「今頃になって、エヴァシリーズの建造が急ピッチで進められてるの?」
「そうです。今まではパイロットの問題がありましたけど、ダミープラグの開発に成功した事が量産化に踏み切った理由とされてます」
「でも、今更の話だし、そんな大量にいらないでしょうに」
「ええ。軍事転用するにしても、電源を切られたら五分しか使えないのであれば戦術的にも意味は無い話ですから」
ミサトは日向とジオフロントの公園のベンチで話をしている。
ミサトは加持との将来を共にする事を誓ったが自分が退職するにも、ゼーレの動向を警戒する必要があった。
(加持君もゼーレの目的が分からないままみたいだし、人類補完計画の内容も分からないままだわね)
「ごめんね。危険な事をさせて」
「いえ、貴女だけの為じゃあありません。シンジ君達の為でもありますから」
日向の言う通り、ミサトの中で一番の気掛かりなのがパイロット達の事である。
加持と共に退職した後に残される子供達が心配なのである。
(責任は、取らないとね…)
最悪の場合は子供達を連れて逃亡する必要もあると思っている。
「しっかし、敵は使徒だけじゃないのね。所詮、人間の敵は人間かぁ…救いが無いわ」
ミサトが人間同士の争いが水面下で行われていることを懸念し始めた矢先、警報が使徒の来襲を告げる
「先程から、衛星軌道上で停止したまま、全く動きません!」
「エヴァの発進準備!」
日向の報告にミサトはエヴァの出撃準備を指示する。
「パイロット達は?」
「既に全員が待機してます!」
「宜しい。そのまま待機させて。衛星軌道上の敵は迎撃できないもの。」
「しかし、委員会からは出動要請が出ています」
青葉の声にもミサトは冷淡だった。
「此方が手を出せないのに相手の的になるだけよ。無視して構わないわ!」
事態は膠着状態となり、三日の時が流れた。
「衛星軌道から動きませんねぇ」
日向の意見にミサトも同意するが、動かない敵を動かす策が無いのである。
(此方から近づくにはウイングキャリアしかないけど、それこそ狙い打ちね。使徒の後方から誘導ミサイルで攻撃してもA.T.フィールドで無効化されるのがオチね)
ミサトは焦りを自覚していた。第3新東京市には戒厳令が出されて住民は避難しているが、住民の避難生活にも限界があるのだ。
使徒とミサトの我慢比べであるが、意外な所から膠着状態が破れる事になる。
「ミサトさん。僕達が囮になって、使徒に揺さぶりを掛けてみましょう」
「シンジ君!?」
「僕達が出て、敵が攻撃してきたら逃げますし、近づいてくれたら儲けもんじゃないですか!」
ミサトも同じ事を考えていたが、パイロット達を無駄に危険に晒す事と同義である為に採用しなかったのである。
数瞬の間、ミサトは考えるとシンジの案を採用する事にした。
膠着状態に煩く出撃の要請をする委員会と避難している住民の理解を得る為でもある。
「宜しい。シンジ君の策を採用しましょう。但し敵が攻撃してきたら、すぐに逃げる事!」
「了解しました」
横に居たリツコが耳打ちしてきた。
「本当にいいの?」
「良いも悪いも、此方は人間よ。そろそろ我慢の限界よ!」
発令所に居ても分かる程にネルフ職員の士気が上がっているのだ。
「エヴァ全機発進!」
四機のエヴァが地上に上がると第十五使徒アラエルは太陽を背にしていた。
「四人共、聞いて。此方の攻撃は全て届かないわ。今回は敵の攻撃手段とリアクションの情報を得る為だから、危険だと思ったら、すぐに逃げるのよ!」
「了解」
四人は元気よく、異口同音の返事をするが
ミサトとしたら怪しいのだが…
(本当に分かっているんでしょうね)
ミサトの心配とは別に四機のエヴァはアラエルを警戒していたが反応は無かった。
「ミサト。向こうからすれば、私達の存在に気付いてないと思うわよ」
言われてみれば、使徒の索敵能力が優れていても衛星軌道上から地上のエヴァを認知する事は不可能に思える。
「誘いを掛けてみますか?」
ヒロシが、シンジが言う予定の話を切り出した。
「誘う?」
「そうです。魚も餌を食う気が無ければ、餌を動かして餌の存在を魚に教えてやるんですけど、この場合は石でも投げますか?」
流石に石を投げても届かぬ距離である。届くのはポジトロンスナイパーライフルだけであろう。
「仕方ない…ポジトロンスナイパーライフルで敵を狙撃します。尚、効果は期待が出来ません。狙撃したら、すぐに逃げる事が条件よ」
(問題は誰に狙撃をさせるかだけど、レイとヒロシ君は論外だわ。狙撃後に逃げ切れないでしょうね。そうなれば、シンジ君とアスカね)
結局、ミサトはアスカを選んだ。アスカの反射神経ならば使徒からの攻撃を避ける事も出来ると配慮したのだ。
しかし、シンジとレイは自分が狙撃手になる以上に緊張感を募らせていた。
(この時の攻撃が原因で、アスカは壊れてしまったんだ)
シンジにとって、レイが初恋の人ならば、アスカは憧れの人であった。
全てにおいて、実力に裏打ちされた自信を持ち、常に前向きでシンジには無い強さを持っていた少女であった。
その少女が、シンクロ率で自分が追い抜かれてから壊れ始めた。何事も無ければ、復活したであろう。
実際に、マトリエル戦の後に病室には入らなかったが、シンジを心配して見舞いに来た事もあった。
それに、絶対に墓まで持って行くべき事だが、シンジのファーストキスの相手であり、病院で意識不明の時には犯罪行為と呼べる事をした相手でもある。
あらゆる意味で、シンジが守り抜くべき存在がアスカなのである。
「シンジ、レイ。そんな顔しなくても大丈夫よ!」
事の顛末を既に知っているアスカは気軽に言うが言われた方は素直に納得が出来なかった。
結末を知るシンジとレイ、そしてアラエルの未知なるリアクションを危惧する人々も見守る中で弐号機がライフルの引き金を引く。
ライフルから発射された光の槍は長い距離の旅の末、アラエルの展開するオレンジの壁の前に四散した。
「アスカ!来るよ!」
シンジが叫ぶと同時に虹の柱が瞬時に弐号機を包み込む。
「逃げて!」
弐号機が虹の柱に包まれた瞬間にシンジが叫ぶよりも早く行動をする者がいた。
参号機が弐号機に全力の体当たりをして、弐号機を虹の柱から弾き出す。
「アスカ!」
「宗谷君!」
「ヒロシ君!」
「ヒロシ!」
初号機が弾き出された弐号機を抱えて地下へと逃げ込む。
「レイ、ドグマに降りて、槍を使え。」
それまで、無言で事態の推移を見守っていたゲンドウが初めて口を開く。
ゲンドウの命令に弾かれた様に、レイは、ターミナルドグマへ降下する為のリフトに乗り込む。
残されたのは虹の柱に包まれた参号機のみとなる。
「敵の指向性兵器なの?」
「いえ、熱エネルギー反応は有りません!」
ミサトの疑問に、日向が即座に回答する。その直後、マヤからの報告が一同を驚愕させる。
「パイロットの心理グラフが乱れてます!」
「使徒が心理攻撃…まさか、使徒に人の心の理解が出来るの?」
マヤの報告にリツコが慄然としていた。使徒は本能だけで動いているという先入観を打ち砕く事態であった。
その間にも参号機は頭を両手で抱え込みパイロットが苦しんでいる状況が見て取れる。
「精神汚染が始まっています!」
「光の分析は?」
「駄目です。A.T.フィールドに似てますが詳細は不明です!」
「精神汚染、Yに突入!これ以上は危険です!」
ミサトと日向が打開策を探っている間にもマヤがパイロットの被害状況を報告する。
参号機は苦しんでいるが虹の柱から逃げ出そうとしない。正確には逃げる事も出来ないでいた。
「うぐ。うあ!」
パイロットの悲鳴に成らない悲鳴が発令所のスピーカーから流れて来る。
ヒロシの悲鳴をBGMに冬月とゲンドウが小声で会話をする。
「碇。本当にいいんだな?」
「問題無い。たとえ槍を使っても口実さえ有れば老人達も文句は言えん」
「しかし、事が事だぞ」
「時計の針を戻す事が出来なくとも、進める事は出来る。槍を処分する予定が早まっただけだ」
二人が会話を終わらせた頃、ロンギヌスの槍を手にした零号機が地上に現れた。
「零号機、投擲態勢に入ります」
「レイ!MAGIがサポートするから、それに従って!」
「了解」
「カウントダウン入ります!」
「5秒前、4、3、2、1、0!」
零号機が全身のバネを利用してロンギヌスの槍を投擲すると、肉眼では視認する事の出来ない速度で衛星軌道上のアラエルに向かって行く。
危険を察知したアラエルがA.T.フィールドを展開したが、ロンギヌスの槍は「神殺しの槍」の異名に違わず、薄紙を突き破る様に壁を突き破り、アラエルを瞬殺した。
「使徒、消滅しました」
「それで、槍は?」
冬月が槍の行方について日向に問い質す。
「槍は第二宇宙速度で太陽に向かって行きました」
「回収は不可能だな」
「はい。あれだけの質量を回収する術も時間も有りません。回収に向かった頃には太陽の引力に吸い寄せられてます」
この数日後に加持の姿は暫く消える事になる。
冬月とゲンドウはゼーレに処分されたと思い、ゼーレはゲンドウに処分されたと思い込む事になる。
さて、第二宇宙速度で飛び出したロンギヌスの槍は太陽に引力に引き寄せられるのかは作者には分かりません。
分かる方は解説して下さい。