新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第35話 過去

 

 少年は夢を見ていた。

 それは、幼き頃の夢だった。

 

「クロ。お前の弟のヒロシだよ」

 

 ジャーマンシェパードが不思議そうな顔をしながら、ヒロシを見ていた。

 ヒロシには両親はなく、祖父母とジャーマンシェパードのクロだけが家族だった。

 幼い頃、自分に両親が居ない事を不思議に思っていたのだが、学校に通いだすと両親が揃っている級友の方が少ないことに気づいた。

 まだ、セカンドインパクトの爪痕が残っていた時代でもあったのだ。

 

 家に帰れば、クロはヒロシの良き遊び相手であり保護者でもあった。

 住まいは海が見える山の斜面にあり、水道が無い代わりに井戸で水を汲む様な生活である。

 貧しくもヒロシは幸せであった。祖父はヒロシを連れて、よく釣りに出掛けたものである。

 しかし、ヒロシが八歳の時にクロは死んだ。死因は老衰であった。

 

「クロは爺ちゃんだったからな。お前が来た頃には平均寿命を過ぎていたから、長生きした方だった」

 

 祖父が泣きじゃくるヒロシを慰める。遺体を庭に埋める気になれずに業者に依頼し火葬にしてもらい骨壺を仏壇の横に安置していた。

 その二年後に祖父も仕事場で心臓麻痺で急死する。

 宗谷の墓はセカンドインパクトの時に海の底に沈んだので、祖母の実家の墓にクロと共に納骨をした。

 

「爺ちゃんとクロが離れない様に…」

 

 そう言って、ヒロシは祖父の骨壺に愛犬の首輪を入れた。

 その後は祖母と二人で貧しいながらも自給自足に近い生活をしていた。

 祖父の遺品である竿を担ぎ海に出掛けては魚を釣り、釣った魚を祖母と一緒に料理して糊口を凌ぐ生活をしていた。

 大漁の時は近所にお裾分けをして、後日、野菜や果物を貰うこともあった。

 そして、食べた魚の骨を猫の額ほどの庭の畑に埋めて肥料とした。

 畑では茄子、胡瓜、トマトに二十日大根を植えていた。

 ヒロシは学校から帰ると、足を悪くした祖母の代わりに、畑の世話と井戸の水汲みをするのが日課となっていた。

 ヒロシが中学生になった頃、祖母は体調を崩しがちになった。

 

「婆ちゃん。明日は日曜だから、明後日は病院に行こう。月曜日はテストだから午前中で学校も終わるからね」

 

「そうかい。なら、月曜日に病院に行くかね」

 

 月曜日にヒロシが学校から帰宅すると祖母が布団の上で倒れていた。

 慌てながらも、救急車を呼び、心臓マッサージを施したが、祖母は帰らぬ人となった。

 祖母の葬儀も終わり、納骨を済ませて帰宅すると、学校から呼び出しが掛かった。学校へ向かってみると、金髪の女性がヒロシを待っていた。

 この時、ヒロシは自身の両親について初めて知る事になる。

 ヒロシの母親は未婚のまま彼を産んだのである。

 父親については、ネルフという組織でも調査したが分からなかった。

 母親はヒロシを産んだ後に、結婚したが、数年前に病死していた。

 幸か不幸かはヒロシには判断が出来ないが、彼には兄弟は居ないそうである。

 母親と結婚した相手は既に再婚して子供もいるそうである。

 そこまで話をした後で、金髪の女性はネルフという組織に来ないかと話を切り出してきた。

 

「簡単に言うと、貴方の体質が、私達が運用しているロボットのパイロットに適しているの。正直に言うと、生命に関わる危険な仕事だけど、それに見合う報酬は用意するわ」

 

「あのう。どれ位でしょうか。出来れば大学まで進学する費用と生活費を稼ぎたいのですが?」

 

 金髪の女性は二つ返事で了承してくれた。

 

「その他にも社会保険を完備しているし、大学を卒業した後も関連機関に優先して就職が出来るわ。逆に関連機関に就職すると色々と制約される事になるけどね」

 

「要は飼殺しになるんですか?」

 

「言葉は悪いけど、その通りよ。だけど、ケチな組織では無いと思うわ」

 

 ヒロシには既に帰る場所もなく、断れば孤児院に行く事になる。

 ならば、将来を保証してくれる組織に身を任せる事も生命を惜しむ理由もなかったのである。

 次の日には荷物を纏めると金髪の女性と共に生まれ育った故郷を離れた。

 そして、第三新東京市で運命的な出会いをする。

 相手の名前は、惣流・アスカ・ラングレー。

 彼女は都会生活に慣れないヒロシの為に、色々と世話を焼いてくれたのである。

 一つ屋根の下で暮らしながら、勉強やネルフでのルールを教えてもくれた。

 目を覚ますと、件の少女が青い瞳を赤くして自分を見ていた。

 

「大丈夫?」

 

「アスカ先輩こそ、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫よ、お陰様で!」

 

「それは、良かった」

 

「人の事より、自分の方は大丈夫なの?」

 

 アスカが心配そうに顔を近付けて来る。ヒロシは頬を朱に染めながらも大丈夫と伝える。

 

「頭は痛くない?」

 

「多少は…二日酔いみたいな痛さだけど」

 

「え〜っ?なんで、二日酔いなんて知ってんの?未成年でしょ?」

 

「あっ。いや、その、えっと、例えばですよ、例えば!」

 

 狼狽するヒロシに思わず吹き出すアスカであった。

 

「ちょっと、酷くないですか、アスカ先輩!?」

 

「そりゃ、自爆したあんたが悪い」 

 

 アスカの正論に何も言えなくなるヒロシであった。

 

「それより、使徒の光線を浴びて大丈夫なの?」

 

 アスカとしては心配になるのは当然である。シンジとレイからは光線を浴びた後に自分が壊れた事を聞いていたのだから。

 

「何か、昔の嫌な事を思い出しましたけど。大丈夫ですよ!」

 

 ヒロシの軽い口調にアスカも呆れ半分と驚き半分で絶句する。

 

「だって、所詮は過去の事だし、今は手を伸ばせば幸せがあるから」

 

 ヒロシはアスカを抱き寄せて、下から甘える様にアスカの胸に顔を埋める。

 アスカも最初は戸惑ったが納得した様にヒロシの首に手を回して抱き締める。

 

「アスカ先輩。好きです。愛してます」

 

 当然の告白にアスカも思わず赤面するが、そこはアスカである。

 ヒロシを引き剥がすとヒロシの頬に両手を添えて顔を向けさせる。

 

「もう一度、私の顔を見て言いなさい!」

 

 アスカの口調には有無を言わせぬ響きがあった。

 ヒロシも観念した様にアスカの顔を見て正直に自分の想いを口にする。

 

「アスカ先輩。好きです。愛してます!」

 

「そう。奇遇ね。私もよ」

 

 アスカはヒロシの想いに応えると自分の唇をヒロシの唇に重ねる。

 ヒロシは耳まで真っ赤になる、頭から湯気が出そうな程に。

 

「キスは初めて?」

 

 アスカの問いに、ヒロシは無言で首を縦に振る。

 

「そう。私も初めてよ」

 

 ヒロシはアスカの想いを知り再び抱きつく。

 その時にアスカとヒロシは初めて闖入者に気づいた。

 

「綾波先輩!」

 

「レイ!」

 

 レイが興味深そうに、二人を凝視していた。

 

「レイ!」

 

 ミサトが開いたままのドアから飛び出してレイを小脇に抱えてドアの外まで連れ出す。ドアの外にはシンジの顔も見えた。

 

「どうぞ、私達には、お構いなく続きをどうぞ!」

 

「ちょっと、あんた達。何時から其処に?」

 

 アスカがヒステリックな声で問い質すとミサトがジャパニーズスマイルを浮かべて明後日の方角を見ながら白状した。

 

「『もう一度、私の顔を見て言いなさい』からかな」

 

 アスカとヒロシの顔が真っ赤になる。そしてヒロシは思わずドアの外に居るミサト達に枕を投げつけた。

 ミサトは余裕を持って、飛んでくる枕を軽く片手で払うが、次の瞬間に顔を青くしてシンジも小脇に抱えた。

 

「殺す。絶対に殺す!」

 

 アスカが、自分が座っていた金属製のスツールを両手で振り上げている姿が視界に入ったからである。

 

「ちょっち、アスカ。待って!」

 

 待てと言いながらも、既にミサトはシンジとレイを小脇に抱えて逃げ出している。

 

「待てるか!」

 

「私は一応上司よ!」

 

「上司がする事か!」

 

 アスカがスツールを頭上に掲げてミサト達を追い掛けて部屋を出て行く。

 後日、葛城宅にはシンジとレイを凌駕するバカップルが爆誕するのである。

 しかし、現状ではバーサーカーと化したアスカからの逃亡が急務であった。

 

「葛城の奴、何を考えてんだか…シンジ君と話す事が出来ないじゃないか。」

 

 顔を愛機と同じ色にして、スツールを振り回しながらミサトを追い掛けるアスカの背中を見て、加持が呟いていた。

 因みに、それから三日間、ミサトはネルフ本部で寝泊まりをする事になる。

 その間に加持は葛城宅でシンジから真実を聞く事になるのであった。

 

 

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