新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第5話 ネルフ本部にて

 

 ミサトは風呂上がりにシンジの悲鳴が聞こえたので、バスタオル姿のままシンジの部屋に飛び込んだ。

 ベッドの上で手足を振り回し錯乱していたシンジは駆け寄ったミサトに抱きついた。

 

「ミサトさん。皆が!皆が僕を責めるんだ!」

 

 シンジは涙で濡れていた顔でミサトに助けを求める。

 

「何故、逃げたんだ。自分達を見殺しにしたと怒るんだ!」

 

 ミサトはシンジを抱き締めるとシンジがパイロットになった理由の一端を理解した。

 

「大丈夫よ。シンジ君は誰も見殺しにしてないし、逃げずに立派に戦ったわ」

 

 ミサトは錯乱するシンジを必死で宥めて落ち着かせた頃には、風呂上がりのミサトの体も冷えきっていた。

 

「ごめんなさい。ミサトさん」

 

 俯きながら謝罪するシンジに、ミサトは逆に謝罪した。

 

「シンジ君は悪くないわ。私達大人がだらしないのよ」

 

 ミサトは謝罪しながらシンジを抱き締める。文字通り、シンジに顔向けが出来なかったのである。

 

「子供のシンジ君に、事前に話もせずにエヴァに乗せたんですもの」

 

 シンジを抱き締めるミサトの手に力が籠る。

 

「シンジ君の善意に甘えて、シンジ君を道具扱いをしたのよ」

 

 ミサトの告白にシンジは本当は自分が悪いのだと口にしそうになった。

 ミサトは戦自に襲撃された時に選択肢を与えてくれた。

 このまま逃げるのか。初号機に乗り戦うのか。駐車場で最後の最後で逃げる事を許してくれたのだ。

 あの時に自分が逃げる事を選んだらミサトは命を落とす事もなく、パイロットが居ない初号機は起動せずに人類補完計画は頓挫していたかもしれなかったのだ。

 

「ミサトさんは悪くない。僕さえ、しっかりしていれ……」

 

 シンジは最後まで言えなかった。シンジが自制したのではない。ミサトがシンジの口を自身の口で塞いからだ。

 

「……!」

 

 突然のミサトの行動に、シンジは驚き人類を滅ぼした罪悪感も吹き飛んだ。

 驚愕して一瞬だけ意識が空白になったシンジの隙にミサトはシンジの口腔内に舌を潜り込ませる。

 シンジが反射的に逃げようとすると、既にミサトに首と背中へ腕を回されていた。

 シンジが限界になる寸前でミサトはシンジを解放した。

 

「落ち着いた。シンジ君」

 

「は、はい」

 

 シンジは一時の錯乱状態から醒めたが、正常状態とは別の意味で言えなかった。

 

「今日は遅いから一緒に眠りましょう」

 

 ミサトが着替えの為に自室に戻るとシンジはベッドの上で見慣れ天井を見つめて冷や汗を掻いていた。

 

(危なかった。あの世界の事を夢に見るとは思わなかった)

 

 シンジは紅い世界でサードインパクトの犠牲者から責められる夢を見たのだ。

 シンジが人類を滅ぼした一因である事は間違いなく。中学生のシンジが耐えられる筈も無く錯乱するのは当然の事であった。

 

(あんな世界にしない為に戻って来たんだ。綾波との約束は必ず守る)

 

 シンジが改めて決意をした時にミサトが部屋に戻って来た。

 

「シンジ君。お待たせ」

 

 パジャマ姿のミサトがシンジを抱く様に添い寝をする。

 

「今夜は何も考えずに眠りなさい」

 

 シンジはミサトの胸に抱かれながら懐かしい記憶に包まれる。

 シンジはミサトに抱かれると安心したのだろう。直ぐに眠りについた。

 シンジの寝顔を見ながら、ミサトは罪悪感を感じていた。

 

(そうよね。まだ、中学生のシンジ君に人類の未来を背負わせるなんて酷な話よ)

 

 そして、自身がシンジに死地に向かわせる命令を出す立場なのだ。

 シンジとの同居も、いきなりパイロットになったシンジを不安に思い、監視目的で提案した事である。

 

(汚れてるわね)

 

 自身の罪に苦笑するしか無いミサトであった。

 

(例え、罪に汚れて地獄に落とされても、今さら引き返す事は出来ないけどね)

 

 父の仇である使徒への復讐を諦められないのはミサト個人の資質ではなく人間の業であろう。

 

(何時、誰が裁くかは分からないけど、その日までの罪滅ぼしね)

 

 ミサトは華奢なシンジを優しく抱くと朝まで眠りに落ちたのである。

 故に夜中にシンジに膝蹴りを食らわせた事も気づかずに、寝相の悪さに閉口したシンジがリビングに避難した事も知らなかった。

 

 翌朝、シンジの部屋で目覚めたミサトは見慣れない風景に昨夜の事を思い出していた。

 

「そうか。昨日はシンジ君と一緒に寝たのよね」

 

 ベッドの主であるシンジの姿が無いので、取り敢えず着替えの為に部屋を出たミサトは見慣れない風景を再び目にする。

 かつて空の酒瓶と中身が詰まったゴミ袋の部隊に占領されたリビングとキッチンは、占領軍の殲滅により、元の景観を取り戻していた。

 

「あっ、おはようございます。ミサトさん」

 

 エプロン姿のシンジがペンペンの餌皿に鰯を置きながら挨拶をして来た。

 

「えっ、あっ。おはよう」

 

「起きたなら、直ぐに着替えて下さいね。ご飯も炊けてますから」

 

「そ、そうなの」

 

 着替えを済ませてキッチンに戻るとテーブルには味噌汁と鯵の干物と玉子焼きの連合軍が鎮座していた。

 

「これ、シンジ君が作ったの?」

 

「はい。そうですよ」

 

 炊きたての白米は湯気を放ち、味噌汁の豊潤な香りがミサトの食欲を誘う。ミサトは日課の朝酒も忘れて椅子に座る。

 

「いただきます」

 

 行儀良く両手を合わせて二人は食事を始めた。

 

「シンジ君。料理が上手ね」

 

「お世辞を言っても駄目ですよ。ミサトさんには料理を覚えてもらいますから」

 

 シンジの返答に幾分は気分を害した様子のミサトは反論をした。

 

「失礼ね。私が料理が出来ないみたいに言わないでくれる!」

 

(この人、自覚が無かったのか!)

 

「なら、今度はリツコさんを呼んで試食会をしましょう」

 

 内心の声は出さずに冷静に返すシンジであった。

 

「それより、今日はネルフの皆との面通しとエヴァに乗った感想を聞きたいの」

 

「は、はい」

 

 不利を悟ったミサトの露骨な話題転換にシンジも呆れ気味に返事するしかなかった。

 食事を摂り終えた二人はネルフ本部に向かった。

 ネルフ本部では「初めまして」という単語を繰り返すシンジであった。

 一通り挨拶回りが終わると、次はリツコの事情聴取とエヴァについての座学講習となる。

 

(何が感想だよ。これじゃ、尋問だよ。ミサトさん)

 

 前回はシンジがパニックになった事もあり、何も聞かれる事は無かったが、今回は初めてエヴァに乗っての実戦で見事な操縦で使徒を倒したのである。リツコにしたら色々と根掘り葉掘りと質問するのは当然である。

 

「これが最後の質問よ。最初の蹴りを弾かれた後の蹴りは見事だったけど、あれはシンジ君が意識して出した技なの?」

 

「ああ、反転キックですか。女の人は分からないと思いますが、男の人なら「お約束」の技ですよ」

 

 シンジから「お約束」と言われて怪訝な表情になるリツコである。

 シンジは補足説明の必要を考えたが、リツコの尋問にも疲れてきたので、人に押し付ける事にした。

 

「父さんの世代の人なら、僕よりは上手く説明が出来ると思いますから、父さんに聞いてみて下さい」

 

 後日、シンジの進言の通りゲンドウに質問して「お約束」の意味を理解したリツコだが、ゲンドウも凡百の男と変わらない事を知る事になった。

 

 午後からはリツコによるエヴァに関しての座学となった。

 シンジにしては既知の事なので苦にはならないが、リツコにしてはシンジは大変に出来の良い生徒という印象になった。

 

(やはり、ユイさんの血かしらね)

 

 リツコは思わずシンジの顔を見つめてしまった。

 

(目元は母親似ね)

 

 夕方になり、講義が終了するとシンジからリツコに提案があった。

 

「あの、リツコさん。明日でも良いですから、自分専用の送迎車とか駄目ですか?」

 

「あら、いきなりVIP待遇を要求するの?」

 

 リツコの言葉にシンジは慌て気味に説明する。

 

「使徒が現れた時に、ネルフ本部からの迎えを待つよりは、常に送迎車が近くに待機してもらえば、早く対処が出来ますし、僕も心の準備が出来ます」

 

 シンジの主張は確かに当然だと思えたのでリツコも暫し考えた。

 

「そうね。シンジ君の言う事にも一理あるわね。私から司令に話をしてみるわ」

 

 リツコは、その場でゲンドウに内線電話で連絡を取る。

 

「はい。サードチルドレンの主張にも一理有ります。現に葛城1尉は、今日は残業でサードチルドレンが一人で帰宅する事になります」

 

「葛城1尉には私から伝達します。警備部からで宜しいのですか?」

 

「了解しました。今日は既に終了しました」

 

 リツコは内線電話を切るとゲンドウがシンジの要求を受け入れた事を伝えた。

 

「ありがとうございます。リツコさん」

 

「別に礼を言われる事じゃないわ。使徒が現れててエヴァも起動したのだから、シンジ君の指摘は当然の事よ」

 

 シンジは内心で第9使徒マトリエル戦の対策が出来た事を安堵した。

 

(無駄になれば良いけど)

 

 シンジは、自身が逆行した影響で、歴史に影響があるか予測も出来ないでいたが、打てる手は全て打つのであった。

 

 

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