迫る体育祭
「相澤先生無事かなぁ。俺直接見てないからわかんねぇけど、エグイ事なってたんだろ?」
「知るか、カス」
今日も今日とて爆豪の暴言から一日が始まった。USJ襲撃から一日たった今日、奇跡的に1-Aは全員無事で、大した怪我もなく学校にこれている。ただ、相澤先生が敵との戦いで重傷を負ったらしく、俺としてはものすごく心配、
「おはよう」
「復帰はやっ!!?」
もはや肌が見える部分がないほど包帯を巻いた相澤先生が現れた。復帰しちゃダメだろアレ。今の相澤先生なら俺でも勝てそうだ。……多分。
「さて、君らに伝えておくべきことがある。まだ戦いは終わっていないということ」
「何ッ」
「まさか……」
「雄英体育祭が迫っている!」
「あのボロボロに負けた爆豪を俺が上から見下ろすというイベントが!?」
「ルゥゥアアァァァア!?」
爆豪が化け物みたいな叫び声をあげて襲い掛かってきた。人間をやめることだけはするなや。
「体育祭かー。結構ワクワクすんな!」
昼休み。なんとか数時間かけて爆豪を宥め切った俺は、爆豪と切島、上鳴とともにいつものように昼食をとっていた。未だに機嫌が悪いのは引き摺り過ぎだと思う。あんな化け物みたいになるくらい怒らなくてもいいと思うんだけどなぁ。
「しかもプロ注よプロ注!俺張り切っちゃうぜ!」
「こんな早い段階からアピールできる場があるってのはありがたいよな」
「アピールできる個性でもねぇだろザコ」
「あ?やんのかコラ」
「すぐ喧嘩始めんなってお前ら!」
確かに強い個性ではないが、アピールできないわけではない。
「見せ方ってもんがあるだろ?個性を上手く使えてるとか、配分をわかってるとか。そういうとこを見せればいいんだよ。俺みたいな反動がある個性は特に」
「確かに。ボロボロになって使いもんにならなくなるやつきてほしくないしなー」
「上鳴も気をつけねぇとな!」
うぇい、と上鳴が沈みながら返事した。本人もあの状態をどうにかしなければと思っているらしい。
上鳴は許容上限を超えた放電をしてしまうとアホになる。せっかく強い個性なのにもったいないとは思うが、それくらいのデメリットがないと強すぎるのでちょうどいいと言えばちょうどいい。爆豪と轟はもっとデメリットつけろ。
「ここで優勝しとくとデカいな。ヒーローになれるのは確実といっていい」
「テメェが優勝できるわけねぇだろ」
「あ?」
「俺が優勝する」
爆豪は首を掻っ切るジェスチャーを俺に向けてした後、ご丁寧に中指を立てた。
「ザコはザコらしく埋もれてやがれ」
「……!!」
「上鳴!止めるぞ!」
「おう!」
この後、切島と上鳴の二人から自分を抑えることを覚えろと怒られてしまった。爆豪のことも怒れ。アイツ相当だぞ。
爆豪とそこそこ喧嘩しつつ迎えた放課後。
1-A教室の前に、ものすごい人だかりができていた。
「なんだアレ?」
「敵情視察だろ。敵襲撃のこと聞きつけて見に来たってとこか」
疑問を口にすると、爆豪から答えが返ってきた。なるほど。体育祭前にどんなやつらか見ておこう、ってところか?確かに性格知っておくだけでもアドバンテージになるもんな。爆豪みたいなやつは特に。こいつの場合個性とセンスがとんでもないから結果的に意味はないんだけど。
「意味ねぇからどけや、モブども」
本人も意味ないって言ってるし。というかホント誰に対しても口悪いなぁ。
「おいおい、随分偉そうだな。ヒーロー科に在籍するやつはみんなこんななのか?」
「違うぞ。こいつだけだ」
「テメェも似たようなモンだろが!」
自分で似たようなモンって言っちゃうのかよ。
「ヒーロー科以外の科って、ヒーロー科に落ちたから入ったって人が結構多いんだ。知ってた?体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科への編入も検討してくれるらしい。その逆もまた然り」
人ごみの中からぬっと出てきたのは、少し不健康そうな見た目の男子生徒。ヒーロー科のとこにきてこんなに喋るって、相当自信あるのか?
「少なくとも俺は、調子乗ってっと足元ごそっと掬っちゃうぞっつー、宣戦布告をしにきたつもり」
「話が長い。行こうぜ爆豪」
「あぁ」
「やっぱアイツも相当だって!」
峰田が後ろで騒いでいるが、無視。誰が相当だって!?と言いそうになったがぐっと我慢だ。ここで反応してしまえばそれこそ相当である。
「あぁいう盤外戦術狙ってくるやつは無視に限る。何を見られてるかわかったもんじゃない」
「勝ちゃいいだろ、勝ちゃ」
「俺は慎重派なんだよ。ごり押しで勝ち抜ける個性じゃねぇんだから」
体育祭はそのシステム上、俺の個性と相性が悪い。各種競技で予選を行って、勝ち抜いた者が本選に行く。そのため、予選で個性を使ってしまえばそのまま本選に響くというわけだ。予選のどこかで使ってしまえば体育祭中必ず反動がくる。本選がガチンコバトルなら尚更不利。
「USJでも担がれてたな。ダセェ」
「言うな。アレは自分でもダサいと思ってる」
反動で動けなくなって女の子に担がれる。実は自分で歩けないことはなかったんだけど、まぁ、男の子だし。
「ま、体育祭までになんとか考えないとな。そうしないと爆豪を見下ろせねぇし」
「?」
「本当に不思議そうな顔をするな」
暴言吐かれるのもムカつくが、そういう態度もムカつく。というかこっちのがムカつく。爆豪は暴言吐いてなんぼなのに。
「お、いた。久知、少しいいか」
「相澤先生」
爆豪へのムカつきをどう表現しようか悩んでいると、ミイラ男になっている相澤先生に呼び止められた。アンタ休むべきでしょ。なんで仕事してんの?
「悪いな爆豪。先帰っててくれ」
「いや先生、それ俺のセリフ……」
てか爆豪待たずにもう先行ってるし。ほんとなんなんだアイツ。
「さて、呼び止めたのはお前の個性の話だ」
「それよりその状態で動いてる先生の方が気になるんですが……」
「動けてるんだからどうでもいい。気にするだけ無駄だ」
本人は気にならなくても周りがめちゃくちゃ気にする見た目なんですけど。
「お前、USJで無理したらしいな。体育祭でもそうするつもりか?」
「うっ、いやぁ、今それについて考えていたところでして……」
やはりそこを突かれたか。そうだよなぁ、ヒーロー活動する上で動けなくなるっていうのは致命傷だし、直すべきところだろう。ただ、どれだけ鍛えても反動はくるからめちゃくちゃ悩む。
「考え方だな。反動がくるのは仕方ないとして、その反動をどう抑えるか。個性の制御とあわせて考えてみるといい」
「どう抑えるか?」
「あとはお前の努力次第だ。あまり肩入れしすぎるとアレだからな」
焦れよ、と言い残して相澤先生はふらふらと去っていった。やっぱりキツイんじゃん。あそこまで無理して出勤するって、教師の鑑だな。絶対真似しちゃいけないやつだけど。
それにしても、反動を抑える方法、か。思いついているには思いついているが、個性の制御がどうもうまくいかない。反動がくるから何度も練習できるものでもないし、本当に難儀な個性だ。うーん、よし。
踵を返し、教室に戻る。確かアイツはまだ教室にいたはずだ。残っていたら話を聞いてみよう。ちらほら残っている生徒を避けつつ教室に入ると、いた。
「緑谷」
「えっ、僕?」
「お前以外に緑谷いんの?」
声をかけたのは緑谷出久。隣にいた飯田と麗日に断りを入れて少し借りる。
「ちょっと個性についてな」
「こ、個性?何かな?」
……?なんでこんなに焦ってんだこいつ。もしかして俺のこと爆豪と同じ不良だと思ってる?タバコやめたのに?そんなまさか。俺が爆豪と同じと思われてるなんて天地がひっくり返ってもあり得ない。
「いや、緑谷の個性ってすげーパワーだした後すぐにダメージくるだろ?アレどうやってんのかなって」
「どうやってるって、別に技術とかはないよ。逆に制御できてないからあぁなっちゃってるってだけで」
「イメージでいい。個性を使うときどんな感じだ?」
制御できていない、というのは見ててわかる。ただ、個性を使う瞬間どんな感じなのか知りたい。俺と緑谷の個性は少し似ているから、何かヒントになるかもしれないし。
「えーっと、力を振り絞って全力でやってる感じかな」
「なるほど」
「内側から爆発させる?みたいな。うーん、言葉にすると難しい」
「内側から、爆発」
……なるほど。内側から爆発か。俺からすれば最もイメージしやすい。いいヒントだ。やはり緑谷に聞いてみてよかった。体育祭まで二週間だが、なんとか形にはできるだろう。恐らく。地獄のような痛みが待っているだろうが、ヒーローになるためだ。うだうだ言っていられない。
「サンキュー緑谷。参考になった」
「え?今ので?役に立てたならいいけど」
不思議そうな顔をしているが、十分役に立っている。爆発させるイメージ。俺は今まで爆発させないように個性を使って結果最後に爆発してしまっていたが、思えば逆をしたことはなかった。
「体育祭頑張ろうぜ!つってもお前は俺より下だろうがな!」
「ナチュラルに喧嘩売ってきてる……」
おっと、爆豪と一緒にいるときの癖が出てしまった。いかんいかん。口を悪くする相手は選ぶと決めているのに。緑谷は人がよさそうだから暴言は控えなければ。
「飯田と麗日も、悪いな。また明日」
「また明日!」
「ばいばーい!」
早速特訓をしようと教室を急いで出て、「廊下は走らない!」という飯田の声を背に駆けていく。そういえば使い方によればどこまでも強くなるって言ってくれたのも緑谷だった。今度から個性の事で困ったらアイツに相談してみようか?頼り過ぎはよくないが、少しくらいならいいだろう。
でも、爆豪が嫌な顔するかなぁ?デリケートな部分っぽいから気を遣わねば。ややこしいんだよ、あいつ。