新世紀エヴァンゲリオン takeⅡ   作:周小荒

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第6話 悔恨と謝罪

 

 シンジは送迎車の準備が出来るまで、本部に待機する事になった。

 

「リツコさん。そういえば、僕がサードなら、他にファーストとセカンドが居る筈ですよね?」

 

 シンジの思いがけない質問に、リツコも内心の焦りを隠す為に短く返答する。

 

「居るわよ」

 

「その二人は何処に居るんですか?」

 

 リツコが恐れていた質問がシンジの口から出たのである。

 セカンドチルドレンのアスカはドイツに居る。問題はファーストチルドレンの綾波レイである。

 レイは零号機の暴走事故により入院中である。その事実を知ればシンジが怯えて、パイロット就任を拒否するのでは…と懸念したのだ。

 

「私の権限だと、シンジ君の質問に回答する事が出来ないわ」

 

「誰なら権限があるんですか?」

 

 リツコの予測範囲の質問に、あらかじめ用意していた対策を実行に移す。

 

「ミサトなの。ミサトに聞いてみるわ」

 

 リツコはシンジを部屋に残して隣の部屋からミサトに内線電話で連絡した。

 

「ちょっと、ミサト。シンジ君が他のパイロットの事を気にし始めたわよ!」

 

「それは、不味いでしょ!」

 

「だから、どうするの?」

 

 リツコにしたらシンジが他のパイロットの事を質問してくるのは当然であり、ミサトの立場なら対策は既に用意して然るべきと思っている。

 同時にミサトの事だから、無為無策だと思っていたが、予測していても現実に慌てるミサトに対して苛立つのであった。

 

「隠しても仕方ないわ。正直に話すしかないでしょ」

 

 思わず頭を抱えるリツコであった。

 

「まあ、貴女が担当者なのだから貴女の判断に従うわ」

 

 内心は自分に厄介事を押し付ける気ではと勘繰るリツコであった。

 

「ちょっち、仕事を抜け出してシンジ君をレイに会わせてくるわ」

 

 リツコはシンジが怯えてパイロットを降りたいと言い出さない事を願うばかりであった。

 

「シンジ君。ミサトが来るから、ちょっと待っていてね」

 

 リツコはシンジに、そう言い残すとシンジの前から逃亡した。シンジからレイについて質問されても困るからだ。

 

(リツコさんも忙しそうだな)

 

 シンジ当人はレイの怪我も既知の事なので大人達の思惑は的外れなのであった。

 

「シンジ君には先輩パイロットに会わせる必要もあったわね」

 

 ミサトは出来るだけ軽い口調で、故意に先任のパイロットの事に触れなかったふりをした。

 

「一人はドイツに居るわ。残りの一人は近くに居るから、今から会いに行きましょう」

 

 シンジは荷物をまとめると、ミサトと共に部屋を出る。

 ミサトはシンジをルノーに乗せるとアスカの説明を始める。

 

「今、ドイツに居るパイロットはシンジ君と同い年の女の子で既に戦闘訓練もしているわ」

 

「そうなんですか!」

 

「今、使徒の出現を受けて日本に来る準備をしているわ」

 

「もう一人は?」

 

 シンジの質問に数瞬の逡巡の末にミサトが口を開いた。

 

「シンジ君が来る前に事故に遭って、今は入院中よ」

 

「事故?」

 

「そう、ちょっとした事故で入院していて来週には退院するから、その時にシンジ君に紹介するつもりだったの」

 

 ミサトが言い訳をしている間に二人を乗せたルノーは病院に到着した。

 

「ちょっち、待ってね」

 

 ミサトは病院の駐車場でシンジの送迎車の手配を始めた。

 

「そう。私は本部に戻るけど、サードは帰宅しますので、送迎を宜しく」

 

 ミサトはシンジが取り乱した時の保険に警備部の人間も巻き込むつもりである。

 最悪の場合は送迎車の人間にシンジを押し付ける算段をしていた。

 

「私は、この後は本部に戻るけど、シンジ君は先に帰ってね。今日は遅くなるから」

 

「じゃあ。帰りにスーパーに寄って買い物しますから」

 

 シンジは帰りにスーパーに寄り、色々と買い物をする為にミサトから現金を預かった。

 葛城家の冷蔵庫には酒の肴ばかりで、まともな食材が少ないのである。それに、シンジ用の食器を揃える必要もある。

 

「これで、足りるかしら?」

 

 家庭的な会話をすませると二人はレイの病室に向かった。

 

(警備部の人間が来るまで、待った方が良かったかしら)

 

(綾波に会ったら、何と言えば良いのかな)

 

 二人は互いの考えに没頭して無言のまま、レイの病室に到着した。

 

「レイ。入るわよ!」

 

 病室に入ると片目と片手を包帯を巻かれた少女がベッドに横になっていた。

 

「葛城一尉」

 

「起きなくても大丈夫よ。レイ」

 

 ミサトがベッドから上半身を起こそうとするレイを制する。

 

「レイに紹介するわね。この子がサードチルドレン。碇シンジ君よ」

 

「碇シンジ?」

 

「そう。彼は碇司令の息子さんよ」

 

「初めまして、僕が碇シンジです」

 

「この娘が、ファーストチルドレンの綾波レイよ」

 

 シンジはレイの手を握ると口を開くが何も言葉が出なかった。代わりにシンジの目から熱い涙が溢れてきた。

 

「どうして泣くの?」

 

 ミサトも想定外のシンジの反応に戸惑うばかりである。

 

「ごめんなさい。本当にごめんなさい」

 

 シンジは逆行前の自身の対応と司令である父ゲンドウの対応について、レイに思わず謝罪の言葉が出たのである。

 シンジは三人目のレイと知った時に、レイを避けてしまった。

 そして、レイを終始、道具として扱ったゲンドウの息子として悔恨の思いが涙として出たのである。

 

「貴方は悪くないわ。私は大丈夫だから」

 

 レイとしたら、他に言葉の掛け様も無いのである。

 困惑したレイはミサトに視線だけで助けを求めた。

 

「ほら、シンジ君。レイも困っているから」

 

 ミサトは陽気な声を出してシンジを病室から連れ出した。

 ミサトは、泣きじゃくるシンジを慰めながら、自身も罪悪感を覚えていた。

 

(シンジ君は司令の息子として、レイに責任を感じてるのに、私はパイロット達を道具としか見てない。私も司令と同罪ね)

 

 ミサトは使徒に対する復讐者以前に軍人という職業の業を自覚したのである。

 

(しかし、今さら、引き返せない)

 

 ミサトは自身の罪を自覚しながらもパイロットを道具としか見ないつもりである。

 ミサトはシンジを警備部に引き渡すとネルフ本部へと戻った。

 本部では病室でのシンジの行動が既に話題になっていた。

 

(そうか。病室は24時間体制で監視されていたわね)

 

「ミサト。貴女、本当にシンジ君と一緒に暮らせるの?」

 

 リツコがミサトに聞いた質問は、リツコも己の罪を自覚していた為である。

 

「大丈夫よ。全ての使徒に勝てば良いだけよ」

 

 言葉にすれば簡単な事だが、実行の困難さを考えると頭が痛い話である。

 

「分かったわ。せめて、パイロットを無事に帰還させる努力をしましょう」

 

 人類補完計画も全ての使徒を倒さないと話にならない。パイロットが生還しても人類補完計画が発動されたら意味が無いのである。

 

(所詮は偽善ね)

 

 リツコは偽善と思いながらも、偽善でも行う事に意義を見出だしていた。

 

 ミサトとリツコが不毛な会話をしていた頃、シンジは主夫に変貌していた。

 

「味噌と煮干し、米と卵と、それに納豆も必要かな?」

 

「随分と買い込むんだな」

 

 シンジの買い物に付き合わされた警備部の人間も呆れ気味である。

 

「だって、ミサトさん。自炊をした形跡が無いんですよ。外食ばかりだと体に悪いですもん」

 

 このシンジの言に警備部の人間も黙るしかなかった。

 独身者と単身赴任者が多いネルフである。自炊をしている者の人数の方が少ないのである。

 

「まあ、葛城一尉も忙しい人だからな」

 

 警備部の人間のミサト擁護にはシンジは懐疑的である。

 

(それでも、冷蔵庫の中身がビールと肴だけなのは、どうなんだろう)

 

 内心の思いは口に出さずにシンジは手早く商品をカゴに入れて行く。

 引っ越しの荷解きも終わってなく、実際に時間も無いのである。

 シンジが生活戦争に没頭していた頃、ネルフ本部では冬月がシンジとレイの関係に危惧を抱いていた。

 

「碇。若い二人が近い未来に駆け落ち等をする事態になるのでは?」

 

「問題ない」

 

「しかし、お前の息子の反応を見ただろ」

 

「レイはユイのクローンだ。シンジが惹かれるのは自然な事だ」

 

 それは、余計に不味い事態だと思う冬月である。

 

「それより、あのシンジの反応を見て本部内の士気が上がっている」

 

 シンジの病室での反応は、既に本部職員の知る事となっていた。

 本部職員も中学生に戦わせる事に程度の差があれ罪悪感を持っていたので、シンジの反応に贖罪の意識が化学反応を起こして打倒使徒の士気が上がっていた。

 

「お前には、全ての者が計画の為の道具だったな」

 

 冬月は自身もゲンドウと同罪である事を自覚していた。

 

「大半の駒は揃っている。後はドイツだけだ」

 

 冬月はゲンドウの計画が成功しても失敗しても構わないと思っていた。

 

(しかし、ゼーレの人類補完計画だけは看過する訳にはいかん)

 

 ゲンドウとゼーレと使徒と三者の戦いが始まったばかりである。

 

 

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