俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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雄英体育祭(4)

『轟三回戦進出ー!って、緑谷アレ大丈夫か!?』

 

 俺たちの試合が終わり、第七試合は常闇が勝ち、第八試合は爆豪が勝って。二回戦第一試合は緑谷VS轟。それが今終わり、緑谷はボロボロの状態でリカバリーガールのところに運ばれていった。その緑谷に対するヒーローの印象はあまりよくなく、やはりボロボロになるのは避けた方がいいらしい。が、俺はまだ誤魔化しがきく方だろう。緑谷はダメージが外にきて、俺は内側にくる。だから、最悪俺が我慢すれば何とか印象は落とさずに済む。

 

 まぁ、雄英の教師陣からは怒られるだろうけど。

 

 俺は二回戦第三試合なので、観戦をやめて控室にいる。夜嵐は俺がボロボロになるくらい無茶しなければ勝てない相手であることは間違いない。ただ、ボロボロになってまで勝つ必要というのは本当にあるのだろうか。飯田と戦っていたサポート科のやつは自分の作ったアイテムを散々披露して自ら場外に出た。ああいう風に自分をアピールできればそれでいいんじゃないか、と思う。対応力を見せつける、とか。

 

 ただ、ヒーローは負けたら終わりでもある。勝ってボロボロなのもマズいが、勝たなければいけないのがヒーロー。時と場合にはよるが、基本的にそうだろう。つまり、サポート科と違いヒーロー科がアピールするには対応力はもちろん、勝利が一番の近道。緑谷の印象が悪かったのはボロボロになった上で負けてしまったから。勝ってても印象は悪かっただろうが、欲しがるところもあったはず。

 

 俺に必要なのは、勝利と勝利後も動けるというアピール。そのためには瞬間解放ではなく上限解放を使い、尚且つ宙に浮かぶ相手を倒せるほどの解放をすること。激痛で死ぬんじゃないか?俺。40程度では足りないだろう。……40程度にして頑張ったなぁ、みたいなことにならないかな?

 

 まったく、やる気があるんだかないんだか。どっちつかずで自分が嫌になる。

 

『飯田の速攻で上鳴瞬殺ー!!』

 

 そろそろ出番なので、控室から出てゲートに向かう。こうなったらなるようになる、だ。初めのうちは念のために疲労とダメージを蓄積させて、そこから考えよう。

 

『さーサクサク行くぜ!二回戦第三試合!第二種目でチームを組んでた二人、夜嵐VS久知!』

 

「一試合目すごかったな!俺凄い楽しみだ!」

 

「俺は自分のくじ運を恨んでるところだ」

 

『START!!』

 

 まず、飛ばれたらしばらくは何もできない。だから初めは速攻。

 

「瞬間解放、10!」

 

 瞬間解放を使い、身体能力を強化。そのまま地を蹴って一瞬で距離を詰める。が、俺が距離を詰めたと同時に夜嵐は風を巻き起こし空へ飛んだ。その風に押され体勢を崩し、個性が切れて激痛が体を襲う。早速出たよ、瞬間解放のデメリット。

 

『おーっと一試合目と違い積極的に狙いに行ったが、夜嵐には通用せず!飛べるってズリーなおい!』

 

 ほんとに。降りてきてくれるとやりやすいんだが。

 

「危なかった!今度はこっちの番っス!」

 

「まっず!」

 

 塵が巻き上がったのを見て、その場から急いで離れる。体が痛むとか言っている場合じゃない。

 

「うおっ!?」

 

 できるだけ距離を稼ぐために前方へダイブ。そのすぐ後に後ろで風が地面に叩きつけられていた。変な表現になるが、そうとしか言いようがない。まさしく暴力。身近で繊細なコントロールの台風を見ている気分だ。

 

「よく避けたな!」

 

「めっちゃくちゃだなオイ……」

 

 俺を褒めつつ夜嵐は風を操って地を這う旋風を放つ。これに当たってしまえばそのまま場外もあり得るので、横に避けるが、

 

「うっそだろっ!」

 

 俺を追うようにして風が曲がり、そのまま直撃。体が浮きそうになったところを瞬時の判断で瞬間解放10を使い、強く踏ん張って耐える。あんな大雑把そうな性格しといて、どんだけ正確で精密なコントロールしてんだ、あいつ!

 

「そこで耐えてたら、上からドーンっス!」

 

「待て、おちつっ」

 

 やられる寸前の小悪党のようなセリフを吐きながら俺は上から来た風に潰された。強すぎる。個性も元々強いが、本人の使い方もうまい。この歳でここまで繊細なコントロールができるやつなんて他にいるのか?

 

「連、続だァ!」

 

「瞬間、解放っ、10!」

 

 そのまま続けてくらうとマズいので瞬間解放で無理やり脱出する。一回戦から逃げ回ってばっかだ。なんなら第二種目でも逃げ回ってたから、今日逃げ回ってばかりだ。これじゃヒーローっていうより敵だな。敵。

 

「またいきなり加速した!ゴキブリみたいだな!」

 

「バカにしてんのか!」

 

「俺、ゴキブリはかっけーから好きっス!」

 

 ということは褒めてくれてるのか。褒められた気まったくしない。

 

 ふざけたことを言いつつ、夜嵐は攻撃の手を休めない。上から叩きつけるような風、地を這う旋風。繊細なコントロールで巻き起こされるそれは、徐々に俺を追い詰めていった。なんとか瞬間解放で逃げられてはいるものの、反動がたまって負けるのも時間の問題だ。

 

『久知!上空からの攻撃に成す術もなく逃げ回るー!なんか応援したくなってきたぜ!!』

 

『偏った実況はやめろ』

 

 あー、個性『応援』みたいなやつが応援してくれてパワーアップ、みたいなことにならねぇかな。それって不正になんのか?多分心操が外部から干渉してきたら不正になるから不正だろう。バレなきゃよさそうだが、ヒーローとしてそれもどうかと思うし。ヒーローを語れるほどヒーローのこと知らないけど。

 

「そこ!」

 

「ぐっ」

 

 地を這う旋風を避けた隙をつかれ、風に叩きつけられる。咄嗟に受け身をとれたが、頭を打って打ち所が悪ければ負けていた。あー、なんで俺こんなに戦えちまうんだ。もっと俺がザコだったらすぐに終わってたのに。俺の才能と強さが怖い。今ボコボコにされてるけど。

 

「瞬間解放っ!?」

 

「させないっスよ!」

 

 同じようにして瞬間解放で抜け出そうとするが、動いたところを捉えられ、また叩きつけられる。クソだクソ。俺は虫か?ハエにでもなった気分だ。

 

「よし!とどめいくぞ!」

 

 んで、こっからとどめって。お前これでとどめさされてるように見えないの?俺ぶっ倒れてるけど。いや、気絶はしてないけどさ。そんな風巻き上げて何する気?殺す気か。俺を。こんな光景見て止めないってことは、教師陣の誰かが俺に期待してるってことか?それとも俺に死んでほしいから?それはないよな。雄英の教師にそんな人はいない。

 

 あー、いや、期待してるわけじゃなくて俺に意識があるから「参った」っていうのを待ってるのか?わからん。考えるのもめんどくさい。そういや俺なんで雄英に入ったんだっけ?

 

「それ!」

 

 そうだ。確か、助けたいというか、力になりたい女の子がいて、その子が敵で、そんな感じ。だとすると、道半ばで死んだらいけないわけで、例えば今がその道半ばだとして。

 

 ここで負けたら死ぬのと同じ。そう思うことにしよう。

 

『直撃ー!!アレ大丈夫か久知!死んではないだろうが、どう思う!?』

 

『さぁな。よく見てみりゃわかるだろ』

 

『あん?……あーっと!久知、生きているー!間一髪で避けたのか何をしたのか、とにかく無事だー!』

 

 上限解放、60。制限時間は10分間。或いは無理がたたってもっと短いかもしれない。それでも、60くらいになれば短くても十分だ。

 

「夜嵐、覚悟しとけよ」

 

「どうやって避けたんだ?気になる!」

 

 俺は夜嵐の言葉に返さず跳んで一瞬で距離を詰めて夜嵐を掴み、地面に向かって投げ飛ばした。

 

「う、おおおぉぉぉおお!?」

 

 夜嵐が風を操って地面すれすれで止まったところを、着地した俺が追撃をしかける。当然、夜嵐は俺の速度に対応しきれない。反応はできても、せいぜい姿を確認できる程度だろう。俺の移動した軌跡をなぞるように赤い光が走っているのは、俺の体から漏れ出る赤い光のせいだろうか。

 

 仰向けに浮いていた夜嵐の腹に手を添えて、叩きつける。思い切りやると死ぬので手加減して叩きつけたがそれでも衝撃はデカく、轟音が鳴り響いた。やり過ぎたかと思ったが、夜嵐は風を巻き起こして俺に攻撃をしかけてきた。見上げた根性、呆れたタフネス。まさか反撃がくるとは思ってなかった。

 

 数分前の俺なら吹き飛ばされていたであろう旋風を踏ん張って耐え、夜嵐の足を掴む。そして、

 

「飛んでこい!」

 

 場外に向かってぶん投げた。叩きつけたときの一撃でほとんど意識が飛んでいた夜嵐はそれでも風を操って耐えようとするが、勢いに負けて壁に叩きつけられ、そのまま地面に落ちた。

 

『……いきなりコミックみたいな動きを見せて、久知が勝利!三回戦進出ー!!とんでもない個性だな、オイ!』

 

『……』

 

 相澤先生が無言の圧力をかけてくる。いや、違うんですよ。無理しないでおこうと思ったんですけど、なんか男の意地というかなんというか。

 

『何はともあれフィールドがめちゃくちゃだ!またも修繕ターイム!』

 

 運ばれていく夜嵐を横目に、俺もリカバリーガールのところへ向かう。今回ばかりは治してもらわないとダメだ。もしかしたら次の試合はやめておけと言われるかもしれない。それはそれで嬉しい気もするが、

 

「爆豪」

 

「おう」

 

 リカバリーガールのところへ向かう途中に、爆豪がいた。そういえば次の試合か。夜嵐との試合でいっぱいいっぱいになってて忘れてた。

 

「大丈夫なんか、次の試合」

 

「なんだ?心配してくれてんのかよ」

 

「ちげぇわカス。俺が目指してんのは完膚なきまでの一位だ」

 

 そのまま俺の横を通り過ぎて、振り向きもせずに言った。

 

「テメェにも勝たなきゃ意味ねぇんだよ」

 

「……はは。ま、なんとかするわ」

 

 こりゃ次の試合に出ないと爆豪がブチ切れそうだ。なんなら無理やり試合しにくるかもしれない。そんなことになるとめんどうくさいどころの騒ぎではないので、なんとしてでも次の試合には出なければ。

 

 ……でも、ドクターストップがかかったら仕方ないよね?


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