森久保乃々は静かに暮らしたい 作:たんすP
承太郎さんの、肩が……
見たところ二人の攻防に力量差は無かったように感じました。それどころか、難なくアクセプトさんの拳を防いでいる承太郎さんの方が余裕さえあるように思えていたのです。
でも、これがスタンドの力……速さもそうでしたが、それが人智を超えたものであることに少し実感が湧いてきました。
っ! そんなことより承太郎さんが、承太郎さんはもりくぼなんかを庇ってあんなに……つ、机に隠れている場合じゃ、ないかも……
うぅ……出るしか――
「――出るの、手伝ってあげますね〜」
ゆったりとした声が、上から聞こえてくると同時に、アクセプトさんの拳が机へと振り下ろされます。
声は穏やかでも、行動が全く釣り合ってないんですけど……!
「ひぅっ!」
すぐに衝撃に備えて頭を抱えます。しかし直後には何事もなく、僅かに遅れて真上ではなく私の左隣から、まるで金属がへこむような鈍い音がしました。
瞬間、音の発生源である机の脚二本が浮いて……視界が開けた先には、腕を振り絞ったアクセプトさんがいました。
あ、ぁ……もりくぼ、何かわるいことをしたんでしょうか。ここにいて、迷惑だったでしょうか。
もう、何かを考えるのも、むぅ……りぃ……
「目を開けるんだぜ森久保。面倒事からはそれで目を背けられるかもしれないが、手を差し伸べられてることにも気づけない」
え……?
承太郎さんの声が聞こえて、目を開ければ彼のスタンドに腕を掴まれているアクセプトさんの姿が。
しかしその動きはそれでも止まらず、足を上げて踏みつけようとしてきます。
『スタープラチナ・ザ・ワールド』
承太郎さんがそう言った直後、私の目の前には部屋のドアがありました。
あ……え……? 部屋の隅と隅、かなりの距離があったはずなのに……一体何が、もりくぼの身に……?
「承太郎さん……?」
「相手はかなり強力なスタンドだ。正直穏便に済ませるなんざちと希望を持ちすぎてるって話だな」
彼は、私と同じく困惑気味の女性を見据えて「だが……」と加えます。
「一つだけ策がある。……とっておきのな」
「策……?」
アクセプトさんの「力」を乗り切るほどの策……一体どんな凄いことが……
すると承太郎さんは青い人を立たせたまま、振り返って私とすれ違いドアノブに手をかけます。
「ひっ!」
「逃げるぜ森久保。舌噛むなよ」
私は突然、承太郎さんに担がれるように抱えられ、通路を風をかき分けながら進みます。
「ひぃぃぃっ……」
驚きのあまり、声にならない声が出ました。思わず漏れ出た、しかし圧により押し込められたような声が。そんなもりくぼに、承太郎さんが言います。
「彼女が君を追っている理由は分からないが、恐らく彼女の裏には何者かがいる。その何者かに、君は今後も狙われ続けるだろう」
理性を保っていられるかギリギリのもりくぼに、先程よりも冷静な声が響きます。もう、返事をする余裕なんてありません……すみません……
「スタンドによる悪意はスタンドにしか防げず、スタンドでしか裁けない」
「ぅ……は、ぃ……」
掠れるような声をかろうじて発すると承太郎さんが僅かに首を回してこちらを見たようです。ご心配なく……もりくぼ、こんなにお世話になってるので、承太郎さんの話を聞き終えるまでは、魂が抜けないように何とか耐えますので……
「スタンドを使え、森久保。これは君自身の問題だ」
そしてもりくぼはその場に降ろされます。それと同時に、承太郎さんの頭に乗っていたリスさんが私の肩に飛び移りました。
連れられたバルコニーは今までの緊迫感とは対象的に爽やかで、涼やかな風に木々の葉が揺れています。その中、承太郎さんが口を開きます。
うぅ……鋭い目、逃げられませんけど……
「こちらがいつも助けられるとも限らない。君のスタンドは恐らく戦闘向きではないが、使い方次第だろう」
「……え、あの……でも私、どんなことができるかなんて分かりませんけど……」
「……自分のスタンドにでも訊け」
「えぇ……きいたら、教えてくれるんですか……?」
その、疑ってるわけじゃありませんが、もりくぼの常識をこえる出来事が多すぎて、何を信じたらいいのか分からなくて……
でも、身を挺してこんなもりくぼを守ってくれた承太郎さんは信じても……いい、のかな……
すると、肩に乗っていたリスさんがその上をちょこちょこと動き出します。く、くすぐったいぃ……
その小さな体は私の腕を伝って手の先へと動き、それに従って私も腕を上げて手のひらを返して両手で器を作ります。
「……?」
そしてリスさんが私の手の上に乗り、こちらを見上げてきます。
なんでしょう……? 今、私がしようとしたことをリスさんは先に理解していたような……
「来たな」
承太郎さんの声に、はっとして私も同じ方向を見ます。赤い筋を全身に張り巡らせた大きな男性が、姿を表しました。
彼は私を見るなりすぐにあっという間の速さで近づき、その腕を振るいます。
一瞬のことでもりくぼは動くこともできず、立ち尽くしていましたがすぐさま承太郎さんのスタンドが立ちはだかり、自身の腕を引きながら彼の拳を掴み、軌道を逸らすようにしてそれを押しやります。
次に繰り出されたもう片方の腕も、肩から下すべてを器用に使い、アクセプトさんの勢いを失わせることなく、されど活かすこともさせず対処します。
そしてそのまま組み付き、アクセプトさんの動きを封じました。
「うーん、あなたのスタンド、すごい力ですね〜。でも、今度は無事じゃいられませんよ〜っ」
するとアクセプトさんが承太郎さんのスタンドの頭を押さえ、首を後ろへ倒します。
勢いをつけて振られた頭が、そのもう一つと激突して……しかし拍子抜けしたように擦れた音すら聞こえませんでした。あれが、アクセプトさんの力なのでしょう。
「どれだけ強くても、心臓に『衝撃』を受ければひとたまりもありませんよねっ?」
女性は笑顔で言います。や、やっぱり表情と行動がマッチしてないんですけど……
いえ、それにしても衝撃……と言いましたよね。そうです、はじめの、承太郎さんと拳の打ち合いのときも一瞬音が途絶えたかと思ったら、承太郎さんの肩が衝撃を受けて……
机も……台を叩いたはずが脚が浮いて……
衝撃……彼女はそれを、自由に移動させているのでしょうか?
そうだとしたら、し、心臓って、大変です……!
思わず駆け出すと、それよりも先にリスさんが飛び出し、すぐ正面にいた承太郎さん本人の頭に乗ります。そして意味ありげにこちらを振り向くと、
『寄れ』
そう言っている気がしました。
よく、状況が掴めませんが、言われるがままに承太郎さんとの距離を狭めます。
『もっと寄れ』
リスさんはしゃべっているようではないのに、聞こえるわけではないのに、伝わってきます。
少し、承太郎さんの動きが遅くなった気がしました。
『もっと近くに』
なおもリスさんはそう告げてきます。
こ、これ以上は承太郎さんにくっついてしまうんですけど……
ここじゃだめ、ですか……? あ、はい、わかりました……
うぅ……こんなに近くまで人に近づくなんて……もし、こっちを見られたら、恥ずかしさで溶けてしまいそう……
あうぅ、リスさんに催促されてしまいました。はい、承太郎さんの背中に、体重を預けるだけですけど。ぴとくぼですけど……
承太郎さんにくっつくと、なんだかその背中は石のように硬くて、まるで固まってしまったような……
「えっ」
そう発したのはあの女性でした。
そして次の瞬間に地面のコンクリートが弾け飛んで、驚く彼女の表情とともに映ります。
「弾かれちゃいました〜。でも……なんでかな?」
私のそばでは、今も固まった承太郎さんが損傷もなく立っています。比喩ではなく、本当に固まった承太郎さんが。
そしてリスさんが彼から身を離すと、氷が溶けるよりもはやくその固まった体が動き始めます。
「あぁ……そっか……」
ようやく気づきました。今までずっと伝えてくれていたのに、気づけないでいました。心のどこかで、拒んでいました。
でも、もう目を背けません。
これは……自分自身だから。
その子の名は「ウィーザー」。『維持』の力を持つスタンドです。
・ウィーザー
本体:森久保乃々
破壊力:E
スピード:C
射程距離:C
持続力:A
精密動作性:B
成長性:C
スタンド自体に意思があるが、本体とは大雑把な会話しかできない。スタンド能力は「維持」。スタンドが触れたもののあらゆる状態を維持することができる。しかし本体との距離によって持続時間と効果範囲が大きく影響するため本体が近づかなければ完全な維持はできない。
スタンドとしてのステータスは低く、非戦闘型だが、扱いによっては非常に強力なため、本人は拒んでも連れ回されそう。