俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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はじまり

 中学二年生の冬といえば、もう既に志望校を決定し、その志望校に合格するための勉強をせこせこ始めている頃だと思う。かくいう俺も志望校は決めていないものの、元々勉強は得意だったからどんどんレベルを上げて勉強している。なんかこう、できていくようになる感覚が楽しい。これはできるやつにしかわからない感覚じゃね?と調子に乗っている俺は、無個性である。

 

 個性とは。

 

 各人が持っている不思議な力のことで、火を吹いたり、物を引き寄せたり、もの凄いパワーを出せたりと様々なものがある。今やその個性を活用してヒーローなんていう人助けをする職業ができているくらいだ。大半の子どもはヒーローを志すことから、その職業の人気がわかる。

 いや、ヒーローが人気なんじゃなくて、個性を目一杯使えるのがいいのかもしれない。

 

(俺は個性使えないんだけど)

 

 思いながら、路地裏でタバコを吸う。いつの時代にも不良というのはいるもので、これはワルの先輩から貰った。一応教師には隠しているつもりだが、俺の成績がいいから黙っているだけかもしれない。それとも俺の吸っている銘柄がピースだからだろうか。平和を願っているやつを咎めるわけにはいかないとか。

 

(面白くない)

 

 煙を吐き、火を消して携帯灰皿に吸い殻をぶちこむ。喫煙者としての最低限のエチケットだ。

 

 俺がなぜタバコを吸うのか。

 

 無個性という自分が嫌になったから、というわけではない。医者からも「何か個性があるはずなんですけど」と言われているから希望を捨てたわけじゃないし、何より無個性を嫌がっては俺を産んでくれた両親に申し訳ない。だったら未成年の喫煙はやめろという話だが、それとこれとは別にしてほしい。一回吸うとマジでやめられないんだ、タバコ。

 

 そう、なぜタバコを吸うのかという話。それはただ「悪いことをしてやろう」という気持ちからきたものだった。万引きをしようとして見つかり、口八丁で誤魔化したこともあったし、学校のやつの持ち物をパクったが実はそれ自体がパクられていたやつであり、お礼を言われたこともあった。どちらも失敗しているが、悪いことをしようとしたのは変わりない。となると、なぜ悪いことをしようとするのかという話になる。

 

 これは単純。好きな子が(ヴィラン)だから。

 

 敵とは、ヒーローと対の存在。つまり、個性を使って悪さをするやつらのこと。言ってしまえば犯罪者。そんな敵のうちの一人が俺の好きな子で、その好きな子に近づきたいけど敵になる勇気もないから小さい悪さをしている。そのうちの一つがタバコ。ちなみにこれは誰にも話したことがない俺の秘密。もしこれを誰かに話せば笑われるだろうか。やめておけと言われるだろうか。反応は様々だろうが、何にしたって俺の気持ちが変わることはない。

 

 なんかこう、人を好きになるのに敵かどうかなんて関係ない、みたいな?今のなし。なし。これだから中学生は困る。いきなり恥ずかしいことを言ってしまうし、バカな行動をしてしまう生き物、それが中学生。

 

 そして何にもなれない中途半端なやつ。それが俺。

 

(これでも運動神経と頭はいい方だ)

 

 体育祭では引っ張りだこ。テスト前にも引っ張りだこ。ただ友だちと呼べるやつはそこまでいない。みんな俺のことを便利屋だと思っているんだ。卑屈な考えだが、あながち間違ってもいないと思う。イベントのときだけ頼られるやつなんて、便利屋以外の何だというのか。

 

(あぁ、便利屋にはなれてるのか)

 

 自分に対する皮肉をこぼし、路地裏を出て帰路につく。制服にタバコの臭いをつけるという愚かな真似は絶対にしないため、今は学校帰りではなく遊びに行ってくると親に言って、その帰りだ。一緒に遊ぶ友だちなんかいないのに。

 信号が青になるが、なんとなく立ち止まったまま空を見上げる。ダメだ、最近思考が暗くていけない。もっと楽しいことを考えよう。そういえば俺の人生で楽しかったことなんてあったっけ?あったといえば幼い頃、あの子に会った時、あの子と遊んだ時くらいだろう。

 

(人生に値段をつけられるなら、俺の人生は小学生のお小遣いで買える程度だろうな)

 

 もっとも、買い手が見つかるとは言い難いが。そうやって笑っていると、もう横断歩道を歩いているのは小さな女の子のみとなっていた。信号が赤になってはめんどくさいので俺もゆったり歩き出す。

 

 すると。

 

「……は?」

 

 大型のトラックがブレーキをかける様子もなく突っ込んできていた。いや、待て待て。この超人社会にまさかの居眠り運転?そういう個性か?居眠りしながら活動できる個性?違う、どう見ても居眠り運転してるだけだ。しかもタチの悪いことに女の子目掛けて一直線に。

 

(まぁ、ヒーローが助けるだろ)

 

 本当に?もしヒーローがいなかったら?というかいたとしても助けられるのか?今女の子に一番近いのは俺だ。今走り出せば女の子は助けられる。俺はどうなるかわからない。もしかしたらいきなり個性が発現してどうにかなるかもしれない。医者によれば俺個性あるらしいし。それがトラックとぶつかって無事でいられるような個性かどうかはわからないが。そもそも発現するかどうかもわからない。

 

 でも、あの女の子を助けられるのは確かだ。

 

(あぁ、これだから)

 

 俺は地を蹴り、女の子に向かって走り出した。

 

(中学生は嫌なんだ)

 

 いきなり恥ずかしいことを言ってしまうし、バカな行動をしてしまう生き物、それが中学生。いや、それが俺だと言うべきだろうか。

 

 火事場のバカ力というのか、信じられない速度で走った俺は女の子のところにたどり着いた。元々女の子を突き飛ばすつもりだったが、これなら優しく突き飛ばすくらいはできる。どっちにしたって変わらないか?

 目を丸くしている女の子を突き飛ばして右を見ると、もう目の前にトラックが迫っていた。なんて物語的な死に方だろう。女の子を助けて死ぬ。なるほど、助けるというのは案外悪くない。あぁ、なら、

 

(敵だろうがなんだろうが、好きな子を助けられたらよかったなぁ)

 

 迫りくる死を覚悟して目を閉じる。俺の死体からタバコが見つかって両親に怒られるんだろうなぁと想像しながら、襲ってくるであろう衝撃を待った。

 

 しかし、俺が待っていた衝撃はこず、その代わりに。

 

 俺の体に何かが巻き付いたかと思うと、そのままふわっとした浮遊感が体を襲い、そのまま。

 

「……?」

 

 緩やかに地面に降ろされたかとおもうと、遠くで大きなブレーキの音。どうやら目が覚めたらしい。被害が出なくてよかったよかった。

 

「じゃなくて」

 

 俺に巻き付いているものを確認すると、それは白い布のようなものだった。包帯のようにも見えるから、めちゃくちゃな怪我をしたみたいになっている。もしかして今トラックにはねられた後?

 

「怪我ないか」

 

 どうやら違うらしい。ぼそりと呟くように聞かれたその言葉は安否を確認するもので、それは俺の背後から聞こえた。恐らく俺を助けてくれた人だろう。お礼を言おうと後ろを向きながら、「問題ないです」と伝えると、その人物は小さく頷いた。

 

(……小汚いな)

 

 ぼさぼさと伸ばされた髪に無精髭。ファッションセンスのかけらもない黒一色。助けてもらっていなければ近寄りたくない見た目をしている。

 

「お前、何歳だ?」

 

「えっと、中学二年生なんで、十四です」

 

「タバコ吸ってるだろ」

 

 臭いするぞ、と言われたときにはじめて「しまった」と思った。これだけ近づかれて気づかれないわけがないのに、なぜ正直に答えてしまったのだろうか。いや、助けてくれた人に嘘を言うのもよくない、ということにしておこう。うっかりしていたわけではない。

 

「未成年の喫煙は法律で禁止されている。とりあえず今持っている分は渡せ。あぁそれから」

 

 答えを待たず俺のポケットをまさぐり、タバコを取り出したその人は何でもない風に、

 

「お前ヒーロー志望だろ。どこ受けるんだ?」

 

 ピースって、またキツイの吸いやがってとぐちぐち言うその人に思わず「え?」と首を傾げてしまう。なぜ俺がヒーロー志望だっていう話になったのだろうか。首を傾げた俺が不思議だったのか、その人は「ん?」と言ってからタバコを懐にしまった。

 

「なんだ、違うのか。俺はてっきり……」

 

「おにいちゃん!」

 

 その人の言葉を遮ったのは幼い声。下から聞こえてきたその声に目線を下に向けると、先ほど助けた女の子がにこにこしながら俺を見ていた。

 

「たすけてくれて、ありがとうございました!」

 

 言って、深々と頭を下げた。怖かっただろうに、泣かずにお礼を言えるとは親御さんの教育が物凄くいいに違いない。というかなんだこれ。なんとなく胸にじわじわくるというか、なんというか。

 

「すげぇじゃねぇか兄ちゃん!」

 

「勇気あるのねー!」

 

「顔もカッコいいし!プロヒーローになったら応援するからねー!」

 

「は、え?」

 

 次々と送られる称賛の声に困惑する。いやいやそんなそんな。というかプロヒーローって別に俺はヒーローになりたいわけじゃ。

 

「向いてるな」

 

「え?」

 

 その人はまたぼそりと呟くように言って、俺を見た。

 

「誰が言ったか、ヒーローの本質は自己犠牲の精神、らしい。助けた後どうするか、ってところはまだまだだが、その精神自体はヒーローに向いてるな」

 

 これは、あれだろうか。ヒーローに向いてるよっていう話?いや、そのままそう言ってるけど、今の俺には入ってこない。というかそもそも俺は。

 

「俺、無個性なんですけど」

 

「お前、風邪ひいても疲れてもめちゃくちゃ動けてたろ」

 

「なんでわかるんです?」

 

 その人は懐に入れたタバコを指して、ため息を吐いた。

 

「タバコを吸ってるお前が、あんな超人じみた速さで動けるってのはどう考えても個性によるものだろ。ってことは考えられるのは増強系の個性。で、本人が無個性だって言うなら何かしらの条件付き。恐らく体が悪くなる……疲労や病気、多分怪我でも。悪くなれば悪くなるほど力を増す。言うなれば」

 

 無個性だということを恨んだことはなかった。無個性なりになんでもできてきたし、運動だって個性持ちに引けを取らなかった。それがまさか。

 

「個性『窮地』ってとこか。ま、全部推測だから適当に受け止めてくれ」

 

「いえ、俺の個性は『窮地』です」

 

 後ろを向いて去ろうとするその人にそう言うと、その人は首だけこちらを向いて小さく息を吐いた。

 

「俺、ヒーローになります」

 

「……そうか」

 

 それは、よかった。と残して、その人は去っていった。……よかったって言うのは、どういう意味だろうか。

 

 なんとなくだが、前向きに受け止めてみようと、そう思った。




お試し投稿です。こういう風な考えるだけ考えて消化できていないネタが何本もあります。

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