天人様の言うとおり   作:青二蒼

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早くも京都入り。
早速、ネギまの一部と絡ませたいと思います。


天人二人、京の都を訪ねる

 ――京都。

 今日(こんにち)では様々な文化財が残る場所でもあり、観光名所としても名高い。

 また、様々な魑魅魍魎――妖怪にまつわる話もある。

 だが、観光とは違う目的で訪れた者が二人いる。

 その者達は天人と呼ばれる種族であり、その目的は幻想郷に妖怪が大量に流入してきた原因を調べる事であった。

「やっと着いたわね」

 到着したと同時に比那名居 天子が言葉を漏らす。

 京都を目指したのが2日前。

 思えばすぐに着いたのであろうが、相方である蒼天が無用な出来事を避けるためにと夜にしか移動せず、地理も分からないために必然的に時間が掛かることになった。

 公共の乗り物を使用する事も考えたが、まったく乗り方が分からない上にこの世界の通貨も持っていない。

 人の技術の進歩にいたく感心させられたが、幻想郷から来たばかりの天人二人にとってはそう言った物は無用の長物であった。

 おまけに格好も、周りから見れば目立つ。

 結局、移動手段は徒歩と飛行に限られたのである。

 その道中で、妖怪と言ったモノに会う事はなかった。

 人に道を尋ねて歩くを繰り返し、ここまでやってきた。

「さすがは京の都……微かながら妖力を感じますね。人の怨霊とかも感じますが」

「それにしても、外の世界は凄いわね……幻想郷では見ないあんな高い建造物まであるなんて」

「そうですね。さて、ここら辺に妖怪がいるかを探して回りますか……」

 蒼天の提案に天子も乗る。

 そして、天人二人は人目に付かないように京都の古い町並みを、感じる妖力を頼りにブラブラと歩き始める。

 この世界で通用する通貨を持ち合わせていないために、飲み食いや一部有料な観光場所などを訪れることは出来ないが、観るだけでも天子の方は随分と楽しそうであった。

 京都の街を右に左にと歩いていたが、とある場所にて蒼天は違和感を覚えた。

 それは階段に千本鳥居が並ぶ場所。

 その両脇は竹林であり、また進入禁止の立て札が置かれている。

「………………」

「どうしたのって……これまた怪しい場所ね」

 天子もそこに立った瞬間に違和感を感じたようで、立ち止まる。

 蒼天も天子も力を感じていた。

 それも阻害系の結界である。

 つまり、術式を構成できる力を持った人間がこの先に居る可能性が高いと言うことが考えられる。

「手掛かりかもしれませんね、これは」

 蒼天は迷わず、その鳥居の中に入って行った。

「う~ん、何か荒れる予感がするわね」

 ボヤキながらも天子もその後に続く。

 しばらく何も言わずに進んでも、何ともない階段で同じような景色が続く。

 だが、それも終わり出口が見えてきそうかと思ったその瞬間――

「神鳴流奥義……斬空閃!」

 蒼天は瞬時に殺気が飛んできた方向へと身の丈ほどの鉄の壁を生成する。

 すると、何かの斬撃を防ぐような金属音が鳴り響く。

「……口よりも先に手が出るのはあまりよろしくないですよ。交渉の余地を自ら破棄することになりますから」

 どこか場違いな忠言をしながら蒼天と天子は攻撃してきた相手を見る。

 そして天子は、なぜか緋色の刃を持つ『緋想の剣』を手に携えて、好戦的な眼をしている。

 その表情は暇潰しが出来ると言った感じであった。

「お前たちは何者だ?」

 半ば、脅しと言った口調。

 先程の斬撃は警告だったのだろう。

 そこには太刀を持ち、胴着に身を包んだ20代ほどの青年が、警戒心を(あら)わにしながら竹林の中から出てくる。

「何者って聞かれたら……通りすがりの天人って答えるしかないわね」

「天人だと? ふっ、何をバカな……」

 天子の言っていることは事実だが、通りすがりの天人と言われてもいきなり人間が信じる訳がない。

 事実として一笑されている。

「貴様らが何であろうと、一般の者と違うことは確かだ。そんな奴が、ここ『関西呪術協会』に何用だ」

「野暮用ね」

「……ふざけてるのか?」

「だとしたらどうする人げっ――!!」

 天子のセリフの途中に蒼天が人間の頭ほどの鉄球を浮かして、彼女の後頭部にぶつける。

 その時に鈍い音が響く。

「天人が人間を(あお)ってどうするんです?」

「っ……痛いっ…ってちょっ――!?」

 そしてさらに、体が隠れるほどの立方体の鉄の塊が天子の背中にのしかかる。

 話がこじれる可能性があるので、蒼天はしばらく暴れられないように負荷を掛けた。

「失礼。呪術協会と言う事は、ここには陰陽術師でもいるのですか?」

「質問しているのはこちらなのだがな。が、答えるなら()と言っておこう」

 その言葉に蒼天は黙考する。

 隣では未だに天子が鉄の塊に対して抵抗しているが気にしない。

「こちらの番だ。もう一度聞く……何用だ」

「野暮用と言うのは、間違いではないのですが……最近は妖怪が減ったのでその調査に」

 幻想郷の妖怪は増え、逆にこちらでは見ない。

 と言う事は、確実に化生のモノはさらに減っていると考えられる。

「確かに、最近は魑魅魍魎が減っている。式神にする奴がいなくて困っていると術師からは聞いている。が、それがどうした?」

 意外と素直に答えてくれた。

 この青年剣士のおかげで減っていると言う事実は分かった。

 問題はその原因であるが、これは詳しく聞くしかないだろう。

「……いきなりですみませんが、少しばかり、話をする場を設けて貰いたい。さすれば、私たちの目的などを色々とお教えしましょう」

 その蒼天の言葉に、青年剣士は眉をひそめる。

「見ず知らずの者を通す訳にはいかん。大体、私は幹部ではないのでな……そのような決定権はない」

「それでは近づいている人物に聞くことにしましょう。それなりの力を感じるので貴方の言う幹部かもしれませんから」

 先程の戦闘……と言うほどでもないが、それを察知した人間がこちらに向かってきている。

 もしくは、目の前の青年剣士が連絡を取ったのかもしれない。

 おそらく数名。

 その内の一人になかなかの実力を持つ強者の気配を感じる。

 未だに青年剣士が警戒を解かず、太刀を構えている。

 が、蒼天としては事を荒げるつもりはないので微動だにせずいる。

 そして、すぐにその人物は現れた。

「何事や」

 そこには剣道着に身を包み、長い黒髪を結わえ、太刀を腰に携えた女性。

 蒼天と天子の双方が強者であることを肌で感じ取っている。ちなみに天子は鉄の塊によって潰れたままであるので、見えているのは地面である。

 先程対峙していた青年剣士とは、その実力は比べるべくもない。

「はっ……侵入者です。結界を素通りしてきましたので、力がある者と思われます」

「ほうか。で、あんさんらは一体この関西呪術協会総本山に何用や?」

 青年剣士から情報を聞き、殺気を少し当てながら蒼天に尋ねる女剣士。

 やはり見立ての通り、かなりの実力者らしい。

「少しばかり、お話をしていただきたく参りました」

 蒼天はそう言うが、偶然の産物である。

 しかし、渡りに船とはこの事で、話を聞かない手はなかった。

「話しやと? 関東の西洋魔法使いからの使者か?」

「そう言った者ではありません。私たち二人は天人と呼ばれる存在です」

「……天人?」

 (いぶか)しむように間を空けて、引っ掛かった言葉を繰り返す。

 彼女の取り巻きも、疑いの色が濃い。 

「いきりなり信じろとは無理な話でしょう。論より証拠といいますし……」

 そう言うと、蒼天は静かに目を閉じる。

 すると、竹の葉が風によりすぐにざわめき出す。

 ……いや、彼を中心に力の奔流が渦巻き、風が起きている。

 そして、同時に他の者たちに圧力がかかる。

「な、なんやこの力……っ!!」

 女剣士が目を見開き、驚いている。

 彼女はその雰囲気に呑まれそうになる。

 それはまるで、ある種の神々しさを感じさせるモノであり、同時に勝機を薄れさせていくものであった。

 いわゆる神通力(じんつうりき)と言った力である。

「どうです?」

 神通力を引っ込め、蒼天は真剣な顔をして尋ねる。

 竹林の間を吹き抜けていた風が止み、静かな竹林へと戻る。

 自らの格の違い、そして天人であることを力の一端を見せることで証明した。

 と言っても、他に証明する物があまりないと言ったところが正直な話である。

 ある意味、脅迫のような形となってしまった事に蒼天は内心としては不本意に思っている。

「そうやな……あんさんらが人ならざる者って言うのは分かった。目的はなんや?」

 平然と返しながらも女剣士は冷や汗を流す。

「少しばかり情報を知りたく、天界より舞い降りた次第ですよ」

 そして同時に答える蒼天に、今ここに居る面子では勝つことは不可能であることを彼女は確信した。

「もし、話の場を設けていただければ詳しい事をお話します。もちろん、拒否しても構いません。他を当たりましょう」

「そうか……分かった。少しばかり上に掛けおうてみるわ」

 その言葉に彼女の取り巻きがざわめく。

 すぐに彼女は一喝する。

「静かにしい! 別に、こいつらは危害を加えに来たんとちゃう。そうやろ?」

「勿論です。天人は人間を余程の事はない限り、傷つけたりしません」

「なら、一旦は信じる。ついてきい」

「さて、行きますよ天子」

「もう……少し、丁寧に扱いなさいよ」

 立方体の鉄の塊による物理的な圧力から解放され、天子は蒼天にずるずると引きずられる。

 しばらく黙ってついて行くと、大きな門が出迎える。

 そして長い石階段を上って行き、小さい門をくぐると今度は広大な平屋が姿を現す。

 中へと案内され、一室を紹介される。

「ほな、ウチが話をしてくるさかいここでしばらく待っといてもらえるか?」

「ええ、待たせて貰います」

 女性の剣士が(ふすま)を閉めて、別れる。

 蒼天と天子は机を挟んで、向かい合う形で畳の上に座る。

 そして、天子の表情はどこか不機嫌そうだ。

 蒼天は呆れ、

「全く、いくら退屈してるからと言って緋想の剣をだすとは……」

「だからって言って、鉄の塊をぶつけるのはやり過ぎじゃない?」

「天人の硬さは自分で知ってるでしょう。別になんともありません」

 むう、と言った感じ天子は膨れる。

 傍から見れば、見た目通りの少女である。

 天人の威厳がないこと自体、天子は自覚してはいる。

 が、性格だけは天人らしいと言えよう。

 すぐに彼女は切り替える。

「それにしても、地上は見て回るだけでも面白そうね」

「そうでしょうね。……しばらくは幻想郷に帰らぬ事になるでしょう。問題は住まいですが」

 ここでは、衣食住がない上に伝手となる者もいない。

 だが食に関しては、天人は欲が薄いために腹が減ることなどはあまりないので、特に問題がある訳でもない。

 住に関しても、天人らしく雲の上で過ごす事も出来る……が、地上に身を置いた方が都合は良い。

 しばらくは他愛もない話をしたり、出された茶を(すす)ったりする。

 不意に襖が開けられる音がする。

「お待たせしました。長がお呼びです」

 女性剣士ではなく、若い巫女が入ってきてそう告げた。

 どうやら時間のようである。

 巫女に先導され、いくつもの角を曲がり案内された先には普通より大きな襖。

 その向こう側には、大きな気配を感じる。

「連れて参りました」

『入って貰ってええよ』

 巫女の言葉にどこか軽い感じの声が、向こう側から返される。

 そして天人二人は、開かれた襖を堂々と臆することなく入って行く。

 両側から視線――数は少ないがここに居る面子は少なからずと相応の実力を持った者たちであろう。

 いくつか席が空いているが、おそらくはここにいない幹部の者たちのモノだろうと予想できる。

 中央の一番奥に居る人物――長と思われる者は他の面子に比べると力での実力は見劣りするが、なにかしらの魅力を感じる。

 天人二人は静かに長と対面する形で静かに座る。

 少し間を挟み、蒼天が口を開く。

「……場を設けて頂き、ありがとうございます」

「ええよ別に。それに天人言うから、ウチも興味があるわ~」

 蒼天は感謝の言葉を述べる。

 対して長と思われる人物はほのぼのとした喋りで、返事をする。

「さて、最初に自己紹介をさせていただきましょう。石守 蒼天と申します」

名居神(ないのかみ)に仕えた比那名居 天子よ」  

 天子の言葉に、幹部と思われる老いた男性と先程の女剣士の間にどよめきが走る。

 名居神とは、地震の神であり日本書紀には推古天皇7年(599年)夏に大和地方を中心とする大地震があり、その後、諸国に地震神(ないのかみ)(まつ)らせたとある。『ない』と言うのは昔の言葉で地震を表すものである。

 ちなみに言うと天子は、その名居神の仕えた神官の補佐と言う立ち位置であるために、正確に言うと名居神に直接仕えた訳ではない。そして、名居神に直接仕えた神官である『名居』の功績が認められたためにその部下である『比那名居』も天界に行くことが認められたのである。

 完全に棚から牡丹餅(ぼたもち)で天人になったために比那名居一族は不良天人と呼ばれており、天子は特に自由奔放で我が(まま)であるため、不良天人の名が顕著(けんちょ)である。

「ちなみに天子は直接仕えた訳ではないのであしからず」

「……余計な補足よ」

 蒼天の言葉は事実なのだから否定しようはないが、堂々と言われるとそれはそれで天子の(しゃく)(さわ)った。

「またけったいなモンが来たもんやな……」

 一人の老人が、苦笑いしながら天人二人を見る。

 その表情は未だに半信半疑と言った感じである。

「せやけど、嘘を言うてる訳とちゃうみたいや。さっきそっちの男の方の力を見してもうたけど、ウチじゃ勝てへんわ」

「ほう……しかし、年寄りになって色んなモン見てきたさかいちょっとやそっとじゃ驚かんへんつもりやけど……さすがに信じられへんな」

 女剣士の言う事に関心が向く老人。

 しかし、その様子は変わらず半信半疑と言った感じであった。

 観察するように老人は天人二人に目を向ける。

「まあ、そうでしょうね。いかに年月を重ねようと全てを知ることはできませんし、知らない事も多くあるでしょう」

「かっ! そうやな。老人と言えども知らんことはたくさんあるわ。けど、見た目が若いように見えるあんさんらの年を聞いてもええか?」

「私は、1000年以上は生きていると言っておきましょう。さすがにそれほどの時が経つと時間の概念も変わってきますのでね。途中から数えるのはやめました。天子でも数百年は生きてます」

 その事実に2人と長は苦笑いを浮かべるか唖然とするしかない。

 もはや若作りどころの話ではない。

 冗談と受け取ろうともしたが、蒼天にそんな雰囲気はない。

 話している内に女剣士の方は、力の一端を見せられた事もあって天人であるという話に真実味を()びてきている。

「そう言えば、貴方がたの名前を聞いていませんでしたね」

「おお、そうやったな。関西呪術協会十二席が一人、九条 兼基(かねもと)

「同じく青山 幸子(ゆきこ)や」

「で、ウチが関西呪術協会の長、藤原 道子(みちこ)

 蒼天の言葉に老人が先に名乗りを上げると、順番に己の名を口にしていく。

 だが、十二席と言う割にはここにいる幹部は二人だけであり、感じる人の気配も敷地の広さの割に少ない。

 しかし、今はそれに話すべきではないとして蒼天は別の話を進めることにした。

 いざ切り出そうかと思いきや、天子がおずおずと言った感じで尋ねる。

「あ~蒼天? 話って長くなる……わよね……」

「まあ、そうなるでしょうね。退屈だからという理由で逃げるのは許しませんよ」

 先に逃げ道を防がれ、天子は肩を落とす。

 蒼天は思い出したように、尋ねる。

「……そう言えば、もう一人この場にお招きしたい方が居るのですが、よろしいですか?」

 その言葉に協会の幹部二人は渋った表情をした。

 果たしてこの場所に、脅威になるかも分からない新しい人物を招いていいものだろうか?

 そう言った感じ表情である。

 ただ、長の方はニコニコとしている。

 あまり自分の心情を読ませないために表情を偽っているのだろう。

 対して、天子の方は誰を呼ぶのかなんとなく予想が出来ているために苦笑いをする。

「ウチは別にかまへんよ?」

「長……少しばかり、無警戒過ぎやないか?」

「でも兼基はん、その人がおったら話しが進むんやとウチは思うんよ。そやから、蒼天はんも提案したんやろ?」

 どうやら、存外に聡い御仁のようである。

 そして、すぐに蒼天はこの人物が交渉に長けた人物であるということを理解する。

「その通りです。ですが私たちは貴方がたからすれば未だに得体の知れない者でしょう。なので別に呼ぶ呼ばないは貴方がたの自由です」

 あくまでも選択権は人間たちに譲る。

 実際に忠言した際にも行動するかどうかの選択はその者しだいである。

 だが、少なくとも忠言を無視ししたまま改善せず、行動にも移さず、大きな代償を払う事になった人間がいるのもまた事実。

 今回はそんな大層な事ではないが、今回の話しでもし彼らと関係を築くのならば……いずれにしろ顔合わせはするだろうと蒼天は思っていた。

 ならば、早い方が良いと考えてはいる。

 幹部の二人は、この状況に判断しかねていた。

 なにせ、他の幹部の面々が居ないのだからこの面子だけで重要な事を決定する訳にはいかない。

 少なくとも長が居れば最低限の方針は決定できるが、案件が勝手に決定されていればこの場に居ない幹部から不満も出る。

 しかし、長から許可が出たので多少の無理は通ると判断して、兼基と幸子は互いに目配せする。

 それを見た長が口を開く。

「ええよ呼んでもらって」

「では、失礼して」

 懐から紫から受け取った連絡札を取り出し、霊力を込める。

『あら、どうしたのかしら?』

「へえ……」

 すぐに紫から反応があった。

 札から声が出た事に少しばかり驚きの声が道子から漏れる。

「原因が判明しそうなので連絡をと、思いましてね。それと、情報の提供者に顔合わせをして欲しいんですよ」

『なるほど。分かったわ』

 それだけ述べると、連絡札に書かれていた通信とは違う術式が反応し始める。

 それは薄いムラサキ色の光から濃い色へと変化し、その光も強くなっていく。

 次の瞬間には蒼天の隣の空間に大きな裂け目が出来る。

 突然の現象に兼基は術符を、幸子は野太刀を手に取り臨戦態勢を取る。

 ぬるっと言った感じに裂け目から現れた紫に二人は息を呑む。

「こんにちは。突然の来訪、ごめんなさいね」

「ええんよ。許可したんはこっちやし」

 紫と言う異形の存在に唯一、普通に返したのは道子だった。

 どうやら豪胆でもあるらしい。

 天子もその胆力に感心する。

「別にそう構えなくてもいいわ。危害は加えないから」

 その言葉に幹部二人は、躊躇った。

 そして同時に気づく。

「お嬢ちゃん、妖怪やな」

 見た目こそフリルのついたファンシーな服を着た少女だが、その少女の本質を兼基は見抜いた。

「ええ、確かに私は妖怪よ。それとも天人だと思った?」

「貴方に天人は向きませんよ」

「まあ、酷いわね」

 にこやかな顔でさらりと蒼天は毒を吐き、紫はそれを同じように笑顔で受け流す。

(もしかして、仲悪いのかしら?)

 などと、天子は二人を見て思った。

「それじゃあ本題に入りましょうか。そこのご老人が言うように私はスキマ妖怪と呼ばれる妖怪よ」

「スキマ妖怪? 聞いたことあらへんな。兼基はんは?」

「いや、ワシも長い事生きとるけど聞いたことあらへん化生やな」

「私しかいないんだもの……当然だわ」

 逆に彼女以外に居れば、それはそれで困る。

 なにせ紫の能力は常軌を逸しているものなのだ。

 彼女がもう一人居れば、幻想郷の力関係が大きく崩れるだろう。

「ウチらに聞きたい事があるみたいやけど――」

「そうね。本題に入りましょうか。まずは、私達が住んでいるところ――『幻想郷』についてお話しましょう」

 まるで、母親が子供に話を聞かせるようにして紫が幻想郷の事を話す。

 その話に道子は引き込まれ、幹部の二人は信じられないと言った感じであった。

 実際にこれほど驚く話はないだろう。

 なにせ、人と妖怪が同じ世界で共存していると言うのだから。

「面白そうなところやね」

「ふふ、ありがとう。それで、問題としては今、人と妖怪の均衡が危うくなっていることなのよ。その原因を私たちは探してるの」

 その紫の言葉に何か思い当たる節があるのか、道子は間を置き、兼基へと目を向ける。

「……兼基はん、もしかすると」

「そやな……『魔法世界』の戦争が関係しとるかもしれんな」

 穏やかじゃない単語流れて、紫と蒼天は眉を動かす。

「向こうの連中はムンドゥス・マギクスと言うとるみたいやけどな、あっちの方じゃ何やら不穏な空気が流れとる。ワシらの方も巻き込まれた形で参加することになってもうた」

「魔法世界……ね」

 紫が反芻(はんすう)するようにして呟き、蒼天の方は別の事に納得がいった。

「ここに人が少ないのはそういう理由ですね」

「そうや。おかげであっちもこっちも手薄でな……今攻めてこられたら確実に終わるってことや」

「兼基はん、少し喋り過ぎとちゃいますか?」

 兼基が色々と言っている事に釘を刺す幸子。

 情報漏洩の事を気にしているのだろう。

 同時に目の前の人物が敵か味方かも分からない。

 その事を思っての言葉と言う事は、この場に居る誰しもが理解していた。

「そう言ったかて、目の前の存在にワシらが勝てるとはよう思えへん。もし、幹部が全員おってもどうなるか分からへんほどの力を感じるわ。けど、あんさんらがこうしてわざわざワシらに許可を得てまで話しとるちゅうことは、争うつもりはないってことやろ?」

 長生きして居るだけあって、ある程度は紫たちの意図が読めているようである。

 実際にも攻め落とす事が目的なら別に、こうして話し合う必要はないのだから、兼基が言う事に間違いはないのである。

 天人である二人にそんな事は出来ないが……

「そうね。私たちは情報が欲しいだけ。特に争う理由はないわ。もし、本当の原因がそちらにあると言うなら話は別だけど」

 半ば脅しと言った感じに紫は威圧する。

「やめなさい」

「きゃんっ!」

 ゴスッと言った感じに天子と同じように鉄の球体が紫の後頭部を襲う。

「痛いわね……こんないたいけな少女に暴力を振るうなんて、貴方は本当に天人なのかしら?」

「貴方がいたいけと言う事自体が筋違いというものです。自分の年を(かえり)みなさい」

「あらあら、何を言ってるのかしらこの若造は……」

「若造? 私の方が貴方より年月を重ねていると言ったでしょう」

「年月の違いが経験の差とは限らないと言ったのはどこの誰かしら?」

「確かに私ですが、貴方が私より経験を積んでいるとは初耳ですね」

 お互いにふふふ、と笑みを浮かべながら舌戦を繰り広げる二人には何やら触れてはいけないモノを感じる。

 いつの間にやら二人の不穏な雰囲気が中心となって部屋の空気が渦巻き始める。

(仲が悪いのか良いのか分からないわね……)

 その二人の一番近くにいる天子は冷や汗をかきながらそんな事を思った。

 そして、関西呪術協会の三人はその様子に何やら置いていかれている感じであった。

「さて、話を戻しましょうか」

 切り替えるようにして、紫が注目を集める。

 あの剣呑な雰囲気はそう長くは続かなかったが、それでも人間にとっては心臓に悪いひと時であった。

「最近、妖怪が減っていることとその魔法世界とやらの関係があるみたいだけど」

「まあ、そう言うたで。さっきも言うたようにワシらの方も巻き込まれる形で人員を向こうに送りださなあかんようになった。式神もようけいる。そう言う訳でワシらが大量の妖怪たちを使役したっちゅうんが考えられる原因の一つや」

「う~ん……使役されるのが嫌で逃げ出したって訳じゃないのよね」

 兼基は原因の一つが自分らにあると言ってはいるが、話を聞く限りとしえは要因としては弱い。

 天子の言う通りで今回、幻想郷に流れてきた妖怪たちの大半は追いやられて辿り着いた。そんな印象があったと、霊華も言っている。 

 だが、陰陽師である彼らが使役する妖怪たちに対して印象を悪くするような事をするか? と言うのが疑問である。

 なので、原因としてはイマイチ弱いと紫と蒼天は考えている。

「ワシらが言うのもなんやけど原因としては弱いと思っとる。けど、中には無理に使役しようとする若造もおるもんやから可能性としてはありえへんことはないって言う話や。で、二つ目。こっちの方が主な原因やと思う。西洋の魔法使いが退治しとる可能性や」

 西洋の魔法使い。

 恐らくは魔法世界から来たという話の連中だろう。

「随分前やけど、ここにも西洋の術が入ってきてな。その際に妖怪たちを害悪やと決めつけ取った連中が好き勝手に暴れまわっとったんや。ワシらからすればええ迷惑ですわ。ほんで、戦争に参加せえと催促に来た際にも一悶着あって被害が及んだって言うのもある。

 とまあ、色々と巻き込まれて幻想郷とやらに辿り着いたもんやと思う。一番、可能性として高いんはこれやな」

「随分と身勝手な者がいたみたいね」

 天子はその話を聞いてハタ迷惑だと思った。

 だが、そのおかげでこうして外の世界に原因究明と言う大義名分があるものの出れたのだから、その点を天子は感謝した。

(まず)しくて恨むことなきは(かた)く、()みて(おご)ることなきは易し……孔子と言う人間が残した言葉ですが、これは力においても言えますね」

「そうね」

 蒼天の言葉に紫は同意するように頷く。

「……今のってどう言う意味?」

「分かりやすく言うなら、貧乏で恨まないことは難しい。金持ちになって驕らないのは難しいが前言よりはやさしいことだと言う事です。力を持った人間が傲慢(ごうまん)にならない事は難しいですが、自制するのはさほど難しくはない……兼基殿のお話を聞く限りだと、その者たちは無用な正義感を持っているように思えます」

 天子が意味を尋ね、蒼天がそれに答える。

 あまり人間たちの争いに蒼天は興味はないが、学ぶと言う意味では人間を見るのが一番良いと判断していた。

 見方によれば趣味が悪いとも取れるが、人の振り見て我が振り直せの精神で教えていけば何も教えずとも、天子は自ら学んでいくと考えている。

 実際天子の場合はあーだこーだと説法を聞かせるような教え方ではなく、こうして観て聴く方が合っていると蒼天は考える。

 それに、天子にも人の本質を見抜く天人らしい資質はある。

 頭の回転も悪くない。

 その説明に天子は納得行ったように「なるほど」と相槌(あいづち)を打っている。

「なんかウチの耳にも痛いんわなんでやろ……」

 剣士である彼女の方は何やら引っ掛かるモノがあるらしい。

「蒼天はんの言うとおりですえ。魔法使いたちは自分たちが特別でその選択はいつも正しいと思うとる。そんな印象が話してる中でちらほら見受けられたわ」

 道子がうんざりしながら言う話が真実ならば、何と傲慢な事だろうか。

 自分たちの選択はいつも正しい。人である彼らが間違いを犯さないと言うのである。

「ふむ。なんとも忠言のし甲斐がありそうです」

 その人間たちに是非とも会ってみたいと、蒼天は思った。

 本来、天人にとって地上は不浄の場所であり、忌避する者もいる。

 中には見下す者もいるが、それは天人の(さが)と言うものである。

 驕りなどで見下している訳ではない。

 その中でも不浄と呼ばれる地上に、積極的に忠言しに行く彼は天人の中では変わっていると言えるかもしれない。

「原因は分かったけど、どうするの?」

「その魔法使いとやらを私が一人残らず冥土に送ればいいんでしょうけど……いらぬ恨みを買って幻想郷を探し出そうとする連中が出た、なんて事になったら困るわ。それに人間は数が多いし、きっとこの極東の島国に来る連中は後を絶たない」

 天子が解決案を聞くが、紫から返ってきたのは物騒な方法だった。

 この大妖怪は実際そんなことを出来てしまうだろう。

 それに、彼女ほど幻想郷を愛している者はいない。

 なにせ小さいとは言え、世界を作った一人なのだから彼女にとっては我が子同然だろう。

 そんな我が子同然の世界が危機に直面したとなったら、その脅威は躊躇いなく排除されるだろう。

「今のところ解決策はないと言う事ですね」

「そう言う事よ。人間の事情は数式を解くようには上手くいかないわ」

 蒼天の言葉に、面倒そうに彼女は答えた後、すくっと座布団から立ちあがった。

「と言う訳で、私はこれで失礼させてもらいますわ。情報、ありがとうね」 

 そして空間を裂き、笑みを浮かべてそのまま退場する。

 彼女が去った後、道子たちは何やら少し緊張した空気が霧散した気がする。

「全く、えらいもんが世の中にいるもんやな。老い先短い身やのにさらに寿命が縮まりそうやったわ」

 はっはっはっと、豪快に笑う兼基に幸子は冗談ではないと溜息を吐く。

 確かに彼らからすれば紫は恐怖以外の何者でもなかっただろう。

「そう言えば、蒼天はんらはこの後どないしはるん?」

「そうですね……今の日の本の土地を見ながら、その魔法使い達とやらに会いに行こうとは思ってますが……」

「と言うか、原因がその魔法使いだとしたらそれが目的じゃないの……」

「そうですが、私は貴方を教育することも兼ねてますからね」

「え~……」

 道子の質問に答えるような形で答える蒼天だが、天子は蒼天の目的が不満のようである。

 その瞬間、いいことを思いついたとばかりに道子が笑みを浮かべている。

 しかし、天人二人は気付かない。

 ずっと手元に置かれていた扇子を開き、彼女は口元に持って行くことで隠した。

 そして――

「なあ、お二人さん……ウチら関西呪術協会に入ってくれへんか?」

『――えっ?』

 道子が放った言葉に蒼天以外の全員が呆気にとられ、固まるのだった。

 




幸子(さちこ)やないで、幸子(ゆきこ)やで……
と言う訳で、関西呪術協会との会合でした。
次回もしばらく話し合いが続くやもしれません。
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