に叩き伏せた。
アスカは伝説の某ボクサーの様に椅子に腰を掛けて、真っ白になって沈黙してしまった。
その余波は食堂に居合わせた女性職員達とパイロット達と一緒に食事を摂るつもりで食堂の入り口まで来ていたミサトにも回復困難なダメージを与えたのである。
ネルフはエリートの集合体である。そして、エリートとは料理が苦手なものである。それは、掃除や洗濯に比べて知識だけでは成り立たずに経験が必要だからである。
このシンジの発言が効いたのか、ネルフ職員の間には男女区別なく料理ブームが到来するのである。
この様な事情でアスカは毎朝の食事と弁当作りに必死なのである。
そして、アスカが毎日、学校で昼休みにシンジとレイと一緒に弁当を食べていても誰も怪しむ事はなかった。
「でも、シンジ。相談をするのに大袈裟じゃない?」
アスカが自作の弁当を食べながらシンジの発案に疑問を呈した。
「何処で盗聴されてるか分からないし、学校なら、人が多いから安心だよ。それに、食堂で言った事は本当だよ」
レイは二人の会話を聞きながら、弁当に夢中である。
「それで、今度の使徒にはATフィールドで干渉した瞬間にN2兵器を爆発させるリツコの策を優先して使うわよ」
アスカが自身の不利を自覚して真面目に本題の話を始める。
「それで、倒すのが理想的なんだけど」
「第二の策として、私が弐号機で飛び込むわ」
アスカの策をシンジが快く思わずに止めているのだが、アスカが頑として譲らない。
「だって、シンジは自分のママに会えたんでしょ」
「はっきりと会った訳じゃない。存在を感じただけだよ」
アスカが自身の母親に会いたいという気持ちはシンジも分かるので、アスカがディラックの海に飛び込む事に反対しながらも止める事が出来ないでいた。
「シンジも生還したんでしょ」
アスカの主張は一理も二理もある事を頭で理解しているのだが、感情が納得しないままである。
シンジとアスカが第十二使徒対策で色々と話している間、レイは全く無言である。レイにしてみれば親友となったアスカが自ら死地に行く事を止めたいが、アスカを止めればシンジが行く事が確実な為に何も言えないでいた。
シンジもアスカもレイが自分達の板挟みになっている事が分かるから、レイには何も意見を求める事はなかった。
結局は、アスカの案を採用するしか無いのである。
そして、遂に第十二使徒レリエルの来襲である。
「直上にいきなり現れました!」
「パターンオレンジ。ATフィールドの反応はありません!」
「どういう事なの?」
「新種の使徒?」
「MAGIは判断を保留してます」
発令所は軽いパニックになっていた。使徒は常に形状や能力が違うが、共通するのはATフィールドを持っている事である。
そのATフィールドの反応が無い使徒となると困惑しながらも警戒せざるを得ない。
ミサトはパイロット達にデータを送ると指示を出した。
「全員に送ったデータが現時点で判明している事です。警戒しながら可能な限り接近する。可能ならば市街地に誘導します。先行する一機を残りが援護、よろしい?」
「はーい、先生!試しに市街地から遠距離射撃してみない?もし、反撃してきても市街地なら被害も少ないし、敵の攻撃手段も分かるわ」
アスカの進言にミサトも数瞬だけ考えるとアスカの策を採用した。
(そうね。上手く行けば市街地に誘導が出来るかもしれないわね)
「アスカの策を採用します。全員。海岸まで移動して、移動後に改めて指示を出します」
ミサトからの新しい指示に従い三機のエヴァは海岸に移動を開始した。
「アスカも一端の軍師じゃない」
「そうね。シンクロ率ではシンジ君に一歩譲るけど、格闘能力と戦術眼は一番ね」
リツコは苦笑してしまった。ミサトの表情は上司の部下を評価するものではなく、単なる親バカの表情であったからである。
「貴女、いい教師になれるわよ」
リツコに皮肉を言われた自覚も無いまま、ミサトは既に海岸での布陣を考えていた。
(海岸には電源が少ない。一機を海上に配置して両翼にエヴァを配置するしかないか)
発令所では既に海岸に電源車と武器の搬送の手配を始めていた。
(事実上のオフェンスである中央には反撃されても回避能力の高いアスカを配置して、使徒を挟む形になる両翼には、コンビネーションの良さを考えたら、シンジ君とレイを配置するのがベストでしょうね)
エヴァが海岸に到着すると海上にある廃ビルの屋上を足場に待機させて、シンジとレイを砂浜に待機させる。
空から見れば二等辺三角形を形成する布陣であった。
「アスカ。足場は大丈夫?」
「足場は大丈夫みたいよ」
「スナイパーライフルで狙撃した後に反撃して来たら逃げて。敵の攻撃方法を知りたいわ」
「了解」
「シンジ君とレイは敵が反撃して此方に接近するまでは手を出さないで。敵が三角形の中に入ったら三方から袋叩きにしてあげて!」
ミサトはパイロット達に作戦を伝えると国連軍にも協力を要請する。
「国連軍には沖合いから艦砲射撃による援護要請するわ」
ミサトは日向が国連軍に協力要請の手配をする間に敵の様子を報告させる。
「目標。先程より僅かに減速しながらも移動をしてます。進行方向に変わりありません」
青葉からの報告を受けるとミサトは弐号機から狙撃した場合に、被害が少ないと思われる場所を特定させる。
「出ました。この位置になります。幹線道路同士の交差点の上になります」
「到達時刻は?」
「約十八分後になります」
「アスカ。データを送るから、その位置に目標が来たら狙撃して」
「了解!」
アスカに指示を伝達すると初号機と零号機の兵装の確認する。
「初号機、零号機にはパレットライフルを持たせています。それと近接戦闘を考慮してソニックグレイブを用意してます」
「バズーカも用意して頂戴。市街地じゃないなら周囲の被害も考慮しないでいいわ」
「了解しました。十分で用意します」
(さて、準備は終わったわ。問題は目標の反応ね)
ミサトは目標の形状から第5使徒ラミエルと似た様な攻撃手段を予想していた。
(此方の思惑に乗ってくれたら良いのだけど)
攻撃を受けた目標が此方に向かって来る保証は無いのである。
(どちらにしても、敵の攻撃手段を知らないと話にならないわね)
「目標。狙撃位置に入ります」
「アスカ!」
「任せなさい!」
アスカが射った弾丸は空中に浮かぶ球の中心部が存在していた空間を通過した。
アスカが狙撃した瞬間に目標が消えたのである。
「な、!?」
「パターン青。場所は弐号機の足元です!」
アスカは攻撃方法を事前に知っていた為、反射的に逃げようとしてビルを蹴ったがジャンプに失敗した。
ビル自体が黒い空間に飲まれて、反動を得られなかったのだ。
「アスカ!」
零号機がディラックの海を迂回して弐号機のアンビリカルケーブルを命綱代わりに引っ張り弐号機を救出するつもりで走り出す。
初号機は零号機と反対側から陽動を兼ねてパレットライフルで弐号機の頭上にあるレリエルに発砲するがレリエルは再び姿を消す。
零号機がアンビリカルケーブルに辿り着いた時には既に弐号機の姿はディラックの海に消えた後だった。
「シンジ君。レイ。命令よ。撤退しなさい」
ミサトの怒りを抑えた声が残ったエヴァのエントリープラグのスピーカーから流れた。