新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第40話 フィフスチルドレン

 

 既に恒例化した技術部の修羅場が佳境に入った頃、ゼーレもゲンドウの反意を確信していた。

 

「度重なるシナリオの逸脱。既に碇の反意は明確である」

 

「既に人類補完計画も大詰めとなっている。故に碇の存在も不要であろう」

 

「しかし、碇の奴が何か切り札を隠しているかもしれん」

 

「しかし、奴には鈴を付けても無意味では?」

 

「前回の鈴は問題があった」

 

「計画まで残り僅か。ここは慎重になるべきだろう」

 

「では、新たなる鈴を送るべきでは?」

 

「次の鈴は前回とは違う」

 

「いざとなれば、計画を我らの手で繰り上げるだけだ」

 

「では、碇に新たな鈴を」

 

 その頃、老人達の陰謀を既に知っている若者達は、特に行動を起こしてはいなかった。

 

「まあ。シンジ次第なんだから、対処も何も無いでしょ」

 

 昼休み、学校の屋上で弁当をみんなで食べていた時にアスカは断言した。

 

「そうね。私もアスカの言う通りだと思う」

 

「碇先輩が気に病む事でも無いですよ。死にたく無い人間を殺すのが罪なら、死にたい人間を死なせないのも罪だと思いますし」

 

「ヒロシまで……」

 

 シンジはヒロシの意見に反対する事も出来なかった。

 シンジ自身、死を望んだ過去があったからである。

 死を望んだシンジが紆余曲折の末に未来を望んでいるのだから、カヲルも同じ事が言えるのではと思うシンジであった。

 

「問題はフィフスチルドレンが私達に寝返るなり、当初の本人の望み通りになった後の事よ」

 

 加持に戦自の介入阻止を依頼したとは言え、仮に戦自と戦う事になった場合、シンジが参加するとはアスカは思えなかった。

 目の前の少年が、殺人などを出来る少年ではないと、アスカにも分かっていたからだ。

 しかし、レイやヒロシ、そして自分が戦自と戦えば、その後もシンジは苦しむ事になるだろう。

 アスカとしたら甘いと思うが責める気にもならないのである。

 

(それが、シンジの美点だもんね)

 

 それに比べてと、自分の横で弁当を貪る少年を見る。

 シンジと反対に戦自との戦いには躊躇が全く無い。

 短い付き合いだが、自分が愛した少年は役人嫌いな様である。

 

(コイツも色々と苦労したみたいだから、役人に恨みでもあるのかしら)

 

 更に言えば自分の目の前の少女もシンジの望みを叶える為に人類を滅ぼした女なのである。人殺しが出来ないシンジの為に戦自を皆殺しにする程度は躊躇いが無いだろう。

 

「しかし、ネルフも変な連中ばかり集めたもんね」

 

「本当ですね。一人の例外も無く変な人の集団ですから」

 

 アスカの意見にヒロシが同意する。さほど遠回しとは言えない皮肉にアスカがヒロシの脳天にゲンコツを落とす。

 

「痛い!」

 

「天罰よ!」

 

 この様に、パイロット達の関心は既に戦自との戦いに向いていた。

 その頃、ゼーレからフィフスチルドレン…渚 カヲルを派遣されたネルフでは、大人達が彼について色々と思惑を測っていた。

 

(この時期にフィフスチルドレンなんてタイミングが良すぎるわ)

 

 ミサトもカヲルに対して警戒心を抱かざるを得なかった。

 そして、リツコと冬月もこの少年に対して疑念を持たざるを得なかったのである。

 

「コアの変換も無しに参号機とシンクロしただと!」

 

「初めて乗って、シンクロ率も新記録です」

 

「システム上、あり得ないです…」

 

「でも事実なのよ。事実をまず受け入れてから原因を探ってみて」

 

 シンジ達が学校に行っている間に、既に疑惑のデパート状態であった。

 

「碇 シンジ君か。会うのが楽しみだなあ」

 

 当人は能天気なもので、ミサト達は内心呆れていた。

 遅めの昼食を摂る為に、リツコと共に彼を食堂へ連れて行った時、ミサトは更に驚愕する事になる。

 

「カヲル君、好きな物を食べて!私の驕りよん」

 

「あら、悪いわね。ミサト」

 

 リツコがミサト相手に誂い始めた。リツコにしたら、ミサトを誂う事で精神のバランスを取っているのだ。

 

「ちょっとぉ、私はカヲル君に言ったのよ!?」

 

 ミサトも彼女の心理状態を察しているので、そのまま乗っかった。

 

「あら、冷たいわね」

 

 二人の会話を見て笑い出すカヲルであった。

 

(さて、ゼーレに何を吹き込まれたか知らないけど、本人は普通の子供と変わらないわね)

 

 彼を食堂に連れて来たのは、何かボロを出すのではと思ったからである。出してくれたら儲け程度だったが意外な事を知る事になる。

 カヲルは注文した定食を食べ始めると白米や味噌汁に感動するのであった。

 

「カヲル君。今まで、どんな食事をしていたの?」

 

 流石に呆れたリツコが質問すると、驚愕する返答であった。

 

「食事はジャガイモとハムとキャベツのサラダの繰り返しでしたからね。ネルフの食事の種類の多さには感動しますよ」

 

「えっ!?」

 

「ちょっと!?それだと栄養のバランスが悪過ぎでしょ」

 

「足りない栄養は錠剤で摂ってましたよ」

 

「そんな」

 

 思わずミサトが両手で口を塞いだ。

 

(昔のレイも大概だったけど、それ以前の問題じゃない!ゼーレは何を考えているの!?)

 

 リツコは声に出さないが、非人道的なゼーレに怒りを覚えた。

 

「ネルフだけじゃなく、世の中には、他にも色々な料理があるからね」

 

 カヲルに声を掛けるミサトの目には涙が浮かんでいた。

 

(ウチにしろゼーレにしろ、ろくな組織ではないわね。あちらさんの方が数段上みたいだけど)

 

 ミサトは使徒殲滅とは別にゼーレに対して激しい敵意を持つのであった。

 

 そして夕方、ネルフに来たシンジ達にカヲルを紹介した。

 

「君が碇 シンジ君か。会えるのを楽しみにしていたよ」

 

「僕の方こそ。それから、僕の事はシンジでいいよ。僕もカヲル君って呼ぶから」

 

「ありがとう。君は良い人だね。好意に値するよ」

 

 カヲルが差し出した手を握って何故か頬を朱に染めるシンジに、危険を感じたレイはカヲルから引き剥がす。

 

「大丈夫だよ。君からシンジ君を奪ったりしないから」

 

「そうよ、レイ。カヲル君は男の子だからシンジ君が浮気する事ないから」

 

(まぁ浮気したら、それはそれで観てみたいけど)

 

 ミサトは内心の思いとは別に常識的な発言で取り成す。

 

「そうだよ。君は僕と同じだろ」

 

「違うわ。私は自分の命の大切さを知っている。他人の命の大切さも知っているわ。貴方は自分の命の大切さを知らない。そして、貴方の死を悲しむ人の事も知らない」

 

 レイが核心となる話を始めた。

 

「私は自分が死ねば碇君が悲しむ事を知っている。だから、私は死ぬ事を選ばない」

 

 レイの言葉を聞いてカヲルは何かを考え込んだ様子である。

 その様子を見ていたアスカはヒロシを抱き寄せていた。

 

「分かった。僕が死ねばシンジ君が悲しむんだね」

 

「残念ながら、そうよ」

 

 レイの目はシンジが悲しむなら自分の手で殲滅すると言っている。

 

(ホント、あのレイが、ここまで嫉妬深くなるなんてねぇ)

 

 ミサトは、レイの反応に内心頭を抱えながらも、仲裁する。

 

「ほら、カヲル君も、友達としてシンジ君の事を好きと言ってるだけだから、ね?」

 

「そうだよ、綾波。僕が綾波を裏切る筈ないだろう」

 

「碇君が、そう言うなら」

 

 シンジが口添えする事で、レイも渋々ながらも矛を収める。

 

「それなら、親睦を兼ねて渚先輩の歓迎会でもしませんか」

 

 ヒロシの発案にシンジとアスカが賛成したのでレイも参加する事にした。

 ヒロシがミサトに何か交渉していたが暫くするとミサトが内線で何処かに連絡を始めた。

 

「私は仕事があるから不参加だけど…羽目を外さないようにね?」

 

 小声でアスカがヒロシに耳に囁いた。

 

「アンタ、どんなウラワザ使ったの?」

 

「普通に店から家に帰る間に監視役を発見する事が出来る可能性を教えただけ」

 

「監視役って!」

 

「自宅からレストランに行って、そこからネルフへ引き返したら監視役も慌てるでしょうね」

 

 自宅とネルフは遠くから監視されているが、急にレストラン等に行かれたら慌てる事は間違いない。

 監視役がボロを出さないとも限らないのである。

 

「失敗しても、経費は安いもんですよ」

 

「あんたも性格が悪いわねえ」

 

 アスカもヒロシの主張の裏の本音を喝破していた。

 ヒロシは口実をつけて、レストランで食事をしたいだけである。

 カヲルの監視役がゼーレから派遣されている事を想定しての策には違いない。

 

「監視役を発見するだけでも、脅しにはなるでしょ」

 

(コイツ。碇司令と同じ人種だわ)

 

 日頃は、自分に甘えてばかりの少年が、意外と策士だと知ったアスカの心境は複雑であった。

 実はヒロシの狙いは別の所にあったのだが、その事を後で知ったアスカは呆れる事になる。

 フィフスチルドレン渚 カヲルを巡り、ゼーレとネルフとパイロット達の三つ巴の化かし合いが始まるのであった。

 

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