俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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雄英体育祭(2)

「予選通過は上位44名!次からはいよいよ本選よ!ここからは取材陣も白熱してくるから気張りなさい!さーて、第二種目は……コレ!!」

 

「騎馬戦か」

 

 ミッドナイトの説明によると、選手は2~4人のチームを自由に組んで騎馬を作る。基本的には普通の騎馬戦と同じルールだが、一つ異なることがあり、それは第一種目の結果に応じたポイントが各選手に振り当てられること。44位から5ポイントずつ増えていき、なんと1位には1000万ポイント。差がありすぎる。実質1000万ポイント争奪戦だろ。

 

 制限時間は15分で、割り当てられた合計のポイントが騎馬のポイントとなり、騎手はそのポイントが表示されたハチマキをつけ、制限時間終了までハチマキを奪い合う。ハチマキは首から上につけ、更に重要なのはハチマキをとられても騎馬が崩れても失格にはならないということ。ただし個性はアリだが騎馬を崩す目的の攻撃をすると退場となる。

 

「それじゃ今から15分!チーム決めの交渉タイムスタートよ!」

 

 15分。焦らないとどんどん決まっていくな。できれば初めから高いポイントを持っておいて逃げ切りたいんだが、爆豪がいる以上難しそうだ。アイツ絶対狙ってくるし。1000万ポイントにだけ集中してくれればありがたいんだけど。

 

 さて、そうなると高いポイントを持っていて尚且つ逃げ切り、迎撃の両方をこなせるやつと組みたい。となると……。

 

「夜嵐はどこに……?」

 

 夜嵐ならそれが可能だろう。推薦一位で入れる実力に、汎用性の高い個性。本選で戦いたくはないが、ここで敵に回した方が厄介だろう。背に腹は代えられない。

 

 そう考えながら探し、見つけはしたが何やら夜嵐の様子がおかしい。大人しすぎる。アイツの性格を考えればこういう場面ではめちゃくちゃ騒ぎそうなんだけど……尾白と、宣戦布告しにきた話の長いやつと一緒にいるからあいつらと組むのか?残り一枠空いてそうだし、入れてもらうか。

 

「夜嵐!」

 

 声をかけつつ背中を強く叩く。多分こういうコミュニケーション好きだろ、こいつ。完全に偏見だけど。

 

 背中を叩かれた夜嵐はハッとした表情になり、周りをきょろきょろ見た後俺を見つけ、次に宣戦布告野郎を見た。なんだその今目を覚ましたみたいなリアクション?

 

「うお!俺寝てたか!?数分間の記憶が全然ない!おはよう久知!あとアンタ!」

 

「寝てた?だから大人しかったのか」

 

 いや、そんなわけない。いくら夜嵐でもこの状況で立ったまま寝るなんてありえないだろう。本人はそう信じ切ってるけど。さっきまでの意識がなかったってことは、まず最初に考えられるのは誰かの個性を受けた、っていうこと。で、夜嵐を大人しくさせるメリットを考えた時、まず間違いなく夜嵐は味方にしたい。味方にせず蹴落としたいっていう線もあるが、さっき俺が叩いた程度の衝撃で意識が戻るなら放置して蹴落とせるとは思えない。騎馬戦の途中で目が覚めて一瞬でリカバリーされる。夜嵐はそれぐらいのやつだ。

 

 つまり、夜嵐を大人しくさせるのは一緒に組みたいからであり、そうなるとこの場にいるやつの個性ってことになって、尾白は尻尾が個性だから自動的に宣戦布告野郎の個性ってことになる。ここまで考察して外してたら恥ずかしくて死ぬ。

 

「夜嵐、意識無くなる前の記憶あるか?」

 

「ん?そこの人に返事したところで意識を失った気がする。悪いな!話してる途中に寝てしまって!」

 

「いや……それよりアンタ、俺と組まないか?」

 

「んー、なるほど。とりあえず返事しない方がいいかもな」

 

 宣戦布告野郎が眉をピクリと動かした。正解っぽい?

 

「多分、返事か何かしたら発動する個性だろ。で、強い衝撃があればそれは解ける。その個性の詳細まではわからんが、まぁいいや。組もう!」

 

「は?」

 

 宣戦布告野郎が呆けた顔で俺を見る。そんなに不思議なことか?

 

「絶対一緒に組んだ方がいいだろ。お前が騎手に声かけて向こうが返事したら大人しくなるんだろ?めちゃくちゃ有利じゃん。誰も傷つけなくていいし、すげぇ個性じゃね?」

 

「そんな個性だったのか!すごいな!」

 

「夜嵐、大声出すな。気づかれる」

 

「……!!」

 

「黙れとは言ってない」

 

 本当に純粋で極端だな、こいつ。俺が叩いてなかったら訳の分からないまま騎馬戦終わってたぞ。

 

「あ、どんな個性か教えてくんね?どうせ条件わかってんだからいいだろ」

 

「……洗脳。発動条件はお前が言った通りで、解除条件もそうだ。かかったやつは俺の言うことを聞くようになる。あぁ、正確には問いかけに答えたら、だな」

 

「なるほど。じゃあ尾白起こすか。今の教えるけどいいよな?」

 

「この先は一対一で競い合う形式だろ。俺が不利になる」

 

「それは悪いとは思うが、尾白が起きてた方が他の奴らにお前の個性が割れずに勝てる可能性が高い」

 

 宣戦布告野郎の言葉を待たず、尾白を起こす。確かに初見殺し的な個性だからバレたくないってのは分かるが、俺からすりゃ知ったことではない。第一、この競技を勝ち抜いて次に上がれるってだけで十分っちゃ十分だろ。

 

「ま、次戦うことになったら恨みっこナシってことで。俺は久知想。お前は?」

 

「……心操。心操人使」

 

「俺は夜嵐イナサっス!よろしく!」

 

「え、何?どうなってんの?」

 

 混乱する尾白に説明した後、四人で作戦を立てる。騎手は飛べる夜嵐がいいとは思うが、何分こいつにポイントを託すのは不安なので万が一を考えて心操がいいだろう。もしものときは洗脳を使えばいいし、夜嵐は馬をしていても暴れられるくらいには強い。となると馬の位置だが、尾白は個性上後ろについた方がいい。で、夜嵐は働いてもらうために後ろと前を確認できる後ろ。そうなると俺は前。

 

「基本的には夜嵐が牽制、尾白はそのサポート。俺と心操は状況確認。俺は役立たずだが個性上許してくれ」

 

「っス!」

 

「あぁ」

 

「了解」

 

 俺たちの合計ポイントは80+160+200+215=655で、ちょこちょこポイントは狙った方がいいくらいのポイント数だ。

 

「最初のうちは逃げて、終盤狙っていこう。ただ、取れそうなら取ってもいい」

 

『さぁ行くぜ!勝っても負けても恨みっこナシ!雄英1年の合戦カウントダウン!3、2、1!スタート!』

 

 スタートと同時にすべての騎馬から距離をとる。予想通りほとんどの騎馬が一位の騎馬を狙いに行っており、最初の方は安心できそうだ。

 

「心操。ポイントの動きしっかり見ててくれよ」

 

「わかってる」

 

 このポイントのまま逃げ切って勝てるとは思っていない。だが、取りに行く前にやるべきことはポイントの動きを見て、終盤どの騎馬のポイントを取りに行くか見極めることだ。

 

「個人的には、緑谷、爆豪、轟には喧嘩売りたくないな」

 

「なんでだ!?」

 

「轟は単純に強い。上鳴も鬱陶しい。爆豪はめんどくさい。緑谷は何をするかわかんねぇし、逃げ続けるからめんどくさい」

 

「ズバズバ言うな……」

 

 だから、できればB組連中が上位に上がってきてくれると嬉しい。舐めてるわけじゃないが、あいつらよりは絶対にマシだ。

 

「参加してる風に見せかけるためにちょっとだけ内側に寄ろう。参加しすぎないのもヘイトを集める」

 

「あんた、本当にヒーロー科か?」

 

「賢いだろ?」

 

 俺も自分で自分のことをズルいやつだと思っている。それを認めて割り切ることこそ必要なことだ。勝てりゃいいんだし。……プロヒーローがどう思うかがアレだけど、こういうところも評価してくれるだろ。多分。

 

『さー7分経過した現在のランクを見てみよう!』

 

「ほー。B組じゃん」

 

「どうする?」

 

「もうちょい待ちだな。誰が誰を狙ってるかも見なきゃならんし」

 

 モニターに表示された順位を見ると1位が緑谷で、2~4位がB組、5位が俺たち、6位が轟で後はパッとしない。爆豪が0ポイントなのは笑えるが、これは誰かが爆豪のポイントを取ったということでつまりそいつはこの競技の通過が絶望的になったということである。

 

「狙うなら鉄哲、拳藤だな。爆豪のポイント取ったの物間っぽいし」

 

「おい、後ろ!」

 

 心操が焦った声で叫ぶが、心配ない。

 

「よっ」

 

 尾白が尻尾で後ろから来た騎馬を牽制し、その隙に夜嵐が風で俺たちを囲い、そのまま風とともに移動。まるで台風だ。心操のハチマキが飛んで行きそうで怖い。

 

「こっからは俺たちも積極的に狙われるだろうから、一層注意するぞ」

 

「了解っス!」

 

「すごいな、夜嵐の個性……」

 

「ただのバカじゃないんだな」

 

 全体の様子を見ながら移動する。うまい具合にポイントがばらけてくれたおかげか、俺たちを狙ってくるチームは少ししかおらず、ある程度余裕を持ってみることができる。俺たちを狙ってこないのはさっきの夜嵐の個性を見たからというのもあるだろうが。

 

「さーて、残りもう少ないんじゃね?そろそろ鉄哲の方に寄るか」

 

『残り1分を切って現在、轟が緑谷からハチマキを奪い取り、1位の座も奪い取ったー!!』

 

「らしい。夜嵐!」

 

「オッケーっス!」

 

 夜嵐に指示を出しながら鉄哲チームに接近。十分近づいたところで俺たちと鉄哲チームを邪魔が入らないように風の壁で囲う。そして、仕上げは心操。

 

「なぁ、アンタ本当に勝てるつもりでいるのか?」

 

「あ!?当たり前だ!」

 

「はいゲット」

 

「おい!鉄哲!?」

 

 本当にすごいな心操の個性。夜嵐みたいな性格だったらバンバン引っかかるだろ。惜しいのは初見殺し感が強すぎるところだ。コスチュームとかで補えないのだろうか。ヒーロー科じゃないのがものすごく惜しい。

 

『ここでタイムアップ!』

 

「あれ、なんだ!?」

 

 後ろで鉄哲の洗脳が解けたようだが、もう遅い。ポイントは根こそぎ奪ったから俺たちは2位くらいか?あれれ?これ爆豪に勝ったんじゃない?

 

『それじゃ順位見ていくぜ!1位轟チーム!2位……心操チーム!?』

 

『あぁ、久知がいるな』

 

「なんか変な納得の仕方されてんだけど」

 

「日頃の行いじゃない?」

 

 ドンマイ、と言って肩に手を置いてくる尾白に首を傾げた。日頃の行いが悪いって?そんなはずないだろ。

 

『3位爆豪チーム!4位が緑谷チーム!!以上4組が最終種目へ進出だァァアアアー!!』

 

「げっ、やっぱ爆豪も緑谷も上がってくんのか」

 

「楽しみだな!久知!」

 

「……」

 

 爆豪と緑谷が上がってくることは予想していたが、別にそれ通りにならなくていいのに。できれば弱いやつが上がってきて、楽に倒す、みたいな。まぁ弱いやつ何ていないだろうけど。

 

「あぁ心操。他のやつらには個性バラさねぇから安心しろって」

 

「別に、心配してない」

 

「嘘つけ」

 

 俺ならめちゃくちゃ心配するね。バレたら勝つのはほぼ無理だし。見たところフィジカルも強くなさそうだ。ま、バレなかったら勝てるっていう意味でもあるんだけど。

 

「ま、お互い頑張ろうぜ」

 

「何するんだろうな!そうだ!みんなで飯食おう!」

 

「アンタ、こんなのと一緒にいて疲れないのか?」

 

「慣れるよ。ヒーロー科ってみんな濃いんだ」

 

「?そうは見えないが」

 

 心操の正直な一言に尾白が傷ついていた。いや、普通っていうのは誇れることだぞ。何にも染まらない、みたいな。カッコいいじゃん。普通も立派な個性だし。ね?

 

 なんとか尾白を慰め、俺たちは昼休憩に入った。残すは最終種目のみである。


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