新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第32話 大人と子供

 

「では、参号機の凍結解除も不可抗力だと君は主張するのかね。碇君」

 

「第十四使徒は強敵でした。18枚の特殊装甲を一撃で貫通する程の強力な遠距離攻撃能力に兵装ビルを瞬時に両断する近接攻撃能力を持っていたのです。パイロット達がジオフロントへの侵入を阻んだだけでも称賛するべきでしょう」

 

 ゲンドウの主張は本音であり、事実だったのでゼーレの老人達も、それ以上は文句も言えない。

 

「しかし、参号機の戦力はネルフが持つには強大過ぎないか」

 

「参号機に関しては我々も想定外です。本来なら起動実験は終了し、パイロットも戦闘訓練を終えているはずでしたが、例の一件の為に起動実験もままならず、戦闘能力は未知数でした」

 

 ゲンドウが遠回しに参号機受け渡しの不備を責める。

 

「分かった。碇よ、君の主張が正しいようだ。それと、予算については時間が掛かるが配慮しよう」

 

 立体映像が消えると呆れた顔をした冬月がいた。

 

「参号機の事で逆に噛みつくとは思わんかったよ」

 

「ふん。事実だ。一歩間違えれば、我々は赤木博士を失っていた」

 

 ゲンドウの主張は、ネルフという組織が技術開発部に依存している事の証明であった。

 

「それと、技術部から予算申請の要望書が届いているぞ」

 

 金額を見るとゼーレの老人達と陰険漫才をする前に見たかったと思う数字であった。敵は使徒とゼーレだけではなかった。

 ゲンドウは、ゼーレの老人達を相手にした方が楽だと思えた。

 

 ゲンドウからゼーレの老人よりも強敵と評されたリツコの方はと言うと、不眠不休で作業に当たっていた。

 原因はゼルエル戦でのエヴァの被害である。致命的な被害は無いがエヴァの装甲のあちらこちらに使用に耐えても戦闘に耐えられない損傷があった。

 

「あの触手の攻撃を紙一重とは言え避けたりしてたんだから、装甲に傷が入るのは当たり前よね」

 

 リツコは、自分を慰めるかのように呟いていた。

 

「触手で傷が入った部分に、爆風の余波を受けて傷口が広がっていますね」

 

 そんなリツコにマヤが被害の詳細を報告に来た。

 

「ドイツへの発注は済んだの?」

 

「はい。既に来週の頭には予備が届く事になっています」

 

「その間は使徒に来て欲しくはないわね」

 

「一応は交換した装甲も修復してますが、予算は別にしても時間が掛ります」

 

「そう。報告はそれだけ?」

 

「はい。以上です」

 

「それなら、3時間程仮眠を取るから、仮に司令やミサトが来ても追い返して頂戴!」

 

「了解しました!」

 

 鬼気迫る迫力にマヤも反射的に直立不動の姿勢で敬礼してしまう。

 

 リツコが疲労の極みに居た頃、ミサトも同じ有様であった。

 

「関係各省からの苦情に兵装ビルの被害と修復計画会議と改善計画会議と……後は何があるの?」

 

「それと、参号機パイロットの訓練計画と連動訓練の計画立案をお願いします」

 

 流石に日向に割り振る事の出来ない仕事ばかりである。

 日頃から残業していた為に仕事は少なくなっている筈であった。

 

「使徒に殺される前に過労死するわ!」

 

 ミサトがネルフ本部に泊まり込んでいる間、ヒロシの引っ越しから転校の手続きは加持が代行する事になった。

 そして、引っ越しの1日目だけ葛城宅の居間で寝たのだが、2日目の夕方には仕事を盾に逃亡した。賢明な判断であった。

 シンジとレイのバカップルに加えてアスカに甘えるヒロシの姿も葛城家の日常風景になっていた。

 アスカもヒロシに甘えられると邪険には出来ず、つい甘やかしてしまうのである。

 

(葛城…仕事が一段落しても地獄が待ってるぞ!)

 

 加持が逃亡した翌日、数日ぶりに帰宅する贅沢にありつけた日向は、ミサトの洗濯物を葛城宅に届けた際、パイロット達から夕食に招待されたのだが、上司が帰宅拒否症になる理由を理解した……

 

 技術部も作戦部もゼルエル戦の後処理で忙しい為に、シンクロテスト等も延期が決まり、パイロット達は意外な余暇を手にする事が出来た。

 

「折角だから、四人で何処かに遊びに行かない?」

 

 アスカの発案に、シンジとレイも意外な事に賛成した。

 一つは難敵だったゼルエルとの戦いが予想外の小さい被害で済んだ事に対する安堵と、ヒロシの歓迎会も兼ねている。

 更に言えば、ヒロシの戦いぶりを見て、ネルフ色に染まり柔軟な思考が出来なくなっていたことを自覚した為、自分達の意識をリセットすることも兼ねていた。

 

「警備部の都合も考えて、近くの山へのピクニックが手頃だと思うけど」

 

「そうだね。それがいいね」

 

「私は碇君さえ居れば何処でもいいわ」

 

「僕もアスカ先輩が居るなら何処でも構いません」

 

 レイは別にして、ヒロシまでがアスカに対してレイ化している。

 アスカも真正面からヒロシに言われると気恥ずかしいのと同等の嬉しさがある。

 ヒロシにしたら、アスカは優しく頼りになる姉貴分だと思えたのだろう。

 

「じゃあ。決まりね」

 

 それから、四人で色々と相談をして計画を立てたのである。

 四人が各自で弁当を用意して、当日に品評会をする事にした。

 その際に、常夏の日本では当たり前だが、シンジが食中毒予防の注意をした。

 翌日、警備部の車でペンペンも連れて近場の山に出かけたのである。

 

「近くに駐車場とトイレがあり、綺麗な池もあるなんて、こんな穴場があったんだ!」

 

 シンジが驚くのは無理も無い話である。このキャンプ場は、逆行前の歴史だと、サキエル戦の時に、初号機のキックで砕けた使徒の身体の一部が落下した為に火事となり閉場していたのだ。

 消火した後に雨などで地崩れしない様に植林したのである。

 キャンプなどに興味の無いシンジが知る筈もなかった。

 

「アスカ先輩は、よくこんな場所知ってましたね!」

 

「敵を知り己を知れば百戦、殆からずと言うでしょ。それを実行しただけよ」

 

「アスカ、凄いわ。私は加持一尉とのデート場所を探したのかと思ったわ」

 

「……レイったら。私は、そんな不謹慎な人間じゃないわよ」

 

(なんて、鋭いの。レイ、恐ろしい娘!)

 

(図星だったみたいね) 

 

(アスカ。今の間は自白しているのと同じだよ)

 

(アスカ先輩は真面目だなあ!)

 

 約一名だけ、アスカの戯言を信じた人間がいた。

 ペンペンは池を見ると喜んで泳ぎ回る。

 

「おーい、ペンペン!お前もペンギンなら自分でメシ獲ってみたら?」

 

 ヒロシがペンペンに向かって叫ぶと、ペンペンは一声鳴いてから水中に潜った。

 

「この池、魚がいるの?」

 

「さっき、魚影が見えたから居ると思うよ」

 

「何か捕まえたわ!」

 

 どうやら、ペンペンも野生を少しだけ取り戻した様である。

 

「そろそろ、お弁当にしましょう!」

 

 どうやら、ペンペンの食事を見て刺激された様で、アスカが昼食の提案をすると全員賛成したので、レジャーシートを敷いて食事の準備を始めたのだが、レイとアスカが取り出したレジャーシートにはネルフのロゴが大きくプリントされている。

 

「碇先輩。ネルフって、特務機関ですよね?」

 

「うん、そうだよ」

 

「特務機関って、秘密組織ですよね?」

 

「それは、僕も来た時から思ってた…」

 

 ヒロシの疑問は当然といえる。ネルフには、ロゴマーク入りの生活用品等が溢れている。

 

(マグカップに目覚まし時計にタオルにノート…父さんも何を考えているんだろう)

 

 シンジの内心の声とは別にヒロシが更に疑問を提示する。

 

「ヘリコプターにはネルフのマークが入っているのに、エヴァには入って無いのも問題だと思う」

 

「エヴァにはネルフのロゴを入れなくても、エヴァ自体がネルフの象徴みたいなもんだから」

 

 その後、四人は互いの弁当を食べては真剣に論評していた。主にシンジが悪い点と改善方法をアドバイスする。

 レイとアスカの料理の腕も上達している。

二人とも勘がよくセンスもあるので、後は経験を積むだけである。

 昼食を食べた後、弁当作りに朝が早かった為か四人とも昼寝を始めた。

 夕方になり、駐車場で待機していた警備部の春日が迎えに行くと、レイとシンジ、アスカとヒロシが抱き合う様に寝ていた。

 

(こりゃ、作戦課長も家に寄り付かなくなるのが理解が出来るわ)

 

 四人は春日に起こされて、急いで帰り支度を始める。

 

「ペンペン、帰るよ!」

 

 ヒロシの呼び掛けでペンペンも戻り、全員が無事に帰宅すると、シンジが既に用意していたカレーライスの夕食を済ませ、交代で入浴する。その日は各自の部屋に戻り、早めの就寝となった。

 深夜に帰って来たミサトが、それぞれの部屋を見て子供達の寝顔を見た後に、用意されていたカレーライスを肴に帰宅中に買ってきた缶ビールを飲む。

 

(四人の子持ちになった気分だわ……独身なのに)

 

 ミサトは食器をシンクに置くとビールの缶を潰した後にレジ袋に入れてキッチンのゴミ箱に捨てると、その日は布団に潜り込んだのである。

 ネルフが平常業務に戻るには、もう一週間ほど時間が必要であった。

 

 


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