同級生 西住まほ   作:ノッシーゾ

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Side 砲手6

 

 

 まほは朝から虚ろな感じがしていた。

 何というか覇気がなかった。

 試合前に偶然、聖グロの生徒とぶつかったときもそうだ。

 もともとが温厚な性格だからこの程度で怒るような奴じゃないのはそうだが、試合前ともなると、気の弱い奴なら顔を見ただけで怯えて逃げていくくらいの緊張感が体に漲るのが常だった。

 試合前、あんな風に笑って

 

「いいんだ、大丈夫か?」

 

 何て言ったのは、今まで一度もなかったと断言していい。

 試合がはじまってからもそうだ。

 素人から見ると

 

「西住流ならではの速攻」

 

 くらいに見えたかもしれないが、そうじゃない。

 そこには、あるべき慎重さが欠けていた。

 投げやりという感じすらあった。

 

「まほは負けたがっているんじゃないか」

 

 また頭の中で誰かが言った。

 

 

 

「なあ、まほ。この戦況、どう見る?」

 

 高地の占領に成功したあと、そう聞いてみたのは偵察のようなものだ。

 聖グロの行動には明らかに意思がある。当然、まほも私と同じことを感じているはずだ。

 それにどう対応するのか。

 そういう質問だった。

 

 いつものまほなら、この段階で相手が取りえる作戦を二つか三つくらいまで絞っている。

 すでに作戦を詳細に至るまで見破っているのも珍しくない。

 ところが、まほの答えは

 

「そうだな、珍しくダージリンが焦ってくれたおかげで優位に立てている。このままいけば押し切れそうだな」

 

 というものだった。

 

「……何かの罠、だとは思わないのか?」

 

 そう言ってやって、やっとその可能性に思い至ったようだった。

「罠……?」とつぶやいて、それから数秒の間があって、また「そうか、罠……罠か」と、つぶやいた。

 メイも、ユリも、アカネすら、まほの姿を心配そうに見つめていた。

 

「まほさん、大丈夫ですか?」

 

 場の変な空気に耐えかねたのか、ユリが言った。

 

「いや、すまない。それでレン、ダージリンはどう出てくるだろう?」

「……普通に考えたら主力の包囲殲滅狙いだろう。そのために快速戦車を控えさせてるんだろうしな」

「そうか……そうだな」

 

 まるで操り人形のようだ。

 表情だけはいつもと変わらないだけに、余計そう見えた。

 

 アカネが私に視線を向けてくる。

 明らかに不安を覚えている顔だった。

 私としては無視するしかない。

 

 

 

 しばらくして戦況が動いた。

 聖グロの快速戦車が投入されたのだ。

 だが、その動きは私の予想と違った。

 こちらに攻撃するでもなく、砂を巻き上げながら戦場を走り回ったのだ。

 三両の快速戦車が巻き起こす砂塵のせいで、私たちのいる高台からの視界は一気に悪くなった。

 

 おそらく意図は指揮車と主力を分断することにある。

 黒森峰の上意下達の特性から言って、指揮車と分断されれば混乱すると踏んだのだろう。

 正面から乱戦になったら黒森峰が有利だが、その混乱を突く形なら聖グロにも勝ち目がある。

 今度はまほもちゃんと同じことを考えていてくれたのか、無線に手を当てて言った。

 

「エリカ、聞こえるか」

「はい隊長」

「お前の位置なら味方は把握できるな?」

「はい、敵のマチルダの位置も、うっすらと確認できます」

「そうか、では主力の指揮をエリカに任せる。密集隊形で近づいてきた敵だけを撃破しろ。聖グロの火力は高くない。それで十分に対応できるはずだ」

「了解しました」

 

 まあ、無難な対応だ。

 しかし、胸騒ぎがした。

 私たちの視界の下に広がる黄色い煙の中で、何かが起こっている

 まほもこの“何か”を感じているようで険しい顔で双眼鏡を覗いていた。

 やっとエンジンがかかり始めたようだ。

 

 高地の麓、砂塵の中からは砲声が断続的に聞こえてくる。

 主力同士が戦っている音だ。

 

「パンター三、五号車撃破されました。敵のマチルダも二両撃破」

 

 エリカから上がってくる情報をユリがボードに書き足していく。

 とりあえず、今のところは消耗戦という様相だ。

 このままのペースで行けば、仮にこちらの主力が全滅するときに相手のフラッグ車が残ったとしても、残存は多くて二、三両といったところだろう。

 だとすれば、私たちが十分に掃除できる。

 そう計算しても、胸のざわつきは取れない。

 

 そんな矢先、まほが言った。

 

「晴れてきたな」

 

 照準器を覗くと、たしかにさっきよりも視界が開けていた。

 何となくマチルダかクルセイダーかくらいの見分けがついてきた。

 さっき聖グロのクルセイダーを一両撃破したという報告があったので、そのせいだろう。

 あの視界の悪い状況下でもエリカは戦況を把握できていたようで、残りはマチルダ7両、クルセイダー1両とほぼ報告と同じだった。

 ここで、ふと気づいた。

 

 チャーチルがいない。

 

 その瞬間、まほが叫んだ。

 

「レン、メイ! 後ろだ!」

 

 ふざけんな。

 急いで砲塔を旋回させる。

 照準器の中の光景が猛スピードで横に流れていく。

 照準の片隅にチャーチルが停止しているのが見えた。

 明らかに砲撃態勢に入っている。

 間に合わない、と頭の片隅で誰かが言った。

 

(ふざけんな)

 

 私の肩をつかんでいたまほの手からフッと力が抜けた。

 やっと楽になれる。

 まほがそう言った気がした。

 

(ふざけんなっ!)

 

「メイ、旋回止めろッ!!!」

 

 気付くと叫んでいた。

 メイが指示通りにブレーキをかけてくれたのが、車体の揺れでわかった。

 その瞬間、轟音がして、一層車体が揺れる。

 今度はチャーチルの砲弾が当たったことによるものだ。

 が、あの間抜けな音はしなかった。

 装甲が砲弾を弾いたのだ。

 

 照準がチャーチルを捕える。

 いつもの優雅さとやらはどこえやら、目を見開いて驚いているダージリンの顔が目に入った。

 

 ざまあみろだ。

 まほの指示は待たずに引き金を引いた。

 白煙があがる。

 それが晴れると、チャーチルから白旗が旗があがっているのが見える。

 

「レン……」

 

 振り返ると呆けた顔のまほがいた。

 

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