新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第33話 そして、人間らしく

 

 ミサトが久しぶりに帰宅した翌日、加持リョウジも多忙を極めていた。

 エヴァ三機の装甲の発注や兵装ビルの再建と巨大な利権が動けば、不心得者が不祥事を起こすのは当然で、監査官の加持も摘発の日々であった。

 

「兵装ビルなんか使徒に壊されるのは分かっているからな。手抜き工事をしたくなるのも理解が出来ん事はないが…許される事じゃないのにな」

 

 既に一個中隊程の不祥事を摘発した加持は、呆れながらも報告書を整理していた。

 

「チーフ。サードチルドレンが面会を求めてますが、どういたしましょう?」

 

「シンジ君が?」

 

 加持は時計を見ると既に退勤時間を過ぎている。

 

「こんな時間に訪ねて来るとは?」

 

(葛城かアスカと何かあったのか)

 

 内心は口に出さず、加持はシンジとの面会を口実にその日の仕事を終わりにした。

 

「シンジ君が俺を御指名とは珍しいねえ」

 

 二人は加持の西瓜畑に来ている。

 

「ここなら、盗聴の心配も無いでしょうね」

 

 これには、加持も苦笑するしかなかった。ネルフは自分が思った以上にシンジから信用をされていなかったらしい。

 

「まあ、ここは大丈夫だよ。保証するよ」

 

「では、本題に入ります。危険なバイトを辞めて下さい」

 

 一瞬だけ、加持の表情が変わるが、苦笑いで誤魔化した。

 ミサトがシンジに話すとも思えない、ましてゲンドウなどは論外である。

 シンジが一人で辿り着いたとは思えないが、辿り着いたと考えるべきなのだろう。

 

(我ながら中学生にバレる程度だったとは、間抜けな話だな)

 

 加持は自身の諜報行為の稚拙さに内心苦笑するしかない。

 

「加持さんが居なくなればミサトさんが泣く事になります。加持さんが知りたい事は僕が知っていますので命を粗末にしないで下さい」

 

 この発言には加持の表情も変わらざるを得なかった。

 

「シンジ君。君は何を何処まで知っているんだ」

 

「それは、加持さんがミサトさんを引き取る事を約束してくれたら話しますよ」

 

(結婚じゃなく、引き取りか!?)

 

「分かった。葛城を泣かすのは俺の本意じゃない。シンジ君が真実を教えてくれるなら、葛城の事は男として責任を取るさ」

 

「でも、僕が教えても、本当の事なのか、加持さんの事だから裏付けを取るでしょうから、その必要が無い様に、少しだけ真実を教えておきますね。次の使徒は鳥の様な使徒で宇宙空間から精神攻撃してきます」

 

「そうか。それ以上は聞かない事にする。それから、次の使徒が来るまでは俺も大人しくしておくよ」

 

「ありがとうございます。それとは別に、ミサトさんの相手もして下さいね」

 

「ああ。仕事が一段落したら食事にでも誘うよ」

 

 加持はシンジと別れた後にゼーレからの指令を多忙を理由に断った。

 

「冗談じゃない。表の仕事も忙しくて、そんな暇はありませんよ。それに、今の時期に副司令を誘拐するなど、ネルフ本来の使命が果たせません!」

 

 更に何かを言い募るゼーレの老人に数枚の書類を見せる。

 

「これは?」

 

「御覧の通り、兵装ビルの落札に関しての談合の証拠と、これから検挙する人間のリストです」

 

 加持が差し出した書類にはゼーレと個人的な関わりを持つ者も少なくなかった。

 

「少しは、私の仕事を減らす配慮をして欲しいですな!」

 

 ゼーレの老人達も、身内の不祥事とその後の業者選定となると、加持の主張にも首を縦に振らざるを得なかった。

 

「分かった。ネルフに余裕が出来た時に計画を実行してくれ」

 

「ご理解して頂き助かります!」

 

 ゼーレとはいえ全能ではなく、不正を働く人間を無くす事は不可能なのである。

 ゼーレの老人達も身内の不正に頭を痛めるのであった。

 

 一方、加持をはじめとした特殊監査部の働きにより、兵装ビルの談合から手抜き工事まで数社摘発される事になっていた。

 加持の仕事に抜かりはなく、裁判でも確実に有罪となるであろう。

 ゼーレの老人達も苦々しく自分達の息が掛かった企業が摘発されるのを傍観していた。

 

「まあ。下手に隠蔽すれば自分も巻添えを食うからなあ」

 

 一方、ミサトとリツコも発注業者の摘発で全ての計画を見直す事になったのは災難としか言いようが無い。

 

「なにを考えてるの。使徒に負けたら自分達も破滅するのに!」

 

 吠えるミサトを横にして、リツコも納入された備品のチェックに余念がない。

 

「エヴァの装甲はドイツ支部で作ったから安心だけど、アンビリカルケーブルやエントリープラグの部品のチェックを急いで!」

 

 この頃、冬月も多忙を極めていた。新しい業者の選定と既に建築された兵装ビルの処分についての見直しと色々仕事が増えている。

 

「碇。新しい業者の選定くらいは受け持て。私は手抜きされたビルの解体と補修に関しての専門家を集めた協議があるんだ!」

 

 面倒な事を押し付けられたゲンドウも、本来は自分の仕事なので、文句も言えずに業者との交渉を始める。

 

「はあ。私の方は問題がなかったけど、ミサトの方は大丈夫なの?」

 

 仕事終わりにミサトに自宅まで送ってもらう途中、リツコは少し聞いてみた。

 

「私の方も全てを副司令が代行してくれたから、予定よりは遅れるけど問題ないわ」

 

「そう。なら、久しぶりに二人でどう?」

 

 リツコが、互いの仕事が一段落した事を祝って誘ったが、珍しい事にミサトは断った。

 

「ごみん。今日は、ちょっち、野暮用があってね」

 

「それは、残念ね。また、今度にしましょう」

 

 リツコは大人の社交辞令と共に車を降りる。

 

「今度、埋め合わせするから!」

 

 走り去るミサトの車を見てリツコは苦笑していた。

 

「仕事が片付いた途端に加持君か。まあ。あの家に居れば当然の結果かもね」

 

 リツコの耳にも二組のバカップルの噂は届いていた。

 

「それか…リョウちゃんも覚悟を決めたのかも」

 

 自分だけが、最後の一人になるのかと思うと悲しくなるが、親友のラストチャンスだと思うと祝福するしかないと再び苦笑するリツコであった。

 

 リツコを苦笑させたミサトは、加持も苦笑させていた。

 

「葛城が誘いに応じてくれるとは思わなかったよ」

 

「私も所詮は女だったのよ。それに、毎日毎日、あの子たちに当てられたら当然よ」

 

 ミサトの愚痴に、実際に葛城家の状況を知る加持が苦笑するわけである。

 

「で?人類補完計画、何処まで進んでるの?」

 

「それが知りたくて、俺と会ってる?」

 

「それもあるわ。正直ね…」

 

「残念ながら、俺も分からん」

 

「碇司令やネルフの行動も?」

 

「こっちが知りたいよ」

 

 付き合いの長い二人のこと、互いの嘘は分かってしまう。

 

「なんだ。加持君も分からないのか」

 

「そうだな。ネルフやゼーレの闇は深いよ。

それより、葛城」

 

「何よ?」

 

「全ての使徒を倒したら、全てを忘れて二人で暮らさないか?」

 

「加持君…それって!」

 

「もう、無駄に危険な事をするよりは、穏やかに生きたくなっただけさ」

 

「そうね。シンジ君達を見ていたら私も危険な橋を渡る意味が分からなくなったわ」

 

「あの子達も不幸な育ちだが幸せを手に入れようとしている。あの姿を見たら大人として過去に拘る自分が情けなくなってね」

 

「そうね」

 

 ミサトは、レイは例外として、シンジ達チルドレンの過去を知っている。

 レイの過去も似たようなものだと見当がつくのである。

 その子供達が戦いに駆り出されながらも必死に幸せを掴む為に生きているのを見ていて、自分が、過去に、父親の呪縛に縛られているのが馬鹿らしく感じてしまう。

 

「全ての使徒を倒したら、誰も知らない土地で二人穏やかに暮らす…それも悪くないわね」

 

 もしかしたら、自分が本当に望んだ物があるかもしれない。想像すると自然に顔が緩んでしまう。

 

(いい笑顔だ。この笑顔を見れるなら真実の追及など馬鹿らしく思える)

 

 加持とミサト。二人の思いが数年ぶりに一つとなった。

 

 ミサトと加持が数年ぶりに思いが一つになった頃、更に若い男女が一つになっている思いを確認していた。

 

「今度こそ、必ず守るから」

 

「そうね。今度こそ守りましょう」

 

 シンジとレイは葛城宅のベランダに置かれているカウチに仲良く身を横たえて夜空を眺めていた。

 一人用のカウチである。シンジは、自分の上に横になったレイが落ちない様に両手を回して彼女を抱き抱えている状態である。

 

「イチャイチャするのに格好つけなくても良いでしょうに〜」

 

 アスカは親友二人の決意を知り過ぎているので、二人が思いを確認していても感動も何もない。

 

(今更でしょう)

 

 そうして、親友二人のバカップルぶりに呆れながらも自身も横に座るヒロシの手をテーブルの下で握りながらテレビを一緒に見ている。

 

「クワッ!」

 

 ペンペンが一声鳴いて自室の冷蔵庫に入る。

 

「おやすみ。ペンペン!」

 

 ヒロシが律儀にペンペンに挨拶を返す。

 もしかしたら、バカップルの一番の被害者はペンペンかもしれない。

 

 

 

 

 

 

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