「流石にそれは…いや、信じるしかないんだろうな……」
アスカの怒りを買ったミサトがネルフ本部へ撤退してから1日目の夕食後、リビングで事情を聞いた加持の素直な感想である。
シンジとレイの告白を聞いて、加持も唸るしかなかった。
二人が事実を言っているのは、アラエルの来襲と形状を予言する事で既に立証されている。
更に加持が苦労して入手した、ミサトも知らない筈の情報を、シンジ達が知っているのだから信じるしかないのである。
「無理もありません。自分でも、死に際の妄想じゃないのか今も疑ってますからね」
シンジも苦笑するしかなかった。
「しかし、なんでそんな重要な事を俺に話す気になったんだい?葛城にだって…」
シンジも言いにくいのだが、腹を決めて、正直に話す。
「ミサトさんは悪い人じゃないですし、僕も好きですけど、信用が出来ません」
逆行前の世界で初日からミサトはシンジからの信用を失っていた。
ケイジにて、リツコから初号機の搭乗を強要された時、最初は反対していたが舌の根が乾かないうちにシンジへ初号機搭乗を強要したのである。
それも、シンジに搭乗する義務なり責任がある様に言ったのだから、ミサトを全面的に信用しないのも当然であろう。
(何やってんだよ!?)
加持もミサトとの結婚に不安を感じたのは仕方がないであろう。
「それに、ミサトさんに話しても、加持さんはバイトは止めないでしょ。貴方にバイトをやめてもらわないと、ミサトさんが悲しみます」
(何て健気なんだろうか。酷い目に遭わされてばっかりだったろうに)
加持はシンジを思わず抱き締めたくなったが、流石に実行はしなかった。
「それから、ヒロシにも謝らないと…本来なら君は平和に暮らしていた筈だから」
このシンジの謝罪に、ヒロシは笑顔で手を振り、「謝罪は無用」と伝えた。
「僕は逆に先輩方に感謝してますよ!」
ヒロシは一度、アスカに視線を向けると、理由も伝えた。
「だって、最終的に人類は滅亡したんでしょう?平和に暮らしても同じ事ですし、今は…アスカ先輩に巡り会えましたから」
ヒロシは言い終わると、アスカの手を握って視線を交わす。
(逆行前の世界での罪に対する罰なら、アイツが少し不憫だな)
加持も若いバカップル二組との生活に同情してしまった。
「それで、シンジ君。俺は何をしたらいいんだい?」
シンジが事実を話したのは、ミサトを悲しませない為だけでは無い事を加持は理解していた。
「加持さんも、予想はしていると思いますが、戦自が攻めて来るのを止めて欲しいんです」
流石に加持にしても、一個師団の兵力を足止めするのは荷が重い様に思われた。
(シンジ君も、過大評価が過ぎるな…)
「加持さんでも大変だと思いますが、一応は材料は有ります、役に立つか分かりませんけど」
「ほう。材料とは?」
「日本政府が、死地に立たせた未成年(パイロット)も問答無用で殺害する命令を出した事です」
「詳しく話を聞こうか」
「ちょっと待って!」
加持が興味を持ったのでシンジも話そうとした矢先、アスカからストップが掛かった。
「どうしたの、アスカ?」
「その話は何度も聞いたから、パスさせてもらうわ。少しお腹も減ったし」
加持が腕時計を見ると残り1時間で日付も変わる時間であった。
夕食を摂ってから既に5時間が経過していた。
「もうこんな時間か!」
「私が何か作るから、加持さんはシンジ達から話を聞いて」
「アスカ先輩、僕も手伝いますよ」
「ヒロシも、加持さんと一緒に話を聞きなさい」
「それなら、少し休憩を取ろう。俺も煙草を吸いたいからな」
「じゃあ、シンジとレイも休憩してて。ヒロシ、手伝ってくれる?」
「はい!」
葛城宅は全面禁煙の為、加持はベランダで一服していたが、ベランダから部屋の中を見ているとアスカが見事な手際で握り飯を作っているのが確認できた。
(あの、アスカがねえ)
加持が2本目の煙草を吸い終わる頃、食卓には握り飯が盛られた大皿、味噌汁が注がれたマグカップが並んでいた。
「ほう。アスカも良いお嫁さんになれるな」
「もう、加持さんたら!」
暫しの間、一同は飲食に口を使うのであった。
「それじゃ、急いで続きを聞こうかな」
シンジは戦自が攻めてきた時のことを話し始めた。
「その時、僕は生きる気力を無くして階段下で蹲ってたら、戦自の人から殺されそうになりました。既の所で、ミサトさんに助けられましたけど」
「アスカも狙われたのか?」
「はい。アスカは意識不明で入院中でしたけど、ミサトさんが弐号機に避難させたそうです」
加持も絶句するしかなかった。
「『狡兔死して走狗煮られる』、ですね…」
ヒロシが故事を引用し、一連の出来事を過不足なく表現した。
「全くだ。ヒロシ君の言う事は正しい。流石に人類補完計画とは別に阻止するべき事だな」
加持は戦自の出動阻止を約束して、その日は就寝となった。
リビングで仲良く五人で川の字になって寝る。
二本程少ないのは、若いカップルが一つの布団で寝た為である。
ヒロシがシンジの話を聞いて不安になりアスカと添い寝を希望したからである。
ヒロシは単に甘えてるだけかもしれないが、レイもヒロシに倣って希望したので、互いのパートナーに弱いシンジもアスカも了承した為に、加持がお目付け役になったのである。
(はあ。こりゃ本当に苦労してたんだなあ…!)
ミサトの評価がコロコロと変わる加持であった。
翌日、中学生であるパイロット達は学校に行き、加持はネルフに出勤する。
「加持君。子供達の様子はどうだった?」
加持が出勤すると同時に、ミサトが声を掛けてきた。
「葛城。お前も苦労しているんだな」
ミサトも加持がバカップル二組の被害者になった事を知ると嬉しそうな顔をする。
「まあ。子供達は変わらんけどな。後、2日間は家に帰れんぞ」
「あちゃ〜。アスカ、まだ、怒ってんの?」
「アスカだけじゃない。シンジ君もレイちゃんもだ!」
「えっ!?」
「葛城。お前、毎朝飲酒運転してたらしいな」
「今はして無いわよ!」
「『今は』、だろ。シンジ君とアスカから言われて、止めたんだっけか?それに、禁酒を言い渡されたのに夜遅く帰ってから飲んでたらしいな。空き缶の分別はしておけよ!」
「げっ!」
「ズボラな性格を直さないと子供達から見放されるぞ!」
「ちょっち、加持君!」
流石にミサトも堪えたらしく、加持に執り成しを頼むのであった。
「それを含めて、2日の猶予をくれと言っているんだ!」
「本当に感謝しているわ、加持君!」
一応ミサトは加持の上司になるのだが、プライドも外聞も無い様子に加持も呆れるしかなかった。
2日目、ゼーレの人類補完計画の全貌についてシンジが話すと加持は呆れを通り越して絶句した。
「全人類を巻き込んだ無理心中じゃないか!」
(流石に加持さんは大人だけあって、例えが上手いなあ)
「どちらかと言えば、究極のファシズムだと思う」
ヒロシも呆れながら突っ込みを入れる。
「そう。全人類からしたら迷惑な話だわ」
レイも珍しく口を開いたが、明らかに呆れの成分が大量に含まれていた。
「全人類が一つになるとか、私は嫌よ。少なくともゼーレとかいう連中とは断固拒否!」
アスカの言葉は過激だが、その場に居た者達の代弁でもあった。
「次に碇司令の目的ですが、人類補完計画を利用して、亡くなった奥さんと再会する事です」
ゲンドウの目的はシンジではなくレイが説明した。
エヴァのコアには肉親の魂が取り込まれて
いる事。
初号機にはシンジの母親でゲンドウの妻である碇ユイが眠っている事。
初号機と同様に弐号機、参号機にもパイロットの母親が眠っている事。
「だからエヴァとシンクロ出来るパイロットが限られているのか!」
そして、加持が最大の興味を持っているセカンドインパクトの真実である。
「これは、加持さんが命と引き換えに得た情報です。ミサトさんが教えてくれました」
セカンドインパクトは人為的に起こされた…ロンギヌスの槍を用いて、南極にいたアダムを制御する過程で起きた現象であり、最初から予期されていた事。
「ミサトさんのお父さん達は、知らずに爆弾処理に利用させられたんです」
そして、卵まで還元されたアダムは加持がドイツから運び、今はネルフ本部にある事。
地下の白い巨人は第二使徒リリスで第一使徒アダムでは無い事。
「なんだ。その事も知っていたのか」
自身がアダムを運搬した事も知られていたとあっては、加持も苦笑するしかなかった。