同級生 西住まほ   作:ノッシーゾ

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Side ライバル4

 プラウダ高校の隊長、地吹雪のカチューシャが大洗の廃校を知ったのは、その大洗との試合に敗れてからだった。

 反省会のために試合映像を見ている時に

 

「廃校」

 

 という言葉が大洗の生徒から飛び出してきたことで知った。

 知るなり電話をかけた。

 

 こういうことには誰より耳聡く、妙に大洗のことに詳しかった友人に。

 そして自分と同じく準決勝で敗れた、同じライバルを持つ同志に。

 

「……なに?」

 

 電話越しに聞こえてきた声は、あからさまに機嫌が悪かった。

 彼女のことを表面的にしか知らない者だったら、この声を聞いた瞬間、恐れ慄いて電話を切ってしまっていたことだろう。

 しかし、このカチューシャという少女は元来、負けん気が強い。

 

(何よ、この態度は!)

 

 と、むしろ気を強くして問いかけた。

 

「あなた知ってたわね?」

 

 何を、が抜けた言葉。

 だけど意味は伝わっている。 

 そういう確信があった。

 だから受話器から

 

「何のことかしら?」

 

 と、とぼけた声が聞こえてくると声を高くした。

 

「大洗の廃校のことよ! 知ってて黙ってたんでしょ!」

 

 一呼吸の間。

 受話器から漂ってくる重い沈黙。

 それから「……ハァ」という心底から煩わしそうな溜息。

 

「……何よ?」

「貴女には関係なさそうだったから言わなかっただけ。他意はないわ」

「関係ないって……大洗は対戦校よ!? 関係ないわけないじゃない!!」

「いいえ、関係ないわ。貴女は『自分たちが負ければ相手が廃校を免れる。なら、負けてあげよう』なんて考えるの?」

「それは……」

 

 カチューシャは言い澱んだ。

 たしかに廃校がかかっていようが何だろうが、負けてあげるつもりなどなかった。

 

「ね? 関係ないでしょう? 知っていたにせよ、知らなかったにせよ、することは変わらないんだから。わかってもらえたかしら? 電話、切ってもいいわよね?」

「ま、待ちなさいよ!」

 

 本当に電話を切るような気配を感じ、一層声を高くして呼び止める。

 違うのだ。

 もともとこんなことが言いたくて電話をかけたわけではないのだ。

 

 大洗廃校。

 それを聞いて彼女の頭に浮かんできたのは、大洗の学園艦に乗っている人たちの将来でも、隊長の西住みほへの心配でもなかった。

 大洗女子とは直接の関係はない、彼女のライバルが浮かんだのだ。

 

「だから何かしら? 私も暇ではないのだけど」

 

 しばらく黙っていると、受話器から声が聞こえてきた。

 妙に棘のある声だ。

 その棘は、人の三倍は強い負けん気を刺激した。

 

“西住”みほの母校が廃校になると聞いて、あのライバルが頭に浮かんだのは通話している相手も同じはずではないか。

 そして、この友人なら何か解決策になるものを用意しているはずなのだ。

 そう思ったから電話をかけたのだ。

 

 なのに、この態度はなんだ。

 まるで話を逸らして、無理やり速く話を終わらせたがっているような態度は。

 そう考えたとき、彼女の頭に一つの疑惑が浮かんだ。

 

「あなた、勝てなかったから拗ねてる、なんてことないわね?」

 

 今度は相手が黙る番だった。

 

 やっぱりそうだ。

 疑惑が確信に変わった。

 わざとらしく呆れたような溜息を吐いて言う。

 

「はぁ。子供じゃないんだから、手助けくらいしてあげればいいじゃない。あなたのことだから、どうせ切り札があるんでしょ?」

「…………ないわよ、そんなもの」

 

 否定にも力がない。

 というか、そもそも「拗ねている」ことを否定すらしていない。

 チャンスだ。

 戦車道で鍛えた勘がそう言った。

 勢いに乗って言葉を重ねる。

 

「嘘ね。聞いたわよ? 黒森峰との試合前に『大洗が廃校になる』って情報を流したんですってね。あなたが汚い策を使うときは、そういう評判をひっくり返す準備ができた時だけよ」

「……」

「大洗の廃校を止められる切り札がある。だから心置きなく盤外戦術を使えたのよ。ね? そうでしょう?」

 

 証拠はなかった。

 ほとんど勢いで喋っているだけだ。

 でも、間違っているとも思えなかった。

 その証拠に、相手は先ほどとは一転して黙り込んでいた。

 やっと受話器から声が聞こえるまでは、かなりの間があった。

 

「……あなたはいいわよね」

 

 心底うらやむような声だ。

 聞き返すと、今度は拗ねた子供のような声が聞こえてくる。

 

「だって、もう一度勝っているのだもの」

 

 すぐに前回大会のことを言っているのだとわかった。

 でも、そう言われるのは心外だ。

 あの勝ちは、勝ちと言ってもマグレのようなものだ。

 それで、こう言ってしまった。

 

「あんなの運がよかっただけよ。私はアレで勝ったとは思ってないわ」

 

 それが失敗だった。

 どうやら相手の気に障ったらしかった。

 

「はあ?」

 

 という、聞いたこともないような低い声が聞こえてきた。

 

 やってしまった。

 弁解しようと口を開く前に、受話器から声が聞こえてくる。

 

「とにかく、私はこれ以上、大洗に関わる気はないわ。もし私の力が欲しいなら、まほさんが直接、頭を下げるべきだと思わない?」

「そんなに意地張らなくてもいいじゃない」

「意地なんて張ってないわ」

「張ってるわよ。まるで子供ね」

「張ってないわ。これが筋というものよ」

「なにが筋よ。三枚舌で有名な聖グロの隊長とは思えない言葉ね」

「……」

「あ、ちょっと、ダージリン。切らないでよ。ちょっと! 子供じゃないんだから!」

 

 ガチャッと音がした。

 もうどれだけ声を張り上げても答えは返ってこなかった。

 

「交渉は失敗ですか」

 

 それまで後ろで静かに控えていた副隊長が言う。

 彼女もどこかに連絡していたらしい。

 ちょうど携帯電話をしまっているところだった。

 

 その副隊長に、プラウダ高校の隊長は「まったく、世話が焼けるんだから!」と強く言って向き直る。

 

「ノンナ! 行くわよ!」

「はい、ヘリは屋上に準備しています」

 

 数時間後、聖グロリアーナの隊長の不機嫌な顔が二人を出迎えた。

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