新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第45話 開演

 

 それは、突然に始まった。マヤの叫びが発令所に響く。

 

「パターン青!」

 

「何処!?」

 

 ミサトの問いにマヤの声が裏返る。

 

「この下です。第七ケイジです!」

 

「なんですって!?」

 

 マヤの報告に慌てて日向が発令所のメインスクリーンに第七ケイジの映像を出す。

 

「な、!」

 

 映像を見たミサトは自身の視覚神経を疑う事になった。

 メインスクリーンには宙に浮かぶカヲルの姿が映し出されていた。

 

「それでは、始めるか」

 

 カヲルが降下するのと同時に零号機が拘束具を引きちぎると、セントラルドグマまで一直線に壁を破壊する。

 

「警報を止めろ!」

 

 ゲンドウが発令所に入るなり、命令をだす。

 

「直ぐに残りのエヴァ全機で追撃させろ!」

 

 ゲンドウがミサトに指示を出す傍らで冬月も青葉に指示を出す。

 

「セントラルドグマの全隔壁を緊急閉鎖!」

 

「ダメです!既に試しましたが、隔壁が閉まりません!」

 

「なんだと!」

 

 青葉の報告に冬月の顔色が一気に青くなる。

 

「大変です。既に閉鎖されていた隔壁が開いていきます!」

 

「なんという事だ!」

 

 冬月も指示の出し様が無くなってしまった。

 

「パイロットが搭乗次第、順次発進させて、目標は零号機とフィフスチルドレン!」

 

「ミサトさん。三機が一度に降りるには狭すぎます!」

 

「シンジ君が一番乗りなのね。取り敢えず先に降りて時間を稼いで!」

 

「分かりました!」

 

 初号機が零号機が開けた穴に入り追跡を始める。

 

「碇。どうする?」

 

 流石の冬月もゲンドウに指示を求めた。

 

「ふん。例えターミナルドグマに到着しても無駄骨を折るだけだ」

 

 ゲンドウは自身の左手を擦りながら、冬月に返答する。

 

「しかし、ターミナルドグマにレイ以外のパイロットが入るのは不味いぞ!」

 

「問題無い。パイロットが何を見ても、何を見たかも分からん」

 

 この時、既に初号機は零号機の姿が確認出来る距離まで追い付いていた。

 

「駄目です。強力なA.T.フィールドで初号機が!これ以上は近づけません!」

 

「万事休すか!」

 

 日向の報告に、発令所に詰めていた全員の顔が一気に青くなる。

 

(無理も無いわね。サードインパクトが起こる現場に立ち会う事になったんですから)

 

 リツコはターミナルドグマに幽閉されている巨人の正体を知っている為に、僅かながらに冷静さが残っていた。

 

「カヲル君!」

 

「おや。シンジ君が一番乗りかい」

 

 初号機の後ろには弐号機、その後には参号機が見えている。

 

「そんなに慌てなくても」

 

 カヲルが苦笑する。

 

「変わった奴だと思ったけど、筋金入りね」

 

 弐号機の中でアスカも苦笑していた。既にカヲルのA.T.フィールドで発令所との連絡が取れなくなっていた。

 

(さーて、ここまでは計算通り。最後まで騙せるかな!)

 

 ヒロシは最後尾で他の追跡者の存在を警戒していた。

 本来の歴史の流れを再現するにはシンジとレイの記憶だけが頼りである。

 そして、本来の歴史の流れでは、自分とアスカは異物なのである。他にも異物が紛れ込む可能性があるのだ。

 

(綾波先輩は予定通りに先回りが出来たのかな?)

 

 ヒロシが不安を覚えていた。ゼーレというネルフの上位組織もネルフも欺かねばならない。パイロット達だけで事を運ぶ重大さを認識していた。

 ヒロシの不安はパイロット全員の不安でもあったが、レイとシンジの不安は更に深刻であった。

 シンジは、カヲルを自らの手で扼殺した事がトラウマになっていた。そのトラウマがシンジを責めている。

 そして、シンジのトラウマを知るレイも彼の理性の限界に不安を感じていた。

 

(碇君。辛いでしょうけど、頑張って!)

 

 レイはアスカやヒロシの手前、カヲルと同様の力を使う訳にはいかずに、ひたすらターミナルドグマを目指してセンサーやカメラの死角を通りながら降下して行った。

 

(こんな時に碇君の傍に居てあげられないなんて!)

 

 レイの懸念していた通り、シンジは過去の自分とのトラウマと戦っていた。

 

(僕は罪人だ。だけど、その罪を償う為に戻って来たんだ)

 

 シンジのトラウマがシンジの理性を嘲笑する。

 

『自分の罪を隠してミサトさんやトウジの前で善人のふりをしている偽善者じゃないか!』

 

(違う。僕は、そんなつもりじゃない!)

 

『ふん。ミサトさんが駐車場で逃げても良いと言ってくれたのに選ぶ事もしなかった癖に!』

 

(だって、あの時は!)

 

『あの時に逃げていれば、ミサトさんは死なずにサードインパクトも起こらなかった』

 

(そんな!)

 

『ミサトさんが自分の命と引き換えにした願いも無視してアスカを見殺しにした癖に!』

 

(違う、僕は!)

 

『何が違うだ!トウジの時も自分が戦っていたら、無事に助ける事が出来たかもしれないのに!』

 

(そんな!)

 

『そうさ、救い様の無い偽善者だ!』

 

(そうか。僕は罪人で偽善者なんだ!)

 

『やっと認めたか!』

 

(そう。僕は最低かもしれない……だけど、僕の助けたい気持ちは本当なんだ)

 

『それがどうした。過去は変えられないよ』

 

(誰が僕を裁くか知らないけど、でも、今、自分に出来る事はするべきなんだ!)

 

『するべき事?』

 

(サードインパクトを阻止して、この世界を守る事!)

 

 今の今まで、自身の犯した罪に怯えていたが、トラウマに責められた事でシンジは自身の過去に向き会う事が出来たのである。

 それは、一種の開き直りだったかもしれない。しかし、トラウマを乗り越えたのは事実だった。

 

「やっと、到着したね」

 

 カヲルの声にシンジは現実の世界に戻って来た。

 

「カヲル君。何も零号機まで動かす必要はなかったんじゃ?」

 

 零号機が弐号機と参号機に両側から支えられて姿を現す。

 

「僕に考えがあるんだ」

 

 四機のエヴァが揃う頃にレイもターミナルドグマに到着した。

 パイロット達はレイの到着を合図に全員がエヴァを降りて、一堂に会した。

 

「カヲル君は、これから何処に身を隠すつもり?」

 

「暫くの間は第三新東京市の外を旅してみようかなって」

 

 シンジの質問に、休日の過ごし方を語る様な軽さでカヲルが応える。

 

「ちょっと!連中に見つからない様にしなさいよ!」

 

「大丈夫だよ。僕自身がトップシークレット扱いだからね」

 

 アスカの心配も杞憂だと笑い飛ばすカヲルであった。

 

「この人、本当にお気楽だわ」

 

 ヒロシもカヲルの楽観的な性格に呆れるのみである。

 

「ドジを踏んだら駄目よ。」

 

 レイがカヲルを嗜める。

 

「もし、ドジを踏んで碇君に迷惑を掛けたら…酷いわよ?」

 

 レイの口調は静かだが、静かな分だけ迫力があった。

 

「わ、分かったよ。大人しくしているから」

 

 流石のカヲルも恐怖を感じていた。

 

(彼女が特別に怖い存在なのか?それとも、女性全てが怖いのか?)

 

 正解が後者である事をカヲルが理解するには暫く時間が必要であろう。

 

「それで、綾波。カヲル君が脱出するルートは大丈夫なの?」

 

「それは大丈夫よ。ここは深いけど、一応は外と繋がっている通路があるの」

 

「そうなんだ」

 

「本来は監禁用だけど」

 

「じゃあ、僕は直ぐに外へ行くよ。何時までも僕の存在があると疑われるからね」

 

「じゃあ、カヲル君…またね」

 

「うん。シンジ君、またね」

 

 その後、アスカとヒロシが、カヲルは死ぬと同時にL.C.Lに還元して消えたと証言した。

 シンジは何も語らずに下を向いていた。そんなシンジをレイが優しく抱きしめていたので、大人達は何も聞く事が出来なかったのである。

 

 翌朝、ネルフに対してA-801が発令された。

 これにより、ネルフは特務機関としての法的立場を失い、指揮権を日本政府に委譲される筈であった。

 しかし、ゲンドウはこれを拒否する

 と同時に一部の職員と民間人の避難を発令する。

 

「碇君。何のつもりかね?」

 

「簡単な事です。老人の痴呆に付き合っていられなくなっただけですよ」

 

「ふん。碇め。遂に牙を剥くか!」

 

「老人が引き際を間違えると見苦しいだけですよ」

 

「分かった。今まで御苦労であった。君には死を与えよう」

 

 別れ際のキールの陳腐な脅し文句に、この男には珍しく失笑してしまった。

 この後、ゼーレは満場一致でゲンドウの造反に対する懲罰を可決した。

 

「碇。我々に叛いて何を求めるつもりだ?」

 

 キール議長だけが、ゲンドウの真意を図っていた。

 

「全てのMAGIシステムからハッキングを行え。MAGIシステムの占拠は第三新東京市の占拠と同義である」

 

 遂にゲンドウとゼーレの全面対決が始まったのである。

 此処まで両者のシナリオは同じであった。しかし、結末は両者とも独自のものである。

 狂信者とエゴイスト…第三者には迷惑な戦いであった。

 

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