スクリーンの中で、まほがゆっくりと目を閉じた。
「大洗女子の勝利!」
アナウンスが流れた。
会場は割れんばかりの歓声に包まれた。
多くは大洗の勝利を祝うものだ。
ただ、黒森峰の応援団がいる私の周りは、そういう雰囲気じゃなかった。
聞こえる声は乱暴に吐き捨てるような言葉しかなかった。
まほが戦車から降りて、観客席に近づいてくると声は一層高くなった。
誹謗中傷としか思えない言葉がたくさん投げかけられた。
まほは俯いて、それに耐えていた。
(こんなのおかしい)
そう思った。
その瞬間、体が動いた。
「まほ! かっこよかったよ!」
まほが驚いたような顔で、こっちを見た。
と、同時に観客席の視線も私に集まった。
かまうもんか。
「まほ! かっこよかった!」
もう一度、言ってやった。
「まほ! かっこよかった!」
すると観客席の空気が少しずつ変わってきた。
「西住さん! カレー作って待ってるよ!」
最初に声をあげたのは前田さんだった。
続いて隣のファンクラブの子も立った。
「西住隊長! カッコよかったです!」
さらに続いて拍手がはじまった。
まほは目を丸くして観客席を見ていた。
その後ろからメイさんとユリさんが歩いてきて肩を叩いた。
少し遅れてレンさんもやってきて、同じことをして、何かを言った。
笑顔だった。
よく見ると、まほの左の頬が赤くはれている。
殴られたのだろう。
もう誹謗中傷は聞こえなくなっていた。
思うことがないわけではないだろうけど、今はそれだけでよかった。
「まほ! かっこよかったよ!」
もう一度言うと、まほの顔に苦めの笑いが浮かんだ。
『ありがとう』
と、口が動いた。
それからちょっと苦味のある笑みが浮かんだ。
その苦笑いすら、そこはかとなくカッコよかった。
「お姉ちゃん!」
そこへ、みほちゃんが駆け寄っていく。
まほの正面に立つと、彼女は少し気まずそうな表情をした。
そこには黒森峰の今後や、まほの今後のことへの心配の色が垣間見えた。
「優勝おめでとう」
そんな妹に、まほは言った。
「完敗だな」
厳しい表情を緩めて、手を差し出す。
みほちゃんも意図を察したらしい。
姉妹二人で握手をする。
「みほらしい戦いだったな。西住流とはまるで違うが」
「……そうかな?」
「そうだよ」
みほちゃんが後ろで待っている仲間たちを振り返る。
それからまた、まほに向き直って仲間たちの方に帰っていった。
去り際に
「やっと見つけたよ。私の戦車道!」
という言葉を残して。
それを見送る、まほの表情はちょっと寂しそうだった。
けど、どこか嬉しそうでもあった。
これにて完結です。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。