新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第54話 迎える人々

 

「クラスの皆のママのサルベージ!」

 

 リツコがテーブルを挟んでパイロット達に第6次サルベージ計画を伝えるとアスカの素っ頓狂な声が談話室に響いた。

 

「そんなに驚く事じゃないでしょう。もう、エヴァは必要ないんだから」

 

 リツコもアスカの声に呆れながらも説明を続ける。

 

「今回は貴方達のクラスメート全員コアからサルベージするから人手が足りないのよ。既にユイさんとキョウコさんもラボに入っているわ」

 

「だから、ママやシンジのママが駆り出されるのは分かるわよ。でも、私達までが本部に泊まり込む必要があるのよ!」

 

 アスカの言葉にシンジ、レイ、ヒロシの三人も大きく頷き同意を示す。

 

「仕方ないでしょう。中学生だけで何日も保護者無しで生活させられないでしょう」

 

 リツコの言葉は世間一般の良識ではあるが、パイロット達には今更の話である。

 数ヶ月前までは、中学生に兵器に搭乗させて、危険な戦闘行為をさせた組織の主要人物が言っても説得力が皆無なのである。

 

「それに貴方達だけで生活をさせて間違いがあるとも限らないでしょう」

 

 リツコの言葉にシンジとアスカが即座に反応して、真っ赤な顔して異口同音で否定した。

 

「間違いとか無いです!」

 

「間違いとか無いわよ!」

 

 横で聞いていたレイとヒロシの頭の上には大きくクエスチョンが浮かぶ。

 

(間違いって、何を間違えるの?)

 

(キョウコさんの方が天然なのに)

 

 レイとヒロシはリツコの言葉の意味を大きく間違えていた。

 

「アスカ先輩も碇先輩も、今はネルフも人手不足で僕達が本部で宿泊したら警備の人達も楽になるんだし」

 

 ヒロシが場の空気を読んで上級生二人を宥める。

 

「いや、ヒロシ君。何か勘違いしているよ」

 

「ヒロシ、あんたねぇ……」

 

 アスカはヒロシの純真無垢さに頭を抱えてしまう。

 

(こんな子と間違いが起きるはずがないでしょうに)

 

「あの、期間と学校の方は?」

 

 律儀にもレイが小さく手を挙げて肝心な質問する。

 

「そうね。予定では期間は二週間前後になるわね。学校は本部から送迎があるわ」

 

「了解しました」 

 

「他には質問は?」

 

「部屋や食事はどうなるんです?」

 

 ヒロシが具体的な生活面について質問する。

 

「そうね。食事は各自で食堂を使えば問題無いでしょう。部屋も余っているし一人一部屋でも構わないけ……」

 

 リツコは最後まで続けられなかった。レイとヒロシの視線に気づいたからである。

 

「そんな顔をされたら、一人一部屋とか言えないわね」

 

 リツコはミサトがパイロット達にあてられて愚痴を言っていた事を思い出した。

 

(まあ。今回は誰か犠牲になるわけでもないから問題は無いわね)

 

「男女別に二部屋用意するわ!」

 

 レイとヒロシの視線の意味を理解しながらも、リツコの立場からして建前上、若い男女の同室を認められない。

 

「それなら、着替えとか取りに一度、帰らないと、ママの着替えも用意しないと」

 

「冷蔵庫の生物も処分しないと」

 

「教科書とかも必要ね」

 

 上級生三人が宿泊の準備を話をしていたがヒロシだけが複雑な表情をしていた事にリツコは気づいた。

 

「ヒロシ君。何か不安?」

 

「いえ、先輩達のクラスが予備パイロット達を集めていたのは分かりますけど、その他には居ないんですか?」

 

 ヒロシにしたら当然の疑問であろう。

 

「当時の事は私も学生だったから分からないけど、副司令の話だと、シンジ君のクラス以外だとヒロシ君だけよ」

 

 本来なら機密に関わる話なのだが、この件についてはリツコも本当に何も知らなかった。

 リツコが把握していたパイロット候補はシンジ達のクラスとヒロシだけであった。

 当時を知る者は、既に冬月しか居ない。

 

「漏れが無ければ良いですね。この機会を逃せば次は無いでしょうから」

 

 その様な凡ミスを冬月がする筈がなく、リツコにはヒロシの杞憂に思えた。

 

(この子も年齢に似合わずに苦労しているから、色々と気を回すでしょうね)

 

 ヒロシの苦労の大元は知り合う前だが、自身の夫のゲンドウに大半の責任がある事をリツコは自覚していた。 

 

(本当に偽善ね。ミサトの事を言えないわね)

 

 リツコは夫と同じく口元を歪ませて自身を冷笑した。

 

 他にも表情に出さずに冷笑していた人物がいた事にリツコは気づかなかった。

 

 その後、パイロット達は忙しかった。

 自身の着替えだけではなく、ユイとキョウコの着替えも用意する事になった。

 家族とはいえ女性の下着を扱う事にシンジとヒロシには抵抗があり、アスカとレイに着替えの準備を任せると主夫らしく冷蔵庫の整理に専念する。

 

「肉食や魚は冷凍するにしても野菜はどうしょう?」

 

「サラダにします?」

 

「そうだね。サラダにするしかないか」

 

「碇先輩とこは、野菜好きな綾波先輩がいるから問題ないでしょうけど、うちはアスカ先輩は野菜嫌いだからなあ」

 

 ぼやくヒロシに苦笑するシンジであった。

 レイは肉嫌いの反動なのか、野菜や果物が好きらしく、アスカやヒロシからは「前世はウサギ!」と揶揄される事がある。

 

(確かに目も赤いけど)

 

 日頃は無表情のレイに、二人は苦笑させる快挙を成し遂げている。 

 パイロット達が泊まり込みの支度を済ませてネルフ本部に戻る頃には夕方になっていた。

 大浴場に入浴した後で久しぶりに四人で夕食となった。

 

「しかし、ネルフも銭湯みたいな風呂があるのに洗濯機が無いのも不思議ですよね」

 

「技術部には作業着専用の洗濯機はあるわよ」

 

「プラグスーツも毎回、洗濯されてるわ」

 

「でも、プラグスーツは普通の洗濯機じゃ無理だと思うよ」

 

 ヒロシ、アスカ、レイ、シンジの順で会話する。

 パイロット達だけの食事も久しぶりである。

 他愛のない会話にシンジは達成感を感じていた。

 セカンドインパクトを阻止して、身近な人を亡くす事もなく、クラスメート達の母親達も帰還する事に満足していた。

 シンジはクラスメート達の母親についてまで気が回らなかったのが、大人達はシンジが気が回らない部分もフォローしてくれた事に安心した。

 

(もう、僕に出来る事は無いな。ミサトさんやリツコさんに全てを任せてもいいんだな)

 

 シンジ達は食事が終わると、男女別に用意された部屋に戻り就寝となった。

 部屋の電灯を消す直前にヒロシが部屋を出て行くがシンジは気に留める事はなかった。

 アスカがヒロシのベッドに潜り込むのは稀で、ヒロシやレイがアスカやシンジのベッドに潜り込むのが常だったので、この日もヒロシがアスカのベッドに潜り込みに部屋を出たとシンジは思っていた。

 実際にシンジの予想通りにヒロシはアスカのベッドに潜り込んでいた。

 シンジの予想と違ったのはレイがシンジのベッドに潜り込むつもりで部屋を出ようとした時にヒロシがレイをアスカのベッドに引き摺り込んだ事である。

 

「碇君の前では話せない事?」

 

 ヒロシとアスカは二人同時にレイの質問に頷く。

 アスカのベッドで三人がヒロシを中央に川の字になって会話が始まる。

 レイもヒロシと一緒に暮らしていたので、ヒロシの行動に意味がある事は理解していた。

 

「手短に話ますよ。碇先輩の前でサルベージの話やクラスメートの話は避けて下さい」

 

 今回のサルベージを最も喜んでいるのはシンジである事はレイもアスカも理解していた。

 その事に触れるなと言われて当然の如く二人は疑問に思う。

 

「ちゃんと理由も説明しなさい」

 

 説明を求めるアスカの口調には常にない厳しさが混じっていた。

 

「今回のサルベージは道義上、必要ですが、既に死んだと思っていた人が現れても困る場合もありますから」

 

「それで、リツコが談話室で話をした時に浮かない顔していたのね」

 

 二人には、ヒロシの発言は理論的には理解が出来たが、心情的には理解が出来なかった。

 レイは元々が天涯孤独の身であり、アスカも慕母の念は強かった、それ故に弐号機とのシンクロ率も高数字を出す結果となった。

 

「既に再婚して新しい母親と暮らしている人もいるでしょう。それに新しい母親が産んだ弟や妹もいる家庭もあるでしょう」

 

 この発言にはアスカはクラスメート数人の顔が浮かんだ。

 アスカ達が親しくしているヒカリやトウジやケンスケの父親は再婚していない。

 しかし、思い浮かんだクラスメートの父親は再婚したのであろう。

 休み時間の雑談で母親の事に触れている会話が聞こえて来た事もある。

 

「太平洋戦争が終わった後に戦地から帰って来たら、奥さんが新しい旦那と結婚していた話とかもありますからね」

 

 この辺りの知識は戦争経験のある祖父母からである。

 実際に母親が現れても拒絶したヒロシが言うのだから説得力があった。

 

「分かったわ。私の役目は碇君を支える事ね」

 

 レイの心境は言葉とは反比例して複雑であった。

 レイはシンジが人類補完計画を阻止するために逆行した意味を知っていたからである。

 サルベージが終了してコアに取り込まれた母親達が還ってくれば、ヒロシの予想する悲喜劇が起こるだろう。

 

(今回の事は碇君には全く責任が無い事なのに)

 

 レイは自分の考えは正論と言え、シンジが納得するとは思えなかった。

 全ての発端はゼーレとゼーレの指示で動いたシンジの父親のゲンドウにある。

 恐らくシンジはサルベージが完了した時に傷つくであろう。

 傷ついたシンジを癒す事が出来るのは自分だけである事も理解していた。

 

(碇君は私が守るもの)

 

 レイは無言で誓うとベッドが出て想い人が待つ部屋に行くのであった。

 

 

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