同級生 西住まほ   作:ノッシーゾ

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Side クラスメイト9

 

 スクリーンの中で、まほがゆっくりと目を閉じた。

 

「大洗女子の勝利!」

 

 アナウンスが流れた。

 会場は割れんばかりの歓声に包まれた。

 多くは大洗の勝利を祝うものだ。

 ただ、黒森峰の応援団がいる私の周りは、そういう雰囲気じゃなかった。

 聞こえる声は乱暴に吐き捨てるような言葉しかなかった。

 

 まほが戦車から降りて、観客席に近づいてくると声は一層高くなった。

 誹謗中傷としか思えない言葉がたくさん投げかけられた。

 まほは俯いて、それに耐えていた。

 

(こんなのおかしい)

 

 そう思った。

 その瞬間、体が動いた。

 

「まほ! かっこよかったよ!」

 

 まほが驚いたような顔で、こっちを見た。

 と、同時に観客席の視線も私に集まった。

 かまうもんか。

 

「まほ! かっこよかった!」

 

 もう一度、言ってやった。

 

「まほ! かっこよかった!」

 

 すると観客席の空気が少しずつ変わってきた。

 

「西住さん! カレー作って待ってるよ!」

 

 最初に声をあげたのは前田さんだった。

 続いて隣のファンクラブの子も立った。

 

「西住隊長! カッコよかったです!」

 

 さらに続いて拍手がはじまった。

 まほは目を丸くして観客席を見ていた。

 その後ろからメイさんとユリさんが歩いてきて肩を叩いた。

 少し遅れてレンさんもやってきて、同じことをして、何かを言った。

 笑顔だった。

 

 よく見ると、まほの左の頬が赤くはれている。

 殴られたのだろう。

 

 もう誹謗中傷は聞こえなくなっていた。

 思うことがないわけではないだろうけど、今はそれだけでよかった。

 

「まほ! かっこよかったよ!」

 

 もう一度言うと、まほの顔に苦めの笑いが浮かんだ。

 

 

『ありがとう』

 

 と、口が動いた。

 それからちょっと苦味のある笑みが浮かんだ。

 その苦笑いすら、そこはかとなくカッコよかった。

 

「お姉ちゃん!」

 

 そこへ、みほちゃんが駆け寄っていく。

 まほの正面に立つと、彼女は少し気まずそうな表情をした。

 そこには黒森峰の今後や、まほの今後のことへの心配の色が垣間見えた。

 

「優勝おめでとう」

 

 そんな妹に、まほは言った。

 

「完敗だな」

 

 厳しい表情を緩めて、手を差し出す。

 みほちゃんも意図を察したらしい。

 姉妹二人で握手をする。

 

「みほらしい戦いだったな。西住流とはまるで違うが」

「……そうかな?」

「そうだよ」

 

 みほちゃんが後ろで待っている仲間たちを振り返る。

 それからまた、まほに向き直って仲間たちの方に帰っていった。

 去り際に

 

「やっと見つけたよ。私の戦車道!」

 

 という言葉を残して。

 それを見送る、まほの表情はちょっと寂しそうだった。

 けど、どこか嬉しそうでもあった。

 

 

 

 

 




これにて完結です。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

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