新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第31話 参号機、初陣

 

 ゼルエルの強烈なビームが発射されて、参号機の盾は半分が消滅した。

 発令所にいたマヤはスクリーンを直視する事が出来ずに顔を背けたが、予想していた悲嘆の声ではなく、驚嘆の声が発令所を満たした。

 マヤは不思議に思い、スクリーンに目を向けると、再び予想外の光景が視界に飛び込んで来た。

 参号機が半分になった盾の下の部分を持ち、極端な低姿勢でゼルエルに突撃していた。

 参号機はゼルエルの攻撃を読んで盾を身を守る為ではなく、身を隠す為に使ったのである。

 

「なんて器用な!」

 

「駄目よ。帰って来たら叱ってあげないと」

 

 ヒロシの行動に感心するリツコと真面目に怒るミサト。

 日向は、背後での上司の会話を聞き、「普段とは逆だな」と思ったが口にする事はなかった。

 そして、参号機に騙された形のゼルエルは二回目のビーム攻撃は出来なかった。

 参号機が急接近した為に間に合わなかったからである。

 ゼルエルは肉眼でも確認が出来る八角形のオレンジ色の壁を出現させて参号機の突撃に対抗する。

 オレンジ色の壁と元SSTOの低部を挟んでゼルエルと参号機の力比べとなった。

 ゼルエルも自身でATフィールドを展開しながら、その内側でビームを発射する自爆行為はせずに触手を八角形の壁の外側から大きく迂回させて、参号機の背後を狙う。

 上空から見ればアルファベットのM字の形を作ろうとしている様に見えた事だろう。

 

「ヒロシ君、避けて!」

 

 最早、指示でも命令でもないミサトの叫びに、ヒロシも今度は素直に従い、その場にしゃがみ込んだ。

 参号機がミサトの叫びを聞くと、その場にしゃがみ込むのであった。

 そして、参号機が一瞬前まで居た空間をゼルエルの触手の槍が通り過ぎ、参号機の盾と自身のA.T.フィールドを貫通して自らのコアへ向かっていく。

 直撃寸前に硬い殻(シールドガード)がコアを覆って、触手の槍を受け止めた。

 その光景を見た人間は脳内で「矛盾」という単語を思い浮かべた。

 今回は参号機の盾と自身のA.T.フィールドで勢いを減じた為か、矛ではなく、盾の勝利となった。

 

「駄目だったか!」

 

 ヒロシは最初からゼルエルの自爆を狙っていたが目論見は見事に外れたらしい。

 

「まだだ。まだ終わらんよ!」

 

 参号機はゼルエルのA.T.フィールドに縫い付けられた盾を手前に引っ張り、縦方向に半回転させると、次は横方向へ何かのハンドルの様に回転させ始めた。

 先程と比べて上空からは見るとM字だったのが、左右の触手が捻れて、逆さのY字になっていた。

 二本の触手が捻れて合わさりゼルエルの眼前に来る様に参号機が位置を調節しているのでビーム攻撃も封じた形だ。

 更に参号機が盾を回し続けると二本の触手は捻じ切れてしまった。

 触手を失ったゼルエルは、唯一の武器となったビーム攻撃で参号機に報復を図るが、事態を見守っていた三機のエヴァに後ろ向きに引き摺り倒されてしまう。

 ゼルエルのビームは虚しくも再び空に吸い込まれてしまった。

 しかしゼルエルは諦めずにビーム攻撃を行おうとするが、目に光が宿った瞬間、参号機の抜き手が目に突き刺さった。

 

「秘技、つぼぬき!」

 

 ヒロシが叫ぶと発令所にいるミサトやリツコは「つぼぬき」という単語が何を意味するか分からなかったが、シンジだけが反応した。

 

「綾波!アスカ!使徒が動かない様に押さえて!」

 

 レイとアスカは、ヒロシの叫びやシンジの指示の意味は分からなかったが、シンジを信じて従う。

 三機のエヴァが防御の必要もなく全力でゼルエルを押さえている間に参号機は、ゼルエルの目に突き刺した抜き手を更に深く押し込んで行く。

 最終的には参号機は腕の付け根までゼルエルの体内に潜り込ませる。

 

「碇先輩、手伝って下さい!」

 

「了解!」

 

 腕の付け根までゼルエルの体内に潜らせた参号機を初号機も手伝って、一回転、二回転させる。

 

「綾波!アスカ!そのまま押さえてて!」

 

「じゃあ碇先輩、いきますよ!」

 

「わかった!」

 

 参号機がゼルエルの体内に入れた腕を引き抜き始めた。

 腕を引き抜く参号機の体を引っ張る形で、初号機が補助する。

 結果は、2015年のテレビ放送ならモザイクが必要な光景となった。

 参号機が、ゼルエルの内臓を掴み、引き摺り出したのである。

 参号機の肘から内臓が絡み付き、臓器を鷲掴みした手をスクリーン越しに見ていた発令所では嘔吐する人間も何人かいた。

 

「カメラの位置を切り替えて!」

 

 最初は呆然としていたミサトも嘔吐する人間が現れると慌てて指示を出す。

 スクリーンには、内臓を抜かれたゼルエル、そしてゼルエルを押さえつけている零号機と弐号機が映される。

 

「パターン青、消滅しました……」

 

「エヴァの回収と洗浄の準備を、それと使徒の死体の処理を急いで!」

 

 日向の報告に素早くミサトが指示を出す。これほど、真摯に実行された命令も珍しかった。

 発令所のスクリーンは切られて黒い画面になった途端に安堵の声を出す者もいた。

 

「ヒロシ君、圧倒的じゃないか!」

 

 自分の仕事部屋のモニターで観戦していた加持が感想を口にする。

 

「この想定外の戦力は、ゼーレの老人達も黙ってはいませんよ、碇司令」

 

 加持と同様の事を冬月も口にしたが、ゲンドウは笑うのみだった。

 

「問題ない。初号機さえ確保していれば良い」

 

「しかし、今、ゼーレに介入されるとシナリオが狂うぞ」

 

「老人達に何が出来る。使徒がいる間は何も出来んよ。所詮はシナリオ通りだ」

 

 加持と冬月の危惧が杞憂となるか現実化するのかは、この時点では予想はつかないままである。確実に言える事は本来の歴史より、ネルフ本部の被害は皆無であり、女子職員の一部の人間に強烈なトラウマを残したという事である。

 

 そして、その一部の人間に該当しなかった二人の女子職員が、洗浄されている参号機を眼下に会話をしていた。

 

「あの時、ヒロシ君が叫んでた『つぼぬき』って料理用語らしいの」

 

「料理用語?」

 

 料理は食べる専門のミサトには初耳の話である。

 

「魚や鳥の内臓を取り出す技法の事らしいわ」

 

「初耳だわね」

 

「そうなの。釣りする人も使うらしいわ」

 

「シンジ君は知っていたみたいだけど」

 

 自身が中学生以下だと気づいた二人は、阿吽の呼吸で話題を変える事にした。

 

「そう言えば、話題のヒロシ君は?」

 

「さっき、きつく叱ったら泣いちゃったわ。今、アスカが慰めてる」

 

「へえ、あのアスカがね」

 

 リツコはマヤから聞いた噂話をミサトの耳に入れるか迷ったが、結局は黙っておく事にした。

 リツコも色々と背徳行為を行っているが、その程度の倫理観はあったらしい。

 

「ほら、そんなに泣く事じゃないわよ」

 

 ミサトに叱られて泣いているヒロシをアスカはまるで姉の様に慰めていた。

 根は優しい性格である。弐号機内で母親の存在を感じてからは少しずつ本来の優しさが出てきた印象である。

 そんなアスカを見ていたシンジは自身の戦闘センスを考え直していた。

 

(元から戦いのセンスがあるとは思ってなかったけど、今日の事で使徒に対しての戦いに固定観念が出来ていた事が分かった)

 

 横に居るレイも同じ考えだったらしく、シンジの顔を見て無言で頷く。

 使徒に対して固定観念の無いヒロシは柔軟に対応してゼルエルを倒したのである。

 何時の間にか自分達は使徒に対して固定観念を持っていた様である。

 倒すべき使徒は、あと二体である。次の使徒が現れるまで1ヶ月以上の時間がある。

 それまでに色々と考えて対策を取る事が出来る筈である。

 それと同時にミサトに料理を教え、加持との交際を考えてもらう。加持に危険な行為は控えて貰うことも重要だ。彼の望む情報は、既にシンジが握っている。加持が命を捨てる必要はない。

 本来なら歴史に関わる事のない参号機とヒロシの介入で、シンジの知る未来とは変わった可能性が出てきた。

 それが、シンジの目指す未来に繋がるのか、それとも事態を悪化させる事になるのかは分からないままである。

 取り敢えず、確定した未来は、ヒロシが泣くほど叱りつけたミサトの晩酌を抜きにする事である。

 既に、朝の寝起きのビールと朝シャワー後のビールは禁止している。

 当然と言えば当然な措置であるが、ミサトの受難はバカップルの害とは別に暫く続く様である。

 

 

 

 

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