新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第26話 四人目の適格者

 

 残業で深夜に帰宅したミサトは一日の疲れを癒す為に、可愛い家族の寝顔を見るのが習慣になっていた。

 我ながら所帯染みた習慣だと思っていたが、最近は癒しではなく自虐となっていた。

 

(今日もかしら?)

 

 ミサトは帰宅後、レイの部屋を覗くとレイの姿はなかった。

 凡人ならシンジの部屋かと思うであろうが、彼の部屋には誰もいない。

 そして、アスカの部屋を覗くと三色の頭髪がベッドに並んでいるのが見えた。

 端からシンジ、レイ、アスカである。

 

(やっぱり、今日もなのね)

 

 アスカが生還した際に三人で病院のベッドに寝て以来、習慣付いた様である。

 流石にシンジまで一緒に寝るのは如何なものかと思うのだが、止めさせる事が出来ないミサトであった。

 実際に三人共、誰かを抱いて寝たり抱かれて寝たりする経験が無かった為か、仲良く気持ち良さそうな寝顔を見ると何も言えなくなる。

 ミサトを保護者として悩ませている裏には、実は深刻な事情もあった。

 シンジはネルフという組織を信用していなかったが、諜報活動に関しては信用していた。

 実際、逆行前の世界では加持がダブルスパイを行った結果として落命している。

 ゲンドウが葛城宅の盗聴を指示しても不思議では無い。

 その為に盗聴防止として、三人で同じベッドに寝て布団を被り相談したりしていた。

 勿論、ミサトの思い込みも事実であった。

 

「あんた達の記憶が正しければ、今週辺りで、アメリカ支部が消滅する頃じゃないの?」

 

「うん」

 

「そうね」

 

 シンジとレイの声は暗かった。二人にとっては忌まわしい記憶であった。

 

「でも、レイが知っている話だと、鈴原がパイロットになったのは妹さんの為でしょ?」

 

「そうだね」

 

 レイが視線でアスカに「余計な事を」と牽制する。

 

「レイ、そんな顔する必要ないわよ。こっちの世界じゃシンジが頑張ったから、鈴原の妹さんも無事だったわけだし、パイロットになんかならないわよ」

 

 レイは、何故アスカが敢えてトウジの妹の話を持ち出したのか理解した。

 シンジはアメリカ支部消滅の事を気に病んでいる。勿論、シンジに責任が無い事は彼自身も理解しているが、感情的に割り切れずに無力感に囚われている。

 アスカは、トウジと妹のサクラを救った実績がある事をシンジに告げたいのである。

 

「そうだね。パイロットが居なければ、ダミープラグを使う事になると思うけど、開発の方は進んでるの?」

 

「前の世界よりは進んでるわ。前の世界の時は試運転も無しに本番で急遽の使用だったから。」

 

 シンジが逆行してから、第三新東京市の被害は軽微である。予算も時間も余裕が出来ている筈である。

 

「それなら、参号機のパイロットはダミープラグじゃないかしら?」

 

「そうだね。ケンスケも、前の世界ではパイロットになりたがっていたけど、此方のケンスケはパイロットになる事を怖がると思うよ」

 

 シンジの視線がレイに向かうのにアスカは気づいた。

 

「レイ。あんた何をしたのよ」

 

 レイは視線を明後日の方向に向けて惚ける。

 

「正直に言わない悪い子は、こうよ!」

 

 アスカがレイを擽り始めた。

 

「アスカ。や、やめ、て!」

 

 シンジも面白がってくすぐりに参加したので、レイは素直に自白した。

 レイから事情を聞いたアスカは白い目になり「レイ…おそろしい子ッ!」と呟いた。

 三人の意見は参号機の試運転にはダミープラグが使われるだろうと結論に達した。

 後日、三人は、この事を苦く思い出す事になる。

 

 平和な日々が暫く続くと思われたが、シンジ達の期待は翌日には裏切られた。

 シンジの活躍の恩恵はアメリカ支部も受けていた。

 

「駄目です。全ての連絡方法を試しましたがコンタクトが取れません!」

 

「第一支部に連絡しろ!」

 

「アメリカ政府と日本大使館にも連絡をとれ!」

 

 ネルフ本部では使徒来襲並みの緊張感に包まれたのである。

 

「消滅!?壊滅ではなく消滅なのか!?」

 

 一応の情報を収集する事が出来たのは、その日の夕方であった。

 

「アメリカ政府から提供された映像と報告書になります」

 

 床に設置された巨大モニターには、アメリカ第二支部消滅の寸前の映像と直後の静止画が映し出された。

 

「タイムスケジュールでは、S2機関の搭載実験中の事故と思われます」

 

「こりゃ、テロの可能性も低いですね」

 

 日向は、マヤの読み上げる報告書と映像から、事故の可能性を示唆した。

 

「半径83Kmにある関連施設と数千の人間も道連れよ。」

 

 リツコが科学者が最も恐れる事を指摘する。

 

「ドイツで修繕したS2機関も無駄になったわね」

 

「人類の夢も潰えたわ」

 

 ミサトはS2機関に関しては複雑な心境であった。

 その後に、アメリカ政府からエヴァ参号機の委譲が決定した事を伝えられて各人で準備をする様にと指示を受けた後に散会となった。

 

「委譲と言えば聞こえは良いけど、都合が悪くなって他所に押し付けるなんて虫の良い話だわ!」

 

「仕方ないわ。あの惨劇の後なら、誰だって弱気になるわよ」

 

 ミサトはS2機関の事もあるが、軍人同士の縄張り意識も働き機嫌が悪い。

 

「それで、起動実験はどうするのよ?」

 

「流石に此処ではしないわよ。松代でするわ」

 

「例のダミーを使うのかしら?」

 

「これから、検討するわ」

 

 この時、既にダミープラグは完成しているが完璧とは言い難い出来であった。

 

「レイのパーソナルを移植していますが、所詮は偽物です。レイ本人が操縦する程の成果の期待は出来ません」

 

「エヴァが動けば良い」

 

 報告を受けるゲンドウはお茶を濁す程度の代物で構わないと考えていた。

 リツコにすれば、ゲンドウの考えも理由も理解していたが、科学者としての矜恃が許さない。

 

「では、参号機の起動実験に使用します」

 

「いや。ダミープラグの完成を老人達には、まだ、伏せておきたい」

 

「では、パイロットは三人の内の誰にしますか?」

 

「エヴァが四機にパイロットが三人では戦力の死蔵になる。四人目を選ぶか」

 

「コアの確保が速やかに出来る子が居ます」

 

「詳細は一任する」

 

「分かりました」

 

(これで、また、大人の都合で不幸な子供が増えるわね)

 

 リツコは不幸な子供を作る事の共犯である自覚を込めて自嘲するのであった。

 

 翌日、シンジ達は教室で昼食を摂っていた。

 アメリカ支部が消滅したのと連動してクラスからパイロットが選出されるのではと、一応の警戒をしていた。

 三人が昼食を摂り終えた後に雑談をしていると校内放送が流れた。

 

「2年A組の鈴原トウジ君は至急、校長室まで来る様に」

 

「なんかやったの?」

 

「職員室飛び越して校長室ってか…マジで洒落にならんぞ、おい!?」

 

「待たんかい!最近は、何も、しとらんぞ。」

 

 トウジは青くなりながらも教室を出て行く。

 その後ろ姿をパイロット三人は複雑な表情で見ていた。

 トウジが帰って来たのは昼休みが終わるギリギリの時間だったので、三人は放課後に彼と話をする事にした。

 放課後、三人がトウジに話し掛けるより先に彼自身が三人に話し掛けてきた。

 

「すまん、話があるんやけど……」

 

 三人は一階の階段下にトウジを連れて行く。

 

「すまん!申し訳ない!」

 

 階段下に着いた途端、トウジが頭を下げてきた。予想外の事に三人は驚いた。

 

「ちょっと、鈴原。どういう事よ?」

 

 アスカが一同を代表してトウジに事情を聞く。

 

「あぁ、すまん。昼休みに来たネルフの金髪のおばはんにな、パイロットになれとか言われたんやけど…サクラが心配やったから、断ってもうた。」

 

 パイロット達の顔色が青くなり、トウジは自分がパイロットを断った事に対する反応だと判断した。

 

「碇だけやない!惣流や綾波みたいに女も戦っとんのに、ホンマすまん!」

 

 アスカがシンジとレイに促されて頭を下げるトウジに自分達の事情を説明する。

 

「鈴原。私達は逆にパイロットになるのを止める気でいたのよ」

 

「へえ!?」

 

「私達も、鈴原には妹ちゃんの方を大事にしてほしいって思ってたからね。」

 

「それより、鈴原君は重大なミスを犯しているわ。赤木博士の事を、おばさんと呼んでは駄目。命の保証が無いわ」

 

 レイの意外な発言にトウジも驚くばかりである。レイの後ろでシンジとアスカが大きく頷いている。

 これが、発言者がアスカなら悪い冗談だとトウジも信じなかったが、真面目なレイの発言だけあって、信用するしかなかった。

 

「あの、お、赤木さんは怖い人なんか?」

 

「赤木博士の目の前で言えば殺されるわ」

 

 「経験者は語る」、である。赤木博士違いではあるが。

 

「それから、トウジも分かってると思うけど、本当は僕達にも秘密の筈だろ?」

 

「確かに、言われたわ。せやけど、お前らにワビ入れんと気がすまんかったんや!」

 

 三人はトウジの律儀さに苦笑するしかなかった。予想通りにトウジが断ったので安心したのは、中学生である三人には無理からぬ事であったが、ネルフは三人が思っている程に甘くはなかった。

 

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