新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第27話 風は松代へ

 

 トウジがパイロット就任を断った事で、パイロット三人組は喜んだが、翌日の夕方に状況は逆転する。

 

「あれ、リツコさんは?」

 

「先輩は今朝から出張よ」

 

 シンクロテストには必ず立ち会っていたリツコが不在となるとシンジ達は不安になるしかなかった。

 その日は、例により三人でベッドの中で会議した結果、他にもパイロット候補がいるという結論になった。

 

「甘かったなあ。まさか、他にもパイロット候補がいるとはなあ」

 

「もう、過ぎた事は仕方がないから、参号機が使徒に乗っ取られた時の対策を練りましょ」

 

 アスカが前向きな意見を言う。

 

「飛び道具はエントリープラグに当たる可能性があるから、使わない方が良いと思うわ」

 

 レイが早速、経験から意見を出す。

 

「それなら、電池も積んだ方がいいよ。前回は三人でバラバラに仕掛けたのが敗因だから」

 

「使徒に乗っ取られた参号機の能力を具体的に教えて!」

 

 三人は具体的な参号機対策の話を始めた。

 レイは、アスカを仲間にした事は大正解だったと思う。

 自分もシンジも過去に未練を持つタイプである。

 自分にはアスカの様に過去は過去として、未来に対する布石にする事が出来ない。

 自分やシンジには無いアスカの貴重な性質である。

 

(前の世界では、羨ましがるだけで、アスカの美点を見逃していたわ)

 

「ちょっと、レイも教えなさいよ!」

 

 アスカが何も言わなくなっていたレイに意見を求めた。

 

「アスカ。好き!」

 

「はあ!?」

 

 レイの突拍子の無い発言にアスカとシンジが面食らっているとレイはアスカに抱きつく。

 

「ま、待って。そんな趣味は無いわよ!?」

 

「綾波って、初めて会った時から、分からない部分が多かったけど、今でもわからないよ」

 

「んな悠長なコト言ってる場合か!!」

 

 レイが暴走した為に、結局翌日の昼休みに改めて会議をする事となった。

 

「まあ。パイロットが戦闘のシミュレーションをするのは当然だよな」

 

 シンジ達は、机の上で消しゴム三個を置いて、筆箱を使徒に仮想してフォーメーションを考える。

 

「やっぱり、オフェンスが二人にディフェンスが一人かな」

 

「そうね。ディフェンスがケーブルを守りながら、オフェンスと交代で参戦するのが理想ね」

 

 シンジの意見にアスカも賛成する。

 

「問題はディフェンスの位置ね。遠ければ交代の時に隙が出来るわ」

 

 レイが更に具体的な話を切り出す。

 

「オフェンスと連絡を取りながら、交代に適した場所までディフェンスが移動するしかないでしょ」

 

「第九使徒戦で使った電池も装備した方がいいと思うよ。当日、連絡があった時に言ったら大丈夫だと思う」

 

 パイロット達が第十三使徒対策に一致団結していた頃、大人達は内輪揉めをしていた。

 

「馬鹿な私でも、参号機が来るタイミングでフォースチルドレンが発見されるなんて偶然とは思わないわよ!」

 

 ミサトがリツコに詰め寄っていた。

 

「当たり前でしょう。誰だって、子供を死地に送りたい人間なんて居ないわよ。適格者を発見しても出来るだけ普通の暮らしをさせたいのが人情よ。」

 

 リツコが冷静に反論する。

 

「貴女、以前にアスカはエヴァに乗る事にプライドを持ってると言ったけど、世間では洗脳と言うのよ」

 

 リツコは反論だけでなく、強烈な一撃をミサトに浴びせた。

 リツコの言葉にミサトは何も反論が出来ない。軍人であり復讐者のミサトには自身の罪を直視する余裕がなかったのである。

 リツコは沈黙するミサトを見て、大学時代の恩師の言葉を思い出していた。

 

「赤木君。君は私より豊かな才能を持っている。いずれは私などが足元にも及ばない科学者になるだろう」

 

 大学院時代に既にリツコの才能は評判となっていた。

 

「しかし、我々、科学者は常に歴史を学ばなければならない。才能が巨大になる程に歴史を学ばずに理想を追い求めて、ロバート・オッペンハイマー博士の様に歴史に悪名を残す事になる」

 

 当時のリツコには陳腐な説教だと思われたが、今の自分を見ると価千金の忠告だったと思う。

 今、思えば恩師はセカンドインパクトの真相に気づいていたかもしれない。

 

「明日から松代で起動実験をするわよ。泊まり込みになるから、貴女も準備しときなさい」

 

 内心の思いとは別に事務的な事を口にするリツコであった。

 

 

「それじゃあ。四日間だけ出張に行って来るから、留守番を頼むわよ。一応は加持が来てくれる事になっているから」

 

 翌日の朝、ミサトは加持にパイロット達の事を頼むと松代に向かった。

 道中にフォースチルドレンのプロフィールに目を通す。

 ミサトの顔が段々と険しくなってゆく。

 

「リツコ。これは?」

 

「書いてある通りよ」

 

「嫌な時代ね」

 

「私は鈴原君がパイロットを断ってくれた事を感謝しているわよ」

 

 ミサトもリツコの意見に賛成していた。セカンドインパクトから15年の歳月が流れたが世界は完全に復興していない。

 そして、何時の時代も一番の被害者は子供である。

 

「ネルフが良心的な組織に思えるわね」

 

 皮肉にならない皮肉だとリツコは思ったが何も言わずにいた。

 

(私が何を言っても、所詮は偽善ね)

 

 その日の夕方、加持はミサトが言っていた家庭内精神汚染に呆気に取られる事になった。

 

「ほら、綾波。秋刀魚を食べる時は骨に気をつけないと」

 

 シンジが器用にレイの焼き秋刀魚から骨を抜き取る。

 問題は距離である。レイの背中越しにレイの手に自分の手を重ねているのである。

 

「その、アスカ。毎日、こんな感じなのか?」

 

 加持が小声でアスカに質問するがアスカは予想外の返事をする。

 

「今日は加持さんが居るから、遠慮してる方よ」

 

(葛城。お前も苦労していたんだな)

 

 加持は、ミサトさえ辟易としている二人に動じないアスカに対して感心を覚えたが、就寝時間になるとレイを挟んで三人で寝ているのを目撃して頭を抱えたのである。

 

(アスカよ。お前もか!)

 

 加持に日頃の苦労を押し付けたミサトはというと、自室でリツコと晩酌をしていた。

 話題はフォースチルドレンの事である。

 

 

「あの子のパイロットになる条件は大学卒業までの学費と生活費の負担よ」

 

「あのプロフィールには実父の事が記載されてないけど」

 

「母親自身も誰が父親か分からないのよ」

 

 流石にミサトも黙るしかなかった。それと同時に目の前の偽悪趣味の友人が情に強く脆い事も知っていた。

 

「可哀想に私が面談した時も怯えていたわ。

周囲の大人が薄情だったんでしょ!」

 

 遠回しに一緒に生活するなら、優しくしろと言われている事ぐらいはミサトにも分かるのである。

 

(私が虐待する人間に見えるのかしらね)

 

 シンジが逆行する前に家事をアスカと共に押し付けた事を知らないミサトである。

 因みにシンジ主導によるミサト再教育計画が進んでいる事はパイロット達しか知らない。

 

「まあ、零号機も以前より動ける様になったし、参号機のパイロットには、ゆっくり訓練を受けてもらいましょう」

 

 現状では三機のエヴァで対処が出来ている。四機目のエヴァも実戦に投入するには、使徒と戦う前に予算との戦いがあるのだ。

 ミサトの言葉には参号機委譲に対する政治的な問題も含まれている。

 

「そうね。また、シンジ君には苦労を掛ける事になるわね」

 

 エヴァのパイロット達のチームワークもシンジが要になっている事は、ネルフ職員達の共通認識である。

 

「その為にも、起動実験は成功してもらわないと」

 

「そうね。その為にも、今日はお開きにしましょう」

 

 リツコが部屋を出て行くとミサトは残ったビールを一気に飲み干した。

 

 

 三時限目が終わり、生徒たちが四時限目の準備をしていると、三台の携帯が同時に鳴り響いた。

 シンジ達パイロットが急いで帰り支度を始める。

 

「非常呼集だ。校庭に車を待たせている」

 

 警備部の春日が教室まで現れた。春日の声には今までに無い緊張感が混じっていた。

 送迎車に乗り込んだシンジが詳細を聞く。

 

「春日さん。今回は何処に使徒が現れたんですか?」

 

 パイロットを代表したシンジの質問に対する春日の返事は簡潔であった。

 

「松代」

 

「ミサトさん達は?」

 

「葛城三佐、赤木博士は行方不明。使徒はエヴァ参号機を乗っ取り、此方に進行中」

 

 技術部と作戦部の長である二人が行方不明なのである。春日が何時になく緊張している筈である。

 シンジは春日に必要な事を聞くと日向に電話する。

 

「日向さん。忙しいところ、すいません。今回は松代という事なので、エヴァに電池を積載して下さい!」

 

 春日は運転しながらも驚きを隠せないでいた。この少年は場所を聞いただけで電源の確保が困難と判断したのだ。

 シンジは、エントリープラグ内に囚われた、おそらく自分達と同じ年頃であろうパイロットに責任を感じていた。

 本来ならネルフに関わらずに平凡な日常を送れた筈である。

 シンジ達によるトウジのパイロット就任の妨害工作の結果なのである。

 

(絶対に助ける!)

 

 シンジは声に出さずに誓うのであった。

 

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