俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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雄英体育祭(1)

 そして迎えた体育祭当日。俺は控室でだらだらと過ごしていた。今更焦ったところでどうしようもないので、むしろリラックスしている。始まったら緊張してる暇もないだろうし、これくらいがちょうどいい。爆豪はかなり集中しているみたいで、いつものように煽ってみても淡泊な反応しか返ってこなかった。むなしい。

 

「さぁ、みんな入場だ!」

 

 委員長の飯田に言われ、入場ゲートに向かう。あれ、リラックスしてたのにめちゃくちゃ緊張してきた。俺ダサくね?みんなとは違って緊張しない余裕のある男感出してたのに。それはそれでダサいけど。

 

『雄英体育祭!ヒーローの卵たちが我こそはとしのぎを削る年に一度の大バトル!』

 

 マイク先生の実況が聞こえてくる。そうか、年に一度。チャンスをものにするにはここしかない。プロヒーローに成長のタネでも見せることができれば勝ちと同じ。

 

『どうせテメーらアレだろ!?こいつらだろ!?敵の襲撃を受けたにもかかわらず、鋼の精神でそれを乗り越えた期待の新星!!ヒーロー科!!1年!!A組だろぉお!?』

 

 持ち上げてくれてるが、結果的に俺はボロボロになってたしなんとか切り抜けたって感じだった。うん、自信を持つのはいいが持ち過ぎはよくない。自分の力を過大評価せず、できることを一つ一つ確実にこなしていこう。大丈夫、ヒーローはそういうやつを見てくれる。

 

 選手の入場が終わり、ミッドナイト先生が朝礼台に上がった。相変わらず18禁である。その18禁が18歳以下の生徒しかいない雄英になぜいるのか疑問だが、男がそれを口にするのは野暮ってものだろう。俺はありがたく思っている。

 

「選手宣誓!選手代表、爆豪勝己!」

 

「入試『は』一位か……」

 

 俺の呟きを無視して爆豪は宣誓に向かう。まぁ流石にこんな場所で噛みついてこないよな。爆豪でもその辺りの常識はあったようだ。

 

「せんせー」

 

 ただ、やる気がなさそうに手をポケットに突っ込みながら宣誓するのはどうかと思う。選手代表だぞ?お前。

 

「俺が一位になる」

 

「調子乗んなよA組オラァ!!」

 

 やはり爆豪は爆豪だった。というか学校側はこんな宣誓でいいの?自由過ぎない?

 

 爆豪はそれだけに止まらず、なぜか俺の方を見て首を掻っ切るジェスチャーをした後、

 

「せめて跳ねのいい踏み台になってくれ」

 

「!!!!」

 

「やべぇ!久知が人前で見せちゃいけねぇ顔になってる!」

 

「止めろ!」

 

 あまりのムカつきに襲い掛かろうとしたが、切島と上鳴に止められてしまった。今すぐブッ倒して再起不能にするべきだろ、あいつ。今の俺に言ったようなもんだし。実は宣誓に向かう前に俺が呟いたの気にしてたな?小さい男だ!

 

 爆豪を悪く言うことで気を落ち着かせる。なんとも小さい気の落ち着かせ方だが、自分を制御できているだけマシだろう。制御できるなら止められる前に制御しろという話だが、まぁ、それは、うん。

 

「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう!運命の第一種目!今年は……コレ!!」

 

 ミッドナイト先生が示した先には、障害物競走の文字。体育祭では一般的だが、雄英の障害物競走がまともなわけがない。

 

「計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアムの外周約4キロメートル!コースさえ守れば何をしたってかまわないわ!」

 

 4キロ、かぁ。個性を使えるくらい疲労はたまるが、この競技中に個性を使わないと勝てなさそうな距離でもある。何をしたってかまわないということは妨害もアリということで、妨害されればこちらも個性を使うしかない、という状況になるだろう。そうならないように人を避けて走った方がいいか?この人数を避けるなんて無理な話だが、強いやつを避けることはできる。

 

「さぁ行くわよ。よーい、スタート!」

 

 そのスタートの合図と同時。

 

 俺のすぐ隣から風が巻き起こった。情けなくも普通にびっくりした俺は風とともに飛び出そうとしていた男子生徒の体操服を掴み、一緒に生徒の群れから飛び出した。

 

「と、飛んでる!?」

 

「うおっ、なんだアンタ!すごいガッツだな!」

 

 俺をぶらさげながらも飛び続けるこいつが、どうやら風を起こした張本人らしい。風を操る、起こす個性か?この競技にめっちゃ有利じゃん。

 

「そのガッツは尊敬するが、落ちろ!」

 

「待てそよ風野郎!お前ヒーロー科か!?」

 

「ヒーロー科っス!そして俺は夜嵐イナサ!」

 

「よし夜嵐!俺はとても困っている!」

 

「何!?困ってるのか!」

 

「そうだ!そんな困ってるやつをヒーロー科が放っておいていいのか!?」

 

「それはダメだ!よし、しっかり掴まっておくっス!」

 

 よし、バカだ!今日の俺は運がいい。こいつめちゃくちゃ強そうだから蹴落とした方がいいんだろうけど、蹴落とせるほどの個性を俺は持っていない。となれば協力するのが一番だ。強そうだけどバカでよかった。

 

「俺は久知想。頼むぞ夜嵐!」

 

「任せとけ!」

 

 しっかりと夜嵐にしがみつき、他の生徒からぐんぐんと距離を離す。いやぁ快適快適。疲労がたまらないっていうのが気になるところだが、そんな贅沢言っていられない。楽して勝てそうなんだから、文句を言っちゃ罰が当たる。

 

『さぁ第一の関門、ロボ・インフェルノ!』

 

「お、入試の時のゼロポイント敵!」

 

「入試?」

 

「あ?入試んときあったろ」

 

「俺推薦組っス!一位!」

 

 ってことは轟より優秀ってことか。推薦入試の内容にもよるけど、その場において誰よりも優れていたことは間違いない。これは心強いな。

 

 夜嵐の個性ですいすいとロボの間を通り抜け、第一関門を難なく突破。すごいなこいつ。最初に食らいつけてよかった。

 

「お、後ろでロボ倒れた」

 

「ほんとだ!すごいやつがいるな!」

 

 多分轟だろう。俺が知っている限りあんな芸当できるのは爆豪かあいつ、もしくは緑谷しかいない。まぁ爆豪は破壊して進むより避けて進むだろうし、緑谷は最初に個性使って使い物にならなくなるっていうバカはしないだろうから、アレは轟の仕業だ。

 

『第二関門!ザ・フォール!落ちたらアウトの綱渡りだ!落ちたくなきゃ這いずりな、ってもう越えたァー!!』

 

「夜嵐に有利な関門だな」

 

「ヨユーっス!」

 

 飛べる個性を持っているやつにとっては関門でもなんでもないだろう。夜嵐とか爆豪とか。落ちたら終わりでも、飛べればただの道と変わらない。

 

『今んとこ一位はB組夜嵐!で、二位はA組久知、でいいのか!?夜嵐の荷物状態になってるぞアイツ!』

 

『何でもアリ、だからな。夜嵐がいいならいいんだろう』

 

『三位は轟!夜嵐もスゲーが負けてない!こりゃまだまだわかんねーぞ!』

 

「轟か!やっぱすごいな!」

 

「そうか、推薦組だから顔見知りか」

 

 轟の名前を聞いて夜嵐が嬉しそうに笑っている。友だちか何かだろうか。だとしたらA組とB組に分かれてかわいそうというか……。

 

「俺、轟嫌いだ!」

 

「えぇ?」

 

 まさか嫌いだとは。でもそれじゃなんでそんな嬉しそうなんだ?

 

「でも、親友になってみせる!俺、ヒーローっスから!」

 

「や、ヒーローでも嫌いなやつくらいいるだろ」

 

「ドライだな、アンタ!」

 

 嫌いなのに親友になろうとするとは、変わったやつだ。いや、嫌いだからこそ?きっと夜嵐にしかわからない何かがあるんだろう。俺があの子を好きでいるように。きもいな、俺。

 

『さて早くも最終関門、怒りのアフガン!一面地雷原だが……』

 

「ラッキー!」

 

「よっしゃ行け!夜嵐!」

 

『関係ねー!後続!あいつらなんとか妨害しろ!』

 

『おい』

 

 観てる側は面白くないっていうのはわかるが、こっちも必死なんだ。俺何もしてないけど。楽に勝てるなら楽に勝てるでいいじゃないか。

 

「ま、てやコラァァァアアア!!」

 

「爆豪!」

 

「おぉ!速い!」

 

『きたー!A組爆豪!そのまま先頭にくらいつけ!』

 

「情けねぇ勝ち方すんじゃねぇ!」

 

「ヒーローが助けられちゃいけねぇなんて決まってねぇだろ!!」

 

 夜嵐の背中から爆豪と口喧嘩。爆豪は轟と妨害しあいながら着実に距離をつめてくる。

 

「夜嵐!もっとスピード出せないのか!?」

 

「すまん!疲れてきた!」

 

 俺のせいだな。確実に。このままじゃ後ろの二人に追いつかれる。……いや、追いつかれてもいいんじゃないか?夜嵐はともかく、俺は実力での順位じゃないんだし。例えここで追いつかれても四位か三位になるだけだ。なら、ここは。

 

 後のことも考えて夜嵐に恩を返しつつ、個性の発動条件を稼いでおく。

 

「夜嵐!俺のことは気にせず進めよ!」

 

「なっ、何してんだアンタ!」

 

 俺は夜嵐の背中から飛び降りて、爆豪と轟の前にある地雷を思い切り踏んづけた。

 

「また後で会おうぜ!」

 

「久知ィィィイイ!」

 

 三人一緒に仲良く吹き飛ばされる。ただこれで妨害は済んだ。夜嵐が一位になって、この距離なら爆豪と轟には抜かれるとして、四位にはなれる。が、そうはいかないのが雄英体育祭。吹き飛ぶ俺たちの間を、一人の人間が通り抜けていった。

 

「緑谷!?」

 

『おーっとA組緑谷!吹き飛んだ三人の間を抜けて、夜嵐に追いついたー!』

 

 アイツ、個性を使わずここまできたのか。んなことしたら俺がものすごくダサいやつみたいにならない?もうなってるけど。

 

 まぁいい。それでも五位になるだけだ。わざと轟を先に行かせて、氷の上を安全に進んでいく。最後まで人の力だな、俺。

 

 轟が作った道を通っていくと、やがてスタジアムにたどり着いた。それと同時に、

 

「よかった久知!生きてた!!」

 

「うおっ!夜嵐!」

 

「すまん!せっかく久知が体張ったのに二位だった!」

 

「いやいや、あれは緑谷がすごかっただけだって」

 

「確かに!すごかったな!」

 

 めちゃくちゃ純粋だな、夜嵐。悪いやつに騙されないといいが。

 

 第一競技は五位通過。個性を使わなかったにしてはいい順位だろう。緑谷も個性使ってないし、それで一位だけど。俺が霞む。すごいな緑谷。


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