Bonta-kun Stratos   作:王子の犬

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Bonta-kun Stratos 3

【タバネ、天狗になる】

 私こと織斑千冬は二学期の中間テストの結果に一喜一憂していた。

 

「ねーねー。ちーちゃんはテストどーだったー?」

 

 タバネが脳天気な顔で話しかけてくる。

 私は返却された答案用紙を四つ折りにして、そっとカバンにしまいこむ。

 

「ううう……聞かないでくれ」

 

 そっぽを向いて頬をふくらませる。他人様に自慢できるような点数ではない。赤点の一歩手前なのだ。

 

「気になるなー。いいでしょ。私の点数を教えてあげるからー」

「いやだ。タバネの点数を聞いても落ち込むだけだ」

「へえ。ちーちゃんでも落ち込んだ。明日は雨だね」

 

 さりげなく馬鹿にされ、むかっときた私は啖呵(たんか)を切る。

 

「そこまで言うなら聞いてやる。さあ、教えろ!」

「へへーん。じゃあ教えるね! 五〇〇点満点だよ。すごいよね!」

 

 タバネは持っていた答案用紙をすべて広げてみせた。中間テストは国数英理社の五科目だ。すべてに「100」と書かれている。

 タバネは近くの椅子に足をかけ、「はっはっはー。ちーちゃんよ大志を抱け!」とのたまったのち、足を踏み外して机の角に額をぶつけた。

 

 

 

【タバネ、お菓子を買う】

 私こと織斑千冬はクラスの女子でお菓子を買いにいくことなり、むらのおかしやさんに来ていた。

 うちの中学は二年の秋に修学旅行を実施する。三泊四日で行き先は京都。一日目と最終日は移動で潰れるので実質二日だ。

 

「駄菓子がいいかなー。でもアソートのほうがお得なんだよねー。どっちがいいかな。ちーちゃん」

「好きにしろ」

「つれないなー。ヒカルノちゃんはどう思う?」

 

 タバネが天然パーマに眼鏡をかけたクラスメイトに話を振る。篝火ヒカルノは万年学年二位のガリ勉だ。

 

「それだったら、こっちのほうが……」

 

 私はタバネのカゴに次々と放り込まれるお菓子のほうが気になった。ざっと目算して三千円に達している。

 

「買いすぎだ。お菓子は五百円までじゃなかったのか」

 

 さすがに多すぎると思い、タバネに注意する。タバネは柳韻師範やおばさんからお金をもらった気配がないのだ。

 

「大丈夫だよ。小分けして持ってくから合計五百円におさまるはずだよ。それに私が稼いだお金だもん。少しくらい自由に使ってもいいよね」

「そ、そうなのか」

「うん! ぼーこく機業のおじいさんからお小遣いをもらったんだよ。研究に使ってねって! 必要経費だよ!」

 

 

 

【タバネ、修学旅行に行く】

 私こと織斑千冬は修学旅行で京都に来ていた。

 私の班はタバネとヒカルノの三人だ。手のかかる子供を押しつけられた気がしないでもない。

 だが、私は心が広いので余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)だった。

 ……チビガキを見るまでは。

 

「マッドサイエンティストに正義のローキック! もう一発! ヒカルノにも一発おまけだ! ハーハッハッハ!」

 

 涙をこらえてうずくまるタバネ。名乗ったばかりに巻き添えを食らったヒカルノ。

 私は無言でデコピンを見舞った。

 

「ウッギャアアア! おでこが、おでこが割れるうううう!」

「おい。チビガキ。学校はどうしたんだ、ああん?」

 

 私は山田さんちの書生さんの真似をしてドスを効かせた。七歳児にやることではないのだが、チビガキは別だ。

 

「こいつぁ本物だぜエ……うん。普通に休んできた。校長にオーケーもらったから」

「なんで京都くんだりまでいるんだ。せっかくの修学旅行が台無しだ」

「ケッ。オレだってまさかゴリラ女と一緒になるとは思ってなかっダダダダダダ!」

 

 アイアンクローを追加だ。

 

「ちくしょー。今のオレじゃ戦闘力が足りないっ……」

「で、なんでここにいるんだ?」

「おおっぴらにゃあ言えないことだ。耳貸せ、耳」

 

 口をすぼめたチビガキを見て機先を制す。

 

「息を吹きかけたら殺すからな」

「なっ……んなことしねえよ」

 

 チビガキは半殺しにされる光景でも想像したのか、頬を赤らめ、大きく肩を震わせた。

 

「デートだよ。デート。親父の手伝い」

「色気づきやがって」

 

 私とは無縁の話だ。近寄ってくる男共といえば犬の目をしたヤンキーか、タバネの外見にだまされて告白の仲介を求めてくる男子くらいなものだ。私に告白してくるのはいつも女ばかりだった。

 

「カタナ、そこにいるのかしら?」

 

 そのとき私は金髪の妖精を目撃した。

 

 

 

 

【タバネ、隣の旅館に行く】

 私を含めた織斑班は他の班と別れ、隣の高級旅館の一室に通された。

 ガタイのいいお兄さんや他人をよせつけない雰囲気のお姉さんに囲まれたのだ。彼らに連行される直前、先生にボン太くん絡みだと一言告げてあるが、話が通じているのか自信がない。

 

「千冬さん。こ、ここはいったい」

 

 一緒の班になったばかりに巻き込まれたヒカルノ。可哀想なくらいおびえている。

 入り口を固める屈強なお兄さん。私も正直怖い。動じてないのはタバネくらいだ。脳天気なだけなのか、大物なのか。おそらく前者だろう。

 

「ちーちゃん。あの人見覚えがある」

 

 確かに焼き肉パーティにいた人だ。年は柳韻師範より少し若い。アッシュブロンドに碧眼の少し頼りなさそうな雰囲気の男性だ。細身でひげ面でタレ目。妙に母性本能をくすぐってきて、胸がキュンキュンしてきた。お姉さんやお兄さんたちも彼に熱い視線を送っている。

 すると先ほど見た金髪の幼女がフリフリの衣装を身に着けて飛び出してきた。

 

「ダディっ」

 

 か、可愛い。弾くんと蘭ちゃんみたいだ。チビガキや一夏たちジャリ共とは似ても似つかない。

 

「おおセシリア。私のお姫様」

「あれがデート相手? 女の子だぞ」

「かたなちゃんに失礼だよ。ちーちゃん」

 

 タバネに小突かれたのがなんだかくやしい。

 高い高ーい、とじゃれる親子。私はふと疑問がわいた。

 

「普通に日本語をしゃべってるぞ。というかおじさん、誰」

 

 

 

【タバネ、引き受ける】

 私こと織斑千冬はタバネから渡されたボン太くん模様の腕輪をはめていた。

 カポン、と音がした。今気づいたのだが、制服にボン太くん模様はファンシーすぎやしないだろうか。

 

「みすたーおるこっと。セシリアちゃんにはボン太くんがついてます! 京都観光、ご一緒します!」

 

 タバネは胸を強く叩きすぎてゲホゲホとむせていた。

 セシリアちゃんのお父さん、アーサー・オルコット氏はしがない研究職。奥さんは実業家で英国貴族。若くして大英帝国勲章なるものをもらった有名人らしい。更識楯無も叙勲しており、叙勲式の際に知り合ったとか。

 セシリアちゃんのお父さんは日本の大学で講師を務めるべく単身赴任で来日している。なんとセシリアちゃんはお友達のチェルシーちゃんといっしょに京都まで追いかけてきてしまったそうだ。

 ちなみにチェルシーちゃんは別室にいる。

 

「明日はきよみずでらに行きます。セシリアちゃんたちと一緒に行動するのでどーんと任せてください」

「せっかくの修学旅行なのに申し訳ない」

「いーんですよ。こんなこともあろうかと、ボン太くん初号機を持参したんだよ! 京都のまろまろとは知りあいです!」

 

 屈強な男女に囲まれたタバネが勝手に話をまとめていた。

 

 

 

 

【ボン太くん、重要文化財・仁王門に立つ】

 私こと織斑千冬は不承不承ボン太くんを身に着けて、音羽山(おとわさん)・清水寺に来ていた。

 

「ふもっ」

 

 ぷにゅぷにゅっとファンシーな足音。きっぷ確認役のおばさんが目を見開く。ハイパーセンサーが「ボン太くんだ……あれ、ボン太くんよね」というささやき声を拾う。

 一日署長やお台場のときはさほど気にならなかったが、ボン太くんひとりだと恥ずかしい。

 我に返ったおばさんが判子を押してくれた。

 

「ふもふもっふ」

 

 ボン太くんはセシリアちゃんとチェルシーちゃんの手を引いて歩き出した。タバネが先導役だ。後ろからヒカルノとチビガキがついてくる。

 まずは朱塗りの仁王門に向かって歩く。珍妙な組み合わせだ。ほかの修学旅行生の目を惹いた。

 

「ぴろりろりーん」

 

 タバネとチビガキが携帯端末で写真を撮る。チビガキが最新のリンゴホンを持っているのが妙にむかついた。私はボン太くんの写真撮影機能を使った。

 

「セシリア。ボン太くんと記念写真……そこのもっさいゆるキャラ。ポーズとれ。ポーズ」

 

 美少年な見た目が憎らしい。私はプロ根性でセシリアちゃんとチェルシーちゃんを両肩に乗せた。セシリアちゃんの隣にはタバネ、チェルシーちゃんの横にはヒカルノ。チビガキは……。

 

「お姉さん。写真を撮ってもらえませんか。ここをタップしてくれればオッケーです」

 

 女子高生に写真撮影をお願いしていた。だめ押しの営業スマイル。女子高生の顔が真っ赤だ。ニコポなんて初めて見た。

 

「撮りまーす」

「いちたすにはボン太くーん」

 

 カメラを向けられた瞬間、体が勝手に反応する。

 

「ふもっふ!」

 

 

 

【マイ・ボディガード】

 ボン太くんは西門を経て、三重の塔を背にして写真撮影する。

 経堂では別の学校の修学旅行生とも写真を撮る。野獣のような目つきの小学生どもが群れを成して殴りかかってきたのだが、自動小銃程度なら弾くボン太くんには効かなかった。

 田村堂の前で一枚。派手な雰囲気の女子高生がチビガキの魔性に籠絡(ろうらく)された。すさまじい女たらしだ。

 何かにつけてボン太くんにしたり顔を向けるのが鼻につく。

 

「ふもふもっふ」

 

 ようやく轟門(とどろきもん)だ。

 秋半ば。早くも厚手のコートを着用したお兄さんがちらほら目についた。

 

「ちぇるしー。カタナはどうしてわたくしだけを見てくれませんの」

「おじょうさま。カタナさまはプレイボーイでいらっしゃいます。浮き名を流す男性を虜にするのも女の甲斐性かとぞんじます」

 

 セシリアちゃんがチビガキに向ける目は完全に女の瞳だった。しかもチェルシーちゃんはいさめるどころかあおっている。どちらも年下で金髪で妖精のような外見なのに、腹の中では手ぐすね引いて男を惑わす小悪魔だ。

 

「おじょうさま。アーサー様のような男性がお好きなのでは。カンザシ様のほうをお気に召すとばかり考えておりました」

「ちぇるしー。ぐもんですわ。ダディは別格。魔性をもっていますもの。立っているだけで男だろうが女だろうが魅了してしまいますの。わたくし、知っていますの。ちぇるしーの初恋はダディなのでしょう?」

「ごしょうです。その話はなさらないで」

 

 一夏や箒、弾くんと同い年とは思えない。

 ふたりの会話を聞いて困惑する秀才・ヒカルノ。

 

「せしりあちゃん。ちぇるしーちゃん。清水の舞台だよ。飛び降りると死んじゃうから気をつけよーねー」

「ふもっふ。ふもっふ。ふぅも、ふぅもぉ」

 

 清水の舞台は少し下り坂になっているから危ない。タバネはボン太くんの言葉を意に介することなく、欄干を背にした。

 

「ボン太くーん。一緒に写真をとろーよー!」

 

 セシリアちゃんとチェルシーちゃんがタバネの横に並ぶ。遅れてヒカルノがおそるおそるついていく。

 そのときだ。厚手のコートを着たお兄さんたちが不審な行動を取ったのは。

 

「ふも?」

 

 よく見たらフロックコートを着たお姉さんもいる。私はなぜだか危険な香りがした。ぼーこく機業のエロじじいと同じにおいがしたのだ。

 

「……これより状況を開始する」

「ふもっふ?」

 

 状況とは何だ。柳韻師範の責め苦のような稽古を耐え抜いた私の体が勝手に反応する。

 女子高生の悲鳴。

 

「状況終リョグボア!」

 

 ボン太くんに殴り飛ばされる変質者A。コートを着た集団が次々と鍛え抜かれた己の肉体美を公衆の面前に晒そうと動いた。

 

「ふもっ、ふもっ、ふもっ、ふもっ」

 

 タバネたちの視界に入る前にボン太くんが割って入る。私のイメージ通りにボン太くんは動き、機敏かつ効率よく変質者を無力化(殴り飛ば)していった。

 

「ふもっ?」

 

 だが、ひとりだけ動きが違うヤツがいる。

 

「フォオオオオ……! ホーアっホーアっホーアああああ!」

「ふも! ふもっふ!」

 

 これは! 截拳道(ジークンドー)っぽい!

 だが、この程度の重圧(プレッシャー)。修羅モードの柳韻師範に比べたら屁でもない!

 

「ふもっふ、ふもっふ」

「フォオオオ(おい。着ぐるみ)、フォフゥオ(邪魔だ)。ホーアアアアア(何言ってるのかわかんねえよ)!」

「ふもふも、ふもっふ。ふぅも、ふもっ」

 

 話が通じないのでらちがあかない。ボン太くんキックを見舞うべく、助走を付けてジャンプした。

 

「ホア!?」

 

 不審者がしゃがむ。タバネがセシリアちゃんを、ヒカルノがチェルシーちゃんを守るべく抱きしめる。

 

「ふも……ふもぉおおお――!!」

 

 ボン太くんは欄干を超えて、清水の舞台から飛び降りていた。

 

 

 

 

【千冬、お風呂に入る】

 あのときPICで空中浮遊していなかったら、地面に激突してぺしゃんこになっていただろう。観光客に消えることのないトラウマを植え付けるところだった。

 京都府警に危険行為を注意され、不審者の暴挙を水際で防いだとして感謝もされた。その際、チビガキやセシリアちゃんの取りなしが合ったのは厳然たる事実だ。六、七歳の幼児が親の社会的地位を利用して説得力を持たせた。特に更識の名が出た途端、警察官の態度がころっとかわった。それどころかゴマまですりはじめたのだ。

 私こと織斑千冬は旅の疲れをいやすべく旅館の浴場に来ている。

 なんだかものすごく疲れたのだ。さっさと寝てしまいたい。

 

「シャンプー切れた」

「これ、使って」

 

 ヒカルノがシャンプーを差し出す。

 

「ありがとな」

 

 今まで意識してこなかったのだが、ヒカルノは真耶並に巨乳だった。腰が細いのでトップとアンダーの差が開いているのだ。タバネに目移りする男子。貴様ら目が腐ってるぞ。

 湯船で平泳ぎするタバネが目に入った。

 カポーン、と音がして風呂桶が転がる。

 

「カーカッカ。こっちの風呂もいいねえ」

「なんで隣の風呂に入ってるんだ。マセガキのチビガ……キ」

 

 私は思わず目をこする。せっけんの泡が目に入り、あわてて顔を洗う。

 

「なんてこった!」

 

 チビガキがふたつに分裂していたのだ。しかも両方ともあるべきものがついていない。どうやらチビガキは本当に女だったようだ。

 

「今日はご苦労だったな。オレからも感謝するぜ。後で更識名義で感状を送っておいてやるよ。内申書に書けるぜ」

「私の質問に答えてないぞ」

「なあに、入湯料を払ってきたんだ。オレはてめえらと同じお客様だぜ」

「ぐっ……」

 

 チビガキは私の隣のカランを使う。チビガキの分身はオリジナルの前にちょこんと体育座りした。

 

「コレは誰だ。チビガキがふたりもいるなんて聞いてない」

「フッ……ゴリラ女は頭悪イな。たばねーちゃんやヒカルノとえらい違いだぜ。本当に中学生?」

「このクソガキ……」

「妹だよ。いもーと。ひとつ下な。見りゃわかんだろ。マイ・シスター。更識簪だ。呼ぶときはカンザシ様ってきちんと呼べよ。繊細なレディなんだから丁重にもてなしてくれ」

 

 チビガキは妹の頭にシャンプーハットをはめて、洗い始めた。

 

「一夏と同い年か。確かにカタナよりも険がなくて可愛らしい。普通に女の子だな」

 

 どうせなら簪を一夏に紹介する、と話をした。するとチビガキが怒りはじめた。

 

「あんなハーレム野郎に妹を渡せるか! 調べてみたら六歳で兄妹丼とかおかしいだろ!」

「おい。言葉の意味分かってるのか」

「あたぼうよ。英才教育なめんじゃねえ」

「そーだよねー。五反田さんちの弾くん。かーいーもんねー。蘭ちゃんもねえ」

 

 タバネが眠そうな顔をして戻ってきた。

 

「簪ちゃん。こんばんはー」

 

 私の背中にしなだれかかりながら、チビガキの妹にあいさつする。

 

「今度、ボン太くんの中に入らない? なんなら簪ちゃん専用機を作ってあげてもいいよー。今、参号機から仮設伍号機用のコアを作ってるんだよ。あ、参号機のこーどねーむは打鉄(うちがね)っていって……」

「たばねーちゃん。あんたんところに妹を寄越したら、ゴリラ女んとこのハーレム野郎に喰われちまう。ぜってーやんねー」

 

 私は嘆息した。

 

「とりあえずお前ら。風呂に入れ。私はひとりで露天風呂に行くから、邪魔したら、どうなるかわかってるんだろうな」

 

 その途端、あれほど騒いでいたチビガキが黙りこくる。しばらくしてなぜか顔を赤らめてそっぽを向き、「わ、わかってる。バーカ」と憎たらしげな口をきいた。

 

 

 




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