継続高校の学園艦上で、二人の少女が話し合っている。
「なぁアキ?」
「なに、ミッコ?」
「今日のミカって、何だかおかしくなかった? 熱くなってるっていうかさ」
「言われてみると、そうかも。やっぱり西住まほと戦うっていうと、ミカでも燃えるのかな?」
「燃えてるっていうか、本気って感じ? あんな作戦聞いたことないし」
そこへ二人にとって、馴染み深い音楽が聞こえてきた。
フィンランドの弦楽器。
カンテレの音色だ。
「本人に聞いてみよっか?」
「そうだな。どうせはぐらかされるけど」
「アハハ、そうかもね」
二人が行くと、予想通りの人物が彼女たちの愛車BT-42の砲塔の上に腰かけていた。
目をつむって、珍しく集中して考え事をしているようだった。
声をかけていいのだろうか。
二人は迷った。
こんな表情は初めて見る。
彼女たちの知る隊長は、いつも深そうで全然深くもないセリフで周囲を煙に巻くちゃらんぽらんだ。
そうでなければ、ただでさえ少ない食料を変な理屈で独り占めしようとする意地汚い変人だ。
迷っていると、カンテレの音が止んだ。
BT-42の上から宝石のように澄んだ、この世の全てを見通すような――彼女たちが知る限り、実はそうでもない――目が二人を見つめていた。
「ズルい作戦だ……そう思うかい?」
これまた珍しく、本当に心を見透かしたように隊長が言った。
二人は顔を見合わて、それからうなずいた。
「『勝てばいいってもんじゃない』って、前に言ってたじゃん。あれも適当に言っただけなの?」
「『勝ち敗けって、そんなに大事なことかな?』ってのも言ってたぞ」
隊長は答える。
「いいや。確かに勝てばいいってもんじゃないし、勝敗が大事とは思わない。けど、勝った方がいい時もあれば、負けた方がいい時もある。それだけさ」
もう一度、二人は顔を見合わせた。
「ミカ……また適当なこと言ってないか?」
隊長はどちらともつかない微笑を浮かべて言った。
「さあ、どうだろうね?」
「もう! ミカったらそればっかりなんだから! 行こ、ミッコ!」
二人が去って行く。
それを戦車の上から見送りながら、隊長は誰にともなく言った。
「勝って大切な物を守れるときもあれば、勝って失うこともある」
「負けて失うときもあれば、負けたからこそ守れることもある」
「立ち向かって守れることもあれば、逃げて守れることもある」
「今のキミは、負けて逃げた方が大切な物を守れる」
「私はそう思うんだけど、実際はどうなんだろうね?」
「西住さん」
カンテレの優しい音色が、再び聞こえだした。