天人様の言うとおり   作:青二蒼

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うーむ、案外いける……のか?
息抜きに書いてみれば、案外ネタが湧いてくる。
しかし、思いつきである事は変わらず。

天人のチート性能が伝わればよいのですが、天人の硬さってどれくらいなのかがまた疑問。


天人二人、人の組織に入る

 大和撫子(やまとなでしこ)を体現したような容姿をした大人の女性――藤原 道子。

 彼女の提案に誰もが驚いた。

 誰も、の前に『蒼天以外』と付くが……それでも多少なりとも蒼天も内心、驚いている。

 片膝立ちになって真っ先に反応を返したのは、美丈夫な女性――青山 幸子(ゆきこ)である。

「長!! 一体、どう言う事や!?」

「ややなー、さっちゃん。どう言う事って言うても……勧誘よ、勧誘」

「さっちゃんやない! ユキコやからな! 名前をわざと間違えた上に、あだ名まで付けるのやめい!!」

 もはや上司と部下の関係ではなく、友人のやり取り的なものに変わっている。

 幸子は天人二人と兼基の視線に気付き、

「こほん……」

 ワザとらしく咳払いをして、静かに正座をする。

 その様子に頭の上がほとんどが禿頭(とくとう)である兼基(かねもと)は、苦笑しながらも道子に尋ねる。

「長……幸子の嬢ちゃんほど取り乱す訳やないけど、理由を聞いてもええか?」

「いやー、せっかく天人様が来てくれたんやから……こんな千載一遇(せんざいいちぐう)の機会を逃したらあかんと思うたらつい、な?」

 体は大人だと言うのに、どこか子供っぽさを(かも)し出す彼女はそんな風に言うのだった。

 そんな彼女を見て蒼天はそれが本心だとも思った。

 なぜそう言えるかと言うと……天人である彼が(つちか)って来た鑑識(かんしき)眼としか言いようがない。

「こう言うのも何ですが、よろしいので? ここにいるのは十二席の内のたった二席、そして長である貴女(あなた)。勝手に物事を進めては、他の者から不満も出ましょう」

「まあ、そうやね。やけど、ウチらも切羽(せっぱ)詰まってる。それこそ、天に(すが)りたい様な心境や」

 先程とは違う真剣な言葉。

 その長の言葉に、幹部である二人は黙って静かに目を閉じる。

 二人が何も言わないのは、その言葉が真実だからであろう。

 蒼天は短く息を吐いて、(いさ)めるように言葉を(つむ)ぐ。

「元はと言えば、私達も人間ではありました。ですが、今は天人と言う違う種族です」

 ――種族が違う。

 それは暗に、そう簡単には手は貸せないと言う答えでもあった。

 いちいち天人が人間の事情に介入しては……面倒な事になるだろう。

「種族の違い。それは分かってます……やけど、さっきの紫はんの話にあった幻想郷みたいに折り合いが付けられへん訳やないでしょう?」

「しかし、折り合いを付けたとしても人間の事情は人間で解決すべき事です。私達に出来るのは人間を助け、忠言をし、導くと言う天人らしい役割ぐらいです」

「せやからお二人に、この『関西呪術協会』の相談役になって貰いたいんや。つまりは客将的な感じで、ウチらの組織の方針は最終的にウチら自身が決める。せやけど、ウチらを導いて欲しい。そう言う事ではアカンかな? 衣食住に関してはウチらが用意する」

「――ノったわ!」

 声を上げたのは蒼天ではなく、天子。

 その瞳がらんらんと輝いてるのは、気のせいではない。

『………………』

 全員が、その言葉に黙る。

 そして蒼天に関しては疲れたような目と冷めたような目をして、天子に声を掛ける。

「……天子」

「なによ、ちょうどいいじゃない。地上に身を置いた方が都合が良い、って言ってたでしょ?」

「そうですがね。人間のいざこざに自ら突っ込んでどうするんです……」

「大丈夫よ。そこら辺の分別はきちんとするわ」

 そうは言っているが、天界で退屈していた天子にとっては美味しい話ではあった。

 蒼天にとっても都合の良い話ではあるが――

(どのような事を頼まれるか、分かったものじゃないですし)

 長である道子の人柄を見るに、自分たちを利用すると言う感じではないだろう。

 それに蒼天たちには、この幻想郷の外の世界においては何の後ろ盾もない。

 当然、天人だと言っても昔ならともかく文明が発達している今では信じる者はいないだろうし、話を真面目に聞いてくれるとも限らない。

 貸す耳がなければ忠言のしようもない。

 だが、道子の画策により色々な問題が解決する。

 衣食住が手に入り、なおかつここに存在する者だと言う事が証明できる。

 そう言う意味では都合が良い。

 それに(くだん)の魔法使いについても、ゆっくりと話を聞ける事だろう。

 ――郷に入っては郷に従え。

 人に馴染むためには必要な事だ。

 天人二人にとっては人に戻るような感じではある。

 まさかこんなに早くも彼らと関係を持つ事になるとは……蒼天としても意外ではあった。

 いずれにしても――、

(天の気まぐれと言う事にしておきましょう)

 蒼天は疲れたように息を吐いて、答えた。

「分かりました。話をお受けしましょう」

「……ほんま?」

 道子はどこか嬉しそうに聞いてくる。

「ええ、他の方も納得すると言うのならそれで良いでしょう。ですが――」

「ああ、それは分かってるよ。誘ったウチが言うのもなんやけど、ここにおらへん人達が納得するまでは暫定(ざんてい)的に一員と言う事にするよ」

 道子は分かってるとばかりに蒼天の言葉を遮って、京都弁で答える。

 いきなり新しい者……それも天人などと言う普通に考えれば胡散臭い存在をこの場にいる者だけで組織に入る事を勝手に許可すれば、混乱も困惑も起きる事だろう。

 人間の組織とは面倒だが、そう言うものである。

 しかし、そこら辺の事は既に道子は考えていた様である。

「そう言う事なんやけど、兼基はんとさっちゃんは、この案についてどう思う?」

「ワシとしては、もう少し慎重になるべきやと思うけどな。魔法世界でのいざこざもあるし……せやけど、まあ。個人的に天人やと言うあんさんらが気になるんも事実。ここは長の判断に従うと言う事にしとこうか」

「なんや随分と素直やないのやな、兼基はん。害がないって言うなら、ウチは別に構わへん。それと長、さっちゃんやなくてユキコです」

 警戒心が無い訳ではないが……一応、受け入れると言う方針のようである。

 蒼天は素直にお礼を述べた。

「感謝いたします」

「うーむ、なんか本当に天人にお礼を言われとると思うたら、むずかゆいわ」

「一宿一飯どころの付き合いにはならなさそうですからね。自分勝手な天人と言えども、恩義を感じれば素直に感謝もします」

 道子の言葉に蒼天はそう返すが、彼を知る者が見れば天人の中でも変わっている部類だろう。

「その通りよ。感謝なさい」

 無い胸を張って、天子が威張る。

 本来の天人としての性格としては天子が正しいのだが、

「やめなさい」

「――まくどっ!?」

 蒼天が天子の頭に鉄球をぶつけ、物理的に注意される。

 鈍い音と共に、変な奇声を上げて天子は床に伏す事になる。

 その様子を見て、早くも関西呪術協会の幹部と長は彼らの上下関係を理解した。

 そんな中、兼基は顎に片手を当てて黙考した後に、口を開いた。

石守(いしのかみ)殿」

「なんでしょう、九条殿?」

「いきなりこう言うのもなんやけど……出来れば天人の実力いうんを見せて貰いたい」

「それは……なぜでしょう?」

「やっぱりワシとしても、天人やと言うのは信じたい。青山の嬢ちゃんは既に実力の一端を知ってる見たいやけどな……」

「やはり自分の目で確かめたいと、そう言う事ですね?」

「そう言う事や」

 彼の言い分も(もっと)もであろう。

 信じたくとも、実際に見なければ信じられない事と言うのは多々ある事である。

 まさしく『百聞は一見にしかず』と言うこと。

 当然、そんな事は蒼天にも理解できていた。

「そうでしょうね……天子」

「なによ、って言っても分かってるけど」

「面倒だと言うなら私がやりますが――」

「早く行きましょう」

 蒼天の言葉にすぐに反応して、天子は立ち上がる。

 話し合いばかりで退屈していたのだろう。

「まあ、そう焦らんと……幸子はん。今、道場って空いとる?」

「やっと普通に名前で呼んでくれた。さて、どうやろうな。門下生のほとんどが魔法世界の方に出払ってしもうたさかいに、空いてるとは思うけど……」

 道子の言葉に幸子はそう答える。

「外じゃなくていいの?」

「どう言うことや比那名居はん?」

 天子の言葉に幸子は疑問を覚える。

 それに対して天子は自信を持って答えた。

「――きっと室内じゃ足りなくなるわよ」

 

 

 そうして案内されたのは大きな湖の傍にある森。

 森と言っても一部が広場の様になっており、そこに天人二人と関西呪術協会の三人はいた。

「……って、なんでウチが戦う事になっとるんや!!」

「幸子の嬢ちゃん、頑張りやー」

「待てえ、そこのハゲオヤジ! あんたが見たい言うたんやから、あんたが戦うんが筋とちゃうんか!?」

 幸子がそう怒鳴りしらしている。

 理由は簡単である。

 天子と対峙してるのが彼女であるからだ。

 そんな幸子の抗議に、兼基は――

「ああ、ちょいと腰が痛くなってな……」

「ウソつけえ! この間、元気よく走り回っとったやろう!!」

「全く、細かい事を気にしとったら女性と言えどもハゲるで?」

「ハゲとんのはあんたや!!」

「とまあ、冗談として……さすがに老骨にムチを打つんはきついんや。それに、ワシは『見たい』とは言うたが『戦ってみたい』とは言わんかったで」

「こんの……屁理屈を言うてからに」

 のらりくらりと言う兼基に、ヒクヒクと頬を動かして怒る幸子。

 だがすぐに息を吐き、落ち着いた様子で彼女は天子へと向き直る。

 何だかんだと言って、彼女も二人の天人の実力に興味があるのは確かだ。

 こうして早くも剣を振るい合う機会が訪れたのは……僥倖(ぎょうこう)と言えるだろう。

 そしてすぐに雰囲気が変わった事に、蒼天は着目していた。

 兼基も道子も、対峙している天子にも分かっていることだろう。

「天子、加減を間違えないで下さいよ!」

 蒼天は釘をさす様にして声を少し大きくし、そう言った。

「分かってるわよー!」

 離れている彼女は軽く手を振って答えた。

 天子がやるとは蒼天は思ってないが……天人が人を殺める。

 それはある種の禁忌である。

 もちろんそんな罪を犯して、有頂天に居座り続けるのは不可能であろう。

 と言っても、蒼天はそれほど心配をしてる訳でもない。

 ただの杞憂(きゆう)と言う奴である。

「――ほっ!」

 兼基がそう言って札を何枚か投げた。

 そして、空中に張り付いたようなお札を中心に、結界が張られて行く。

「この結界は?」

「認識阻害の結界や。これで多少派手に暴れても、一般の者には気付かれんやろう」

 蒼天の質問に、兼基はそう答える。

「昔に比べて……随分と陰陽術も進化したものです」

 素直に蒼天はそう思う。

 少なくとも認識阻害と言ったものは、昔にはなかった術である。

「やっぱり、長い事生きてはるんやね」

「まだ疑ってたんですか……まあ、無理からぬことですが」

「いいや。改めてそう思うただけよ」

 蒼天はその道子の言葉に内心驚く。

 本当に心から信じてると言った感じであったからだ。

(博麗もそうですが、何とも面白い御仁(ごじん)です)

 道子を見て、彼はそう思うのであった。

 

 

 一方、対峙してる天子と幸子はと言うとお互いに向き合ったまま。

 不意に幸子が天子に尋ねる。

「なあ、少し質問してええか?」

「なにかしら?」

「天界ってどんな所や?」

「やっぱり興味がある?」

「興味がないと言えば……嘘になるな。本当にあんさんらが天人やって言うならの話やけど」

「案外(うたぐ)り深いのね……」

 幸子の言葉に、天子は困ったように返す。

 そのまま天子は考えるようにして言葉を続ける。

「……そうね。まず最初に言っておくと、私や蒼天が住んでる天界は……貴方達の仏教で言う有頂天の事よ」

 有頂天――それは世界の中でも最上の場所にある事を示す事からそう呼ばれる。

 天界と一言で片付けられているが、厳密には色々と違う。

 だが簡単に説明するのならば、天子や蒼天が住む天界はその中の有頂天であると言う事だろう。

 幸子は驚く。

「有頂天……非想非非想天か……!?」

「あら、知ってるのね」

「剣士や言うても退魔の剣士やからな。陰陽術とかに関係して、少なくとも仏教関連に造詣(ぞうけい)はある」

「なるほどね。それで、他に天界の何を知りたいのかしら?」

「そらまあ、人間にとっては楽園みたいに思い描かれとるからな。実際はどんな所でどんな生活しとるっていうのかは気になる」

「天界暮らしはのんびりしていて退屈よ。歌や踊りをしたり、魚釣りをしたり、碁を打ったりしたりと、仕事もせずに常に最上級の食事を取って暮らしているわ。これだけを聞けば人間にとっては理想の楽園でしょうね」

「贅沢な世界やな……何か腹立つ」

「そうでしょうね。だけど、問題として娯楽が少ないのよ。そんな生活を何年、何十年も続けてたら飽きも来るわ」

 だからこそ天子は退屈である。

 同じような事を蒼天に尋ねても、退屈である事を否定はしないだろう。

「だから、今回の事は言っては何だけど渡りに船。原因究明と言う大義名分があるけれど、こうして幻想郷の外に出られたのは私にとっては嬉しい事よ。ま、お喋りはここまでにして始めましょ。元々の目的は剣を交わす事でしょう?」

「そうやな。今はウチらもそないに暇やないしな」

 幸子はそう言って身構え、天子は自然体でいる。

 天子にとって、それは余裕と自信の表れである。

「ところで、真剣じゃなくていいの?」

 天子はそう尋ねる。

 確かに幸子が握っている物は真剣ではない。

「神鳴流は得物(えもの)を選らばへん。それに、これはただの交流や……木刀でも充分に出来る」

 彼女はそう言って木刀を見せるように振って、答えた。

「それもそうね。だけど、地上の者には負けないわよ」

 そう言って、天子は挑発する。

「その言葉――後悔しなや!!」

 気合いの入った言葉と共に、幸子は十間はありそうな距離を一瞬で詰めた。

 その速度に、天子を目を見開いて驚いている。

「神鳴流奥義――斬岩剣!!」

 まさしく一閃。

 幸子の言葉と共に横()ぎの木刀が天子を襲った。

 凄まじい衝撃と音が響く。

「――なっ!?」

 しかし、怯んだのは幸子の方だった。

 木刀とは言え、渾身の一撃。

 多少なりとも手応えはあった筈だった。

「ビックリね。外の世界の人間にもこれほどの手合いがいたなんて」

 涼しい顔で言いながら、天子は腕一本で防いでいた。

 幸子はすぐに一瞬で距離を取る。

「あんさん、ちょいと硬過ぎひんか?」

「私に限った話じゃないわよ」

 彼女の質問に天子はそう答える。

 その言葉に幸子は冷や汗を流す。

(いやいや、鉄でも叩いてるんかと思ったわ……ウチの方がビックリやわ)

 内心、そんな感想を抱いていた。

「次は私から行くわよ」

 言いながら天子は複数の注連縄付きの岩――要石(かなめいし)を自分の周りに出現させる。

 そして、そのまま幸子へと真っ直ぐに高速で飛んで行く。

「甘いで!」

 その要石を幸子は木刀で破壊し、(かわ)しながら再び距離を詰める。

 その姿は速く、見えない。

 しかし天子はその姿を捉えているのか……『緋想の剣』を取り出して幸子に向かって振り下ろし、斬り結ぼうとする。

 だが、次の瞬間には天子の後ろに幸子は現れた。

 虚空瞬動(こくうしゅんどう)――『気の足場』を作り、その足場を蹴って移動する術である。

 それにより幸子は天子の背後に回ったのだ。

 完全なフェイント。

 先程は腕で防がれたが、今度は胴体に一撃をいれる事が出来る。

 しかし、幸子は気付く。

 自分の足元に、自分の体とは違う影が出来てる事に。

「――せいっ!!」

 そう言いながら、幸子は自分の頭上に降って来た柱のような大きさの要石を叩き斬る。

 その質量に両断された要石はズウン、と言う音を立てて彼女の両脇に落ちる。

 だが、それは隙のある状態を天子に見せる事になる。

 緋想の剣を振りかざし、幸子へと迫る。

(回避――間に合わん! 防御!!)

 すぐに幸子は思考し、持ち前の経験と判断力で木刀を盾にする。

 が――、

「なん……やて!?」

 木刀はいとも簡単に、斬れた。

 彼女のその首筋には、緋色に輝く刃。

 呆気にとられたが簡単に分かってしまった。

「ウチの……負けかいな」

「そう言う事になるわね。短かったけど、充分に分かったでしょ?」

 天子は剣を下ろしてそう言う。

 確かに天子の言う通りであった。

 ほんの数分――いや、1分前後だろうか。

 ともかく短かったが、実力を幸子は充分に理解した。

 彼女にとっても天子にとっても、色々と不完全燃焼でもあるが……元々は実力を把握するための、交流試合ようなものだ。

 その実力が多少でも分かったのなら、続ける意味は無い。

「なんや悔しいな。人じゃないって言うの置いておいても」

「まあ、良いじゃないの。蒼天も言っていたでしょ? 一宿一飯の付き合いにはならなさそうだって、私は長い事退屈してたから歓迎するわよ」

「つまり、再戦の機会はあるかもしれんって事やな。ほんま、今日は驚きっぱなしや」

「刺激があるのは良い事よ」

 天子はそう言って偉そうな感じに言うが、天界の生活を知れば重みのある言葉なのかもしれない。

 二人はそのまま、観戦していた三人の方へと歩んで行く。

 

 

「うーん、随分と短かい試合やったな」

「まあ、そんなもんやろう。それにお互いに本気とちゃうし殺し合いしとるんちゃうんやからな」

 道子の言葉に兼基がそう返している間にも、幸子と天子が普通に声が聞こえるほどに近づいてきた。

「いやー、負けたわ」

 負けた割には特に悔しそうな顔はせずに幸子はそう言った。

「本気やないとは言え、遠慮したんとちゃうやろうな?」

「そないな事しまへん。そんなんやったらもっと味気ないモノになっとったわ」

 兼基に幸子は呆れるようにして返した。

 そんな中で、幸子は疑問に思った点を蒼天に尋ねる。

「しっかし、比那名居はんから聞いたけど天人って言うのはみんな硬いんか?」

「もう一度、試してみますか?」

 そう言って蒼天は木刀……とは違うが、刃が無く、柄も全てが金属で出来た日本刀を手元に生み出して幸子に投げる。

 彼女はそれを受け取りながらも疑問があった。

「さっきもそうやったけど、どうやって鉄球とかを出したりしとるんや?」

「私の能力ですよ。ある方に仕えている内に授かった能力……『金属を操る程度の能力』です」

「金属を操るって……」

 蒼天の言葉に幸子は声を上げて驚き、兼基と道子も驚く。

「そらまあ、随分とけったいなもんやな。神鳴流剣士にとっては相性悪いんとちゃうか? 自分の持ってる刀が、自分に向かってくるんやろ?」

「簡単に言えばそうですが、敵対する前提で話してませんか?」

「ああ、すまんすまん石守(いしのかみ)殿。最近は戦争になるやもとピリピリしとってな……どうしてもそう言う風に考えてもうて」

 年寄りだと言うのに豪快に笑って兼基は、蒼天の呆れにそう返す。

「とまあ、もう一度試してみると良いでしょう」

 そう言って蒼天は自分の手首を顔の近くに持って行く。

 その言葉に幸子は、

「ええんか?」

 と、遠慮するように聞く。

「別に許可してますし、天誅(てんちゅう)とかそう言うのは起きませんから」

 蒼天本人がそう言うのだから、幸子は以上しつこく聞く事も無く、構える。

 兼基と道子もその様子を静かに離れて見守り、天子は全然心配する事も無く、その様子を呆れて見ている。

「いくで……斬岩剣!!」

 刃を潰した刀とは言え、木刀と違い金属。

 幸子の気迫と共に振るわれるそれは、天子に向かって放たれた斬撃よりも鋭い。

 蒼天はその斬撃を手首に受けて、飛ばされる事はないが……地面から動く。

「今のは少し本気やったんやけどな」

 幸子はそう言って蒼天を見るが……彼は涼しい顔。

 刀を下ろしても、手首に傷が付いた様子は無い。

「ほんまに硬いな。体の中とか肌まで実は金属とちゃうやろうな?」

「そんな奇妙な生物は私でも見た事ありませんよ。この硬さは、天人の特徴と言えば特徴でしょうね」

 彼女の言葉に突っ込みながら、蒼天はそう説明する。

 それに対して道子は、「ほえ~」と言った感じに気の抜けた驚き方をしていた。

「それと、もう一つ。比那名居はんが持ってる剣やけどな」

「これ? この緋想の剣がどうかしたかしら?」

 天子は幸子に見せるように緋想の剣を構える。

 緋色の刃を持つそれは、剣士である彼女にとって魅力的な物であった。

 別段、盗もうなどと言う気概は起きないが、惹かれているのは確かである。

「さっきウチが木刀で比那名居はんの剣を防ごうとした時、木刀に纏わせ取った気が吸い取られた見たいやったわ」

「よく気づいたわね。この剣はそう言う剣よ」

「つまり、どう言う事や?」

「この緋想の剣は、相手の気質……つまりは気を吸収して力に変える剣。さっきの戦い、その木刀に気でも流して強化してたのでしょう? だから、私の要石(かなめいし)を木刀でも斬る事が出来た」

「その通りや。だからこそ、神鳴流は得物(えもの)を選らばへん。『気』を使えばどんな物でも武器になる……やけど、得物に流してる気を吸収されたら意味がない」

「得物に流してる気に対してまさしく気を使う、やな」

「……兼基はん、スベっとるで」

「そこは年寄りに気を使えや」

「黙らんかい耄碌(もうろく)ジジイ!!」

 途中から割り込んだ兼基に対して幸子は怒鳴る。

 その様子を他の三人は呆れて見ている。

 天子は改めて説明する。

「つまりこの剣は相手の気を吸収し、さらにはその弱点となる気に変えて攻める事が出来る。まさしく弱点を突く剣よ。ちなみに言っておくと、この剣は天人以外には扱えないわ」

「天人にしか扱えへん? 人間とかが握ったらとんでもないことでも起きるんかいな?」

「そんな大層な事は起きないわ。試しに握って御覧なさい」

 質問した幸子に、剣の柄の一部を握るよう催促(さいそく)しながら天子は差し出す。

 おそるおそると言った感じに、幸子はそれを握ろうとするが――

 手が柄を擦り抜けた。

「え? これ、どないなっとるん」

 そう言いながら彼女は何度も柄を握ろうとするが、すり抜けるだけ。

 天子は確かに緋想の剣を持っている。

 物質としては存在してるのに、握る事が出来ない。

 そんな不思議現象に兼基と道子は興味深そうに見ている。

「見ての通り、天人以外には握る事が出来ない。だけど、人も物も斬る事は出来る。随分と矛盾した剣ね」

「へえー、なんやこれおもろいわー」

 天子の握っている緋想の剣を、道子も言いながら握ろうとするが……すり抜ける。

「こんなもん、誰も盗めへんな」

 盗もうと思ってもそもそも触れられないのだから、持ち運びようもない。

 兼基はうんうんと頷く。

「え? 触れられへんのやったら、布とかで巻いて触れずに持って行けるんとちゃうん?」

 ここで長が逆転の発想とばかりに言うが、

「それも無理よ。試してみたら分かるわ」

 天子はすぐに否定した。

 早速検証とばかりに道子は幸子から手拭(てぶぐ)いを借りて、その布越しに持とうとするが……すり抜けた。

 無駄だとばかりに天子は説明する。

「天人以外が触れようとした時点ですり抜けるわよ。縄を引っ掛ける事も出来ないし、イタズラに動物が持って行く事も出来ない」

「まさしく天の秘剣やな」

 うんうん、と兼基は再び頷く。

「触れへんのが少しばかり残念やけど、そう言うもんなら仕方あらへんね」

 道子も道子で納得している。

 それからポンと手を叩いて、思い出したように道子は尋ねる。

「そう言えば、蒼天はんの能力は分かったけど、天子はんはどないなもんなん?」

「……私? 私は『大地を操る程度の能力』よ。つまり、今目に見えてる大地は全て私が操れる。地面を盛り上げる事も、地震を起こす事も出来る。まさしく天変地異を起こす事が出来る能力よ」

 道子の言葉に天子は機嫌良く自信満々に答える。

 彼女は自分の能力に自信を持っているからこその発言である。

「まあ、実際に天変地異なんてことすれば地獄に叩き落とされますけどね――私によって」

「え……蒼天が落とすの? 閻魔とか死神じゃなくて」

「名居様や貴方の父君からもその様に(うけたまわ)っています。あまりに道理を外れるようなら、と」

「初耳なんだけど……」

 冷や汗を流しながら、天子は蒼天の言葉に肩を落とす。

「と言う訳で、私も彼女も危険な存在ではありましょうが、その様な事はしたしません。もちろん、問答無用に襲い掛かられれば抵抗もしますが」

「うん、それを聞いて安心したわ」

 道子は蒼天の言葉にそう答える。

「改めて蒼天殿と天子殿を『関西呪術協会』に歓迎します」

 京都弁ではなく真剣な口調で言い、組織の長として――道子は(こうべ)を垂れる。

 それに(なら)うように、兼基も幸子も頭を下げる。

 暫定的ではあるが、天人二人が本格的に地上で暮らす第一歩であった。

 




時系列はお察しの通り、魔法世界での戦争が起こる少し前と言った感じです。

魔法世界での戦争が始まったのが1981年。
蒼天たちが来たのは1980年の終わり前後です。

ちなみにこの時、『ラブひな』の青山鶴子さんは10歳前後。
青山素子さんは1982年12月1日生まれなので、まだ生まれてません。

幻想郷の時系列ではスペースシャトルがどうだこうだと言う話だったはず……
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