新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第39話 第十六アルミサエル

 

 ゲンドウは、表情には出さないが呆れていた。

 自分達が命令を出してダミーシステムを破壊させておいて、その事で自分を呼び出して、嫌味を言い続けているのだ。

 

(俺は色々と忙しいのだ。お前達とは違う)

 

 内心の思いとは別に、老人達の嫌味に丁寧に返事をする。

 

「ダミーシステムを破壊されるとは、警備に問題があったのではないか?」

 

「その件なら、私も何度も検討しましたが、断念しました。警備システムは所詮は機械です。専門家相手に機械は無意味です」

 

「では、警備員を配置すべきであったろうに!」

 

「機密保持に問題が発生します」

 

「しかし、碇君。現実問題として、」

 

 老人が更に何かを言い募っていたが、非常呼出回線が鳴り響く。

 ゲンドウが非常回線電話と一目で識別が出来る赤い受話器を手にする。

 

「冬月、今は審議中だぞ……そうか、分かった」

 

 ゲンドウは受話器を置くと老人達に報告する。

 

「使徒が現在接近中です。非常事態の為、失礼します」

 

 ゲンドウが発令所に到着すると既にエヴァの発進準備は終了していた。

 

「碇司令。如何しますか?」

 

「エヴァ全機出撃させろ」

 

「了解。エヴァ全機発進!」

 

 地上に上がったエヴァのうち、最も使徒の近くにいた弐号機が、最初にアルミサエルの標的にされた。

 

「速い!」

 

 エヴァパイロット随一の運動神経と反射神経を持つアスカならではの操縦で、アルミサエルの攻撃を紙一重で躱した。

 

「アスカ!」

 

 シンジの脳裏に零号機がアルミサエルを道連れに自爆した時の光景がフラッシュバックする。

 弐号機を仕留め損なったアルミサエルが再び弐号機に襲い掛かろうとした時に参号機が兵装ビルを踏み台にジャンプして上空から落下速度を利用してアルミサエルをプログレッシブナイフで両断した。

 

「大切断!」

 

 両断した傷口からは赤い血液の様なものが噴き上げた。

 二本になったアルミサエルは速度こそ落ちたが切断面同士が再び接着して復元した。

 

「まぁた、インチキ!」

 

 発令所のミサトは叫んでいれば良かったが、現場のパイロットはアルミサエルの変幻自在の動きに翻弄されていた。

 特に参号機と零号機が狙われている様に見えた。

 

 

「ヤバいわね。エヴァに慣れてないヒロシ君が狙われてるみたいね」

 

 リツコの感想にミサトの顔が次第に青くなる。ミサトだけではなく、ネルフ職員にもミサトの感情が伝染した様に青くなる。

 

「リツコ。あんた、どんな基準でヒロシ君を連れて来たのよ?」

 

「えっ!」

 

「シンジ君といい、ヒロシ君といい、化け物揃いだわ」

 

「ミサト、何を?」

 

 戸惑うリツコにミサトが青い顔をしたまま説明する。

 

「あの子達、使徒を相手に実戦訓練してるのよ!」

 

「なっ、何ですって!」

 

 零号機と参号機がアルミサエルの前に立ち、自身を攻撃させて避ける訓練と避けながら反撃する訓練をしていたのである。

 

「本当に危なくなれば、初号機と弐号機がフォローに入ってるわ!」

 

 ミサトはパイロット達の成長に驚愕した。特に参号機が配属されてからの成長は異常とも言えた。

 ミサトはリツコの表情を覗き見るが、スクリーンを見ているリツコの表情にも驚愕の色が表れていた。

 

(リツコや碇司令が何かを隠しているのは、気づいていたけど、これは、リツコ達も想定外みたいね)

 

 加持はこの事を把握していたのだろうか、と一瞬だけ彼の顔がよぎるミサトであった。

 ミサトが以前からの疑問に思い至っている間にもエヴァ全機による実戦訓練は続いていた。

 ダッキング、スウェーバック、ウィービングと器用にも防御技を習得していく。

 

「ヒロシ君は事前に練習していましたね」

 

 日向が参号機の動きを見て感想を漏らしたが、ミサトも同意見だった。

 学校では、休み時間に友達とボクシングやプロレスをして遊んでいたと報告を受けていたが、これ程の技術を身に付けていたとは思わなかった。家ではアスカに甘えてばかりいたのだ。

 実戦訓練も終了したらしく零号機と参号機がアルミサエルの両端部分を相手にしている間に弐号機がアルミサエルの中央部分から両断する。

 更に、両断された片方の中央部分を初号機が両断する。

 噴き上げる赤い体液が血の雨となって周囲に降り注ぐ。

 先端を参号機に掴まれたアルミサエルは参号機の手から体内に侵入を始める。

 

「目標、参号機の生体部品に侵食しています!」

 

「シンジ君!」

 

 マヤの報告にミサトがシンジの名を叫ぶが、既に初号機もアルミサエルの侵食を受けていた。

 

「弐号機は!」

 

 弐号機と零号機もアルミサエルの侵食を受けていたが、弐号機がウェポンラックのニードルを発射してアルミサエルを中央部分から両断していた。

 

「エヴァ全機。目標から侵食を受けてます!」

 

 マヤの報告に発令所が凍りつく。

 

(何か私達で出来る援護は?)

 

 ミサトは周囲に居る職員の手前、表情はふてぶてしかったが、内心は周囲の職員と同様に焦っていた。

 

(兵装ビルからの攻撃ではエヴァも巻き添えになる。自爆装置を入れて参号機の様に使徒を脅すか!)

 

 ミサトは一か八かの打開策を考えるとパイロット達に自身の策を伝える。

 

「皆、自爆装置をオンにしなさい!使徒が逃げ出したらエヴァ全機のA.T.フィールドで包み込むわよ!」

 

 ミサトの打開策に対して、パイロット達からの返事はなかった。

 

「駄目です。パイロット達の意識が混濁している様です!」

 

 日向の報告に、ミサトが被っていた冷静な仮面がはずれた。

 

「全ての接続をカットして、パイロット達を脱出させて!」

 

「既に制御系統も目標の支配化にあります!」

 

 青葉の報告は既に悲鳴に近かった。

 

「そんな!」

 

 発令所が絶望に支配されている時、パイロット達はオレンジ色が支配する世界に居た。

 

「私と一つにならない?」

 

 レイの前に居た幼児のレイが話し掛けてきた。

 

「貴女は、私達が使徒と呼んでいる存在なのね」

 

「そう。貴女達が使徒と呼ぶモノ」

 

「貴女は私と一つになりたいのね?」

 

「そう。心が痛いの。だから、私と一つになりましょう」

 

「駄目!」

 

 レイは使徒の首に手を掛けた。

 

「何故?」

 

「碇君の望みだから」

 

 レイが手に力を入れると鈍い音がした。

 

「悪く思わないでね」

 

 レイが目覚めた時に視界に入ったのは白い天井であった。

 

(この天井は、病院)

 

 左側から光と暖かさを感じ、目をやると、窓から朝日が差し込んでいた。

 次に右側を見ると自分と同じ様にシンジがベッドに寝ている。

 上半身を起こして正面を見るとベッドがあり、アスカとヒロシが一緒に寝ていた。

 

(……)

 

 アスカのベッドの横は……当然空である。

 レイはベッドから降りるとシンジのベッドの中に入り込み再び眠りについた。

 十数分後、見舞いに来たミサトが頭を抱える事になる。

 

「はあ。起きたらヒロシ君やレイと話をしないと駄目ね」

 

(しっかし、リツコが見たら怒り狂いそうねぇ)

 

 ミサトは、幸せそうに眠るパイロット達を見て、自身も幸福感に浸りたくなったが、親友の苦労を思うと立場上パイロット達を起こさなければならない。

 ミサトがパイロット達を起こしている頃、リツコを筆頭に技術部は修羅場に居た。

 

「何て事…エヴァ全機が使徒を逆に侵食してしまうなんて!」

 

 四等分にされたアルミサエルは各々のエヴァに吸収されてしまった。

 生体部品部分である筋肉の栄養素にされた様である。

 

「検査の結果、金属筋肉の栄養素にされたのは確実な様です」

 

 マヤが報告した検査結果は、予想通りのものであった。

 

「此方を見て下さい。出撃前の初号機の生体部品と回収直後の生体部品です」

 

「肉眼で確認が出来る程肥大しているわね」

 

「そして、一時間前の生体部品です」

 

「肥大した筋肉が元に戻っている…と。」

 

「消化されたと理解するべきでしょうか?」

 

「貴女の理解が正しいでしょうね。問題はS2機関でしょう」

 

 リツコは渡された資料をマヤに返しながら溜め息をついた。

 

「S2機関を取り込んだ事は間違いないでしょうけど、果たして、それが正常に作動するものかしら?」

 

「暴走の可能性もあるのでしょうか?」

 

「逆に暴走しない可能性の方が少ないでしょうね」

 

(既に二回も失敗しているわ)

 

 リツコは部下を無駄に怯えさせる事になるので、後半の言葉は飲み込んだ。

 

「四機を一度に検査するなら、今週も家に帰れないですね」

 

「帰宅以前に、寝る時間も無いわよ」

 

 リツコは無意識で天井に視線を向けた。この事態が、彼女の視線の先、最上階に居る人物のシナリオ通りのものなのか疑問に思ったのである。

 

(この事態、流石に何時もの嫌がらせだけでは済まないでしょうね)

 

 この時、既にリツコは、近い未来に予想し得るゼーレからの攻撃への対処を考えていた。

 

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