新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第50話 戦後処理

 

 全ての使徒を倒し、宿敵とも言えたゼーレを駆逐したことで、ネルフは組織としての目的を果たしたと言える。

 その為、本来なら解体される筈であったが、色々と問題が浮上してきていた。

 

「特務機関の看板だけでも外せないの?」

 

 ヒロシは無邪気な発言をするが、ネルフにはその肩書を外せない事情があった。

 

「A.T.フィールド搭載戦車。ダミープラグ仕様の戦闘機…」

 

 ミサトの例えで納得したヒロシであった。

 

「肝心の碇司令は?」

 

 ゲンドウは自身の補完計画が失敗しても内心は別にして表面上は変わらないままであった。

 むしろ、ネルフの司令としての立場がゲンドウを支えていたかもしれない。

 ゲンドウは日本政府に対して厳重抗議をしていた。

 これは、世間的にも納得できる正当な行為と思われた。

 使徒という未知の敵を倒した後、確証も無いままに武力制圧をされかけたのである。

 まして、未成年者の殺害も目的にされていたのだ。

 幸いにも差し向けた軍が事故で自滅した為に大過はなかったが、一歩間違えれば虐殺されていたのである。

 この件に関して、世界中から日本政府は叩かれ、ネルフは同情される事になる。

 

「昨日は国連議会で、明日は日本の証人喚問。今日は機上の人よ」

 

 多忙の様である。次から次へと仕事が詰まっていて落胆する暇も無いようである。

 冬月を中心としたネルフ職員は、地上に残された戦いの後始末…今までゼーレに頭を抑えられていた諜報組織への対応に忙しいようだ。

 組織を解体すれば楽であるが、そうなった場合、エヴァの技術に関する情報の管理が問題になる。

 軍事転用されると困る技術の宝庫であり、S2機関を取り込んだ四機のエヴァの扱いも問題であった。

 アメリカ支部の惨劇を思えば、受け入れる国が無いのが現状である。

 国連議会では、エヴァに関する研究を凍結させる事が満場一致で可決したのだが、ダミープラグや使徒の研究は認められた。

 

「やっぱり、エヴァは解体する方向みたいね」

 

 リツコとしては、自身が心血を注いだエヴァの解体は断腸の思いだが、仕方ないとの思いもどこかにあった。

 そんな時に、カヲルがフラりと第三新東京市に現れたのである。

 パイロット達以外が仰天したのは当然である。

 

「その、皆さんが驚くのは当然ですけど、カヲル君は人畜無害ですので安心して下さい」

 

 シンジだけでなく他のパイロットの援護により、冬月が間に入る事になった。

 

「君が我々と友好を結ぶ意思がある事は、シンジ君達から聞いた。しかし、何故、この街に戻って来たのか…その理由を聞きたい」

 

「風の噂でエヴァの解体が決まったと聞いたので、その前に大事な事を伝えに来ました」

 

 冬月は何処で噂を聞いたのか、気になったが、今は大事な話を優先させる事にした。

 

「エヴァの中に取り込まれたヒト達のサルベージについてです」

 

「何!?」

 

「君はユイ君のサルベージが可能だと言うのかね!?」

 

「はい。僕だけでは無理ですが、赤木博士の力が有れば可能ですよ」

 

 この後、冬月がゲンドウ限定の箝口令を出したのは言うまでもない。

 

「碇に話せば仕事を投げ出すからな」

 

 これには、ネルフ職員も苦笑するしかなかった。

 一方、リツコは、ユイとの関係は別にして、サルベージについては懐疑的であった。

 

「カヲル君。サルベージなら既に二回も試みられてるのよ?」

 

「今回のサルベージは以前と条件が違います。参号機のコアを使いますからね。」

 

「参号機の?」

 

「参号機はヒロシ君の母親とバルディエル…十三使徒が取り込まれてます。使徒とエヴァのコアは親和性が高いのは知ってますよね」

 

「確証は無いけど、多分、高いとは思っていた程度よ」

 

 リツコの顔が更に胡散臭いと言わんばかりの顔をしていた。

 

「量産機のコアは僕のコピーが取り込まれていたんですよ。」

 

「なっ!?」

 

「そこに僕のダミープラグですからね」

 

 リツコは、非人道的なゼーレのことであるから、生身の人間をコアに取り込ませていると思い込んでいたようだ。

 

「確かに貴方のコピーなら、人道的…かもしれないけど、コピーに魂は無いはずよ?」

 

「そんな事は有りません。僅かながらも魂はあります。問題は一つの魂から、どれだけの量を分けるかです」

 

「それなら、ここのダミーシステムにも?」

 

「僅かながらにもあったと思いますよ。破壊された時に本来の持ち主に還ったと思いますが」

 

「なるほどね。それに気が付かないなんて、科学者失格ね…」

 

 リツコは自嘲するしかなかった。恐らくカヲルの知識の源はゼーレのお膝元ドイツにあるのは間違いない。

 ダミーシステムの開発者として自分が第一人者だと思っていたが、ドイツ側の責任者は自分より上だったようである。

 

(我ながら、無様ね)

 

「それで、サルベージに話を戻しますが、エヴァのコアと使徒の親和性が高い為に他の魂は異物と認識されるんです」

 

「つまり、ヒロシ君の母親をサルベージした後に、コアの書き換えをしてユイさんをサルベージするのね」

 

「ご名答!」

 

「惣流博士も可能よね」

 

「はい。零号機以外はサルベージが出来ますよ」

 

 リツコの顔が一瞬だけ険しくなる。

 

「そんな顔をする必要は無いですよ。既に零号機のコアは空の筈ですからね」

 

「貴方、何故、それを?」

 

「リリスが無に還るのを感じたから、僕はこの街に戻って来たんですよ」

 

 リツコの顔に危険な色が加わる。それは秘密を守る為の保身に走る人間の表情ではなく、純粋な科学者の探究心から出る表情である。世間ではそれをマッドサイエンティストと呼ぶ。

 

「ちょっと!赤木博士!?」

 

 流石のカヲルも恐怖を覚えていた。いくら生と死が等価であっても実験動物とされるのは遠慮したいのである。

 

「カヲル君、何かしら?」

 

 カヲルは近くにいたマヤの背に隠れた。

 

「ちょっと、人の冗談を真に受けないの」

 

 マヤもカヲルも本当に冗談だとは思っていないが、リツコの表情が元に戻ったので、渋々ながらもカヲルは話を続ける。

 

「兎に角、サルベージをするなら早い方がいいですよ」

 

 カヲルの言葉に従い、10日後にはサルベージ計画が実行されるのであった。

 

「まずは、参号機から始めます」

 

「その、先輩。ヒロシ君は?」

 

「来てないわよ。こればかりは私達が口を出せる事じゃないから」

 

 母子の問題に、特務機関とはいえ、口を出す訳にはいかない。

 お節介のミサトも傍観している状況であった。

 

「それより、気をつけてね。10年前は失敗しているのよ」

 

 カヲルが保証しているとはいえ、難しい計画であった。

 

「第一信号発信」

 

「エヴァ。拒絶反応無し」

 

「続いて、第二、第三信号発信」

 

「全信号受信」

 

「第二ステージへ移行」

 

 この時、発令所は異様な緊張感に包まれていた。

 それは、今までの使徒戦とは違う緊張感であった。使徒との戦いは、最終的にパイロット、そしてミサト達が責任者であった。しかし今回は、自分達が責任者となる番なのだ。

 子供達の母親の命、その重みが自分達の肩に伸し掛かる。緊張するのは当然であった。

 

「各種、誤差、想定内です」

 

 作業が順調に進んでいく。反比例して職員達の緊張と興奮が高まる。

 

「主モニターをカット。サーモグラフィーに切り替え」

 

「救護班はケイジ内に待機」

 

 作業も最終段階に入る。リツコの声にも緊張感が混入していた。

 

「カウントダウンに入ります。5秒前、4、3、2、1、0」

 

 マヤのカウントダウンの声をネルフ職員達が固唾を飲んで聞いている。

 

「被験者を確認。脳波、脈拍、全て正常!」

 

「救護班、急いで!」

 

 リツコの指示と共に職員達は緊張感から解放される。

 

「被験者に現時点で異常無し!病院に搬送します!」

 

 救護班からの報告に、リツコはサルベージ作業の成功を確信した。

 

「了解。後は頼むわ」

 

(さて、後はミサトの仕事ね)

 

 リツコは宗谷母子の家庭事情に関わる気は無い。実際に関わる暇も無いのである。

 リツコ達には、まだやるべき事が残っているのだ。

 

「さて、このデータを元にして、作業を続けるわよ!」

 

「了解!」

 

 参号機のコアからのサルベージ作業が成功し、自信を持った職員達は力強く返事をした。

 サルベージに関連する事は極秘とされ、ネルフのトップシークレット扱いであった。

 職員達には、元が非人道的な実験の犠牲者だからと説明されていたが、実際は碇ユイがサルベージされた事を知ったゲンドウの暴走防止の為であった。

 そして、三人目のサルベージ作業が完了するまでの間、ゲンドウに気付かれる事なく舵を取った冬月の手腕は「見事」と称賛されるべきであろう。

 

(さて、ユイ君が還ってきたとなると…アイツの反応が怖いな)

 

 冬月は失敗しても成功しても、気苦労が絶えないのであった。

 

 

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