【タバネ、告白される】
私こと織斑千冬は校舎裏をこっそりのぞいていた。
クリスマスが近いこともあり、目が腐った男子共がこぞってタバネに告白してきたのだ。タバネのボンッキュッボンッな体目当てである。
タバネは相変わらず脳天気な笑顔を男子に向ける。良い返事がもらえるものと期待したのか、男子は思いのたけを吐き出した。
「篠ノ之束さん。俺と……俺と付き合ってください!」
「いーよー」
「イイイイよっしゃあああああ!!!」
「……ただし、ボン太くんに勝ったらね?」
「へ?」
男子の目が点になる。
「ふぅも……」
私はボン太くんの中でため息をついた。
連日告白する男子。タバネが彼らに提示した条件は簡単だ。
武力でボン太くんに勝つこと。以前は「ちーちゃんに勝ったらねー」と発言していた。ヤンキーが私をつけ狙うようになった原因でもある。
「ぼ、ボン太くんなら楽勝だ。
ゴリラ呼ばわりされてむかっときた私は、その男子の背後に忍び寄り、無警告延髄回し蹴りを見舞った。
「ふもっ、ふもっ、ふもっ!」
浮かして空中三連コンボだ。最後に昇竜ボン太くんでKO!
【タバネ、留学生と相まみえる】
私こと織斑千冬のクラスに留学生が来ることになった。
終業式直前の中途半端な時期になったのは、盲腸で入院していたことが原因らしい。
「ハーイ! 私、スコール・ミューゼルとイイマス! 短い間デスガ仲よくしてね」
「ウウウウラアアアアアア!!」
目が腐った男子共の奇声がひびき渡った。
留学生の外見はブロンドモデルだ。背が高く、タバネを超えるボンッキュッボンなグラマー体型。目測で真耶以上の胸部を誇る。
いかにもセレブな雰囲気を漂わせているのだが、笑顔を絶やさず親しみやすい。
机を取り囲んでの質問攻め。留学生は気にすることなく丁寧に裁いていく。
私は輪に入ることなく、彼女の様子をじっと観察していた。留学生の雰囲気がぼーこく機業のエロじじいと通じるものがあったからだ。なぜそう感じたのか、理由はわからなかった。
給食の時間になり、留学生が自席を立つ。
「タバネ。一緒に食べマセンカ?」
「ミューゼルさん? いーよー。ちーちゃんも一緒に食べよー」
私は快諾してからヒカルノの肩をたたく。元々友達が少ないヤツなので留学生と交流する良い機会だと思った。
一斉に椅子を引く音。「てめえっ」と男子が互いに牽制し合う。
私が留学生の隣に座ったことで、あわよくば、と下心丸出しの男子の足が止まる。
ひそひそと「ゴリムラが邪魔で近づけねえ……」という旨の発言が聞こえた。心が広い私は今の発言を聞かなかったことにした。
【千冬、道場に行く】
私こと織斑千冬は篠ノ之道場に稽古に来ていた。
留学生のホームステイ先がなんと篠ノ之家だったことも少し関係している。
「日本の剣道。いいデスね。私も少し、向こうでかじってましたー! チフユ、サーン。一本モンデくださーい!」
「ちなみに向こうの師は誰なんだ?」
柳韻師範が席を外していたので、私が代わりに聞いた。今は外国人でも剣道をたしなむ者がいると聞く。
「エドワード・コーリング。元デルタのスーパーマン」
「ふうん。なんか強そうだな」
私はスコールが防具を身に着ける様子を見守ってから、自分の分をつけた。普段の稽古で防具を使うことはめったにないのだが、今日は別だ。
互いに礼。
さらにゆっくりと竹刀を構え、剣先を相手のノドに向ける。
さて、彼女はどう出る?
「始めッ」
箒が舌足らずな声で開始の合図をした。
スコールは気勢を上げた。ずいぶん様になっている。元デルタのスーパーマンは剣の道に通ずるようだ。
私は腹の奥に気合いをため込んだまま、半歩足を踏み出す。スコールが半歩下がる。気勢は彼女のほうが上だ。私は竹刀を上段に構えた。がら空きの胴。
じりじりと時間が過ぎ、スコールが意を決して竹刀を振りかぶる。
私は一陣の風となる。
どうっ、とスコールが膝をついた。
【タバネ、クリスマスツリーを贈られる】
私こと織斑千冬は篠ノ之家の離れに来ていた。
木枯らしが吹き付けるなか、一夏が弾くんと蘭ちゃん、その他ジャリを連れて庭で走り回っている。一夏と弾くんが手をつなごうとするので、蘭ちゃんは間に割り込もうと必死だ。箒は一夏のもう片方の手をにぎって一緒になって走っている。
「箒は少しお前に似てきたんじゃないか?」
「どうしてそう思うの。ちーちゃん」
「抜け目のないところとか」
「まさかー。私がしっかりしてるだけだよー?」
タバネの言葉はまるで説得力がない。
「冷タイ。ううう」
「あの。……手伝って下さい」
スコールについてきたばかりに、柳韻師範に丸め込まれて廊下をぞうきん掛けすることになったヒカルノ。
「おお。すまん」
「ちーちゃん。ちょっと」
タバネが私を呼び止める。しきりに手招きするので怪訝な顔をする。
「ヒカルノちゃん。ミューゼルさん。少しだけちーちゃんを借りるね。後でちゃんとお返しするからー」
私はタバネに手を引かれ、裏の材木置き場へと案内された。
「あっ。千冬さん。タバネさん。来てくれたんですね」
「真耶じゃないか。どうしたんだ。ひとりで」
「タバネさんに頼まれて……ずっと放っておかれてさびしかったんですよ」
真耶が少し涙目になって抱きついてきた。私は童顔をなだめすかすように頭をなでる。
すぐ側に巨大なもみの木らしきものが横たわっており、タバネが幹をバンバンたたいていた。
「真耶。あの木はなんだ」
「モミの木ですね」
十メートルぐらいある。幹も子供の胴体くらいの太さだ。
「なんであんなものが」
「クリスマスだからじゃないんですか?」
「誰が運んできたんだ……」
タバネが私の側に駆け寄ってきて、笑顔で告げる。
「ぼーこく機業のおじいさんからのプレゼントだよー。ミューゼルさんのおとーさんとおかーさんがふぁんとむぴーえむしーの社員さんなんだって。優しいよね!」
【ボン太くん、ツリーを植える】
私こと織斑千冬と山田真耶はボン太くんを着て、モミの木を担いでいた。
「ふもっふもっ」
「ふもっふー」
優に数十キロ以上ありそうなモミの木を楽々運んでいる。ボイスチェンジャーさえ無効にできれば大ヒット間違いなしだろう。
裏庭の脇にモミの木を立てるのにちょうどいい穴が空いている。と思ったら帽子に「四」と書かれたボン太くんがぐったりしている。シャベルが横に転がっている。
「ふもっふ。ふも」
「ふもっふ。ふもっふ。ふぅも、ふぅもぉ」
ボン太くんとボン太くん弐号機がモミの木を抱えて右往左往する。パワードスーツだけあって軽いのだが、視界が悪い。ハイパーセンサーで取得した映像を元に足元を確認する。
「ふも!」
真耶が何か考えついたようだ。
「ふもっふもっふー!」
PICを使えばいいのか。
私は幹を抱えたまま少しだけ体を浮かせた。
タバネの指示の元、ボン太くん参号機がシャベルで周りの土を整えていく。
モミの木を無事に立つ。
「じゃー飾り付けしよっかー!」
「はーい!」
タバネの脳天気な声が聞こえる。喜ぶ一夏たち。
慣れない作業をした私はぐったりしてボン太くん四号機の隣にしゃがんだ。
「ふもぉ……?」
ヒカルノとスコールがいない。彼女たちはどこに行ってしまったのだろう。
【ボン太くん対ボン太くん】
私こと織斑千冬は器用にヌンチャクを扱うボン太くん四号機に困惑していた。
四号機のISコアはゴールデン・ドーン。スイッチを入れると金ぴかになるといった割とどうでもいい機能を搭載している。
「いっけー! ボン太くんをやっちまえー!」
この間、殴りかかってきたジャリ共がヤジを飛ばす。柳韻師範仕込みの柔術で投げ飛ばしたことをまだ根に持っているようだ。
「ふもっ、ふもっ、ふもっ」
ヌンチャクをうっかり自分に当てるようなボケもない。
構えを取ってボン太くん四号機が叫ぶ。
「ふもっふ。ふもっふ。ふぅも、ふぅもぉ」
なぜか
私はすぐさまご満悦なタバネの顔をうかがう。
「四号機はもともとふぁんとむぴーえむしーに渡す予定だったから。せっかくだし、ミューゼルさンガググ」
真耶があわててタバネの口を手で覆った。
「ふもっふ」
一夏たちに聞かれた危ないだろう。中の人がいると知ったら泣き出すに違いない。ボン太くんはふもふもランドの妖精なのだから。
ボン太くん四号機が平べったい手を曲げて誘ってきた。
雪辱戦のつもりか。いいだろう。その代わり好きな武器を選ばせてもらう。
「ふもふも。ふもっふ――」
大人げない私は縁側の天井に吊り下げてあった棒を手に取った。棒術用だから先は丸めてある。ボン太くん四号機が「……卑怯ナリ」みたいなことをしゃべっていたが、ボン太くん語でよくわからなかった。
棒をくるくる回し、頭のてっぺん、背中……と、純正ボン太くんには不可能なワイヤーアクションばりの演武を見せつける。
さあ、いつでも来い!
「ふもっふ!」
【千冬、告白される】
対ボン太くん四号機戦は、互いに武器を投げ捨て、近接格闘術を競いあった。結局、スコールは篠ノ之流柔術の前に敗れ去ったわけだ。
私が同年代の男女とくらべ、いくらか勝っていたとしても、柳韻師範には一度たりとて土をつけさせた試しがない。さすが
ちなみにエドワード・コーリングの名を出すと、昔の知りあいみたいなことを口にしていた。神職の前は何をやっていたのだろう。
私こと織斑千冬は校舎裏に呼び出されていた。
下駄箱の手紙は丸文字の筆跡だったので、てっきり女子だろうと思っていたら男子だった。
校章のデザインから後輩だと見当をつける。
美少年系の顔立ちだが、惜しむらくは美しさで
それでも私はかつてないほど興奮していた。勢いでころっとオーケーを出してもいいかな、と考えてしまうほど舞い上がっていた。
「お、お前、だにゃ」
舌を噛んだ。あるまじき失態だ。恥ずかしい。
「よかった。来てくれたんですね。先輩」
ゴリムラ呼ばわりされないことが、これほど新鮮だったとは。
私は告白の瞬間を待ちわびる。
しばらく逡巡したのち、彼は決意の瞳を向けた。
「これをボン太くんに渡して下さい!」
「は?」
「ぼ、ボク……ボン太くんが好きで好きでたまらないんです! 先輩がいつも腕にはめてるボン太くんリング。あれ、どこで手に入れたんですか? 篠ノ之センパイに聞いたら、織斑先輩にこうやって直接聞けって教えてくれたんです!」
た、タバネエエエエエ! 私は血走った目を彼に向ける。「ひっ」とうめき声があがったのもつかの間、黄金の右ストレートが手近な壁に吸い込まれた。
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